魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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来訪者編 USNA軍急襲

司波達也襲撃計画を一度は頓挫させたが、事は戦略級魔法師に関するもの。司波達也に対する拉致または暗殺計画は簡単には中止されないようだ。

 

再びUSAN軍に動きあり、という報を受け取り、宮芝和泉守治夏はいよいよUSNA軍の殲滅作戦を実行に移すことを決意した。殲滅といってもUSNAは同盟国。潜在的には競合関係にあるとはいっても、大亜連合と新ソ連と、すでに敵を二国も抱えている日本に更に敵を作る余裕はない。そのため行使する実力は限定的なものとなる。

 

具体的にはリーナの他に佐官クラスの人間は、影響を考えて原則として殺害は行わない。宮芝の目的はあくまで日本から手を引かせること。これ以上、作戦を継続しても損だと思わせられれば、それで十分だ。

 

USNA軍の襲撃の為に治夏が揃えた人員は、治夏本人に村山右京、山中図書、皆川掃部、郷田飛騨守、松下隠岐守、呂剛虎、関本勲、あれから急いでかき集めたパラサイトを封じたパラサイト関本が六体。それに技術者の平河小春だ。計十五人と少ないのは、他国の軍人に攻撃を仕掛けるという作戦の性質上、専門性の高い者のみ選別せざるをえなかったためだ。そのため戦闘力だけなら及第点でも森崎は参加させられない。

 

「先鋒は関本及びパラサイト関本の一番機から六番機が務める。関本にはパラサイト関本各機の指揮官を命じる」

 

「ははっ、お任せあれ!」

 

関本の返答を聞き、治夏は関本の量産機たちを見回した。

 

「皆もそれでよいな!」

 

「はっ、承りましてございます」

 

同じ顔をしたパラサイト関本たちが一斉に返事を返す。ちなみに常人には量産型関本の違いが判別できないらしいが、治夏には各機の発する波長の違いでどれが一番機でどれが六番機なのか判別可能だ。

 

「本作戦においては先日と違い、仮装行列は用いない。ゆえに作戦の成否は諸君らの働きに掛かっている。皆、心して任務に当たってほしい」

 

先日の本物の仮装行列、と称したものの正体は実に単純。まずは治夏が情報体の核となる部分を仮装行列で作り出し、そこに幻影魔法で肉付けをする。更に幻影の動きに合わせて刀剣型のCADをダンシング・ブレイズで操り、尚且つ関本のパラサイトとしての能力である物体軌道干渉を組み合わせたもの。

 

治夏、村山右京、山中図書、皆川掃部、パラサイト化した関本の五人がかりでの複合魔法。それが真の仮装行列の正体だ。

 

仕掛けを知られてしまえば威力は半減だが、知られていないうちなら効果は高い。何より、一方的に攻撃をされるというのは相手に強いストレスを与えることができる。そうなれば精神干渉系魔法も効きやすくなる。

 

相手が世界最高峰の魔法師たちだろう。けれど、今回の作戦に当たるのはパラサイト七体。現代魔法師には厳しい相手のはずだ。

 

決意を持って出立した治夏たちの目的地は普通のオフィスビル。そこの一階層分がUSNA軍の臨時作戦本部が置かれている。本日は、そこに強襲をかける。

 

攻撃目標が普通のオフィスビルという点は、宮芝にとって有利にしか働かない。狭い場所であればあるほど、近接戦闘に強い関本の能力が生きてくる。また、宮芝にとっては上下の階層の民間人の被害など知ったことではないが、そこで戦闘が行われたことが公になるだけでダメージがあるUSNA軍にしてみれば、やりにくいことこの上ないはず。

 

もしも相手の抵抗が激しいようなら、大人しく撤退する。ただし、その場合も派手に魔法を使ってなるべく周囲に被害を出す。作戦目標はUSNAが達也を害する計画の断念させること。それは、USNA軍が動きにくい環境を作ることでも達成が可能だ。

 

要するに、あちこちで戦闘を行えば、それだけで治安の悪化という形で耳目を集められる。そうなれば治安維持のために軍や警察が動き回ることになり、結果的にUSNAは作戦が行いにくくなるという算段だ。

 

そして、今回の作戦は全てパラサイトを封じた関本たちによって行われる。機体が撃破されてもパラサイトの本体は脱出が可能。そして、各パラサイトには代替機を用意してあり、脱出時にはそちらに戻るよう指示してある、新たな機体に再定着が完了すれば、再出撃することも可能だ。この際の損害は機体を作る費用分のみ。

 

「さて、関本、準備はよいか?」

 

「はっ、いつでも行けます」

 

「ならばよし。図書、幻影魔法をかけよ」

 

目的のビルまで百メートルほどの地点にあるビルの屋上が、治夏たちの陣地だ。治夏の命に応じて図書が魔法を発動させ、関本たち七人の姿が消える。

 

「攻撃開始!」

 

飛行魔法を発動させ、関本たちが空へと飛び立つ。といっても目的地は近い。関本たちはすぐに急降下を開始し、窓を高周波ブレードで破って室内に突入した。

 

「総員、抜刀!」

 

関本が叫び、量産型六機が一斉に抜刀する。

 

「天誅!」

 

突撃するパラサイト関本たちに対してUSNA軍の魔法師たちが迎撃する。関本たちは防御魔法を展開しつつ、左腕に内蔵されたガトリングガンを撃ちながら突進、一機を失いながらも敵中に踊り入った。

 

接近戦となれば、関本たちは機体の脇に内蔵された二本の隠し腕を展開しての攻撃が可能だ。その近接戦能力はUSNA軍の精鋭を相手にしても優勢に戦いを進められるほど。

 

「パラサイト金剛、帰投」

 

計器を睨んでいた平河が叫ぶ。

 

「高機動型はどれだ?」

 

「十三号機です」

 

「では、十三号機に定着させよ」

 

「了解、十三号機に定着させます。定着……完了。関本十三号機起動します」

 

撃破された関本五号機から脱出したパラサイトの本体が予備機の中に入るのを、治夏の知覚はしっかりと捉えていた。パラサイトの宿った関本十三号機の目に光が灯る。

 

「パラサイト金剛、関本十三号機にて出撃します」

 

金剛の個体名を与えたパラサイトが高機動型の関本十三号機を操り、再び戦場となっているオフィスビルへと突入していく。なお、関本たちが装備しているのは形状から刀と呼んでいるものの、実体としては刀型をしたCADに過ぎない。治夏たちの腰にある歴史的な価値はないものの、きちんと拵えられた一振りが一千万単位の刀とは別物で、戦闘中に失っても惜しくはない。

 

誰が倒すべき高級士官であるのかは、すでに調べがついている。関本たちは敵の士官を避けて兵に向けて突進していく。それに対し、敵側も反撃を行っているが、撃破してもすぐに補充がされるため戦局は徐々に不利になっていく。

 

近接戦型の関本たちの振るう刀だけでも厄介なのに、パラサイト特有の魔法攻撃、加えて再出撃したパラサイト阿修羅による狙撃まで受けている。USNAの兵たちは、その対応に追われる内に一人、また一人と倒されていく。

 

今の所、戦局は有利に運んでいる。USNA魔法師隊はパラサイトの本体の存在にすら気づいていない。もっとも、これは予想ができたことだ。

 

USNAは短期間で精強な魔法師部隊を作り上げている。しかし、元の歴史が浅いことと急激な組織化、科学的な要素への傾倒に伴い、多様性に欠ける。要するに妖術に属するような古式魔法への対抗力については欠けているのだ。

 

もっとも、これはUSNAに限った話ではない。日本の現代魔法師も古式魔法の知識については万全とは言い難いし、その古式についても戦車のような単純な高破壊力と重装甲の相手には弱い。

 

ゆえに、これからは単一の組織で部隊を組む従来のやり方は考え直さなければならないかもしれない。その意味でも、十文字家と同盟を組むのは大きな意味がある。もしも十文字家と混成部隊を結成できれば戦略の幅は大きく広がるだろう。

 

もっとも、その実現には高い壁がある。例えば今回の作戦にしても、強襲が上手くいかなければ上下階に被害を発生させるという作戦に、一般的な倫理観を持った魔法師が同意をしてくれるか。その答えは否であろう。

 

宮芝には父祖代々から引き継いできた使命がある。しかし十文字家の魔法師もまた、生まれたときから十文字の魔法師としての使命を教えられてきたはず。歴史は確かに宮芝の方が長い。けれど、それは十文字を軽視してよいということにはならない。

 

「当面は、この案は保留だな」

 

今はその考えを頭の隅に追いやっておく。こんなふうに余計なことに思考を割くことができたのも、USNA軍の制圧作戦がすこぶる順調であるからだ。

 

すでに敵の半数は殺害が完了している。そして、この半数というのは非常時に前に出てきた人員ということで、戦闘要員と換言できる。つまり残っているのは技術者や事務員などの非戦闘員ばかりだ。

 

「何で繋がらないんだ!」

 

その事務員の一人が悲痛な声を上げる。

 

それは、ここにいる松下隠岐守が封鎖結界を展開しているからですよ。治夏は心の中でそう返しておく。

 

「君たちは宮芝の魔法師だったな」

 

本部陥落が確実となったためだろう、指揮官の女性が前に出てくる。

 

「貴官とは今は交渉を行うことはできない」

 

パラサイトたちを代表してオリジナル関本が答える。

 

「それは、どういう意味だ?」

 

「我々は佐官以上を除き、この場にいる者は殲滅するよう命を受けている」

 

「我々が降伏をしても、ということか?」

 

「然り」

 

言いながら、オリジナル関本が絶望を顔に浮かべて必死に逃げようとした事務員に飛び掛かり、首を刎ねた。

 

「やめろ!」

 

「動くな!」

 

残りの職員を救うためか玉砕覚悟で踏み出そうとした指揮官に、関本は刀を突き付ける。

 

「佐官以上は殲滅の対象からは外れているが、殺すなという命までは受けていない。貴官がここで抵抗して討ち死にした場合、我らは交渉相手を探して次なる場所を襲わねばならなくなる」

 

更に同胞を殺すと脅され、指揮官が顔を歪めながら戦闘態勢を解いた。

 

「賢明な判断に感謝する」

 

関本が答えている間にも非戦闘員の虐殺は続いていく。

 

それが精神に負担を強いた結果だろうか、USNA軍の大佐は、日本の非公認戦略級魔法師に関する作戦を中止するよう尽力することを約束した。なお、その約束は絶対順守の強制力を持たせる呪いを組み込んである。

 

彼女はあくまで実行部隊の最高責任者。これで工作が本当に終わるとは限らない。しかし、少なくとも日本に手を出すと、ただでは済まないということは警告できたはず。その結果をもって治夏は全軍に撤退を指示した。

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