魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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来訪者編 バレンタイン狂騒曲(後)

バレンタインの日の真の狂騒劇は、この日の昼に訪れた。いつもの通り風紀委員室で昼食を取ろうと教室を出た宮芝和泉守治夏が見たのは、時間でないのにも関わらず校内を巡回している関本勲の姿だった。

 

不審に思い、関本の後をついていく。すると関本は食堂へと入っていった。関本の脚が止まったのは、司波達也が座っている席の真後ろだった。

 

「ミツケタ」

 

関本が小さな声で呟く。そして次の瞬間には、関本は達也に向かって飛び掛かっていた。異変に気付いた達也が振り向く。機械の補助により関本の瞬発力は増している。だが達也は関本が動いた後から反応したにも関わらず、関本の手から逃れていた。もっとも、代償として自分と周囲の人間の昼食を蹴散らしながらになってしまったが。

 

「うおわっ」

 

「きゃああっ」

 

そして、蹴散らされた食事をレオとエリカが仲良く浴びていた。さしものエリカでも椅子に座った状態から散弾のように飛来する食物を避けることはできなかったようだ。ちなみに深雪とほのかと美月は達也と同じ並びであったことから被害を免れ、吉田はたまたま自分の方には飛んでこなかったという幸運に助けられて無事である。

 

「管理者権限において命じる。関本、行動を停止せよ!」

 

ここで治夏が関本の行動に待ったをかけた。

 

「もう大丈夫だ。迷惑をかけたね、エリカ、レオ」

 

「ええ、本当に」

 

さすがに憮然とした表情のエリカは頭への直撃は避けたものの制服に大きな被害が出ていた。そしてレオの被害はもっと大きく、額に汁物の具であったと思しきワカメを貼り付けている。

 

「ごめん、エリカ。原因究明は後にして、まずは着替えに行こう」

 

「それなら問題ないわ」

 

そう言ったのは深雪であった。意味が分からず小首を傾げる治夏の前で、深雪はCADを操作して魔法を発動させる。すると、エリカの制服の汚れだけが布地から分離し、剥がれて床へと落ちた。

 

「洗剤みたいなこともできるのか。何というか、高い魔法力の無駄遣いだね」

 

午前中は自分が言われたセリフを、そのまま深雪に送ってみる。

 

「緊急事態だから」

 

「あの……オレは?」

 

言われて、深雪はレオの汚れも落とし始める。その間に達也は美月に声をかけていた。

 

「美月、関本の中をのぞいてみてくれ。和泉と幹比古は美月が大きなダメージを負わないようにガードして欲しい」

 

「関本に何か不審な点が……なるほど、これは気づかなかったな」

 

そこまで言われて、ようやく治夏も気が付いた。

 

「います……パラサイト、です」

 

「そのようだな。だが、妙なんだ。悪意というか邪悪な波動を全く感じないんだ」

 

そのせいで、治夏のレーダー網に引っかからなかったのだ。そして、美月は続けて驚きの言葉を口にした。

 

「でも、このパターンは……ほのかさんに似てる」

 

「ええっ!?」

 

ほのかが仰天の声を上げた。

 

「パラサイトは、ほのかさんの思念波の影響下にあります」

 

美月は珍しく、キッパリとした口調で答えた。

 

「それって、ほのかのコントロールを受けているってこと?」

 

聞いたエリカの問いに、美月は首を横に振った。

 

「ほのかさんとパラサイトの間にラインが繋がっているんじゃなくて、ほのかさんの思念をパラサイトが写し取った感じです。あるいは、ほのかさんの『想い』が、パラサイトに焼き付けられた、と言うべきでしょうか」

 

「私、そんなことしてません!」

 

「ほのかが意図してやったと言ってるわけじゃない」

 

パニックを起こしかけているほのかを、達也が宥めた。

 

「そうだろう、美月?」

 

「あっ、はい。意識的なものじゃなくて、残留思念に近いと思います」

 

「残留思念……つまり、光井さんが何か強く想ったことが、偶々近くを漂っていたパラサイトに写し取られたということかな? その後、関本さんに憑依した? それとも関本さんの中に潜んでいたパラサイトに、光井さんの思念が焼き付いた……?」

 

「後者だ、吉田」

 

吉田の独り言に治夏は答えてやる。

 

「命令を与えていないときの関本に思考能力はない。つまり全くの無だ。全く動いていないゆえに中に入り込むのは余裕だったのだろうな」

 

「和泉、アンタ、さり気なく相当に下衆なこと言ってるの気づいてる?」

 

「別に言わずとも分かっていたことだろう。アレが今も関本としての自我を残していたように見えたか?」

 

言うと、エリカが何とも言えない顔をした。言われずとも分かってはいたが、改めて明言されると、ということだろう。

 

「それはともかく、私の命令が届いたということは、管理者権限は未だに有効らしい。なら、直接に話を聞くのが早い」

 

動きを止めたままの関本に向けて、治夏は命じる。

 

「起動せよ、関本」

 

その声を受けて関本の目に光が宿る。内燃機関が活動を始め、関本が起動した。

 

「関本よ、我が問いに答えよ」

 

「はっ、何なりとお申し付けくださいませ、上様」

 

「お前は光井ほのかの想いを受け継いだパラサイトなのか?」

 

「はっ、仰せの通りでございます」

 

「どうしよう、関本が優秀になってる」

 

そこで思わず治夏は振り返って言ってしまった。

 

「確かに奇声は発しなくなってるな」

 

「口調を除けば、受け答えも自然ですね」

 

レオと深雪も同感であったのか、頷いてくれている。

 

「話を戻そう、お前のことは何と呼べばよい」

 

「我らには名がございませぬ。ゆえに某のことはこれまで通り関本とお呼びいただきたく存じます」

 

「では関本、お前は我々に敵対する存在か?」

 

「某は上様の忠実なる家臣にございます。敵対する気など毛頭ございません」

 

ここまでの話を聞く限り、このパラサイトには関本の影響が強く出ているようだ。

 

「では関本、お前は何を望み、何のために動く」

 

「某の望みは上様の望みを果たすことにございます。そして、願わくばいずれは我が伴侶として司波達也殿と添い遂げ、夫婦二人で上様をお支え申し上げたいと存じます」

 

ああ、ここで光井ほのかの思念の影響が出たのか。空など見えないのに天井を見上げてしまった。そして、ほのかはというと、恥ずかしさの臨界を突破したのか、椅子に座ったまま真っ白になっていた。ごめん、ほのかと心の中で土下座しておく。

 

「だ、そうだが、達也は……」

 

「お兄様に、そのような望みはありえません」

 

「うん、そうだよね」

 

達也が何か答えるより早く深雪に全力で断られてしまった。

 

まあ、普通に考えて頭の中が一部ほのかで身体が機械を選ぶくらいなら、頭も体もほのかを選ぶよね。そもそも伴侶って……そういえば関本の下半身ってどうなっていたっけ。確認したことはなかった気がする。

 

「ま、まあその達也への思いに関しては私が口を出すことではない。ただ、達也の迷惑とならないようにな。それはそれとして、お前たちは憑依した者の影響を強く受ける、ということで問題はないな?」

 

「はっ、我々は強い想念に引き寄せられ、その想念を核として『自我』を形成します」

 

「分かった」

 

つまり関本に植え付けておいた治夏への絶対服従の命令を核とし、光井ほのかの想いを願いとしたということか。

 

「ところで……関本、お前の戦闘能力はどうなっている」

 

「では、いざご覧あれ」

 

そう言うなり関本は肘の中に内蔵した二本のブレードと脇腹に内蔵してある二本の隠し腕から伸びるブレード、計四本のステンレスブレードに高周波ブレードの魔法を付与。四本の剣により縦横無尽の舞を見せつつ制服を破り捨て、胸部機関砲を空撃ちしてみせた。その動きは、以前の関本に比べて格段に鋭くなっている。

 

「あー、もういいぞ」

 

その声を聞いた関本は内蔵ブレードや隠し腕を機体内に収納する。ただし、破れた服は戻せるわけはなく、辺りには制服の切れ端が散乱している。更に急な大立ち回りに驚いた生徒たちによって、先のエリカとレオに近しい被害があちこちで発生している。

 

「ねえ、関本さん、もう人間の要素なくない?」

 

エリカの声がとげとげしい。

 

「まあ、ちょっとやり過ぎたかな、とは思わなくもない」

 

ともかくパラサイトは使い方によっては非常に有用ということがわかった。これは何としても残り全てのパラサイトを確保せねば。

 

ここにきて治夏は方針を大きく変更した。




ただの風紀委員であった関本勲はアンドロイド関本を経てパラサイト関本へとクラスチェンジを果たしたのでした。
……我ながら、どうしてこんなことに。
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