fate/zero x^2   作:ビナー語検定五級

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 さて どうやら死の雫と生が惑わせる息吹が向かうまで
少々の刻があるようだ

 岩のような塵のような異物が混じりに混じった砂時計が
全て落ちきるまで子守歌を囀る黒い鳥が宿り木に留まる

濡れ羽色の羽毛の中に貴様は誰の面影を見る

不毛さに侘び寂びを感じつつ 砂利の中で手探りに動かしても
光り輝く宝玉は手元には有るまい 欲するならば 戻る事だ

終盤までの手慰み 円舞曲の一幕まで無人の傍観席に奏でよう



答申

ウェイバー・ベルベットは現状に対し、歯噛みしながら目の端に映る大男の所作を

憤懣遣る瀬無い目で、無言の抗議を送っていた。

 

 彼は時計塔と言われる魔術師達が集う協会の学生であり、今世代の保守主義的な

魔術世界に一石を投じて大きな波紋を発する……と思える論文を作成できる優秀な

実力者であると自負する魔術師の一人。

 

師弟関係である、この聖杯戦争の参戦者である一人に吠え面を掻かせ。大規模な

魔術儀礼を通過する事によって、この戦争の勝利者となり大魔術師として名を轟かす

野望の元に、この日本に降り立った。

 

 触媒である元は師の物になる筈だった聖遺物を奪取して外国の地に来た所までは

順調だった。だが、そこまでだったのだ……幸運が続いていたのは。

 

(くそっ、どうも幸先が悪いぞ)

 

 召喚儀式を執り行う為の、魔法陣を描く為の血を入手しようとして適当な酪農場

から鶏でも数羽失敬しようと思った矢先。この冬木市にある牧場やら飼育場の

動物が惨たらしく捕食に殺害と言う事件が多発しており、ウェイバーは厳重な警備が

なされる牧畜を諦め、慣れない隠密と体力仕事を費やして漸く近くにある学校の

鶏舎から盗み出す事が出来た。お陰で、暗示で家族と誤認させている外国人老夫婦

の家宅へと戻った時は、両手は傷だらけで疲労困憊に陥ったものだ。

 

 それで終わるだけなら未だ良かった。努力して得た鳥獣の血で描いた後

行使した念願の召喚儀式。過程こそ覚めやらぬ興奮と躍動感で今まで引き摺っていた

不満も吹き飛んだが、その召喚されたライダーの外観及び少ない時間のやりとりで

彼が生来から培った劣等感と、そして内心のストレスは溢れかえり不貞腐れていた。

 

「ラ~イ~~ダーーぁ……っ」

 

 「うん? どうした坊主。そんな子山羊が腹を空かしたような鳴き声を立ておって。

ん! いや、そうであったなっ。今宵は丑の刻も過ぎ去りた頃。余も戦争の展開に

久方振りに頭を車輪の如く回したお陰で腹も減ったわ。よし、坊主! この国の

珍味がマケドニアやペルシアの馳走で培った、この舌を唸らすか吟味するか!」

 

 自身の向ける負の感情を、見当違いな答えを発する大男……もとい ライダー。

燃えるような赤い髪と髭に緋色のマント、青銅鎧を纏うヒグマ染みた体格からは

轟々と、古代の兵等を自然と傅かせる王としての気配を発している。

 この人物こそ、彼の『アレキサンダー』こと『征服王イスカンダル』なのだ。

 

膝を叩き、豪快に笑う大王に対して。つい先程までの騒動……冬木市の中央図書館に

忍び込み、ホメロスの詩集と、小学生でも馴染みのある世界地図という二つの本の

為に夜間に閉鎖されたシャッターを破壊すると言う愚行を犯し自身に余計な焦燥と

心労を与えたサーヴァントに対して、既にウェイバーには最初に僅かでも抱いていた

敬意や畏怖による閉口を上回る憤怒のままに荒げた声を発し拳を振り上げる。

 

「なーーーにを頓珍漢な事を言ってるんだぁ! いいか!? 既に聖杯戦争は

始まってるんだぞ!!? 聖杯戦争の常連である御三家の庭で、アサシンと

バーサーカーが激突して! しかもアサシンは多勢で! それで黄金の人影を

したサーヴァントが乱入してバーサーカーとアサシンを打倒して……っ」

 

 「落ち着け、坊主」

 

 パチンと、擬音だけなら可愛らしいが。受けた当人には多大なる衝撃と後方への

転倒と背中を土で汚すと言う蛮行だ。顔をトマトのように変色させ、声にならない

怒りを表すマスターを、征服王は少々呆れを滲ませつつ告げる。

 

「そう、支離滅裂に言っても解るものも解らん。その目で使い魔越しに見たもんを

ちゃーんと整理をつけて報せんとな。戦場にて一番大切な事は、仔細し損じる事ない

正しく早い情報こそ、金銀よりも勝るものよ」

 

 誰が誰の所為で、まともに話す事が出来ないと思っているんだ……! と、マスター

である彼は拳を震わせるが。自分は清廉された魔術師なんだと言い聞かせて、来日して

見張りとして置いていた鼠の視界越しに見たものを、渋々とライダーの調子に合わせ話す。

 

多数の体格に差異ある仮面を付けた、ハサンと思える群体。ライダーとは異なる血の色の

頭巾を纏った、世代としては近代に近い戦闘服を纏った鎌と銃を備えるバーサーカー。

 そして最後に、多数の宝具と思しき武具を降らせた黄金のサーヴァント。

御三家の遠坂。その大庭園にて行われた三つ巴の血が花壇を全て朱色に染める戦。

 

激しいハサンとバーサーカーの激突は、使い魔越しで見ても迫真で壮絶さは極まり。

夢想していた華々しい英霊同士の対決とは少々趣き異なると言うか凄惨さが

目立つものの確かな聖杯戦争の戦いであると胸打つ光景だった。

 

 あぁ! あの戦いに混じりたいとは口が裂けても言えないが、それでも身が震える程に

魔術や日常で見るよりも鮮烈な火を背負って刃を振りかざし、消滅する寸前まで闘志を

折る事は決してなく天頂にて立つサーヴァントにも立ち向かった狂戦士。そして、その

強大な敵に対し、一個人は決して及ばずも戦い抜いたアサシンの姿勢は胸に残るものだった。

 ……それに比べ召喚したサーヴァントと言えば、ウドの大木のように寝そべり本を見ていて

今しがたまで起きていた激闘に関知せぬと言う態度だ。

 

イギリスから、この日本に渡るまで描いていた理想像と掛け離れた姿に横暴な振る舞いに

幻滅を浮かべるウェイバーを他所に、赤い髭を少し摘まんだ後にライダーは呟く。

 

 「ふむ……アサシンと、その大量の宝具を所有する奴は組んでるか」

 

「え? 何でだよ。そのサーヴァントは、バーサーカーとアサシンも含めて一網打尽に……」

 

彼の反論に、似合わぬ人差し指を横に振っての否定する仕草を伴って野太い声は降らされる。

 

 「阿呆。坊主が言うトオサカの居城にて、既にその大勢の暗殺者共は其のバーサーカーを

待ち受けておったのだろう? わざわざ、暗殺者共が敵の城に誘導する意味がどこにある。

何よりも、それほどの量あれば。質量にて1対1の戦いで引き込み。他のアサシンが

マスターを討ち取れば良い事だけだしな。

 あわよくばと、同士討ちを試みての行動なら時間稼ぎをするようにバーサーカーへと

消耗戦を行う必要もないし、ましてや多勢で留まる必要もない。

 十中八九、そのトオサカのサーヴァントが召喚されるか、宝具の展開の為の時間稼ぎとして

暗殺者達をぶつけたのが真相よ」

 

 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をマスターの彼は浮かべる。この頭の中まで筋肉で形成

されてそうな大男に、こんな慧眼がある事が意外で。

 ……いや、思えばこのライダーは彼のギリシアからエジプト、インド西部まで征服した王なのだ。

只の戦闘馬鹿な筈もない事は尤もな話。

 

「となると、脱落したのはバーサーカーのみか……」

 

 「いや、そう決めつけるのは早計だと思うぞ。坊主」

 

「はぁ? おいライダー、ぼく……私はこの目ではっきりとバーサーカーが

宝具で形成された武具の嵐に呑み込まれて消えるのを見たんだぞ」

 

 「確かに目にはしたのであろう。だが、余には否定し得たるものが有る」

 

そう、有無を言わせぬ重々しさを秘めた口振りと眼光を目にして僅かに期待が戻る。

 ライダーが今の今まで穀潰しの様にホメロスやら世界地図を読み耽っていたのは擬態で

実は密かに自分の魔術感知すら凌駕する隠されたスキルなりでバーサーカーの秘密を

知りぬいたのか? と言う期待をいやでも膨らませた。

 

膨らませた、のだが……。

 

 「バーサーカーは、消滅してない そう…… ――余の勘が告げておるのだっ!

あん? おい何だ坊主、そんな風に崩れ落ちおって。腹が減りすぎて動けなくなったか?

まったく嘆かわしいぞ! 余のマスターを務めるならば、何時いかなる時であろうと

この剛健なる体のように、三日は飲まず食わずであろうと俊敏に動ける体を……」

 

このライダーに、少しでも期待した僕が馬鹿だった。膝についた土汚れを払って極力

目の前の大馬鹿野郎を見ないで済むようにしていたウェイバーだったが……。

 

その目を離した事は不用心。

 

 不意に掴まれた引っ張られた襟首と、気管が狭まる事によって召喚時に〆た

鶏のような声を上げたのも束の間、ライダーは月夜に映える剣で宙を切ると共に

牛に牽かれる華美な装飾の宙に浮くチャリオッツを繰り出していた。

 

 これぞ、征服王イスカンダルの宝具の一つ神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)

 

 「さーぁ坊主よ! 序盤の戦には乗り遅れたものの我が覇道は余が目覚めた時より始めたり!

いざ! 遙か万里の彼方まで共に赴こう!! まずは美味い飯屋だ!」

 

「……っ……っっ!」

 

目立つだろ馬鹿! 霊体化しろっ、この私を玩具見たいに引き摺り回すな!

 

そう罵詈雑言を浴びせようとするものの、窒息しかねない首への圧力と突然のGの負荷で

殆ど意味をなさない音を出しながら。ライダーとウェイバーは冬木の夜空を駆けるのだった。

 

ライダーとウェイバーのように、アサシン バーサーカー アーチャーの激突を監視していた

残る各勢力の反応も著しいものが生じていた。

 

「バーサーカー、アサシン。その、どちらも脱落はしてないわ」

 

 極東の日本。そこから現代の飛行機でも数時間は掛かる冬国であるアインツベルンの城にて

雪よりも柔らかな色合いの白の髪を、積雪を齎す木枯らしが揺らして時刻にて空にも染められる

夕焼けのような瞳が、目の前にいる男性の瞳へと強くぶつかり合う。

 

「サーヴァント1騎の脱落でも、切嗣の言う通りの多くの霊基を保って動く存在ならば

消失した時点で私にも違和感が解る筈。そして、ソレに勝るバーサーカーにしてもよ」

 

 「そうか。アサシンに関しては、だろうなと思っていたが。バーサーカーのサーヴァントも

一筋縄でいく存在では無さそうだ、アイリ」

 

アイリ。      

 

アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 

アインツベルンにより錬成されたホムンクルスにて、聖杯の器として造られた存在。

 そして、この聖杯戦争で『セイバー』のマスターたる衛宮 切嗣の妻。

 

彼女の特性であり呪いとも言える願望機の器として調整されてる事により、どれ程遠くの地

でサーヴァントが偽装死や行方を晦まし生死不明の状態に陥っても、その真偽を彼女は

体の不調として解る事が出来る。だからこそ、確信を込めて未だ聖杯戦争での英霊の脱落は

無いと宣言する事が出来る。そして、衛宮切嗣自身も長年の戦人としての経験から

早期での要たるサーヴァントが2騎脱落する事への不信感と猜疑が正しい事と裏付けられる

事を妻の証言から得られた。

 

「けど、不思議だわ。総勢が不明なアサシンに関しては未だ警戒しておく事で何とかなるかも

知れないけれど。バーサーカーは、どうやって窮地を脱け出せたのかしら」

 

アサシンのサーヴァントが脱落しない理由としては、未だ登場せず裏で潜む群体としての

残りがいるからだと見当付けられる。

 だが、宝具の武具を降り注げる黄金色のサーヴァント。それに拮抗まではせずも

一撃を耐えて、銃撃で反撃したバーサーカーは霊格としても勝る劣らず、宝具は開帳されてたか

不明ながらも、聞いた情報の限りでは脱落しなかった事が奇妙で仕方がない。

 

 「そのサーヴァントには蘇生か、或いは不死に近い特性を保有してるのかも知れない。

狂戦士として召喚された類だ、何かしら曰くがあって可笑しくない」

 

だが、これで二つの有力な情報は確保出来たと。切嗣は妻との会話を安全圏で行いつつ

ひっそりと、心の中ではほくそ笑む。

 

小聖杯としての機能を担う彼女により、サーヴァント2騎の脱落の虚偽が濃厚になった事は

大きな意義がある。これが正史のハサン一騎の脱落であるなら、未だその情報を鵜呑みにする

可能性もあったが、バーサーカーとハサンと言う霊格が一気に脱落して特にアイリスフィール

に何の変調の兆しが無いと言う事は不自然極まりない。軽い頭痛や風邪のような症状が出ても

不思議でないのに、久宇舞弥から送られてきた情報を心安らむ娘とのクルミ拾いが終わった

頃合いに受け取った時間。その前の妻の調子を顧みても常日頃と変わりない調子だったし

今しがた最近の肉体の不調を聞いても、不思議そうに否定の声を返された事から解る。

 

ハサン、バーサーカーはまだ存続している。そして、その牙をひっそりと影で磨いていると。

 

(だが、計画に変更はない。アイリとセイバーを聖杯戦争の表舞台に立たせ、僕と舞弥で

マスターを抹殺する。……アサシンやバーサーカーのマスター、どちらも使い魔の視覚内に

出現しない所を見ると慎重な奴等だ。特に、バーサーカーのマスターに至っては遠隔で

狂化されているサーヴァントを使役してるのに関わらず、同盟関係の遠坂とアサシンの

マスターの戦力を確実に削りながら、尻尾を殆ど出していない)

 

衛宮切嗣は、受け取った情報から危険な存在であると感じ取った言峰綺礼と共に

バーサーカーのマスターへの脅威を上げた。そして、彼も遠坂とほぼ同じタイミングで

結界が破れ、もぬけの殻となった間桐家の情報を知る。

 

(間桐の翁、そして子息の二人ともに消息不明。自分達の領域を手放してまで有利と

なる状況があった。今まで特に大きな行動をしなかった奴等を、そう動かせる何かが

あったとすればサーヴント以外に有り得ない。……群体のハサンも、確かに特性として

優秀ではあるが間桐家の不在を露呈させる程に大きな能力が隠されてたのだろうか?

 違う気がする。ならば……バーサーカーか)

 

(この聖杯戦争……思った通りに事が運ぶのは難しそうだな)

 

セイバーのマスター、衛宮切嗣も現状の背景の裏を重く受け取っていた。

 だが、彼のやるべき指針に大きな変わりはない。根源に至る大聖杯。それを入手し

人類から争いのない平和な世界を齎す。その穢れのない世界の実現の為ならば召喚した

サーヴァントを使い捨て。家族を、愛する者を犠牲にする覚悟は既に決めているのだから。

 

ライダー、セイバーの陣営も既に行われた戦争の序盤の動きを理解し始めた。

 打撃を受けたアーチャーのマスター。遠坂時臣も、最強のアーチャーに臣下としての

礼節を弁え、捻じれに捻じれた計画を変更し改めて自分達に優位となる動きを考える。

 

その一方、事の発端へと至ったバーサーカー陣営こと。管理者Xは済ました顔で

百貌のハサンを酷使していた。

 

「F-01-02へ洞察作業 T-04-06、次のハサンこと仮称D-9が愛着作業へ。

F-01-18に愛着作業、T-06-27に抑圧作業、O-05-30に洞察作業

F-02-44へ抑圧作業。間違える事なく、D-9が次に其の収容室へ向かい本能作業に移れ。

次  O-05-61……O-01-67……」

 

あらゆる場所に不思議な生き物や無機物らしき存在が写り込んでいる。一見すれば

破損が著しいテディベアであったり、ロッキングチェアに腰掛けた老婆だったり

花の咲いた角の生えた茶色の毛で覆われた獣のような虫見たいな怪物だったりする。

 

管理者の彼女は、淡々とハサン達に対し指示を加えていく。ある者は困惑気に

ある者は直視した怪物の姿を見て声を荒げて非難と拒否の返答を管理者に浴びせるが

彼女は眉一つ動かす事なく告げる。

 

「君達に拒否権はない。指示通りにしなければ、消滅するだろう。いや、可能性として

君達の言う座の返還以外で。その霊基、魂と言えるモノ全てが目の前のアブノーマリティ

に摂取されて完全に消滅される事も考えられるがね」

 

 簡潔に告げられる無慈悲な宣告。黙って従え、でなければ死ぬより恐ろしい目に遭うぞ

 

そんな言葉を投げかけられれば、どうやら一斉蜂起して この謎の建物内で絶対的な権限を

持ってるらしい女に反撃しようにも力が制限されてるハサン達にはどうしようもなかった。

 泣く泣く、何かしら手の打ちようがあるまで新たなサーヴァントのマスターに従う他ない。

 

統率である、バーサーカーと相打ちにまで至ったハサンの彼女の身の上も同じ。

 最初こそ、訳の分からない事態に困惑していたが。司令官としての立場でハサンの先頭

にも立ってた手前、冷静の仮面を被っては指示通りに建物内を駆けまわり状況を理解していく。

 

(つまり、この建物は怪物共を閉じ込めておく檻なのだ。このような出鱈目な宝具があるとは

恐れ入る。固有結界の類ではあろうが)

 

固有結界。個と世界、空想と現実、内と外を入れ替え、現実世界を心の在り方で塗りつぶす

魔術の結界。魔術師たちにとっては最大級の奥義と言って良い。

 

(だが、一体どのようにしてこのような世界を創りあげれる? 古今東西の英雄にして

このような魑魅魍魎の巣窟を目にした者が居るのだろうか)

 

 ハサンは、今のようにバーサーカーに使役されておりマスターとのパスは遮断されてるが。

聖杯との繋がりは未だ存在している。故に、現界するにあたっての基本的な世界の在り方

そしてその時代においての一般知識や、真名を知っての英雄のかつての所業を織る事を

可能としている。だが、その聖杯の知識を以てしてもバーサーカーの過去を推し量れない。

 

(……此処で働いている他の職員と言われる者達。外観は降り立った現世の者達の服装に

酷似しているし、顔つきはアジアから北欧、中東と人種も全て異なっている。

 駄目だな。何一つとして真名に関わるだろう有益なものが見当たらない)

 

 自分達のように、化け物が収監される部屋に入る者達は中々鍛錬されていてハサンたる

我等と拮抗するのでは? と言う存在もチラホラ見受けられる。資料を運んだり研究職専門

と思われる単純な力量低い者達に至っては捻じ伏せる事も容易そうであるが、各自近代の

飛び道具である銃器具で武装している。このような魔術結界で動いてる者達だ。

気配遮断も碌に働かない状況で挑んでも、魔力の込めた銃弾を複数人から浴びせられれば

劣勢に陥るし、何よりもこの結界を支配する、あのバーサーカーが黙認する筈もない。

 

 「ひ ひぃ……くそっ」

 

「大丈夫ですか? ツルノ。虫に関連するアブノーマリティですし、貴方と相性は良いと

思って管理人は指示しましたが、何か問題ありましたか?」

 

 「問題もどうもこうもねぇよ……! あっ、あいつの指示通りに簡単な質問しようと

口開いた瞬間、あの蝶頭……お、俺の顔をアノ五つの腕の一つで頬を叩きやがった!」

 

 どうやれば、この結界から脱出が可能か。そう黙考する統率の目に青色の髪の男性が

T-01-68と書かれた部屋から転げるように飛び出して金切り声染みた声で罵り声を上げた。

 アジア系の女が宥めても、効果は芳しくなく頭を抱えて混乱する様子を冷たい目で

アサシンは遠くから見つめる。他人事ではあるが、見っともない奴だと。

 

何処の世界であろうとも、あぁ言う風に現状に馴染めず無体を晒す存在は居る。丁度

基底もそんな存在だったと思い起こされる。あの我等は、この建物の何処ら辺にて

どんな怪物に相手してるのか。いや、もしかすればもう運悪く消滅したのかも。

 

一瞬、脳裏にちらついた凡夫の図は瞬く間に消えた。今は、この空間内で確かな

生存を図る。それだけが、この統率の名を冠したハサンの出来る事だから。

 

機械的な女の音声が耳に発生する。この女の言われるままに動く、それは屈辱ではあるが

忙殺ことあっても、物理的に消滅させる真似は未だこの女は考えてない。

 恐らく、したくても出来ないのだ。この結界の維持に我等は必要ならば、まだ逆転の目

はあるのだ。付け入る隙は、勝機はあるとアサシンは意思を折らない。

 

その一方で、アサシンから存在を脇に追いやられたツルノこと間桐の便宜上の当主は

ユメカに対し恐怖や混乱を滲ませた声を上げていた。

 

 「あいつは一体どう言う化け物なんだっ。い、行き成り殴って来たが俺は何とも無いのか?」

 

不気味な奴だった。今まで目にしてきた蜘蛛達の中を君臨する女王蜘蛛や上半身を

ひっきりなしに啄む鳥とも異なる、何処か異質な存在。

 

黒い棺を背負い、腕は五本存在するタキシードを着こなす顔が大きな蝶で模られた

異形な辛うじて人の姿形の化け物。部屋には数羽の蝶と思えるものが飛び交っていたが

交流してきた蜘蛛達と異なり、あの蝶には今まで蟲の使役をしてきた鶴野には殆ど

意思疎通をなす事は出来ないと、目にした蝶男にも飛び交う蝶にも予感を覚えた。

 

目にしただけでも乗り移られる異常な存在を、この前に直視したばっかりだ。彼の不安を

落ち着いた声で、ユメカと周りから呼ばれる女性は返事する。

 

「T-01-68、死んだ蝶の葬儀と呼称されるアブノーマリティは職員達を解放しようとする存在。

そう、私は聞いています……この会社の人々は、訳は様々ですが生前、この会社から退社

する事が出来なかった人達です。私も含めて」

 

だから、あのアブノーマリティは彼なりに職員達を解放しようとしてるのでしょう。

 そう、静かな目で収容室を見るユメカを。髪を掻き毟りつつ鶴野は乱暴に言い返す。

 

 「解放だって? はんっ、何が解放だよ……! 罰鳥って言う奴もそうだけどよ。どいつも

こいつも手前勝手な持論が正しいと思って行動しやがって」

 

「……ツルノは、この会社から何時でも外に戻る事が出来るんですよね? 家族の元に

帰る事が出来るんですよね?」

 

エージェント達へ、管理者は鶴野の事情をある程度説明している。外の世界の魔術師と

言う存在の下位互換。自分達と違い、管理者Xが許可を出せば何時でも外の世界に帰還

して自由に生活出来る特殊な人間である事を。

 

 「はっ! 家族なんて良いもんじゃねぇよ。あの家は、化け物の……妖怪蟲爺いの巣窟だぜ?

居場所なんぞ、俺には無いんだよっ。

 友達はおろか信頼出来る奴なんていやしねぇ。……慎二の元に今更行ける筈もねぇしな」

 

「慎二?」

 

自然と零れ落ちた愚痴。そして出て来たワードに首傾げる仮の上司に失言だったと鶴野は

顔を歪めるも。外に一緒に出てプライベートだと詮索もある程度好きな普通の女子だと

性格は大まかに知っている。観念して、自分の息子だと不承不承に告白していた。

 

素っ頓狂な声が響き渡る。大きく目が見開かれ、ユメカはその後に叫んだ口を抑えつつも

興奮した口調を隠せず、予想していたリアクションに耳を軽く塞ぐ鶴野に顔を近づける。

 

「子供が居たんですか!!?」

 

 「っうるせぇな! 耳元でギャンギャン喚くなっ。居るよ! 今は海外に留学させている。

……こんな、あちこちに。あんな髑髏の仮面被った奴等や蟲爺いが蔓延っているだろう町に

居させる訳にはいかねぇからな」

 

アサシン達が職員として配備される事は鶴野も驚きを隠せず狼狽えたが。自分達に差し障った

影響はないと断言する管理者の言葉に対し反論は出来ずに居た。何よりも、藪蛇つついて

新たなサーヴァントに目を付けられたくもない。これ以上の厄介事は御免だった。

 

 目の前の女は、息子の不在に対して反応は芳しくなく。どう言った容姿で、どう言う性格

なのかとか、そう言う事を興味津々に聞いてくる。

 

 「背丈は、こん位で……顔は、俺の子供の頃にそっくりだよ。こいつは、俺の息子だなって

一目見れば、はっきりとわかるぜ。写真……あぁクソッ あの管理者に私物殆ど預けてたな。

 後で要望が通るなら、見せてやるよ」

 

家族写真ぐらい、許可は直ぐ通るだろ。そう、独り言にように述べる鶴野は未だ世間話で

幾らか精神は落ち着きを取り戻していた。だが、次の言葉は容認出来なかった。

 

             「――でも 何で『慎二』なんです?」

 

 普通は、長男なら慎一ですよね。と、言う呟きは決して大きなものではなかったと思う。

 

だが、彼女はサーヴァントであるが。決して万能で人として完璧な存在でもない。かつて

この会社の設立者である神のような頭脳を支えた男の片棒のように、器量良しでもない。

 

 彼女の、ユメカの言葉は。抑えつけていた彼の深く深く埋めていた黒い欠片の記憶を

掘り起こす事となった。

 

 

 

                ――何じゃ コレは? 

 

                  ……やめろ

 

                醜い 濁り子を産むとはな 

                

                   やめろ

 

    一度目は許してやろう 鶴野。胎盤の女もな だが二度目はないぞ 

 

 

                   やめろっ

 

                さて これをさっさと…… 

 

 

                   やめろおおおおおおおお……っ

 

 

 

「……ツルノ」

 

 我に返った時、自分の手が目の前の彼女の胸倉を掴んでいた事が理解出来た。

握る手元は、血の気が引いている。きっと、鏡を見なくても解るが顔色もだろう。

 

ユメカは、行き成りの乱暴な鶴野の行動に対して恐怖は見せなかった。

 ただ、その目に悲哀の色を彼は感じ取った。だから、それ以上の暴力を振るう

真似はしなかったのだろう。

 

「御免 御免なさい……っ。泣かせるつもりはなかったんです、ツルノ……っ」

 

その言葉に、自分が涙を流していると初めて知った。

 未だ自分に涙を流す資格もないのに、この目は流すのかと自己嫌悪にも至った。

 

 彼女に何も言う気力は無かった。ただ力なく手を離し、打ちひしがれた様子で

鶴野は遠ざかる。こんな状態の時に限って、あの女の指令は下らない。

 何も感じず、何も思わず仕事に没頭する事が出来れば良いのに。

 

(そうだ……あの怪物共の檻のどれか一つにでも飛び込めば。簡単に俺は命を

絶つ事が出来る。終わる事が出来る。けど、俺は未だそれをしようとしないのは

慎二が居るからかもな)

 

 あの蝶の頭をした怪物は、職員を解放する使命を携えて存在していると言っていた。

ならば、帰る場所が未だ残っている俺は。何時でも自分が口にすれば外へと

帰る事が出来る資格が残っている俺は、この会社にとって異物に他ならない。

 

だから、あの化け物は。貴様は場違いだとでも言うかのように自分を叩いたのかも。

 

 そんな訳ねぇかと、自嘲の笑みを浮かべて歪んだ口元を浮かべる。一歩、一歩が

暗い場所の舗装に寄っている。だが、それを押し留めたのも慣れ親しみ始めた声だった。

 

「――ツルノっ 待って下さい! ……先ほどの言葉は謝罪します、不躾な発言でした。

けど、管理人の言葉は厳守しなくちゃいけないんです! 

私は……私は貴方の上司で補佐が仕事ですっ。だから、業務時間内はずっと傍に居ます」

 

 「……ちっ」

 

此処じゃあ、一人きりで黄昏る事すら出来ないのか。いや……初日からそうだったな。

 

自暴自棄になって、この会社で暴れようにも。目先で纏わりつく、こいつが居る限り

俺はどう足掻いても家に居る時のように操り人形のように動くしかないのだ。

 しかし、展望もある。どうせ、そんなに長くもない……この聖杯戦争なんて言う馬鹿げた

催しが過ぎ去れば、こいつ等と約束した通りに解放される。そうすれば、死ぬにしても

慎二を迎えるにしても、やりたい事はある程度出来るだろう。

 

 溜息を出す。皺が少し出来た襟元を直しつつ、皮肉気に呟く。

 

 「そうだよな。お前達の社長の命令だもんな? ご愁傷様だな、こんな好きでもない

奴の傍に居てよぉ」

 

「私は、ツルノの事 好きですよ」

 

顔の歪みが引いて、真顔に変わる。ユメカは続けて、緩やかに笑って告げた。

 

「色々言った後の反応が面白くて、見てて飽きないですよっ。ツルノは」

 

 「……チッ、黙れよ。余計な事言わないで、仕事の事だけ言え」

 

黒い影に仮面を付けた者達が、様々な想いを抱える中で。青い髪の咎人たる男と、それを

支える、夢 を名前に示された女も。この悪夢の中ですべき事をしていく。

 

 それを、無表情でXは観察していた。長い時間を彼女は椅子に座り画像に視線を固定する。

 無軌道に危険区域、若しくは収容室に無断で入るような新参者のハサンには警告を。

新しく収容されるアブノーマリティには、この大型ツールアブノーマリティの有難くない

恩恵による変質化が、どのような状態か改めて調査する為に要観察、観測を行う。

 全ての業務が完了に向かい、数値が規定量に達した事を知ると、一つのスイッチに手を掛け

席を立つ。それが、業務の終わり ささやかな生と死の隣り合わせの緊迫した空間が終わり

束の間の平穏が職員達に訪れるのを意味するが。彼女には終わりではない。

 

「ゲブラー。最下層の様子は?」

 

 「何も起きてない。不気味な程にな」

 

「警戒は続けておいてくれ。そしてMiss 桜の傍に引き続き居るように」

 

 「チッ、言われなくても解っている。それと、あの黒い奴等で暇なのがいたら

トレーニングルームに寄こしてくれ。お前の言う通りに、幾らか体を動かせば

錆びつきも、ちょっとは取れるかもしれないしな」

 

「了解。後で鍛錬が必要だと思える者を向かわせる」

 

通信が終わる。画面は全て黒く塗りつぶされ、無機質なタイルでもコンクリートとも

異なる人工床を革靴が叩く反響音だけが響く。

 

 アブノーマリティへの作業は、恙なく終了出来ている。ユミの悲劇的な事故以来

目立った職員の死亡はないし、ハサンと呼称される職員として適用出来る人員が

一気に増えた事により。聖杯戦争が終了される期限までに招来されるであろう

異常存在に行き渡る人材を保つ事が出来た。

 

 だが、こんな事が有り得るだろうか? 下層に存在する、生前の職員を復元する機能を

担う存在が失踪した事により、新たに会社が緊急措置としてサーヴァントを鎮圧した事で

代替の職員として雇用する事を許可したと?

 

 そんな都合の良いシステムが有る筈がない。アブノーマリティはアブノーマリティで

ある事は覆る事はないし、それは職員でもサーヴァントでもそうだろう。

 人が人である事を変える事が出来ないように、この会社の変化も有り得ない事なのだ。

 

(何かの、大きな作為が働いている)

 

xは思考する。だが、それは未だ思考の段階で行動には移らない。慎重さと、下手に動き

その大きな陰謀の影に察知した事を気取られる事のないようにと。

 

 変わる事のない、透き通った目に一人の影が映り込んだ。それに首を微かに角度を曲げ

名前を呼び掛ける。

 

 「やぁ雁夜。まだ就寝に移ってなかったのか? もう体を休めるべきだと思うが」

 

この建物内では、余り時計は備えられていない。各自で腕時計を携行するか、体内時計が

正確に働いているセフィラに聞くのが常套手段。

 告げた忠告に従わないまま、複雑な目と顔つきで彼は聞き返す。

 

「……何時も疑問に思ってたんだが。君が休んでる姿を見た事はないけど、何時寝てるんだ?」

 

彼が見る限り、何時も怪物達が不気味に収容室で微動せずも不安を煽る光景の画面の観察・指示

職員達や、セフィラと言われる幹部との相談。それを除いても他の職員以外の従業員に声を掛け

ベットに横たわったり、椅子で転寝するようなシーンは皆無だ。

 

 「私には、就寝や休息と言う機能は備わっていない」

 

「えっ……」

 

 「別に特に弊害は無い。健康的不眠症と言う病状も現代医学に存在しているし、何より

体の造りが元々異なっていると思ってくれていい。

 それと、仕事以外で他の者達を見回っているのは好きでしている事だよ。以前は

あぁ言う風に、他の同僚と気楽に雑談が出来なかったのでね」

 

君が気に病んだり、心配する必要は無いと告げる彼女を。雁夜は暫く考えこむように見てから

口を開いた。その言葉の節々には、覚悟が見え隠れしていた。

 

              「俺を……鍛えてくれ」

 

その言葉に、僅かに彼女の表情に変化が訪れる。前に会話してた時にも出たような

少しだけ眉を片方あげる仕草。最近では、この表情はある程度不機嫌か 若しくは許容

出来ない内容を受け取った時だと雁夜は解っているつもりだ。

 

「出過ぎた真似かも知れない。多分、君の所有している宝具なら俺の助力なんて殆ど

必要ないのかも知れない。けど、俺は嫌なんだっ」

 

「無力のまま……このまま指を咥えて事態が動いて行くのを見守っているなんて。

君は、俺にこの会社の人間達の写真でも撮っているか体の養生さえしてくれれば良いって

言うけれど。俺は……力になりたいんだ」

 

(そうだ。このままじゃ、何も変われない)

 

雁夜は、間桐桜が自身に対し何の愛着はおろか、自身の想いが伝わってなかった事を段々と

解りたくなくても分かりきってしまった。彼女の言う通り、今のあの娘に必要なのは本当の

家族の愛。または、全く彼女の事情を知らずとも頼れる大人なのだろう。

 

 自分は、彼女の事情を理解しても。厳密には親でないし、保護者にもなれなかった。

あの地獄の責め苦から解放してやれなかった自分は、間桐臓硯と立場は同じと言って良い。

 

(俺に残されたモノは、少ない。けど……時臣との因縁に決着はつけなくちゃいけない。

そして臓硯を野放しにする事は許されない)

 

彼は、未だ自分が恋慕していた女性。そして、ソレを奪ったとも言える男との確執が

心の中に残っている。歪んだ復讐と、結果としては正しい殲滅の意思。相反するとも

取れる黒と白の感情を備えて、彼は女性の目に自分の意思を備えた視線を向ける。

 

 透き通るような瞳が、数秒じっと自分を覗き込んでいた。心の中がざわめくも

この心に嘘偽りはない。だが、目を反らしたくなった事実はある。

 

僅かに、一度閉じた瞳に深い吐息を漏らす音が聞こえた気がした。管理者と呼称される

彼女は、そんな仕草をさせた様子を欠片も見せず無機質な顔と声で返す。

 

 「君の体は、アノ亜種アブノーマリティの弊害で既に肉体は表面上は幾らか回復

してるように見えても。内部が深刻な事は承知の上での発言だね?」

 

「長くない命なのは承知さ。それでも、この聖杯戦争の顛末を見届けるまで生きられる

のならば、十分だ」

 

 決意は変わらない。その想いと重みを知ってか知らずか、今度こそ少々憂い気に

彼方を見るような表情を浮かべてから、管理者は返答した。

 

 「……見えない所で、無理なトレーニングをされても困る。それに、君には令呪と言う

大型ツールが齎している亜種ギフトも存在している事を踏まえると。

 そうだね、各セフィラに時間が空いた時にでも講義と特訓を君に割り当てる。

私自身は、君に教える時間は少ないし出来る事は限られている」

 

 それでも構わないか。と言う確認に拒否の意思は無い。

 

その告知の為に立ち去る彼女の背を見つめ。密かに雁夜は拳を握った。

 

彼女の力を借りれば、俺は……聖杯を手に入れられる。葵さんを幸せに出来る。

 

 彼は、ある程度健常な体を取り戻した。それによって幾らか正常な思考に戻り物事を

柔軟に対応する発想も得たが、聖杯戦争に参加するに至った心までは一般人の頃のように

穏やかさは取り戻せてない。何より、その未だ平和な頃にあった情緒は一年の蟲の責め苦

そして、それに耐えうる狂気的な黒い決意が拭い去っていたから。

 

              ――ミャ―

 

ふと、耳元に声がした。……猫だ、黒い猫が緑色の瞳で自分を見上げている

 

「野良猫か……?」

 

 この異常な、バーサーカーらしきモノが蠢く建物内に普通の動物が飼われているのは

初耳だ。いや、もしかすれば自分が知らないだけで働いている職員のペットか、又は

異常な空間内で精神を摩耗しない為のアニマルセラピーとして居るのかもと思い

雁夜は屈むと手を伸ばして、おいでと声を掛ける。

 

猫は、雁夜を少し観察するように見つめ。再度一声鳴くと、何処とも知れぬ割れ目の中へ

俊敏な動きで潜り込んでしまった。慌てる雁夜だが、人が入れぬサイズでサーヴァントの

彼女から、建物に形成された罅割れの中に入ろう等と絶対に考えるなと告げられている。

 

(後で、報せておかないと)

 

少し陰鬱な感情を浮かべつつ通路を歩きだす。

その背中を双玉のエメラルドグリーンの瞳が見送る事も知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「少々、困った事態となったな……綺礼」

 

聖堂教会こと、言峰の名が掲げられる教会にて二人の神父服を纏った老人と男性は向き合う。

 

「はい、残っているハサン達ですが」

 

『我等の総数、約50弱……そして、殆どが戦闘に不得手な者達ばかりで御座います』

 

 教会の内部に音もなく出現する大量のハサン達。そのハサン達は仮面を被り顔色こそ

伺えないにも関わらず、全体から意気消沈の気配が漂っている。

 

無理もない。彼らの内の過半数の戦闘に技巧を偏っていた者達が突如襲い掛かってきた

バーサーカーの前に敗れ去ったのだ。謀略、策謀、姦計、術数と言った力なくとも

陥れる力に秀でた者達は残っているし、宝具の力を使えば総数を取り戻す事は出来る

 だが、ハサンの宝具である妄想幻像 (ザバーニーヤ)は決して使い勝手の良いものでない。

分裂すれば、その分力は分散されて気配遮断などを除きパラメーターは低くなる。

 何より、多重人格達の中にはマスターに叛旗を向ける人格が出ても不思議ではない。

 

同盟者、遠坂時臣のサーヴァントは依然として強力無比ではあるし。彼らの陣営では

バーサーカーの刺客の一角であろう魔物を倒せた事は大きいものの。群体ハサンのメリット

遠坂とハサン等サーヴァントが結託してるであろう事を知られた事は痛すぎる事実だ。

 

 『交戦中に、確認出来た使い魔は四体……』

 

「むぅ……召喚されていたサーヴァント達を見るに。三騎士のセイバー、ライダー、ランサー

そして元凶たるバーサーカーの陣営には知れ渡ったであろう」

 

 重苦しい溜息が璃正神父の口から漏れる。元々、大規模な魔術儀礼ゆえに想定外な事態が

起きる懸念もあった。だが、全てのサーヴァントが召喚される以前に他の敵サーヴァントが

自分達の陣営を襲撃してくる等と誰が予想出来るだろう?

 

「日中、そのバーサーカーであろう子女に手出しするのは悪手だったか……」

 

 「父よ、全ては過ぎた事です。何より、我が師も私も、そして この場にいるハサン達も

含めて誰がこのような事態を予期出来たでしょうか?

 そして、こうも考えられませんか?」

 

状況が余り思わしくないにも関わらず、暖かさすら含む福音にも似た発言が綺礼から零れる。

 

 「古来より、聖杯の探求の旅とは。彼のアーサー王伝説を含め、苦難の連続……試練で

あったと言われています。ならば、この度の出来事も神が我々を試す試練であると。

 正しき思想と願いを、父よ。私達は携えている、その私達を誰が否定しますか?」

 

「おぉ……っ」

 

綺礼の穏やかな微笑みを前に、真理を得たとばかりに感嘆の声を出す。

 この子……息子はっ。聖職者としての矜持を何一つ損なう事なく、このような不運を前に

しても決して憂鬱になる事なく、光を伴っている!

 

ハサン達も、目から鱗が落ちる思いだった。このような劣勢の事態を引き起こした自分達に

叱責の言葉を投げかけるでもなく。神の愛を説き、鼓舞を暗に振るう様は……っ

まるで、かつて幻視した山の翁のようであると。

 

「彼の英雄王ギルガメッシュも、我が師と交誼を深めております。ハサン達も、今回の

悲劇を前に、改めて戦意を燃やしています。何も心配はありません、父よ

 信ずる者を、我等の父が見捨てる事などあろう筈がありません」

 

慈しむ笑みに、枯れかけた芽に新鮮な雨が降り注がれるように僅かに枯れて

猫背となっていた璃正の背を力強く正していく。

 

 「良く言った綺礼よ……! 

 やはり、聖杯がお前を選んだ事は何一つとして間違いなかった!

第三次に、聖遺物たる彼の杯が手元から零れた際。奇跡の成就を見る事はもはや叶わずと

失意に溺れ、そして今一度この老骨の手元に返りかけた光が一瞬曇った事に目が一瞬

眩みかけたが。綺麗、お前の力強い声に今一度血が熱く震えたぞっ」

 

「はい、父よ。ですので、一つばかり、許可を頂けませぬかな?

 この教会は不可侵の地帯を築き上げてますが。七騎士揃わずとも貪ろうとする獣すら

出て来た今、それを容易に無視する者達が居ないとは言い切れません。

 神聖なる神の家に、魔道の細工を幾つか設ける事は痛み入りますが……」

 

 「許す。お前の成したいようにするがいい」

 

「……感謝します」

 

 深く、頭を下げる。その恭しい姿勢に再度熱いものが璃正の目元に込み上げ

僅かにだが天井を向けなければ、また感涙に地面を汚しかねなかった。

 

 そして、目の前で深く頭を下げる彼に至っては。

この茶番劇であり、今も腹の中で飼う闇と、そして目前の甘美なる破滅であろう対象が

全くの無防備である事を嗤わない事に必死であった。

 

 父が就寝に至る事を確認し、全てのハサンを散開させて不審に思われぬように教会の

近くに置いた一体のみを残して地下にある霊安室にあたる部屋を開く。

 

 そこには、不釣り合いなものが存在していた。棺に関しては特に可笑しくはない

だが、横には真新しい埃を被っていない机と……二脚の木椅子と、ティーセット。

 

 無人の筈にも関わらず、綺礼は当然かのように木椅子に座り。持ち込んだ品物を

机に上に並べると、その玩具を並べ始める。

 

 「……新しい遊戯盤を持ってきたのだが、どうだ 一局」

 

 呟くと、その丸椅子が僅かに軋む音と共に。一人の中性的な顔立ちの人物は現れる。

 

「チェスか 腕前の程は」

 

 「心の洞を満たせるかを試すにあたって、何でも究めようとしたものだ。

五分ルールでどうかね」

 

「何とも、気が長い提案だと思うがな」

 

 「違いない」

 

愉快気な笑みすら幻聴で聞こえそうな表情と共に、盤は作られていく。

 

 八極拳仕込みの、素早い手が盤の上の黒のポーンを、ナイトを動かしていく。

それに対し、涼し気に女も高速で白の王とルークを同時に動かして更にクイーンを動かす。

一秒足らずで、数個の駒が瞬く間に別の場所に移動して布陣を形成していく。

 

 「オープニング イタリアンゲームだが」

 

チェス用語を述べる綺礼に、女は軽く黒い孔雀羽のような着物の襟元を撫でつけ答える。

 

「その筋も悪くはない  しかし、このままでは在り来たりではある。

不確定要素を加えてこそ より濃厚な黒蜜が出来上がる。ミツバチばかりよりも

天敵を加えてこその蜂蜜酒だと思うが」

 

 「ほぉ? ならば、君は」

 

 

             ――キキィ……

 

 チェス盤の下で、蟲が鳴く音がした。黒い堕天使と、神父の密会なされる大奥で。

 

 

 

 

 「あぁ……なに、折角の宴なのだ。招待してあげようとも

 

          待ち焦がれ 恋焦がれたカボチャの馬車もな……」

 

 

 




 ライダー陣営:平常運転。

 ランサー陣営:バーサーカーがハサンと共倒れ? ふーん残るは
4陣営だな。ランサーが厄ネタだけど、まぁ私の聡明な知識と卓越した
魔術ならば楽勝だから。
 
 セイバー陣営:平常運転ではあるが、バーサーカー陣営の危険視を上げる。

 アーチャー陣営:バーサーカー陣営 覚えてろよ

 キャスター陣営:今日ぐらいに、龍之介が平常通り召喚。正史と一緒
ご都合主義で、キャスターと彼が正義の味方に鉄槌を下されるとかは無い。
この時空間はギャグとかでなく、完全シリアスだから。

 バーサーカー陣営:鶴野、トラウマがぶり返すが未だいける。
雁夜、まだ心の整理がつかず間桐の性質の妄執が染み付いている。
桜、ゲブラーと一緒。本心は、あまり好きじゃないし建物内も飽きた
管理者Xやセフィラ含め、色々と試行錯誤及び深い事情で動いている。

 ハサン陣営: 愉悦指針 継続。ゾォルゲンも仕方がないし
誘ってやるか。参加経費は、お前の破滅で
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