宮芝和泉守治夏はその日、輸送機の中にあった。輸送機の格納庫にはパラサイト関本七体が搭載され、出撃のときを待っている。
本作戦の目的は、カルチャー・コミュニケーション・ネットワークというマスコミの社長の娘である小和村真紀に対する襲撃計画の阻止だ。本来ならばマスコミがどうなろうと治夏の感知するところではないが、今回は少し事情が異なる。
それは小和村真紀が狙われている理由が、父親の会社が指示された通りの反魔法師報道を行わなかったというものだからだ。反魔法師報道をしなければ、命を狙われる。そのような前例は絶対に作ってはならない。
「それにしても、周公瑾か。飛騨守から報告のあった名だな」
周は横浜事変の際に飛騨守が企図した中華街殲滅作戦を阻止した男だ。それ以来、警戒は続けていたが、その男が今回の反魔法師報道を仕掛けていたこと、今日の襲撃作戦を主導していることを宮芝家はしっかりと掴んでいた。
「しかし、気になるのは七草家が周に接触をしていることですね」
山中図書が言った通り、七草は周に接触して、反魔法師報道の内容を操ろうとしている節があった。加えて、周自身が真の黒幕ではなく、更にその裏があると思われる。それゆえ周本人への攻撃は控えている。
「しかし、いつかは殺さねばならないな」
七草の意図と、黒幕の存在。それを確認でき次第、周は殺さなければならない。奴は間違いなく、この国にとって有害だ。
「それよりも今は目の前の作戦だな。平河、関本たちの準備は整ったか?」
「はっ、空戦装備の関本七機、有事のときの予備機三機全て出撃準備は整っています」
平河小春が改良を進めた空戦型関本は、その呼び名に反して翼の揚力は低く、現在は投下された後は滑空して標的に迫る程度の能力しかない。それでも、降下作戦程度は可能なため、今回の作戦の装備として採用され、実戦投入されることになった。
「標的の敵飛行船の上空に到達!」
「空戦型関本全機、降下を開始せよ!」
村山右京の報告を受け、治夏は作戦の開始を命じる。
飛行船は黒一色に塗装されているが、関本たちはパラサイトだ。迷彩塗装程度で誤魔化すことはできない。輸送機の扉から降下を開始した関本七機は、自ら光学魔法を纏って飛行船に接近していく。
「こちら関本勲、それより攻撃を開始する!」
指揮官機であるオリジナル関本から通信が入る。次の瞬間にはパラサイト明王を先頭に、ゴンドラの扉を高周波ブレードで破り、飛行船内に突入を開始する。
関本から送られた映像には、拳銃を構える男たちの姿がある。しかし、USNAの武装にすら優勢に立ち回れる関本たちにとっては恐れるに足りない武装だ。しかも敵は僅かに五人。一人一殺でもおつりが出る。
一瞬で間を詰めた関本たちは瞬く間に二人の敵を斬り伏せた。それを見た左右両端の二人が拳を突き出す。中指に鈍く輝く真鍮色のアンティナイト指輪からキャストジャミングが発振される。
ノイズに満たされたゴンドラ内では、魔法の使用が制限される。しかし、それでも機械の身体による身体能力とセラミックブレードだけで敵を圧倒可能だ。更に二人の男が倒され、敵は敗北を覚悟したようだ。中央に立っていた男が左手を握り込む仕草を見せる。
「関本全機、すぐに脱出せよ!」
すでに左右の二人は倒され、アンティナイトによるノイズは収まっている。関本たちは高周波ブレードでゴンドラの壁を破り、外へと飛び出した。
その直後、閃光と共に爆音が生じ、ゴンドラが炎に包まれた。
「関本全機、飛行船を破壊せよ。七星砲の使用を許可する!」
気嚢が破れた飛行船はマンション街へと落下している。あんなものが街に落ちては大惨事だ。何としても、あれを墜とさせるわけにはいかない。故に治夏は秘匿しておくつもりであった関本の切り札を使うことにした。
飛行船から飛び出した関本たちは魔法の力も使って急降下する。飛行船から距離と十分に取った所でパラサイト関本たちが六芒星を描き、中央にオリジナル関本が位置する。七機の関本たちの身体を中心に膨大な魔力が渦を巻き始める。
「七星砲、発射!」
儀式系砲撃魔法の七星砲。それはパラサイトならではのシンクロを利用した魔法だ。それにより大規模儀式魔法と同様に複数機での同一魔法の増幅を実現している。
治夏の命に従い、関本たちから炎上する飛行船に向けて光の濁流が放たれた。それは飛行船を空中で爆散させるに十分な威力を持っており、更に落下しようとした破片すら蒸発させてみせた。
「飛行船、消滅。七星砲の実戦投入は成功です」
平河小春が珍しくはしゃいだ声をあげた。調整の結果、今の平河は関本を我が子のように愛して改造を繰り返す完全なマッドサイエンティストだ。今もより強くなった関本たちに歓喜しているのだろう。
「さて、上空は片付いたな。次は地上だ。行け、掃部」
今度の治夏の命令は、今しがた襲撃犯より身を守った小和村真紀への襲撃だ。父親が反魔法師報道に関与していただけではない。小和村真紀も七宝を使嗾し、何やらよからぬことを行おうとしていたことを宮芝は掴んでいた。普通ならただでは済まさないが、小和村は女優として名を馳せている。ならば、殺すよりその発信力を利用した方がいい。
治夏の命令を果たすべく掃部に率いられた四人一組の小隊が、ベランダより室内に突入を開始する。異変に気づいた二人の護衛が小和村の部屋に駆けつけてきたが、仮にも宮芝の手練れである掃部たちの相手ではない。瞬く間に無力化した掃部は怯える小和村の髪を掴んで無造作に床に放り投げる。
着ていたワンピースが乱れて下着が露わになっていたが、それを直すこともせず、小和村はただ怯えている。女優としては百戦錬磨なのであろうが、荒事には慣れていないのだろう。女優である自らの身体に傷がつこうと何とも思わないことが明らかな掃部たちへの抵抗の意思は見られない。
「我が主からの伝言を伝える」
「我が主?」
「余計な口を聞くな。お前は返答を許可されたときだけ口を開け。次に許可なく発言をした場合には、その口を裂く」
掃部の脅しに、小和村は慌てて口を閉ざした。しかし、使い魔から見る限り、掃部は有名女優の艶姿を見ても全く心を動かされていないようだ。仕事熱心なのは歓迎すべきことなのだが、あれで大丈夫なのだろうか。
「小和村、貴様には今後、親魔法師の姿勢を鮮明にしてもらう。これはお前の身を守るためでもある」
そう言って掃部が見せたのは、小和村を襲撃する予定だった男たちの会話だった。そして、その男たちを皆殺しにする様子も映っている。
「我々の庇護下に入るか、拒絶して新たな刺客に殺されるか、選ぶのはお前だ。ああ、それと我々以外の魔法師とは接触をすることは禁じる。お前だけで決断せよ。それでは、賢明な選択を祈る」
それだけ言うと、掃部たちは突入したベランダから次々と身を投げていく。小和村の表情からは、すでに反魔法師側に回る意思は感じない。掃部は口に出さなかったが、反魔法師派の刺客たちを簡単に屠っていく姿を見た小和村は、どちらを敵に回してはいけないかを理解したはずだ。
「さて、これで反魔法師報道は下火になるはずだ。まずは皆、最後まで油断することなく宮芝まで帰投をせよ」
作戦の成功に気をよくして、帰投する姿を敵対勢力に目撃されることになっては、目も当てられない。最後まで気を引き締めるよう部下たちに声をかけ、治夏は輸送機を空港に向けさせた。