魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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ダブルセブン編 国会議員の来訪

四月二十五日、宮芝和泉守治夏は校舎の屋上から校門前の喧騒の様子を眺めていた。門前にいるのは人権主義者で反魔法主義者の国会議員の神田およびその取り巻きのマスコミたちである。

 

神田たちの訪問の目的は、魔法科高校が生徒を軍人にすべく洗脳しているという疑惑の解明。要は先日から続いている反魔法師活動の一環である。

 

物々しい黒塗りの乗用車三台で押し掛けた十人の男女は、しかし未だに校門を突破することができずにいる。その原因は校門前で仁王立ちしている関本である。

 

神田たちは四時限目、午後最初の授業の最中、予約も無しにいきなり校長に面会を求めてきた。国会議員のバッジをつけていればこその無理である。しかし、それが有効な相手は人間のみ。機械であることを示すために隠し腕二本を展開した関本は、校長の不在を理由に校内への侵入を拒み続けている。

 

「繰り返す、そこもとらの入校は許可されていない」

 

「私には国会議員として国立の学校で教育が適切に行われているか確認する義務がある。入校をさせなさい」

 

「繰り返す、そこもとらの入校は許可されていない」

 

「では、誰か許可を出せる人間を出せ」

 

どれだけ権力があろうとも、機械が管理者以外の命令を聞くはずがない。神田は機械の説得という無駄を諦め、次の要求を始めた。

 

「本日、校長は不在である。改められよ」

 

「校長が不在なら、教頭でもよい。ともかくここに誰か呼べ」

 

「その要求には答えられぬ」

 

「なぜだ?」

 

「本機の権限外である」

 

今日の関本は完全にポンコツ機械に擬態している。あまりの話の通じなさに神田も頭を抱えている。

 

「待たれよ、校長より通信が入った」

 

そのとき唐突に関本が神田に声をかけた。関本は神田たちが見ている前で着ていた服を脱ぎ棄てて、綺麗なメタルボディをさらけ出す。その胸が二つに割れていき、中から姿を現したのはディスプレイだった。

 

『神田先生、本日はどのようなご用件ですかな』

 

「ああ、いや、ご予定も確認せずお邪魔したことは申し訳なく思っております」

 

『それがお分かりなら日を改めていただけませんか』

 

「本来ならば校長先生の仰るとおりにすべきなのでしょうが、私にも少々思うところがありまして」

 

そう言って神田が続けたのが、生徒を軍人にすべく洗脳しているという噂だ。当然に百山は否定するが、神田はそれに食い下がる。

 

神田も実際には洗脳などないと知っている。それでありながらパフォーマンスのために都合よく解釈したデータを並べる様は実に醜悪だ。

 

「図書、次の選挙、神田は落とせ」

 

「はっ」

 

傍に控える山中図書からの返答は短い。ということは、既にスキャンダルの当てはあるということだろう。

 

「校長先生の仰るとおりだと思います。だからこそ、魔法科高校が国防軍の出先機関であるなどという無責任なイメージを払拭する為に、授業を見学させていただきたいと思い参上した次第です」

 

『困りますな。魔法の実技は繊細なものだ。いきなり押し掛けられては生徒が動揺します。精神的な動揺が魔法事故を引き起こす可能性があることは先生もご存知でしょう』

 

「ご迷惑は掛けません」

 

『……そこまで仰るなら見学を許可しましょう。ただし見学は五時限目だけとさせていただく』

 

「そっ……いえ、それで結構です」

 

百山の言葉と同時に治夏は屋上から飛び降りて、神田たちの元へ向かう。

 

「皆さま、はじめまして。当校の風紀委員にして警備機械の管理権限者たる宮芝和泉です。これより皆さまの案内役を務めさせていただきます」

 

「警備の管理権限者がいたのなら、なぜ出てこなかったのだ」

 

「私の役目は機械の管理です。入校の許可は校長の権限ですので、一生徒にすぎない私ではいずれにしても判断ができませんので」

 

恨めし気に言う神田にさらりと返して、治夏は関本の前に立った。

 

『宮芝さん、五時限目に予定されている実習はどのクラスとどのクラスだ?』

 

「五時限目に実習が予定されているクラスはございません」

 

治夏は手元の端末で、調べものをしたように装いながら答える。

 

「ただ正規のカリキュラムではありませんが、二年の魔工科の生徒から申請のあった課外実験が校庭で行われる予定になっています。大規模な実験で、元から多くの生徒が関わるようですので、少し距離さえ取っていただけるなら皆さんが見学をされたとしても支障はないと思われますが、そちらに案内するということでよろしいですか?」

 

『どうでしょうか、神田先生』

 

「……分かりました。それではその課外実験だけでも見学させてもらえませんか」

 

「分かりました。今少し準備に時間がかかりますので、実験開始の時間までは校長室でお待ちください。ご案内いたします」

 

他の生徒の目に触れないよう、神田とマスコミ陣を校長室に押し込んでおく。突然の訪問ということになっているので、たいしたもてなしもしなくてよいので楽だ。

 

「神田先生は民権党の所属でしたよね。党首の永山さんはお元気ですか?」

 

「宮芝さんは、永山とお知り合いなのですか?」

 

「ええ、少し。宮芝和泉が、すぐに来い、と言っていたとお伝えください」

 

すぐに来い、の部分を強調しつつ、凄みを利かせて言うと、神田は途端に引きつった表情となった。今の言伝の内容を聞けば、民権党の党首と宮芝のどちらが上であるかは明らかだ。今は事実として宮芝が上なのか、それとも単なる無礼者か読み切れていないはず。しかし、神田は第一高校で教師たちに代わって応対する治夏の姿を見ている。

 

実際、永山は宮芝を無下にはできない。それをここで匂わせたのは、神田の質問を縛るためのものだ。相手に強力な後ろ盾があるなら、神田は無茶ができない。

 

「実験の準備ができたようです。それでは校庭に移動しましょう」

 

五時限目が始まって少しして、治夏はそう言って一行の前に立って歩き出した。

 

「そういえば何故、正規の授業でない実験を授業時間中に行うのだ? こういうことは良くあるのか?」

 

「いいえ、元々は放課後に行う予定であったと聞いています。ですが、詳細を知った職員の間から自分の担当している生徒にも見学させたいという声が多く上がったようです。それでなるべく多くの生徒が見学できるよう、授業時間を使って見やすい校庭で実験をすることになったようですね」

 

記者からの質問に答えつつ、治夏は校庭へと足を進める。宮芝家の当主と知らない記者たちは無遠慮な言葉で治夏に質問をしてくる。或いは上と強固な繋がりがあるかもしれないと神田は少し焦った様子も見せているが、このくらいは問題ない。宮芝の当主たる者、いかなる暴言も笑って聞き流して後から笑顔で首を刎ねられて、ようやく一人前なのだ。

 

「実験を開始します」

 

拡声器を使って達也がアナウンスをする。その合図を機に深雪をはじめとした学内でも上位の魔法師たちが連続して魔法を発動させる。それにより実験装置の球形水槽内の水が沸騰したりしてはいたが、はっきりいって魔法に詳しくない者には何を行っているのか全く分からなかったであろう。

 

「実験終了」

 

実際、三分後に達也が実験の終了を告げ、中条あずさが実験の成功を告げて生徒たちが歓声を上げる様を神田と記者たちは呆然と見ていた。

 

「今のは一体何だったんです?」

 

「常駐型重力制御魔法式熱核融合炉の実験ですね」

 

「それはどのようなものですか? 核融合炉の実用化は断念されたはずだが」

 

「断念はされていないみたいですね。太陽光エネルギーシステム群が先に完成した為に優先度が後退しただけのようです」

 

私も専門ではないので、詳しくは知りませんが。と付け加えると神田は特に疑問を抱かず頷いていたようだった。こういうときは、高校生の特権、詳しいことは分かりません、を発動しておくに限る。

 

「核融合炉の研究とは、魔法による核融合爆発の実現を目指すのか?」

 

「例えば『灼熱のハロウィン』で使用されたような?」

 

「ただ爆発を起こすだけならブラジル国軍の戦略級魔法師が成功させていますし、今回の実験のような精密な術式は不要です。今回の実験の目的は、社会基盤としてのエネルギー源として利用するためです。解決すべき問題は数多くありますが、恒星炉が実用化されれば太陽光サイクルより豊かなエネルギーを利用できるようになります。その社会貢献としても有益な点を学校も評価してくださり、今回の実験が行えることとなったようです」

 

「そう……ですか」

 

「せっかくですから、神田先生。今回の実験を見学しての感想をいただきましょう」

 

治夏はそう言うと、神田が答えるより前に隠し持っていたマイクを取り出す。

 

「皆さん、風紀委員の宮芝和泉です。本日の実験は国会議員の神田先生も見学をしていただいておりました。神田先生からお言葉をいただきますので、喜びに沸く中に申し訳ありませんが、しばし静粛に願います」

 

治夏が声をかけて場内が静まらぬわけがない。

 

「ご紹介いただきました神田です。皆さんの社会の繁栄に貢献しようとする姿勢はすばらしいものだと思います。これからも学業に励んでください」

 

そして、社会貢献に繋がる実験の成功に沸く高校生に向かって辛辣な言葉を吐くことは、いかに相手が魔法を扱う特別な相手だとしても難しい。ましてやいつの間にか現れていた放送部の腕章をつけた妙に立派な撮影器具を持った者の前においては。

 

国会議員という権力者と、魔法という力はあるがただの高校生。その強弱関係と、力ある者が力のない者を罵倒するという光景の拙さを理解できぬはずがない。大勢の聴衆に対して言葉を発するのと、特定の相手に言葉を発するのは違う。けれど、それで発言の矛盾が許されるわけではない。

 

表では相手を持ち上げておいて、裏で相手を貶す。それが歓迎されないことであるのは、どのような世界でも変わらない。

 

ひとまず、厄介事が一つ片付いたか。治夏は心の中でほくそ笑んだ。

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