当主に就任して、私は宮芝和泉守治夏と名乗り始めました。宮芝家で当主が代わったときには、慣例として宮芝発展のための案を披露することになっています。そこで私は宮芝家の発展の案として、現代魔法の最新知識の吸収による古式魔法の再構築、を掲げることにしました。
宮芝は随時、最新知識を取り入れているとはいえ、古くからの魔法は手つかずのものも多かったので、効果があるのは確かなはずです。けれど、それは実現に移すのが難しい方法でした。古くから受け継がれてきたものであればあるほど、変えたくないと考えるのが人間の心理だからです。けれど、それでは駄目なのです。
大規模儀式魔法という新たな武器を手にした宮芝ですが、それは安易に使えるものではありません。その最大の懸念は大規模儀式魔法の詳細が外へと漏れることです。
大規模儀式魔法の最大の特徴は、魔法力の乏しい者でも強力な魔法を使えるということ。その利点を最大に生かせるのは、量が少ない代わりに精鋭を揃えようとする日本ではありません。むしろ、質に圧倒されている外国の方です。
それに私は、当主候補の時期に参考とするために研究したことで、現代魔法の優秀さを十分に認識させられました。特にここ最近はトーラス・シルバーなる謎の技術者が現れ、現代魔法は一気に発展をしています。
旧態依然の方法を続けていては、いずれ古式魔法は現代魔法に挽回不可能なほどの差をつけられてしまうでしょう。その前に、新たな考えをもって宮芝の魔法を大幅に変えなければならないのです。
そこで私は現代魔法を学ぶ手段として、魔法科高校への進学を考えました。けれど、当主が宮芝家を離れて勉学に励むというのは前例のないことです。かといって、私と同年代に、私以上に古式の魔法に精通している人間はいません。それを考えると、私が行くのが最も有益な結果を出せる可能性が高いのです。
けれど、方針に賛同してもらうには、私には多くのものが足りませんでした。当主として部下を従わせるのに必要なものをあげるとすれば、第一には信望でしょう。けれども、これは容易に得られるものではありません。だから、私は他の手段として、恐怖を用いることに決めました。
恐怖は人を従わせるために有力な手段ですが、反面として過ぎれば自らの身を滅ぼすことになります。でも、入学試験までの残り時間を考えると、私には悠長な手段を講じている時間がありませんでした。
そこで考えたのが、現在の私にとっての唯一の味方といえる桐生を利用することでした。味方といっても、父にとって私は自由に操れる都合のよい存在であるはず。けして無条件の味方なのではないのです。
おそらく味方でいてくれるのは一時のこと。私が父の意と異なる行動を取り始めた瞬間、父は私の敵となることは眼に見えています。敵となってからでは色々と面倒です。だから、切るならば早め、まだ警戒をされていないうちが一番です。
桐生を切るための第一歩として私は父と示し合わせて、わざと父に私の様々な案に反対の意見を出させました。そのときは、近々、重要な提案を考えており、それまでに私と密接という印象を薄れさせておいてほしい、と依頼しました。
桐生と宮芝が一体と見做されれば、他の分家から睨まれ、桐生としても動き辛くなります。それは父にとっても、望むことではありません。私からの提案に対して、父は何も考えずに乗ってきました。
私の口にする、何でもない一言に父は積極的に拒否反応を示してくれます。父の色々な提案を、私は悉く拒否していきます。無論、私が感情的に拒否していると思われないように、父の提案はやや認め難い内容にしておきます。
そうして幾度かの口論のような対立を周囲へと見せつけ、ついに私は行動に移しました。父をこの手で殺害したのです。
私は手勢を率いて桐生家を取り囲みました。驚く父に門前に出るように告げ、その場で反論も聞かずに斬りつけたとき、父は驚きに目を見張っていました。武装した部下に両腕を掴まれて門前に引きずり出された時点で、自分が私の策に嵌められていたことは父も気づいたはずです。
ですが、父は最後までそれを認めたがっていないように見えました。それがどのような心持ちによるものか、今となっては知るすべはありません。
父を殺害した理由を、私は当主への度重なる反抗に対しての処罰と伝えました。それだけで重臣を粛清するとなると大問題ですが、宮芝には前例がありました。それは、先々代の頃のことです。そのときは弟が当主に就任したことが面白くなく、反抗的な態度を取り続けた兄が粛清されました。
そのとき宮芝の先々代の行いは、身内の争いとして重臣たちから黙認されました。私の行動は、父と娘という関係を利用してそのときの再現を狙ったものです。
下手をすれば私は当主の座を剝奪されてもおかしくありませんでした。けれど、前例のある事件を理由に就任早々に当主を交代させるはずがないという読みは当たり、私は厳重注意という、事実上のお咎めなしに終わりました。
当主を交代させないのなら、良好な関係を保った方が己の家のためになります。親子の対立の結果に口を出して無用な恨みを買うような愚を冒そうとは誰も思わなかったのです。
一方の私は、将来の敵の芽を摘んでおくという効果を得られました。それとともに、当初の目的である私に恐怖心を抱かせるということも。場合によっては身内の粛清も辞さない冷酷な人物である。周囲がそう思ってくれた結果でした。
かつて私は、自分が上に行くために母のことを切り捨てた父を浅ましい人間と軽蔑をしました。けれど、今の私はそのときと同じことをしています。
切り捨てられた母のことを思い、そこまでして上になど行かなくともよいと思った幼き日の私。それは今やどこにもいません。父の死に対して悩みの種が減ったと清々しく思う今の私は、あの日の父以上の畜生です。
認めましょう。お父さん。私は確かにあなたの娘です。
自らの都合の為に身内を切り捨てることのできる、あなたの浅ましさを誰よりも受け継いだ、あなたの娘です。
こうして魔法科高校に進学するための下地を整えた私は、必死の猛勉強もあって試験にぎりぎりながら合格し、国立魔法大学付属第一高校への進学を果たしたのでした。
追憶編完結
次の来訪者編はなぜかコメディ要素が強くなっています。