ヴィラン名『キラークイーン』   作:尺骨茎状突起

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協定

 

 

「敵連合。こっちです。」

 

「そのセリフ何回目ですか…」

 

「黙ってついていけ」

 

 

流石に疲れてきた。

 

 

「にゃ」

 

 

お前は電気ネズミみたいに肩に乗るんじゃない。いい加減重たいんだよ…。

 

 

「いかにも」な屋敷に入ってからやけに階段を降りるなと思ったら地下通路だ。

 

 

随分手が込んでいるとも思えるけど、わたしたちがまだ味方なのか敵なのか分からないんじゃ道は覚えさせたくない。かなり複雑な作りの地下通路を永遠と歩いている気分になる。帰りのことも考えると気が遠くなるので考えないようにする。

 

 

自分は体力がないとはいえ、こんなヒョロヒョロで唇もカッサカサな連合のボス様よりかは動ける自信があったけど、それは間違いだと悟る。

 

 

この人何気に強いからなぁ…

 

 

「…なんだキラークイーン」

 

「筋肉ついてる感じじゃないのになぜ疲れてないのか疑問でして…」

 

「お前が弱い。さっさと行くぞ。」

 

 

という具合に死柄木弔を恨めしそうな目で見つめていることがバレてしまった。

 

死柄木弔はため息をついたあと無言で前を行くヤクザの後についていく。いくらわたしが疲れているからといっても止まる気は無いようだ。

 

 

またしばらく歩ことになるが、ここまでの道は完全に覚えている。

 

 

かなり広い施設で、道を覚えるのは骨が折れるが無理じゃあない。気づかれないように同じところを何度も歩かされているが、壁などについている汚れやホコリ、そこから同じ所だと判断できる。クソ兄ほど動体視力や反応速度は良くないが、わたしは視力そのものがいい。オーバーホールが頭なのだから、施設はホコリ1つ無いことも覚悟していたが、そこまでではなかった。人手不足かな?

 

 

脳内でマッピングをする。だいたいこの地下通路の立体像は想像出来る。入り組んでいるが、山みたいに迷う程じゃない。

 

前を歩くヤクザが止まったと思ったら階段だ。

 

 

「…エレベーターはないんですか…?」

 

「あるが、お前達には使わせない。」

 

「かまわん」

 

「…かまいません」

 

 

わたしが抗議する前に死柄木弔が即答しやがったから文句一つ言えない。

 

 

こちとら脳と足酷使してるのにここからさらに階段とかやめてくんない?

 

 

私のマッピングだとまだかなり地上とは距離がある。ここから地上まで階段で行くとして…3分は上りっぱなし…?帰りたい。

 

 

…うわ、帰り道のこと想像しちゃった。

 

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 

疲れた。

 

 

階段を登りきると事務所のような場所に繋がった。わたしの予想を嬉しい形で裏切って、応接間は地下にあった。

 

 

それでも結構登ったが。

 

 

とはいえ、事務所のドアを開けるとオーバーホールを対面することになる。いざ対面、という寸前。

 

 

「キラークイーン。そちらの猫は預からさせていただきます。」

 

 

あの潔癖のことだ。これくらいは想像出来た。想像はできるけど従う必要は無い。死柄木の方にも目を向けるが、あちらは我関せずを突き通している。

 

 

ならこちらも、勝手にやらせてもらう。

 

 

「嫌。」

 

「…こちらも仕事ですので、預かります。」

 

 

図体の大きいヤクザがわたしごとキャシーを取り押させようと動く。

 

 

が、止まる。いや、止めた。

 

 

「いつでもあなたを殺せるんですよ?大人しく引っ込んでろカス。」

 

 

ヤクザの重心が動く前に首筋に人差し指を立てた。

 

 

ぶっちゃけ前のわたしなら反応できなかった。トガちゃんとの度重なる特訓のおかげで相手の重心の移動や、気配を読み取れるようになった。

 

 

なお、特訓=トガちゃんによるフルボッコ なようです。

 

 

流石に命は惜しいのか、大人しく従うヤクザ。隣の幹部?のような白いヤクザがなにも干渉してこないところを見ると、このままキャシーを連れて部屋に入ってもいいようだ。

 

 

扉を抜けるといたわ。オーバーホール。

 

さて、交渉はどう進むのか楽しみにしていると死柄木弔が最初に口を開く。

 

 

「殺風景なレイアウトだな」

 

「ゴチャついたレイアウトは好みじゃないんだ。」

 

 

軽い挨拶のような言葉の中でも、互いを下に見ている気配を感じとれる。

 

 

わたしも文句言ってやろ。

 

 

「めっちゃ歩かされたんですけど。キレそうなんですけど。」

 

「すまないなキラークイーン。だが、どこであれが見ているかもわからないし、客が何を考えているのかも分からない。」

 

 

客、という言葉が指す人物はいくらでもいるだろう。ましてやヤクザだ。意外なコネクションもあったりするだろうけど、明らかに今回はわたしたちに向けた言葉だった。

 

 

無理もない。まだ電話口で交渉を持ちかけただけの関係だしね。

 

 

もう一度、この空間を見渡す。

 

 

オーバーホールの隣にはちっこいヤクザ。私の背後には白いヤクザ。オーバーホールは鼻から下だけだが、他2名はフルフェイスのマスクをしており顔が伺えない。部屋はそこまで広くなく、言った通り小物が少ない。ミニマリストということも考えられるけど、わたし対策という風にも受け取れる。

 

 

そこで、ちっこいのが札束片手に口を開く。

 

 

「八斎會が今日まで生き残ってるのも、こういうせせこましさの賜物さ」

 

 

地下にとんでもない迷宮を作っておいてよく言う。確かに、オーバーホールはゴチャゴチャしたものが好きじゃないのかもしれない。けど、先代はどうだろう…とか考える。

 

 

「でだ!先日の電話の件本当なんだろうね。

 

 

条件次第ではウチに与するというのは。」

 

 

まぁ、そちらからしたらそういうことになるのだろうけど。

 

残念ながら違う。そもそも交渉を持ちかけたのは向こうが最初だ。頭を下げるのはそっちなんだよね。

 

 

「都合のいい解釈をするな。

 

 

そっちは敵連合の名が欲しい、俺たちは勢力を拡大したい。お互いニーズは合致しているわけだろ」

 

 

黒いソファのど真ん中に腰を下ろし、さらには片足をテーブルの上に置きながら死柄木弔は言う。

 

あくまでもこちらは対等だという態度。

 

 

え?わたし立ちっぱ?

 

 

「足を下ろせ。汚れる。」

 

 

「『下ろしてくれないか? 』と言えよ若頭。本来頭を下げる立場だろ。」

 

 

そういって死柄木弔は私に見えあわせてから顎をあちらへ振る。

 

顎で使われてることはとても気に食わないけど仕方ない。

 

 

「こちらの立ち位置としては、まず、『傘下』にはならないこと。あくまでイーブン。五分。わたし達はわたし達で動きます。」

 

 

「いわゆる提携って形なら協力してやるよ。」

 

 

ただただ傘下に下るわけにはいかない。こちとらマグ姉が殺されてる。コンプレスの腕も持ってかれてる。多少なりとも、いや、だいぶ譲歩してもらわないとイーブンじゃない。

 

 

そしてもう1つ。

 

 

「…それが条件か?」

 

 

「いや、もうひとつある。キラークイーン。」

 

 

「はい。オーバーホール、あなたの言っていた『計画』について、聞かせてもらいましょう。名を貸すメリットがあるのかどうか、判断するためです。自然な条件ですよね?」

 

 

これは本当に妥当な条件だ。提携を組むにも、タダじゃダメだ。利益を考えて取引をするのはバカでもできること。

 

そして、わたし達にはどうしてもあることについてを聞き出す必要がある。

 

 

「極めつけはコレで────」

 

 

わたしはポケットから ソレ を取り出そうとした時だった。

 

 

「調子に乗るなよ」

 

 

ヤクザ共がわたしたちに飛び掛った。

 

拳銃でも出すと思われたのか。

 

ともかく、白いのとちっこいのは私たちを拘束していた。

 

 

「自由すぎるでしょう色々」

 

 

拳銃をわたしの頭に突きつける白いのと、

 

 

「さっきから何様だチンピラがあ!!!」

 

 

胸元から出た巨大な手で死柄木弔を拘束するちっこいの。

 

 

明らかに不利。だけどわたしたちの頭は動じない。拘束されているにもかかわらずオーバーホールを睨みつける死柄木弔。

 

 

「そっちが何様だ?

 

ザコヤクザの使い捨て前提の肉壁と『敵連合』のオカマ。その命は等価値じゃないぞ。プラス、腕1本分だ。多少は譲歩してくれなきゃ割に合わない。」

 

 

「銃を向けないでください。キャシーが怖がってます。それともあれですか────

 

 

 

 

死体もうひとつ作ってイーブンにしますか?」

 

 

 

 

一瞬のスキをついて白いのの背後にまわり、マスクのゴーグル、視野の部分の手で抑え、もう片方の手の中指を首に突き立てる。

 

 

「い、いつのまに?!」

 

 

「てめぇ!そいつ放しやがれやあ!!」

 

 

「…」

 

 

雑魚2人と比べて、静かに殺意をぶつけるオーバーホール。本気だということをアピールするために、さらに強く、中指を首に押し付ける。

 

そしてオーバーホールが口を開く。

 

 

「…中指だな。外の手下も爆弾にしたんなら、クロノで2つ目じゃないか?」

 

 

「クロノ?」

 

 

「そいつのことだ。」

 

 

あぁ、『白いの』の呼称か。

 

 

当たり前だが、わたしが中指を突き立てているのはちゃんと理由がある。

 

 

「もう一度聞くぞ?キラークイーン、お前は爆弾を複数作ることは出来ないだろう?」

 

 

「答えるとでも思ってるんですか?」

 

 

敵を欺くこと。そして、交渉を有利に進めるためには、相手を考えさせる必要がある。

 

 

そう、『無駄に』考えさせる必要がある。

 

 

ぶっちゃけこれはハッタリ。わたしが『個性』で爆弾にできるものはひとつずつ。これは揺るがない。先程は人差し指、今度は中指を使っている理由は「もしかしたら」を相手に押し付けること。

 

 

もしかしたら2つ目を作れるかもしれない。

 

指先で標的を爆弾にするなら最大5つ出来るのではないか?

 

 

『無駄なこと』に頭を使わせて、ストレスを押し付ける。少しでも有利に交渉を進めるためのものだ。

 

プラス、人質の存在。

 

 

「んで?どうしますか?スイッチ入れてみますか?」

 

 

「…クロノ、ミミック下がれ。せっかく前向きに検討してくれて来たんだ。すまんなキラークイーン。話の途中だった。最後まで聞こう。」

 

 

「元々わたしたちは交渉に来ました。こうゆうことが起きないのであれば、事故も起きませんよ。」

 

 

オーバーホール言葉を聞いたミミックと呼ばれていた小さいのは死柄木弔を解放した。それを見届けたあと、わたしもクロノと呼ばれた白いのから手を離す。

 

 

「怖かったね。キャシー。あぁ、あと安心していいですよあなたも、さっきの部下も爆弾にはしてないです。」

 

 

とはいえ、白いのは震えていたので身の安全を伝える。キャシーを撫でつつ本題に戻る。

 

 

そして改めてソレをポケットから取り出す。

 

 

ソレは辛うじて摘めるサイズ。何かと言われれば分からないが、物に例えるなら注射器だ。コンプレスの個性を文字通り止めたものはこれなんじゃないかと私は思っている。

 

 

「これ。正確には、これに入っていたものが関係しているんじゃあないですか?」

 

 

オーバーホールは答えない。

 

 

「あの時はゴチャゴチャしてたので、わたしは気づくのが遅れましたが、コンプレスはコレを打ち込まれた直後からしばらく────

 

 

 

Mr.コンプレスは個性が使えなくなりました。」

 

 

これは事実。

 

そのスキをつかれ、右腕を失ったコンプレス。しばらく経てば、また個性は使えるようにはなったものの、あのとき死穢八斎會はほぼ、一時的に相手を1人、文字通り無力化したと言える。

 

 

わたしは死柄木弔に視線を移し、向こうも頷く。ここからは頭の出番。

 

 

「あれは何だ?あれで何するつもりだ?教えろ。」

 

 

「……理を壊すんだ。」

 

 

ようやく口を開いたオーバーホールから出たその言葉は、予想を遥かに超えたものだった。

 

 

「オールフォーワンは『個性』を奪い、支配したと聞く。俺は少しそのやり方をブラッシュアップする。

 

 

既に根は全国に張り巡らせている。

 

 

少しずつ…少しずつ計画的に準備を進めている。」

 

 





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