魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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来訪者編 司波達也の襲撃者への襲撃者

バレンタイン翌日の夜、リーナは公園の駐車場に止めたワゴン車の中で、部下からの連絡を待ちながら戦術魔法兵器「ブリオネイク」の最終点検をしていた。

 

目の前のモニターに映るのは、レストランで食事中の司波達也。これからリーナの部下がレストランに押し入り、その場で捕獲が可能なら、そのまま拉致。反撃を受けたら交戦しつつ逃走し、リーナの待つ公園へターゲットを誘導する手筈になっている。

 

タツヤを襲う部下たちはUSNA軍の中で「スターダスト」と呼ばれている魔法師たち。調整と強化に耐えきれず、数年以内に死亡することが確実視された魔法師により組織された決死隊だ。その中でも近接戦闘に特化した兵士たちを選抜してある。普通ならリーナと同年代の少年が勝てる相手ではない。

 

けれど、タツヤの力は底が見えない。だから、知らずリーナはブリオネイクを強く握りしめていた。

 

ブリオネイクはリーナのために製作され、リーナにしか使えない、それなのにUSNA魔法師部隊の総隊長であるリーナでも自分の一存では使用できない、超兵器だ。携行兵器でありながら、その威力は最大で戦艦の主砲にも匹敵し、それ程の破壊力を持ちながら出力も射程も自由にコントロールできるという非常識兵器の外見は、長さ四フィート程度の太めの棒だった。

 

手元三分の二がテニスラケットのグリップと同じくらいの太さで、先端三分の一がそれよりも二回り太い円筒形、その境目に、ちょうどリーナの手で握れる程度の幅と厚みの、短い箱形の棒が十字に取り付けられている。

 

時間だ。作戦開始が告げられ、タツヤの食事中のレストランの前、反対車線側に停車したボックスワゴンの中に待機しているスターダスト所属の五人が、行動に移すべくドアに手をかけた。

 

「キィエアァアー!」

 

その直後、絶叫と共に空から降ってきた男の振るった太刀により、ボックスワゴンは両断されてしまった。幸いにも中の兵士たちは回避できたようで、全員が無事に車外に飛び出していたが、突然の事態に混乱は隠せていない。

 

「我は宮芝和泉守様の部下、関本勲である。貴殿らに我が国の民を害する意思ありとみて、攻撃をさせてもらった。このまま退くなればよし、退かぬとあらば……」

 

セキモトがゆっくりと左足を前に出し、刀を右肩の上で構える。

 

「斬る!」

 

その言葉に対して、スターダストの兵士たちはサブマシンガンにCADを組み込んだ武装デバイスの銃口を向けることによって答えとする。だが、兵士たちの銃口が火を噴くことはなかった。その前に、明らかな異変が彼らの前に現出したからだ。刀を構えるセキモトの姿は二人になり、三人になり、ついには十人にまで増えた。

 

「ニンジュツというやつか?」

 

「いいや、違うな」

 

スターダストの思わず一人がこぼした言葉に答える声がワゴンの周辺に響いた。

 

「聞こえているな、君。よく見ておくがいい。これこそが九島の秘術と言われる仮装行列の本当の姿だ」

 

声はまだ若い少女の声。そして、リーナに聞き覚えのある声だった。

 

リーナが普段、仮装行列で作り出すのは一人のみ。それは、仮装行列が自らの位置を偽装するための術だからだ。本体と別の位置に偽装した幻を作ることで敵の攻撃を防ぎ、同時に無防備な相手に攻撃ができるようになる。

 

多数の幻影体を作ることは、少なくとも一体は本体ではないということを相手に知らせることに繋がる。この魔法の使い方としては下策としか思えない。しかし、相手はおそらくミヤシバイズミ。その程度が分からないとは思えない。

 

リーナが考察をしている間に、スターダストの兵士たちが再び武器を構えてセキモトに発砲する。ケイ素化合物の軟性弾丸に、射出時帯電、着弾によって放電する効果が付与された弾丸はタツヤを生け捕るために用意されたものだ。

 

弾丸はセキモトの身体を素通りし、後方の壁に命中した。やはりセキモトたちは仮装行列によって作り出した幻影なのだろう。十人のセキモトの中に本物がいるか、或いは全員が幻影体で本体はどこかで息を潜めているのか。

 

仮装行列が対処に難しいところは、明確な対抗魔法が存在しないことだ。スターダストの隊員たちも何か少しでも違和感はないかと周囲に視線を走らせていた。その隙にセキモトの一人が刀を構えたまま突進してくる。

 

「キィエェエェイ!」

 

絶叫と共にセキモトが刀を振り下ろす。その迫力は、幻影だと理解しているはずの、狙われた隊員も思わず武装デバイスを掲げる程だった。

 

結論として、その行動は半分正しく、そして決定的に間違えていた。セキモトの刀は武装デバイスのみならず隊員の頭部までをも両断していた。幻影と思っていた相手からの攻撃を受け、慌てた他の隊員が銃撃を開始する。

 

が、それは悉くセキモトの身体をすり抜け、味方を傷つけるだけに終わる。やはり、この相手は幻影なのか。そう訝しんでいるうちに、もう一人が刀により両断された。

 

「九島の秘術であるパレードの魔法に、なぜ『仮装』ではなく『仮装行列』の字が宛てられていると思う? それは真の仮装行列が、実体を持った大量の幻影の創出だからだ。攻撃力を有した幻影体の創出。これが九島のような紛い物でない、古式の奥義を受け継ぐ宮芝の、正真正銘の仮装行列だ!」

 

ここにきて、さしものスターダストの隊員たちも恐慌に陥った。どのセキモトも、こちらの攻撃は全てすり抜けてしまうのにも関わらず、相手からの攻撃は自分たちに届く。それは、さながら先日のパラサイトとの戦いを想起させた。

 

攻撃の通じない敵を相手に、スターダストの隊員たちは、逃げ回ることしかできていない。これでは勝負にならない。

 

何とかしなければ、全滅する。どうすればいいのかは分からないまま、リーナはワゴン車から飛び出そうとした。

 

「待て、シリウス少佐!」

 

しかし、その前にお目付け役として新たに派遣された上官に止められてしまう。

 

「少佐は、宮芝のパレードを破る手段に見当がついているのか?」

 

「いえ……ですが、このままでは!」

 

「落ち着け! シリウスは我が軍最強の魔法師。それを、こんなくだらない戦いで失うわけにはいかないのは貴官にも理解できよう」

 

その理屈はリーナにも理解できるものだった。長く持たないスターダストを救うために切り札たるシリウスを失うなど、あってはならない。軍人としては、そのような思考に至るのは当然。けれど、頭では理解できても感情は追いついてくれない。

 

唇を噛みしめて耐えるリーナが見つめる先、モニターの中でスターダストの隊員たちが次々と倒されていく。そして、最後の一人が前後から突きを受けて絶命した。

 

「これで理解できたかな。そも秘密主義の古式が秘術の全てを開示するなど、ありえぬ話であろう。貴様の魔法は我らが現代魔法を得るための捨て駒。まあ、それでも凡百の魔法師には通じる武器であったろう。これからも精々大事に使ってくれたまえ」

 

音声を拾われていることを理解しているのだろう。ミヤシバはリーナを挑発するような声を届け続ける。

 

仮装行列はリーナにとって固有魔法と双璧を成す最大の武器であった。その仮装行列が紛い物扱いされた。そして、真の仮装行列と言われた魔法は、リーナの魔法に比べて桁違いに強力で、攻略法が全く見えない。

 

いや、正確にはブリオネイクを用いたリーナの固有魔法であれば、おそらく何とかなる。ただし、敵の正確な位置が分からないので、周囲を薙ぎ払うような攻撃を行わざるをえず、それはさすがに軍人のみの判断で許容される行動を超えてしまう。

 

「少佐は声の主を知っているように見えたが?」

 

「はい、あの声はおそらく第一高校の生徒、ミヤシバイズミです」

 

「また高校生か……」

 

シバタツヤとミユキに加えて、ジュウモンジカツトにミヤシバイズミ。今の第一高校は異常というよりない。

 

「それにしても、まさか同盟国に対してこれほど強硬手段に出てくるとはな」

 

「ミヤシバイズミなら、この程度はやりかねません。今日、スターダストの隊員と戦ったのはセキモトという第一高校の警備員ですが、噂では大亜連合に通じたところ機械に改造されてしまったようですので」

 

「そのミヤシバイズミという相手のことは後で詳しく聞く必要があるな。ともかく、今日は完敗だ。ここは退くぞ、少佐」

 

「はい」

 

受けたショックはあまりに大きく、リーナは力なく頷くことしかできなかった。




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