USNA軍の作戦本部を襲撃した翌日、宮芝和泉守治夏は昼休みになったのを見計らって達也に話しかけた。
「ねぇ、達也。ちょっとお願いがある……」
「すまない、断らせてくれ」
そして、皆まで言わせてもらえず、ぶった切られた。
「ちょっと待って、まだ何も言ってない」
「そうだが、ろくでもない結果にしかならない気がするんだ」
「最近、私への対応が酷すぎる。私がどれだけ達也のために頑張ったか、達也なら知っているはずでしょ」
作戦本部への襲撃はともかく、レストランで襲われかけたところを助けたことは、達也なら当然に知っているはずだ。
「それは、そうだが……」
さすがに借りだと思ってくれているらしく、達也は少しだけ目を逸らした。
「別に変なお願いじゃないから。これから、ちょっとだけ人に会ってほしいだけだから」
「お願いは変じゃなくても、待っているのは絶対に変な人だろう?」
宮芝の関係者なら変人に違いないというのは、大いなる偏見だと思う。もっとも、この学内にいる宮芝の関係者ということなら、あながち間違っていないので主張し難い。しかも、これから会わせようとしているのが変人じゃないかと問われると、違うと言い切ることは抵抗がある。
「ねぇ、エリカ。達也が虐める」
こういうときは他人を巻き込むに限る。意外に甘い所がある達也は、諫言は損にならない限り受け入れてくれる傾向が見えるからだ。
「どうしたの?」
「私の部下がどうしても達也に会いたいって言うから連れてきたのに、会ってくれない」
「和泉の部下ってどんなのよ?」
「……恋する乙女」
「なんか、怪しい気がするんだけど」
残念ながら、エリカも味方にはなってくれそうにない。
「お願い、達也。一目見たいだけって言ってたから、叶えてあげて」
「なんで、そんなにまで必死なんだ?」
「仕事に対するモチベーションに影響があるの。それに、仕事だって達也に無関係じゃないんだから、少しくらい協力してよ」
そこまで言えば、仕事というのが何であるかは達也とて分かるはず。
「……分かった、少しだけだぞ」
邪魔なUSNA軍の諜報員の排除という、自分にもメリットのある話であると分かったからか、ようやく達也は頷いてくれた。
達也を連れて風紀委員室へ。ちなみに面白がったエリカとレオ、吉田と美月に、兄に告白をしたい相手という情報をどこかから聞きつけた深雪とほのかと雫まで加わり、またも大所帯での移動である。
「連れてきたぞ、事前に言っておいた通り、お触りは駄目だからな」
言いながら扉を開ける。
「達也さま!」
「達也様だ!」
「達也様がいらした!」
途端に、中から騒がしい声が聞こえてくる。
「イキキキキキ!」
奇声を発しながら、扉を破壊し、中から関本と六体のパラサイト関本が飛び出してくる。約束通り、身体には触れていないが周囲を取り囲まれ、達也は身動きが取れない。
「和泉、これはどういうことだ!」
「いや、この一連の騒動の中で、パラサイトたちには頑張ってもらうことになったんだけど、そしたら褒美として達也に会わせてほしいって言ってきて……」
「はっ、我らは皆、母上から頂いた思い、忘れておりませぬゆえ」
「は、母上!?」
言われたほのかが悲鳴に近い声を上げる。
「和泉守様、触るのは不可とのことですが、匂いを嗅ぐのは構いませんか?」
「え!? えーと、少しだけ……なら?」
「ちょっと待て、和泉。誰がいいと……」
クンクン、クンクンクン、クンクン。達也の声など耳に入っていない様子で、関本たちが一斉に達也の匂いを嗅ぎ始めた。一応、触られてはいないが至近距離に匂いを嗅がれている達也は、全身に鳥肌を立てているようだ。
「和泉、いい加減にしたらどうかしら?」
「まずい、深雪がキレそうだ。管理者権限で命ずる。関本全機、司波達也より三メートルの距離を取れ!」
治夏の命令に従い、関本たちが一斉に後退する。
「和泉、そもそもこれは何だ?」
大勢の関本たちを見ながら、達也が聞いてくる。
「捕らえたパラサイトたちを用いて作った量産型の関本なんだけど」
「あの、和泉。量産型って、関本さんは型番じゃないからね」
「エリカに言われるまでもなく、関本が関本勲という人間だったことは記憶している」
「じゃあ、何でこんなことに?」
「一点物をいくつも作るより、同一の型として制作した方がコストを抑えれるだろう。元々、関本の身体を作っていたから、その設備を使ったまでだ」
もっとも、低コスト化は成功したが、オリジナル関本はともかく、量産型は全く同じ顔が六つなので不気味になってしまったが。
「まあ、長男と六つ子ということでなんとかならないか?」
「あまりにもお粗末な設定だと思うがな」
言われなくとも分かってる。
「それで関本たち、気は済んだか?」
「達也様、最後に一つ、お願いがございます」
「聞きたくない気もするが、何だ?」
「どうか達也様の子種を我らにお恵みください!」
「こだっ……」
絶句したのは深雪だ。
「子種さえ下されば和泉守様は必ずや我らのことを、子を産める身体に改造してくださります。そうすれば我らは真の夫婦になれます」
いや、無理だから。機械が人間の子供を産めるようにするなんて無理だから。宮芝にそんな特殊で変態的な技能なんてないから。
「和泉、今すぐこの壊れた機械たちを破壊してもいいかしら?」
「待って、深雪。まずは本人の意思を確認してからにしよう。達也、関本たちはこう希望しているけど、達也の気持ちは?」
「俺に、これに欲情しろと?」
まあ、ほとんど機械のうえに関本だしね。私でも無理だから、同性の達也ならもっと無理だよね。
「欲情していただかずとも結構。ただ達也様の子をなすことだけが我らの願い」
「和泉、ほのかが恥ずかしすぎて気絶したみたいなんだけど」
「雫、しばらく退避させておいて。あと達也、もう面倒だから自慰で出した分でいいから分けてあげて。どうせこっそり出しているんでしょ」
「そんなことはしていない」
「えっ、本当に?」
達也が頷いたのを見て、深雪に聴取を開始する。
「ねえ、深雪。もしかして、本当に?」
「なぜそれを私に聞くの?」
「えっ、あれだけシスコンなのに?」
そう言った瞬間、達也がものすごく嫌そうな顔をしたが、今は放っておこう。
「それに関しては答えにくいけど、いくら仲のよい兄妹でもそんなことまで知るはずがないでしょう?」
「それって大丈夫なの? 高校生の男子なんだよね。もしかして、何か深刻な病気とかいうわけじゃないよね」
治夏がそう言うと、深雪も俄かに心配そうな顔になった。ところで、今更だが自分は一体、こんなところで何を言っているのだろうか。
「あの、お聞きしにくいのですが、お兄様はもしかして……」
「聞こえているからな! その機能は正常だから安心しろ」
「それでも、深雪、私、エリカ、美月、ほのかに雫で一度もないの?」
「何の質問だ! 和泉、頼むからどう答えてもマイナスにしかならない質問をするな!」
達也にしては珍しく動揺を隠せない様子だ。
「では、なぜ我らにも母上にも慈悲を与えてくださらないのです?」
関本が両手を組んで答えを達也に迫る。それを見た達也は、数秒の沈黙の後、全力で廊下を疾走し始め、あっという間に見えなくなってしまった。
それは治夏が初めて見る、達也の全力での逃避だった。
「ところで、この状況、どうやって収集をつけるつもりなの」
そして、雫の一言に治夏は大いに頭を抱えることになった。
どれでも好きな関本をお選びください。