魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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来訪者編 魔狩り

アンジェリーナ・シールズは、現在、USNA軍から脱走した魔法師の追跡任務に従事していた。対象としているのは、元スターズの衛星級デーモス・セカンドのコードを与えられていたチャールズ・サリバン。サリバンの脱走には、人間の脳を変質させ吸血鬼へと変貌させるパラサイトというものが関わっているらしい。が、今のリーナにはその原因への対処はできない。できることはサリバンを始末するという対処療法のみ。

 

サリバンはケープ付きのロングコートと目深にかぶった帽子。帽子の下は灰色の生地に黒のコウモリを描いた顔の全面を隠す覆面だ。

 

リーナは魔法により赤い髪、金色の瞳の仮面の魔法師、アンジー・シリウスに姿を変えている。そのリーナに、幾度となく想子のノイズが浴びせられる。そのたびのリーナの感覚はサリバンを見失う。

 

『総隊長、次の角を右です』

 

しかし、テレビ中継車に偽装された移動基地の想子レーダーがサリバンの居場所を捉えて放さない。この技術においてUSNAは日本の一歩先を進んでいる。想子波特製の識別機能がついたレーダーは、一旦想子波パターンを特定されるとレーダ-の探査圏内から脱出する以外、逃れることはほぼ不可能だ。そして掌サイズにまで小型化されたレーダーの中継アンテナをリーナが携行している以上、圏外脱出も不可能だった。

 

「クレア、レイチェル、サリバンの正面に回りなさい」

 

リーナが通信機に呼び掛けて少し、進行方向で魔法戦闘の気配が生じた。二人がサリバンの足止めをしているのだ。リーナはここで、サリバンの位置を完全に捉えた。

 

真夜中に近いとはいえ人目が全く無いわけではない。だが、警察が介入してくる可能性を無視してリーナは小振りのダガーを抜いた。

 

元々黒くつや消しされた刃は日中でさえ目立たない。リーナは隠す素振りもなくダガーを前方へ投擲した。

 

このダガーは武装一体型CADになっており、投げるだけで移動魔法が発動し、術者が設定したルートをたどって標的に突き刺さる。リーナが投げたダガーは空中で何度か軌道を変えながらサリバンの背中に襲い掛かった。

 

リーナのダガーは、振り向いたサリバンが掲げた右腕に深々と突き刺さった。

 

硬直するサリバンの身体。

 

その背中をレイチェルのコンバットナイフが抉る。

 

ただの人間であれば致命傷だっただろう。

 

だがサリバンは腕を横殴りに振り回して、ナイフを握ったままのレイチェルをはね飛ばした。それは、普通の人間には到底、不可能な行動だ。リーナたち追手が一瞬の間であるが硬直したそのときだった。

 

「やあ、君、なかなかの腕前のようだね。けれど、そこまでだ」

 

不意に声が聞こえてきて、街路樹の陰から一人の少女が姿を現した。水色の奇妙な服を着て大きな弓を構えたその人物は、リーナも知るミヤシバイズミだった。

 

「なあ、君、気づいているか? 君の仲間は私に気が付いて逃げたぞ」

 

これまでの幾度かの戦闘から考えれば、問われたサリバンが棒立ちのままというのはありえない。迎撃するか逃走するか、いずれかの手段を取るはずだ。けれど、サリバンは時を止められたかのように微動だにしない。

 

「私に対して反応しないのが不思議かい、USNAの魔法師諸君。しかし、種は非常に簡単。我らは応仁の乱で荒廃せし都の穢れ祓い生業とせし、魔狩りの一族。彼らは本能で狩るものと狩られるものの間柄というのが理解できてしまっているだけなのだよ」

 

イズミがゆっくりとサリバンに近づいていく。本当なら、この機に一気にサリバンを始末してしまうべきだ。しかし、イズミは姿を現しただけで、サリバンの動きを止めて見せた。その秘密の一端でも掴めれば、大いに役に立つ。その思いからリーナはイズミの行動を見守ることにした。

 

「さて、それでは始めるとしようか」

 

イズミが弓弦を引いていた右手の力を緩める。

 

「死ね」

 

ぴいんと高い音が鳴った。その瞬間、サリバンが崩れ落ちた。

 

「そんな!」

 

あまりにもあっけない幕切れ。何が起きたのかさえ、分からない。

 

「理解できたかね、狩るものと狩られるもの、という意味が」

 

サリバンはスターズの衛星級の隊員。それが吸血鬼化により身体能力・魔法能力ともに向上していた。シリウスであるリーナであれば圧倒できる相手だが、それでも、これほど簡単にはいかない。

 

「さて、そこの仮面の貴女、あちらで二人だけで話しませんか?」

 

「いいでしょう」

 

イズミの口調は、学校でリーナに向けるものだった。つまり、魔法による変装がばれているということだろう。クレアとレイチェルにサリバンの回収を任せ、二人から離れる。

 

「通信機も切っておいた方がいいと思いますよ」

 

それは、リーナにとって、ということだろう。相手の言いなりというのは癪だが、リーナにとって重要な魔法の見破り方を暴露されてしまう可能性もある。今は相手の言に乗ってみるべきかもしれない。そう考えて、リーナは敢えてイズミの言葉に乗った。

 

「さて、リーナ。何か聞きたいことは?」

 

「私はリーナという名前ではない」

 

「ここでとぼけるくらいなら、初めからクドウを名乗るべきでないな。九島が仮装行列を家芸としていることは、知るものならば知っている。そして、幻影を得意とする宮芝にとってそれが仮装行列によるものだと見破るのは難しくない」

 

仮装行列とは、色と形と音と熱と位置を偽装する魔法だ。このうち色と形に演算領域を振り分ければ変装になり、位置をずらすことに振り分ければ幻術に似た効果を生み出せる。

 

「それが普段のアナタなのね」

 

言いながら、リーナは仮装行列を解いた。仮装行列を使えるということだけならば、すでに九島であることから予想がされていた。知られてもさして問題はない。

 

問題は、リーナがスターズの総隊長であるシリウスであることまで知られているか否か。それさえ知られていなければ、許容範囲とすべきだ。今のところ、そこまでイズミが把握している様子はない。

 

「ところで、さっき何をしたのか聞かせてもらえるの?」

 

「いいだろう、と言いたいところだが、実はそれほど伝えられることはないんだ。我々は人ならざる物を消滅させる魔法を有している。それを使ったというわけだ。ちなみに、その記憶か記録かが、どういうわけか奴らに伝わっているらしくてね、おかげで姿を見せれば動きを止めてくれるので助かっている。まあ、仮に反撃してきても、逃走を試みても、結果としては変わらないがね」

 

「さすがに、その魔法を教えてはくれないわよね」

 

「そうだな。だが心配する必要はない。その魔法は、人には効果がないのだ」

 

額面通りに受け取っていいのかは分からない。けれど、二科生であるイズミが総合能力で高いはずがないのも確か。日本の古式魔法の敵は、専ら妖魔と呼ばれる物であったという話も聞いている。だったら、妖魔専用の攻撃魔法を持っていても不思議はないのかもしれない。

 

「ちなみに、その人ならざる物に対する魔法は、どんな相手にも通じるの?」

 

「基本的には、そう考えている。つまり、私は今の君には勝てないが、君がパラサイトに侵されてくれれば、私は一秒で君を殺せる、という訳だ」

 

「文字通り、人ならざる物にとっては天敵というわけね」

 

もしもそうであれば、サリバンの反応も納得ができるかもしれない。ともかく、日本にはミヤシバという対妖魔の専門家がいるということは報告をしておくべきだろう。

 

「とりあえず、ワタシたちはお互い中立ということでいいのかしら?」

 

「それは君たち次第だな。君たちUSNAの魔法師たちは日本にあまり奴らの情報を知られたくないように見えたからな」

 

「そうね。けど、アナタたちは他の日本の魔法師とは少し違うのでしょう?」

 

「そうだな。確かに我らは普通の魔法師とは異なる」

 

できれば、どう違うのかを教えて欲しいところだが、そもそも古式は秘密主義なところがある。それは高望みしすぎだろう。

 

「とりあえず、今はアナタたちと敵対するつもりはないわ。まあ、アナタたちの普通の魔法の能力は少し気になるけどね」

 

「そうか。ならば、それについては試す機会を与えてやろうか?」

 

「機会?」

 

「宮芝で一番の戦士と模擬戦をさせてやろう」

 

そう言ってイズミはリーナに驚くべき提案を持ちかけてきたのだった。

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