魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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来訪者編 宮芝の虎

宮芝和泉守治夏が提案した模擬戦闘の舞台は、第一高校敷地内の演習場で行われることになった。終了条件は審判役の制止のみ。演習中に例え相手を死に至らしめたとしても双方ともに責任は問わない。

 

条件だけみれば模擬戦闘にかこつけて暗殺するつもりか、というものだが、これは双方ともに全力を尽くすことを目的とした結果だ。宮芝側は将来有望な留学生を殺害して外交問題を抱えるつもりもないし、リーナの方も事件を起こして少し早めの留学強制終了という結末など望んではいないはず。

 

つまりは宮芝とリーナ、双方が互いの実力を測るというだけを目的とした模擬戦である。もっともリーナは気づいていないはずだが、宮芝側は隠蔽術式を得意とする術士が校内に入り込み、模擬戦闘の情報を記録するため、総合的に得をするのがどちらかは明らかだ。

 

そして今、治夏は克人や七草や渡辺、中条や千代田といった新旧生徒会と風紀委員の役員。それに深雪とその仲間たちといった招待者たちと対戦者の登場を待っているところだった。ちなみに達也は術式解体が使えることから審判をお願いした。

 

リーナはすでに戦闘準備を整えて待っている。後は宮芝の戦士の登場を待つのみだ。

 

「和泉守様、戦闘準備が整いました」

 

一足先に控え室から出てきた森崎が治夏に報告してくる。

 

「では、彼女の対戦相手に入ってもらおう。故あって名は明かせないが、そうだな……仮にミスタータイガーと呼んでおこう。さあ来い、ミスタータイガー」

 

治夏の声とともに大柄な男が入ってくる。顔は隠されているが、百九十センチ近い長身に筋骨隆々とした体格が、覆面の人物が男であることを表している。虎の覆面の他には、白のブリーフのみの男は……。

 

「いやあぁっ」

 

と、そこで最初に中条が悲鳴をあげた。

 

「きゃああっ」

 

次いで、治夏も悲鳴をあげた。

 

「ちょっ……ちょっと森崎、何なの、あの格好は!」

 

「はっ、和泉守様の指示通りの虎の覆面にパンツの装いとさせていただきました」

 

「そうだけど! そうだけど、違うの!」

 

こいつ、かの有名なネタを知らないのか。いや、そんなことを追及よりも今は大事なことがある。

 

「克人、違うからね。これ、私の趣味じゃないからね」

 

「う、うむ」

 

何で半信半疑って感じなの。と、そのとき強烈な視線を感じた。

 

見ると、達也が鬼の形相で治夏のことを見ている。それで横を向いてみると、深雪が顔を赤らめて下を向いていた。

 

え、これも私の責任なの。達也、ちょっと過保護すぎない?

 

「あの、ワタシ、あの変態と戦わないといけないの?」

 

今度はリーナからだ。何、今日の私の周りには敵しかいないの。

 

「ええい、もういい。始め、始め!」

 

もう強行突破しか思い浮かばず、自棄気味に叫ぶ。それに合わせて嫌そうな顔ながら達也が腕を振り上げた。

 

達也の開始の合図とともに、ミスタータイガーと名乗らせている元呂剛虎が剛気功で自身を強化。全身をしならせて一気にリーナへと迫る。

 

対するリーナは五本のダガーを呂に投擲して迎撃してきた。五本のダガーは自在に宙を舞い、前後左右に上方から呂に襲い掛かる。ダガーは十分な破壊力を秘めたもの。しかし、近接戦闘で世界有数の力を持つとされる呂の防御を突破するには、僅かに及ばない。

 

「ゴガアアアァ」

 

呂が剛腕をリーナに叩きつけようとする。いかにリーナに実力があろうと、強化された呂の攻撃力を防ぐことはできないはず。リーナも一目見て、それを察知したのだろう。小振りなナイフを抜くと、仮想領域を纏わせて一気に横に薙いだ。

 

その一撃は呂にしても無視できない威力であったようだ。呂は強引に横に飛ぶことで薙ぎを躱し、地面を転がる。

 

「あれはUSNA軍の分子ディバイダーか。やはりリーナは軍人、それもおそらくスターズの一員のようだね」

 

小声で呟いた治夏の言が聞こえたわけではないだろうが、僅かにリーナが顔をしかめていた。おそらく、今の魔法はできれば披露したくなかったものなのだろう。それと同時に、リーナの顔つきが変わる。

 

おそらく今の邂逅で接近戦ではどちらに分があるか分かったのだろう。おそらく総合力ではリーナの方が上だろう。呂は遠距離の魔法が得意でないのに対し、リーナは中距離戦を得意とする魔法師とみた。

 

ならば、リーナにとっては呂に接近をさせないのが勝利への近道だ。しかし、狂戦士と化してはいても戦闘に関する感覚は残っている呂はそれを許さない。

 

「ゴオォォォオ、ガアァァア!」

 

咆哮とともに剛腕が振るわれた。その拳先から衝撃波が巻き起こり、リーナに襲い掛かる。その一撃は、間一髪で躱したリーナの後方にあった木を圧し折り、倒してしまうほどのもの。これは宮芝が呂に授けた虎咆拳という技。威力もさることながら、近距離戦に特化した呂にとっては貴重な中距離攻撃だ。

 

その攻撃を防御でなく回避で応じたリーナの狙いは呂への反撃。防御に魔法を使っていては、相手の得意な接近戦を許してしまう。それゆえのリスクを取っての反撃だ。その的確な判断力はよほど実戦慣れしていないと身に付かないものだ。

 

横っ飛びに躱しながら放たれたリーナの加速系魔法、エクスプロージョンが呂に叩きつけられる。その攻撃を防ぎきるも、呂はリーナに距離を空けられてしまった。

 

今のところ、呂はノーダメージ。対してリーナはある程度、魔法力を使用してしまった。損得でいえば、リーナが多少の損をしている。すでにリーナは呂の守りを抜くには強力な一撃が必要だと悟ったはず。さあ、次はどう来るか。

 

そう考えた瞬間、空間が沸騰した。現出したのは、雷光瞬く、炎雷の世界。

 

それは、空気が燃え上がる灼熱の地獄、ムスペルスヘイム。気体分子をプラズマに分解し、更に陽イオンと電子を強制的に分離することで高エネルギーの電磁場を作り出す最高難易度の領域魔法だった。

 

「ゴォオガアァアアアァ!」

 

呂が剛気功の外に防御魔法を展開してリーナの魔法に耐える。リーナの魔法の効果範囲が半径十五メートルほどなのに対して呂の防御領域は直径二メートルほどの楕円形。効率でいえば呂の方が優れているはず。

 

しかし、呂は確かに熱を感じている様子だ。これはリーナの魔法が効率性など問題にしないレベルで呂を上回っていることを示していた。

 

「これは、思った以上に強力な魔法師を送り込んできていたみたいだね」

 

このまま中で耐えていては、リーナの魔法力が尽きる前に、呂の体力と魔法力の方が尽きてしまう。ここで呂は一時的に外の防御領域を解き、全力で後方へと飛ぶことによって魔法領域から逃れることを選んだ。

 

全身を焼かれつつも呂はムスペルスヘイムの範囲外に逃れた。さすがに片膝をつき、全身からは薄く煙が上がっているが、闘志は僅かも衰えていない。というか、闘志を衰えさせるなんて機能は搭載していない。

 

しかし、呂の身体には深刻な問題が発生していた。具体的には覆面が焼け落ち、更に唯一の防具といえた白のブリーフもなくなってしまっている。

 

「いやああっ」

 

「きゃああっ」

 

今度の悲鳴は中条と同時だった。

 

「ガアアアァッ」

 

そして呂は、自分の身体のことなど気にすることなく、再びリーナへと向けて疾走する。リーナの迎撃魔法を横に大きく跳んで躱す。

 

そのたびに呂の何かが大きく揺れ、あるいは跳ねる。ちなみに何が揺れているのかは言及をしたくない。

 

「止まれ、タイガー!」

 

さすがに放置することはできず、治夏は大声で叫ぶ。

 

「達也、この試合はここまで。いいね」

 

「俺としても、そうしてくれるとありがたい」

 

「ええと、ワタシの勝ちということでいいのよね」

 

そう問いかけてくるリーナはもはや正面を向いていない。

 

「早くアレ、何とかしなさいよ」

 

さすがに男所帯で少しは免疫があるエリカが言ってくるが、治夏も自分の手で何かを行うのは無理だ。

 

「森崎、タイガーに何か服を」

 

「はっ、では某の服を」

 

「お前まで脱ぐな!」

 

一人がパンツをはいて一人がパンツを脱いだのなら、それじゃプラマイゼロだろうが。

 

「お前らは何をやっているんだ」

 

そう言いながら、達也が自分の上着を脱いで呂の腰に巻き付ける。ありがたいが、達也は呂のものが自分の上着に当たっても嫌じゃないんだろうか。

 

ちなみに今更どうでもいいかと思われそうだが、呂はすでに整形をされているため、覆面が焼け落ちても本人だとはばれていない。宮芝が呂剛虎を操っているということは、公表をすべきことでないのだ。

 

「色々、ご迷惑をおかけしてすみません」

 

ともかく、模擬戦闘は終わったわけだが、さすがに周囲の視線が痛すぎて、治夏は第一高校に入学してから初めて、誠心誠意、頭を下げた謝罪をすることになった。




誰も望んでいないサービスシーン登場。
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