魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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横浜騒乱編 大亜連合の名もなき兵士

大亜連合軍の日本への奇襲部隊に選ばれた趙海誠は、装甲車の指揮官席で周囲を油断なく見回していた。

 

この一帯は先んじて蜂起したゲリラ部隊により制圧済という話だが、ここはそもそも敵地だ。特に趙が搭乗する装甲車は、五輌からなる車列の先頭だ。油断することなどできるはずがない。だから、趙がそれに気づくことができたのは必然だった。

 

前方から、よろよろと歩いてくる人影があった。

 

ハイネックのセーターにジャンパー。カーゴパンツに似た余裕のあるズボン。大亜連合の潜入工作員がよく使用しているアサルトライフルを装備している。間違いなくゲリラ部隊の一員だろう。

 

ゲリラ部隊の男は左肩が鮮血に染まっている。負傷により判断能力が低下しているのだろうか、車線の中央を左右にぶれながら歩いていた。このまま装甲車を前に進めていては轢いてしまう。

 

仮にも味方だ。構わず轢き殺して進んでは、今後の潜入役の士気に障る。

 

やむなく趙は装甲車を停止させた。

 

「前方に負傷した協力者を発見。誰か車内に収容しろ」

 

中の兵員に連絡すると、三名の兵士が路上に立ったようだった。そのうちの一人が警戒に当たり、残りの二人が負傷者を収容しようとする。

 

二人の兵士が男に近づき、声をかける。その次の瞬間だった。顔を上げた男が急に味方に向けて発砲をしてきた。周囲の警戒こそすれ、救助対象と思った相手から撃たれることは想定していなかった三人は、何の抵抗もできずに撃ち殺された。

 

もしや、敵が偽装か。己の判断を悔いると共に、ならば轢き殺せと命じようとした。だが、それよりも敵の次の攻撃の方が早かった。

 

どこからか機関砲の発砲音が聞こえてきた。それと同時に、中央に位置していた三輌目の装甲車から炎が上がった。敵の狙いは明快だ。中央の装甲車を擱座させることで車列を分断しようとしているのだ。

 

「くそっ、どこからだ!?」

 

叫んでみたが、指揮官席にいる趙に分からないことが、装甲車の中にいる人間に分かるはずがない。頼みの綱は攻撃にあった車輌より後方、四輌目と五輌目の車輌だ。

 

「詳しくは分からないが、上からの攻撃だ!」

 

「上から? ビルの上にでも機関砲が備え付けられているとでも?」

 

そんな馬鹿なことがあるはずがない。ここは要塞ではなく市街地だ。紛争地でもない限り、装甲車を撃ち抜ける口径の機関砲を街中に設置する馬鹿はいるまい。

 

「分からない。けど、確かに上から撃ち抜かれたように見えた」

 

装甲車にとって底面に次いで防御がしにくいのが上方向だ。まさかと思ってしまったが、妙な先入観に囚われれば致命的な結果を生みかねない。もしも、すでに敵の機関砲に狙いを付けられているとすれば、ここに留まるのは危険だ。

 

趙は急いで発進を命じる。装甲車が急発進し、前に立ったままこちらに銃を向けていた男を跳ね飛ばした。

 

発進して十メートルほど進んだ頃、後方で銃撃の音がした。最後尾の装甲車がいた位置で炎が上がる。今度は趙にもはっきりと見えた。敵の位置は真上。つまりビルの上からの攻撃ではない。

 

「幻影術式だ! 姿を隠しているぞ!」

 

あとは気配も消しているかもしれない。しかし、銃声は聞こえたことから音は消していないとすると、ヘリなどがいるわけではなさそうだ。けれど、敵の銃撃の威力はどう考えても歩兵用の銃器ではない。

 

どういうことかと考えている間に、四輌目に位置していた装甲車から出た兵士から幻影解除の術式を放った。それによって敵の正体が露わとなった。

 

それは空を飛ぶ少女だった。一瞬のうちにビルの陰に隠れてしまったが、水色の衣装を身に纏っていたこと、そして右手に自分の体よりも長大な機関砲を持っていた。

 

「あれは飛行術式か」

 

自らと武器を一体のものと認識することで、飛行魔法を機関砲にも用いているのだろう。装甲車を葬れるような魔法師となると限られてしまうが、あれならば本来より一段劣る魔法師でも十分な打撃力を得られそうだ。

 

「厄介な攻撃を」

 

言いながら装甲車を停止させ、中の兵員を外に出す。あのような攻撃を車輌が受けてしまえば、中にいる兵員は全滅する。それだけは避けなければならない。

 

次に敵が上空に姿を見せたときには、必ず撃ち殺す。その覚悟を持って上を見上げる者たちを嘲笑うように地上からアサルトライフルの射撃音が聞こえてきた。二人の兵士が銃撃を受け、道路に蹲る。

 

多くの者が上方に気を向けていたとはいえ、当然ながら周囲を警戒する者は残していた。それにも関わらず警告を発することができなかった。それが意味することは……。

 

「幻影術式だ! 解除しろ!」

 

他の兵士に守られていた、敵の防御魔法への対抗魔法に長けた魔法師が幻影解除の魔法を使う。それにより姿を現したのは、やはり水色の衣装を纏った少年だった。少年が物陰に飛び込みながらアサルトライフルを撃ってくる。

 

趙の部下たちも特殊部隊に所属する兵士たちだ。見えている敵からの攻撃にやられるほど甘くはない。全員が装甲車や物陰に隠れることで銃撃をやり過ごす。だが、敵の攻撃はそれで終わりではなかった。

 

物陰に隠れた兵士に向けてドライ・ブリザードの魔法によるドライアイスの弾丸が襲い掛かる。ちらりと視線を向けたところ、敵はアサルトライフルの他に拳銃型のCADを左手に持っていた。狙われた兵士は魔法発動の兆候に気づいて咄嗟に身を捻ったことで致命傷は避けられたようだが、敵地での負傷は痛い。

 

「敵は魔法師だ! 魔法攻撃にも注意しろ!」

 

叫びつつ敵に銃撃を浴びせるが、敵は建物の陰に隠れてしまう。

 

「深追いはするな! 対幻影魔法を欠かすな!」

 

これ以上の奇襲は何としても防がねばならない。今は攻撃よりも態勢を立て直すことの方が大事だ。

 

警戒を続けている趙たちのところに二輌目の装甲車を降りた兵士たちが加わってくる。これで反撃の準備は整った。

 

さあ、反撃の時間だ。そう思ったとき、道の向こうに大柄な男が現れた。

 

敵か、味方か。見極めるために目を細めた趙は、次の瞬間には大きく目を見張った。

 

男は趙も顔を知る大亜連合のエース。呂剛虎だった。

 

普通に考えれば味方。しかし、作戦前に呂剛虎が敵の手に落ちたという噂もあった。先ほどのゲリラのこともある。

 

「警告射撃だ。止まらせろ」

 

少しの逡巡の後、趙はそう命じた。それを受けて部下が呂の前方に発砲し、その場で止まるように言う。

 

「ウゴオオオオォー!」

 

次の瞬間、呂が咆哮を上げてこちらへと突進を開始した。

 

「構わん! 撃て!」

 

趙の声に応じて部下たちが一斉に銃と魔法で攻撃を開始する。だが、呂は全く足を止めることがない。高名な剛気功によって銃弾も魔法も全ては弾かれてしまう。

 

「ゴガアアアァア!」

 

突進してきた呂が兵士の一人に剛腕を振るう。たったそれだけで、兵士は身体を二つに裂かれた。

 

「ガアアァアアア!」

 

呂が半分となった兵士の身体を投げつける。圧倒的な力で投じられたそれは凶器となり、投げつけられた兵士の命を奪う。

 

「撃て! 撃て! 少しでも足を止めろ!」

 

強国、大亜連合でエースと呼ばれた呂の戦闘力は確かに高いもののはず。しかし、これほどまでに規格外だったのだろうか。目の前で暴れまわる呂の戦闘力は話に聞いていたよりも遥に上に思える。何より、意味を成していない咆哮とともに、ただただ暴れまわる姿は理性を全く感じさせない。

 

「もはや、あれは呂剛虎とは別ということか」

 

三人目の味方の兵士がなすすべなく縊り殺された。これまで、部下の攻撃は呂に全く痛痒を与えてはいない。趙は今の自分たちの手持ちの武器と魔法では呂を止めることはできないと悟った。こうなれば、無様でも少しでも多くの兵を逃がす手しかない。

 

「総員散開して撤退を……」

 

趙がそう命じかけたときだった。

 

「イキキキキキキ!」

 

上空から奇妙な声が聞こえてくる。それが、趙が最後に思ったことだった。




森崎、小早川、関本、呂剛虎(全員ほぼ別人)が大亜連合に襲い掛かる!
自分が書いておきながら、もう滅茶苦茶だなー、なんて思ったり。
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