魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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横浜騒乱編 魔法協会前の攻防

宮芝和泉守治夏が関東支部に近づいたときには、魔法協会の組織した義勇軍はジリジリと後退を余儀なくされているところだった。

 

敵の上陸部隊は、明らかに主力。白兵戦仕様の特殊な直立戦車を主力とし、多数の魔法師が同行している。

 

犬に似た獣が炎の塊となって爆ぜる。「禍斗」と呼ばれる魔物を真似た、化成体と呼ばれる幻影体を作る古式魔法だ。

 

敵は大陸系の古式魔法を使って義勇軍に襲い掛かっている。

 

相手は最早「国籍不明」軍ではない。素性を隠蔽する意図を放棄したのか、特徴のある術式と対魔法防御の施された直立戦車が義勇軍の陣地を蹂躙する。

 

協会の魔法師も速度、即ち手数に勝る現代魔法で対抗していたが、劣勢は明らかだ。

 

「クッ、撤退だ!」

 

「後退して防衛ラインを立て直す!」

 

それでも、戦意は失っていないようだ。まあ及第点くらいは与えても良いだろう。

 

「その必要はないよ」

 

治夏は言いながら大弓型のCADの弦を引く。治夏が右手を離すと同時に、ぴいん、という高い音が響き、炎の化成体たちが跡形もなく消え失せた。

 

宮芝が長年をかけて練磨し続けてきた古式魔法、弦打ち。その効果範囲内では幻影体は存在を保つことができない。

 

「さあ、行け! 人形たち!」

 

治夏が言ったのとほぼ同時に、敵の後方が騒がしくなる。

 

「助けてくれ! 撃たないでくれ!」

 

そう言いながら、大亜連合の兵士に向けて銃を乱射する男がいた。銃を乱射している男もまた、大亜連合の兵士だ。男は治夏たちが捕らえ、呪符で操作をしている。だが、大半の身体の自由は奪いながら、意識と首から上の操作権のみは残している。

 

「俺を操っている奴は、あの女のいるビルの中にいる。頼む、そいつを殺してくれ」

 

あらぬ方向に首を向けながら、銃だけは正面に向けて乱射しているのだから、撃たれている大亜連合の兵士からしてみれば堪ったものではない。操っている魔法師を殺すまで、好きに撃たせてやることはできない。そう決断したか、銃口が男に向いた。

 

「やめてくれ! 撃たないで……」

 

男の懇願は聞き届けられず、銃撃が男を穿った。

 

「痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い」

 

絶叫しながらも、男はなおも銃を撃ち続ける。男の身体は、男が動かしているのではない。魔法の力で動かしているのだ。たとえ肉体が致命傷を負ったとて、簡単に止まることがない。

 

「痛い! もういい、殺してくれ! 殺してぇ」

 

顔の右半分は吹き飛ばされ、残った左眼からは涙が溢れている。それでも男は銃を撃ち続けている。治夏はその姿に哄笑を送る。

 

「そら、早く殺してやらないと、いつまでも苦しみ続けることになるぞ。さ、早く味方を撃ち殺せ」

 

笑う治夏に対して銃弾は飛んでこない。治夏の側近の一人である村山右京は現代魔法である「凍火」を元にした「制火」の魔法を使用できる。

 

「凍火」の魔法は熱量の増加を禁止することで銃火器を封じることができる魔法。それに対して「制火」の魔法は、その熱量の増加の抑制を精霊の活動を活発化させるという方法で行うことで、対象を一定範囲内にまで広げたものだ。

 

利点としては、対象を個別に指定しないため隠れている敵にまで効果を及ぼせる。一方で欠点として範囲を対象とするため、味方にまで効果を及ぼしてしまう。

 

この「制火」の影響内では、味方も銃が使えないために白兵戦が発生しやすい。治夏の脇を固める者たち全員が刀を保有しているのは、これに備えてのものだ。

 

「ゴガアアアァア!」

 

そして、火器を封じられた直立戦車に迫るのは放たれた暴虎。その強化された魔法力により振るわれる剛腕は素手で直立戦車の脚部を破壊するほどの威力を持つ。

 

「イキキキキキ!」

 

同時に山中図書の幻影魔法で姿を隠して空を飛行する小早川から投下された関本勲が高周波ブレードを纏った刃で直立戦車のコックピットを貫く。そして森崎は義勇軍と共に敵の古式魔法師に対して、速度で勝る現代魔法で対抗している。

 

現状、優勢に戦闘は推移している。しかし、火器を封じたとはいえ、防御の高い直立戦車は少々、厄介な相手のようだ。

 

何か弱点はないかと直立戦車を見ていた治夏は、敵が剪紙成兵術という古式魔法の術式で機甲兵器を動かしていることに気が付いた。その核の位置も古式魔法を極めた治夏には手に取るように分かる。

 

「断ち切れ!」

 

破呪の術式を行使すると、敵直立戦車の機動性は眼に見えて低下した。これなら、直立戦車を倒しているのが実質的に二人でも問題ないだろう。

 

残る皆川掃部は姿を隠して人形兵士たちを操作。山中図書は本陣に戻って治夏を護衛中。余剰戦力がないのは気になるが、贅沢は言っていられない。

 

「掃部、残る人形も投入してやれ」

 

掃部に連絡すると、更に三人の兵士が追加された。

 

「嫌だ、嫌だ!」

 

「いっそ殺してくれ!」

 

「この悪魔め!」

 

三人は思い思いのことを叫びながら、かつての味方であった兵たちの方へと足を進め続けている。

 

「随分と悪趣味なことをしているな」

 

声の方を向くと、先行していたはずの十文字克人がいた。プロテクターとヘルメットを身に着けたその姿は、古の鎧武者のようだ。

 

「おや、随分な重役出勤だな」

 

「戦闘を行うのだ。準備くらいは必要だ。宮芝こそ、戦闘服くらい着たらどうだ?」

 

「この陣羽織が我らの戦闘服なのでな」

 

「む、そうか……」

 

意外にも十文字はその説明で納得したようだ。まあ、嘘ではないので問題はないのだが。

 

「ところで、ここには我らの先遣隊がいたはずだが、前会頭殿はご存知ないかな?」

 

「彼らはここを長く守り抜いてくれたが、敵の猛攻の前に壊滅状態になっていた。だから、今は後退してもらっている」

 

壊滅状態? 誰が?

 

その言葉は、あまりに意外で、受け入れられないものだった。

 

「一体、どうして!」

 

言いながら、ビルから飛び降り、十文字の元へと走る。このとき、治夏は完全に周囲から意識を逸らしてしまっていた。

 

「宮芝!」

 

十文字の強い口調で我に返る。そうして見つめた先には飛来してくる鉄塊。近くに来た今なら届くと、使えない重機関銃を投擲してきたようだ。魔法力に劣る治夏には、それを防ぐ方法はない。

 

「あ……」

 

声にならない恐怖の声をあげ、顔を庇うようにして背を向けることしかできない。後は重機関銃に潰されるのを待つだけ。

 

しかし、その瞬間は訪れなかった。投ぜられた重機関銃は、まるで分厚い壁に当たったかのように跳ね返された。

 

十文字克人の代名詞である、多重障壁魔法「ファランクス」。

 

その防御力は、正に鉄壁。

 

そして、ファランクスが優れているのは防御力だけではない。

 

「むんっ!」

 

十文字が右の掌を突き出す。それだけで、直立戦車はスクラップになった。

 

ファランクスの術式は、何枚もの障壁を次々と構築し、前面の障壁が効果を失ったら次の障壁を前に出し最後尾に新たな障壁を追加するというものだ。

 

防壁は常に一定の領域で移動し続けている。

 

その壁を自分の前に固定するのではなく、敵に何十枚も高速で叩きつける。

 

防御においては複数の性質をもつ複数の防壁を同時展開。

 

攻撃においては単一の性質を持つ多数の障壁を連続射出。

 

ファランクスはその名のとおり、攻防一体の魔法なのである。

 

「あ……う……」

 

自分に迫る重機関銃の残像は、まだ消えていない。恐怖で竦んだ身体は、まだ上手く動いてくれない。お礼を言うべき口も、まだ意味のある言葉を紡いではくれない。

 

「怪我はないな、宮芝」

 

言いながら十文字は、前に立つ護衛の兵士ごと、敵の魔法師を吹き飛ばしていた。

 

死の恐怖は、簡単に消えてはくれない。涙が零れそうになったが、部下たちの前で泣いたりすることはできない。治夏は唇を噛みしめ、何とか頷いて見せる。

 

「少し下がっているといい」

 

まだ身体が動かない治夏を励ますように軽く頭に手を置いて、十文字克人が前線に歩いていく。

 

今の治夏は、それを黙って見送ることしかできなかった。

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