魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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来訪者編 十文字の詰問

日本に侵入したパラサイトは十二体。そのうちの三体を宮芝和泉守治夏は弦打ちにより消滅させた。残り九体のうち、一体は関本と融合。六体は封印した後に関本の情報をコピーした器に定着させて量産型関本となった。残りの二体はどうやら四葉と九島に持ち去られてしまったようだ。

 

もしも治夏が早くから動いていたら、その二体も確保できただろう。しかし、もし治夏が最初期から本気で動いていたら、そもそも十二体全部が消滅していたはず。結果的に宮芝は最も戦力を拡充できたといえよう。また、その戦力があったからこそ、宮芝はUSNA軍に勝利をすることができた。

 

しかし、関本がパラサイト関本になってから短期間で吸血鬼事件を収束させたことは、協力を明言していた克人と七草に疑念を抱かせてしまったようだ。

 

そして今、治夏は克人に呼び出されて指定場所に向かっているところだった。克人に指定されたのは、十文字邸。秘密にしたい事項の尋問をされるのは確定的だ。

 

パラサイト関本が誕生した後、急ぎ過ぎてしまっただろうか。でも、あそこで急がないと利用価値を知った他の勢力に出し抜かれてしまった可能性が高い。身体を失っても精神だけが戻ってきて、いくらでも復活できる魔法が使える機械人形など、そんな素敵な存在を捨ておくことなどできるはずがない。

 

とはいえ協力すると明言していた七草と十文字を放り出して、自分たちの利益のためだけに暴走したのだから、両家からの印象は最悪だろう。たぶん今日は、克人も追及を容赦してくれないと思う。

 

何もなければ心躍る十文字邸への道を、今日は重い足取りで進んだ。訪いを告げるとすぐに応接間へと通された。

 

「今日はお呼びだてして申し訳ない」

 

少しも申し訳なく思っていない表情で克人が言う。他人行儀な挨拶も含めて今日は十文字家の当主代理としての話ということだろう。

 

「さて、早速で申し訳ないが、本題に入らせてもらおう。和泉守殿、貴殿は吸血鬼事件を解決できる力がありながら、意図的に対処に手を抜いていたのではないか?」

 

「なぜ、そのような疑いを持たれたのか、理由をお伺いしても?」

 

「関本勲に……」

 

そう言いかけた克人が一瞬、言い淀んだ。最近になって知ったことだが、克人と関本は面識程度であるが既知の関係だったらしい。それなので、以前の関本とは全くの別人に成り代わってしまった今の関本を前と同じ名で呼ぶことに少し抵抗があるようだ。

 

「関本勲にパラサイトが宿ったと確認できて以後の捕縛のペースが早すぎる。これは何らかの追跡手段があったということではないか?」

 

「それに関しては、パラサイトに互いの存在を知覚できる能力があったためだ。それゆえ最初の一体を確保する前と後とで効率が飛躍的に増したのみ」

 

「その件を我々に連絡しなかったのは?」

 

「我々が主に七草に提供を依頼したのは、足りぬ手の不足のみ。殊に相手がパラサイトであるならば、戦力的には我々に他家は必要ない」

 

実際にパラサイトは仲間と意識の一部を共有する能力を持っている。それをもって仲間の居場所を把握することも可能だ。もっとも、関本と融合したパラサイトは本来の有様から離れ過ぎたためか、一定範囲の存在を知覚できる程度まで性能が劣化していた。だが、そのことを克人たちは知らない。

 

筋は通っているはず。これで誤魔化せるか。考えていたところで、克人が大きく息を吐きだした。

 

「宮芝……いや、深夏、見え透いた嘘はもうやめにしないか?」

 

「なっ……急に名前なんて……なんで……」

 

「深夏は俺に大きな嘘をついている。どのくらいか具体的には俺には分からないが、宮芝はもっと早く事態を鎮静化できたのだろう?」

 

「だから、なぜ、そのような疑いを……」

 

「では聞くが、外国が持ち込んだ火種に日本人を殺された。それにも関わらず、深夏の怒りが薄かった理由は何だ?」

 

言われて、一瞬、言葉に詰まってしまった。確かに、あのときの反応は不自然だったかもしれない。

 

「今回は外国が持ち込んだと言っても、意図してのものではない。それで報復に出たのでは単に関係を悪くするだけだ」

 

「あのときに、それが分かっていたのか?」

 

「USNAに妖魔を支配できるだけの術は存在しない。それは、古式の魔法師ならば実感として認識していることだ」

 

「そうなのかもしれない。では、質問を変えよう。なぜ今回、宮芝は七草から協力の要請がされる前に我らに声をかけなかった?」

 

宮芝と十文字は同盟を結んでいる。宮芝の手が足りなければ、十文字を頼るべきだった。けれど、そうはしなかった。それは、なぜか。

 

「こと妖魔に関しては、いかな十文字家の魔法師といえども単独では危険だ。下手な連携は、却って双方を危険に晒すと……」

 

「ならば! なぜ、その後の七草の協力要請には応じた!」

 

怒りを滲ませた克人の言葉に、今度こそ何も言えなくなってしまう。黙るということは、克人の言うことが正しいと認めることになってしまうというのに。

 

「宮芝は以前、言っていなかったか? 宮芝の役目は国家を守ること。宮芝と国家の利益が反することがあっても、宮芝は己を捨てて国家のために働くと。深夏は本当に今回、己を捨てて国の為に働いたのか?」

 

克人の言うことは正しい。正しい……けれど。

 

「だって、しょうがないじゃない!」

 

治夏は、思わず叫んでしまっていた。

 

「だって、宮芝は私のせいで横浜で多くの術士を失って、家の中はごたごたして……旧正月では色んな人からいろんなことを言われて……そして、私にはその人たちに言われたように宮芝を立て直す義務があるんだから!」

 

叫んでしまったのは、気持ちの制御ができなかったからだ。克人の言ったことは正しい。克人の言ったことが、宮芝の理念。誰になんと言われた結果であろうとも、間違えたのは、治夏の方だ。

 

宮芝がこれまで超法規的手段を取ってきても許されていたのは、全ては国のためという前提があったからだ。それを唯一の頼みとして、治夏は非道なことも行ってきた。その大切な正当性を治夏は、自ら捨ててしまった。

 

「うっ……ううっ……うううっ……」

 

気づいた瞬間、涙が溢れてきた。宮芝が数百年に渡って守ってきた理念。それは、一時の苦しさで捨てていいものではない。

 

「私……私は……」

 

「反省したならいいのではないか? これ以上の後悔は何も生まない」

 

「でも、でも……私はまた……」

 

治夏が今回、解決に積極的に乗り出さなかったのは、七草に恩を売って資金を引き出すためだった。けれど、それは僅かな金や利益のために国を裏切る行為で、宮芝が何よりも軽蔑して、敵視していたことのはず。

 

治夏は間違えを取り戻そうと焦り過ぎて、より大きな失敗をしてしまったのだ。しかも、今度の失敗は宮芝の歴史自体に泥を塗る行為だ。治夏がどんなに取り返したいと願っても、もう取り戻せない。

 

「うえっ……ふえええぇん」

 

感情を抑えきれなくなった治夏を、戸惑ったように見つめていた克人が腕の中に収めようとしてくる。このまま泣いていれば、克人は治夏を慰めてくれるだろう。けれど、それは自らの罪を逃れるための、狡い行いだ。

 

そう思っても、溢れる後悔の方が強すぎて自分の気持ちが制御できない。こんなことでは駄目だと思う気持ちと、このまま身を任せて楽になりたいという気持ち。二つの相反する気持ちが制御できない。

 

せめて寄りかかることはしないように、懸命に克人の胸を押す。しかし、元の力が違いすぎる上に泣きながらでは抗えるはずもなく、治夏の身体は完全の克人の中に収まる。

 

「今は優しくしないで」

 

「分かった。俺は何も言わない。存分に後悔していい」

 

けれど腕の中からは逃がしてくれない。仕方なく治夏は克人の胸で泣き続ける。

 

そうしてどれくらい時間が経ったのだろうか。大きな後悔の波が過ぎ、この場所の安心感が胸の中に満ちると、急に力が抜けてきた。

 

「おい、まさか、またか……」

 

そんな克人の声が聞こえた気がしたが、治夏に答えるだけの力は残っていなかった。




来訪者編、終了。
え、リーナ?
こっそりと帰国していますが?
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