魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 入学二日目・登校直後

司波達也が入った一年E組の教室は、雑然とした雰囲気に包まれていた。

 

教室のそこかしこに発生している雑談の小集団の合間を縫い、自分の端末を探すために達也は机に刻印された番号を確認していく。しかし、自分の端末を見つける前に思いがけず名前を呼ばれ、顔を向けることになった。

 

「オハヨ~」

 

声の主は相変わらず陽気な活力に満ちたエリカだった。

 

「おはようございます」

 

その隣では、美月が控え目ながら打ち解けた笑みを向けて来ている。

 

二人と軽い挨拶と雑談を交わし、達也は端末でインフォメーションのチェックを始める。

 

各種規則やイベントやカリキュラムを高速でスクロールしながら頭に叩き込み、キーボードオンリーの操作で受講登録までを終える。そこで一息入れるために顔を上げると、前の席で目を丸くして、達也の手元をのぞき込んでいる男子生徒と視線が合った。

 

「……別に見られても困りはしないが」

 

「あっ? ああ、すまん。珍しいもんで、つい見入っちまった」

 

珍しいかと聞いた達也に、珍しいと答えた男子生徒は自分の名を西城レオンハルトと名乗り、得意な術式は収束系の硬化魔法と自己紹介した。

 

「司波達也だ。俺のことも達也でいい」

 

自分のことをレオと呼んでいいと言った相手に会わせて自分も名前呼びでいいことを伝える。すると、レオは早速、達也と呼びかけて得意魔法を聞いてきた。

 

「実技は苦手でな、魔工技師を目指している」

 

「え、なになに? 司波くん、魔工技師志望なの?」

 

すると、まるでスクープを耳にしたかのようなハイテンションでエリカが二人の話に割って入ってきた。

 

「達也、コイツ、誰?」

 

その様子にレオは、やや引き気味に指差しながら訊ねてくる。

 

「うわっ、いきなりコイツ呼ばわり? しかも指差し? 失礼なヤツ、失礼なヤツ! 失礼な奴ッ! モテない男はこれだから」

 

「なっ? 失礼なのはテメーだろうがよ! 少しくらいツラが良いからって、調子こいてんじゃねーぞっ!」

 

言い争い始めた二人を諫めようと達也と美月が動き出そうとする。しかし、それよりも混沌の申し子が割って入ってくる方が早かった。

 

「やあ、二人とも。元気がよいのはいいことだな」

 

宮芝和泉は言い合う二人の間にすっと入るばかりか、レオの肩に手を置いていた。

 

「な、なんだコイツ!?」

 

「おやおや、つい今しがた、そこの彼女にコイツ呼ばわりはよくないと諭されたばかりではないか。発言には注意した方がいいぞ、少年」

 

「少年って、どう見てもお前は同学年……その前に、お前は二科生なのか?」

 

「私の名より前に一科二科を問うのか。嘆かわしいな」

 

「ちょっと達也、コイツどうにかしてくれ!」

 

どうにも噛み合わない会話に、レオが音を上げる。

 

「そういえばエリカ、昨日のケーキのレシピだが……」

 

「あー、たぶん、砂糖を使ってるよね」

 

レオには悪いが昨日の時点で関わらない方がいいと悟っている達也たちは、三人で話し込んでいるため、聞こえなかったことにしようとした。

 

「ケーキに砂糖を使わなかったら、何を使うんだよ……ってどこを触っているんだ!」

 

「ふむ、なかなかいい筋肉だが、少し足りないな。どうだい、君。筋肉量が倍になる薬があるんだが試してみないか? なに、少し思考能力が低下するが、安全な薬だ」

 

「思考能力が低下する時点で、どう考えてもヤバイ薬だろ。って、いい加減に離せ!」

 

「きゃっ!」

 

レオが逃れるようと大きく腕を振ると、和泉が大きく跳ね飛ばされた。和泉は机に背中を打ち付けている。更にその後は右手首を押さえて、へたり込んでしまった。俯いた顔の奥からは微かに鼻を啜るような音も聞こえてくる。

 

「わ、悪い。加減できなくて、つい……」

 

相手が小柄な女子というのもあるだろう。レオは慌てた様子で和泉の傍に跪く。

 

「いえ、私がふざけすぎたのが悪いんです」

 

「いや、全面的に俺が悪い。本当に悪かった」

 

レオは和泉に責任の一切を押し付けず、自分が全て悪いと断言する。そこには、大柄な男である自分が小柄な女子を突き飛ばす形になり泣かせてしまったという罪悪感があるのだろう。その心がけは、ある意味、男らしいと言えなくもない。

 

「レオ、謝る必要なんかないわよ」

 

しかし、その行動はエリカによって静止がかけられた。

 

「なんだよ、お前はこういうの、厳しそうに見えたんだがな」

 

「あんたが馬鹿力で怪我をさせたんなら、あんたを非難してるわよ。けど、その女、あんたが腕を振る直前に自分で僅かに体を浮かせてたわよ」

 

レオが驚いて蹲る和泉の方を見る。その和泉はというと……。

 

「あーあ、せっかく面白くなりそうだったのに。まあ、君が好ましい人間だと分かっただけで収穫はあったかな」

 

悪戯がばれた子供のような邪気のない笑顔で、立ち上がっていた。

 

「改めて、初めまして。宮芝家三十六代当主、宮芝和泉だ」

 

「え……ああ、西城レオンハルトだ」

 

名乗ると同時に和泉は流れるような動作で右手を差し出す。展開についていけないレオは流されるように手を取ってしまい、改めて名乗っていた。

 

それにしても魔法が表に出るようになってから、まだ百年程度しか経っていない。現代魔法師は名門と呼ばれている一族でも、百年程度の歴史しか持っていないわけだ。

 

三十六代分という途方もない歳月を積み重ねてきた宮芝の価値観は、現代魔法師とは異なっていても不思議ではない。

 

「まあ、さっきの忠告だけには礼を言っておくぜ」

 

「そ、じゃあ、とりあえず受け取っておくわ」

 

あまりにも自由な和泉に毒気が抜かれたのか、エリカとレオの間でも和解が成立したようだ。

 

しかし、ようやく静かになった、という周囲の声が耳に入り、次の瞬間には達也は自分が騒がしい連中の一人としてカウントされていることに肩を落とすことになった。

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