はよ土曜日に…!はよ…!
そんな気はしてた。
────”借り物”…自分のモンになったかよ
試験中のあの言葉、そして
────全然モノに出来てない”借り物”で…
あの時、僕が初めてかっちゃんに勝った時の言葉。
それに加えて、かっちゃんはオールフォーワンとオールマイトの戦闘を間近で見た。
かっちゃんは頭がいい。
だから正直、気づいていても可笑しくはなかった。
それでも
「い、いまする話じゃないだろ!」
「…」
きらちゃんが近くにいるかもしれない今する話じゃないのは確かだ。
かっちゃんも内心じゃ分かってるはずだ。
「それよりかっちゃん、今なら動き…」
だしてもいいんじゃないか?
そう言葉にしようとした時、鉄球が1つ、僕とかっちゃんの間に降ってきた。
「くっ!」
「チィッ!」
接触弾だったその爆弾は地面に軽快な音を鳴らした刹那に爆破した。
幸いだったことが僕もかっちゃんも生きていること。
あれが接触弾でなく、起爆弾だったなら僕達は反応出来なかったかもしれない。
「わたしも興味あるな、その話。」
「誰がするかよッ!」
僕達が背中を預けていた建物の4階のベランダ、いや、バルコニーにきらちゃんは佇んでいた。
自信満々な態度を見るに、敢えて僕らを追わずに鉄球を回収したのかもしれない。
ともかく、鉄球を補充した可能性がある以上は、僕らは撤退することが望ましいだろう。
実際、鉄球がなくとも僕ら2人を翻弄できている。その時点で実力差は一目瞭然だ。
「いいから聞かせてよ。多分先生とも関係あるし。」
きらちゃんは本当に話を聞くつもりなのか、そのバルコニーの手すりの部分に腰を下ろした。
「それに、お兄ちゃんも気になるよね?」
「てめェよくもまぁ抜け抜けとォ…!」
かっちゃんの態度を見るにきらちゃんの「お兄ちゃん」呼びには家族という意味合いがないことが受け取れる。
むしろ、これは煽りの部類だろう。
「だってその『個性』。お兄ちゃんもわかってる、というか感づいてると思うけど、
オールマイトからもらったんだよね?」
少なくとも先生の個性を知ってればその説は濃厚って話だけど。と、きらちゃんは続ける。
…そうか。
きらちゃんこそ今までずっとオールフォーワンの下で生きていたのだとすると、「『個性』の移動」が決して戯言ではない事が分かるだろう。
事実、きらちゃんもあの時、神野の時に『超再生』を植え付けられていたようにも見えた。
視界の端で、かっちゃんの肩がピクリと動くのが見えた。
しかもきらちゃんは口を閉じない。
「あーあ、お兄ちゃん残念だね!今までずっっっと格下だと思っていたデクがオールマイトに認められてさ!」
「…るせぇよ。」
「しかも仮免はデクだけが合格!だから言ったじゃんお兄ちゃん!その憧れは間違ってるんだよ!だってさ────」
嫌な予感がした。
何でかは分からないけど、この先の言葉は意地でも言わせちゃいけないと思った。
だから僕はすぐに跳躍した。
でも当たり前だが、すぐにたどり着くような距離じゃない。
「お兄ちゃんがオールマイト終わらせちゃったもん…ねっ!!!!」
きらちゃんは僕を足で迎撃する。
反応ができたからガードはできた。腕を振り上げたのを見て思わず後ろに下がってしまった。
慌ててかっちゃんを見る。
「かっちゃんそれは違────」
「違わないよね!!!!事実!お兄ちゃんが捕まったからオールマイトは終わったんだよ!お兄ちゃんが弱いから!
負けたから!」
「るせぇよ…」
声を張り上げて、きらちゃんは僕の言葉を遮る。
しかし、可笑しい。
きらちゃんが僕とかっちゃんを本気で殺すつもりならこんな会話要らない。
まさかかっちゃんは前みたいに勧誘する気か?!
「かっちゃん聞いちゃだめ────」
「うるせぇなァ!!俺だってどうすりゃいいか
わかんねんだよ!!!」
だめだ!
完全にかっちゃんが敵のペースに持っていかれた!
前からそうだった。
いつだって暴走したガキ大将のかっちゃんを止めるのは妹のきらちゃんだった。
あの頃からかっちゃんの制御装置みたいなものとして小学校の先生から信頼されていたし、かっちゃんの心情の動かし方は、僕よりずっとお手の物なんだ。
睨みつけるようにきらちゃんの顔を見ると口角が上がっていて、「しめた」とでも言いたいような顔をしていた。
勝利を確信したのか、バルコニーから降りてゆっくりとかっちゃんの方へ近づいていった!
「させるかよッ!」
「させちゃうんだよ」
僕が踏み出そうとすると、足元に
────キンッッ!
ダメージは大したことないどころかほぼ無い、けど足元がふらついて上手く地面をけることが出来ない。何でだ?!
って言うかいつの間に鉄球が!?
思わず混乱した顔をしていたのか、きらちゃんが僕の疑問に答えてくれた。
「『
鉄球は気配を消す応用だよ。相手に気づかれないように投げた。それだけ。」
くそ!
起き上がることこそは出来ても踏ん張りがきかないっ!
こうして僕が醜態を晒している間にもきらちゃんはゆっくりとかっちゃんに近づいていった。
「どうすればいいか?いいんだよお兄ちゃんいつも通り勝てばいいんだよ」
そして、かっちゃんときらちゃんはお互いに手を伸ばせば届くような距離まで近づいた。
いいながら、きらちゃんはかっちゃんに手を差し伸べる。
かっちゃんは伏せていた顔を上げた。
「お兄ちゃん、こっちでも勝てるよ。というか、こっちで勝つべきだよ!こっちじゃ勝つことが正義なんだから!お兄ちゃん!」
「ばーか」
BOOOOOOOOM!!!
至近距離の両手爆発がきらちゃんを襲った。
「がぁあっ?!」
「そーいやてめぇは、あの時いなかったな。
悪ィなキラ、俺は『勝つヒーロー』になりてぇんだ。てめぇが背中押したんだ。何忘れてンだ。
けど、そーだな。今まで通りに勝ちゃいいんだ。」
きらちゃんがさっきのバルコニーに叩きつけられ、気絶した。
そして、かっちゃんはどこか吹っ切れたような表情をして僕に言った。
「なにねてんだよ、オールマイトの力…そんな力ァ持っても
自分のモンにしても……俺の妹に負けてんじゃねえか。何敗けとんだ。」
意識だけは鮮明だったから、その時のかっちゃんの納得いかない表情が鮮明に記憶に残っている。
僕はかっちゃんに何も言い返せなかった。
かっちゃんがきらちゃんを捕縛しようとした時だった。
「すみませんが、彼女は我々にとって必要な存在ですので。」
USJと合宿の時にいたワープの敵が現れた。
────────
10分ほど前にキラークイーンから迎えの座標が送られてきたと思えば、ヒーローの卵に敗北しているとは思いませんでした。
「モヤモブ…!」
「鉄球の回収と一緒に援軍を呼んでいたのか!」
それならあのタイミングでかっちゃんを引き入れようとしたことに納得できる!
と緑谷出久が言う。
どこかであったことがあるように思ったのですが、まさか死柄木弔の殺害リストNo.1と捕まえ損ねたキラークイーンの兄だとは。
そして、今の話からしてキラークイーンは連合に兄を入れようとしたのか…
キラークイーンを抱え、再び彼らを見据える。
「2人とも随分消耗している様子ですが、キラークイーンを退けたことを鑑みて、このまま殺すべきですね。
すみませんが御二方にはこのまま死んでいただきます!」
ゲートを多数出現させていっきに勝負をつけようとしたとき、
私の実体部分に何かが触れた。
それはキラークイーンの指先だった。
「何をしているのですか!!」
「そいつらはわたしがころす。ころすな。
ころすぞ。」
────ゾワッ
ダメージからかハッキリとした物言いはできていなかったが、彼女から過去最高の狂気を感じ取った。
しかも戦闘を続行しようとしているのか、私の腕から逃れようと体をよじっている。
私とて死柄木弔と一緒にいる。死柄木弔が発する狂気とはまた違ったものだった。
けれども、私は震わされた。
「…わかりました。ですが、このまま帰ります。その怪我じゃ無理なのは貴女でも分かっているはずです。」
「ふたりは…ぜったいに……ころすぅ!!!」
しかたあるまい。
1度彼女を強く殴りつけ、再び気絶させる。
「…命拾いしましたね。また会いましょう。」
「待て!」「待てや!」
私はそう言い残してその場を去った。
ゲートをくぐり抜け、連合がいま身を潜めている場所に到着する。
「死柄木弔。キラークイーンを連れ戻しました」
「あぁ。…ってコイツボロボロじゃねえか」
「爆豪勝己と緑谷出久の2名と戦闘を行っていた模様です」
緑谷出久の名前を出した途端死柄木弔の機嫌が悪くなったように感じた。
が、死柄木弔とて成長している。苛ついただけでも攻撃してた頃とは違い、落ち着いている。
「…寝かしとけ」
「ええ」
彼女の部屋に向かう途中、トガヒミコのすれ違う。
「あー!きらちゃんだ!ボロボロですね」
「元はと言えば貴女が変なことに誘うからですよ。」
「んー、でもいまのきらちゃんなら生徒ぐらいじゃ負けないと思いますけどね
私が部屋に運んどきます。」
同じ女性であるトガヒミコにキラークイーンを任せて私も死柄木弔の元へ戻る。
────お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ
────ころすな。ころすぞ
…先生。貴方が後継を探しているのは理解しています。それにはより狂った人を探すのも分かります。
ですが、本当に彼らを育ててしまっていいのでしょうか?
彼らの成長した未来に、私は期待とともに認めざるを得ない程の恐怖をも感じていた。
B組つっよ。
心操つっよ。