fate/zero x^2   作:ビナー語検定五級

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とある浜辺で 常夏の陽射し 眩しい小麦色した君の横顔

とある戦場で 絡みつく粘り気ある体液 臍の緒 赤子

とある王国で 裏切りの蜜時 背けたし翠色の瞳の我が主

とある場所で とある時で とある中で負った心の罅

 



Tの由来

 彼らは同時に目にした。それは灰色の細長い袋を丸めた中に斜線上の棒を

突き刺したような独特のマークが管理者の周辺に浮かび上がると共に、その光から

現われた異様な怪物達の姿を。

 

バーサーカーこと彼女の行動を制止する機会はあった。だが、セイバーとランサーは

互いにどちらも明らかに弱体化しているであろう存在をマスター命令など除き

手を下すのは騎士道に反していたし、そのマスター達も切嗣においては同盟を望まれ

攻撃の意思が停滞となり、ランサーのマスターことケイネスに至っても目前で相対

しているセイバーを無視してキャスターと思える存在を攻撃すれば、その隙を突かれ

目前の濃密な魔力を持つ存在の攻撃を受ける危険視を覚えてた。

 

 見た限り、ランサーの魔貌こと魅了の黒子に毒されてるような三下を率先して

攻撃する事は無い、このような複数戦ならば特に。一番優先して排除すべきは

力量確かなセイバーだ。

 

ライダーの突発的な介入は、自身の覇道と培った栄光と誇りから成す行動によるもの。

明らかな敵意ある襲撃を除いて、その場で目にしたサーヴァント達に攻撃する意思は

存在しなかったし、ウェイバーも錚々たる英霊達に気後れしていた。

 

最後に、アーチャーギルガメッシュであるが。

 彼は召喚された後に、バーサーカーの真なる正体が一般的な外見の女性であると

時臣から説明されていた。だからこそライダーの呼びかけで登場した時に一見無防備な

バーサーカーの彼女を攻撃する機会は幾らでもあったのだ。

 だが、彼はそうしなかった。彼自身の未来を見通しすら可能である慧眼が、そして

神々と人の血を受け継いだ躰は感じ取っていた。

 ――アレに下手な刺激を与えれば、()()()()()()が起こる  と。

 

遠巻きに管理者の紅い傷痕の狩人の手から逃れたハサン達。そして未だ姿を見せぬ

本来のキャスター達も注視する中、ソレは起きた。

 

『(コレ等は!?)』

 

銀河のような髪の毛をした、スラリとした体形の長躯の少女の面影を残すものの

半身が影鬼のようなもので覆われ、また目立つ帯剣をした存在。

 

蝶の全体が、首をすげ替えて生えている。五本の腕を生やした異形ながら洒落た

燕尾服で包みこんで棺桶を背負う、何処となく紳士的な気配を宿す人型の存在。

 

その体躯は、この場にいるサーヴァントの中で一番の巨漢であるライダーを凌ぐ。

アーチャーが踏み台とする街灯にさえ手を伸ばせば届くサイズだ。

 胸元は正方形上に焼却炉のような形に蓋が開け放たれ中から酷い血肉の異臭と共に

赤々と脈打つ心臓が一つ目立った上で鎮座している。その怪物の鎧の頭部へと、

小さな少し間の抜けた顔つきの小鳥が宿りつつ囀って何の感情も

感じさせない目で、ズラッとサーヴァント達を眺めている。

 

最後に現れたモノは、それまで未だある程度人の想像で賄え受容出来る姿形を

管理者が呼び出せてたが、ソレはそのキャパシティを超えていた。

 黒い球体に、鳥を思わせる二本脚と人のような手。それは未だ良い。

だが、その眼球は異常の極みだ。軽く40はあるであろう黄色い眼球。見てるだけで

気が変になりそうな複数の生えた目はギョロギョロとあらゆる方角を目にしている。

 

「これは……っ まさか、これが全部サーヴァントだと言うの!?」

 

突然の急展開。アーチャーと複数のサーヴァント達の睨みあいが成す構図から一転。

 キャスターと思われた、白衣の女性は瞬く間に数だけなら参戦している全員と

拮抗できる戦力を一瞬で招来したのだ。これが、今まで倒れそうだった彼女が?

講和から倒れ伏しそうだった事まで全部演技だったと言うのであれば、それは神話か

伝説レベルのペテンだと思えそうな行動だ。

 

アイリスフィールは、各参加者等の心を代弁する叫びを終えると共に管理者を見遣る。

 さぞ形勢逆転させた事に満足であろうと思ったが。その想像に反し、彼女の顔は

固く険しいままだ。眉を顰め、軽く拳を震わせてるように見える。

この状況は、まさか彼女の意に反しての行動だと言うのか……?

 

そう考えてる合間にも、状況は動いて行く。管理者が招来したサーヴァントらしき

怪物達は動き出す。その動きは、控えめに見ても友好的な仕草と言う気配はない。

 

     スッ       

 

 最初に動いたのは、蝶の頭をしたタキシードの異形。その背中と同等の物体は

両方のポケットに差しこんだ腕とは異なる腕で抱えており、その腕が器用に棺を

地面に降ろす。他のサーヴァント達が動く前に、棺の蓋が開かれた。

 

 パタッ

 

 パタッパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ

パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ

パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ

パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタッッ

 

 (蝶――ッ!)

 

 棺に限界まで押し込んでいたと言われても無理ある膨大な白い蝶の群れ。

それが辺り一面に羽ばたく 羽ばたく 羽ばたいていく。数え切れぬ白い波は

流砂のような音となって響きながら並び立つ道路全てを白く染め上げようとしていく。

 

この場に佇んでいる、マスターとしての役割を演ずるアイリスフィールへ そして無謀か

勇気、または両方を以て危機の渦中のウェイバーの元へ。

 

「アイリスフィール!」 「小僧っ!!」

 

蝶の形をした白い弾幕に対し、セイバーは風王結界(インビジブル・エア)を展開し

風の結界を作り出す。ライダーは、情けない悲鳴をあげるウェイバーの襟元を掴みつつ

飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)は嘶きと共に空高く上昇する。その足跡から産み出される

雷光は、追って来る蝶達の大部分を焼き落とす。

 

蝶の波状攻撃と言えるものに、一瞬虚をランサーも突かれたが。彼とて並大抵の死線を

潜り抜けて来た訳でない。直ぐさま冷静に蝶の動きを読むと、巧みに二槍の魔槍を駆使し

難なくと迫る蝶を払っていく。魔を払う槍に触れた瞬間から水に浸かった紙片のように

瞬く間に雲散して地面に落ちていく白き陽炎。

 アーチャーに至っては、迫る蝶達に対し鼻を鳴らし無造作に指を鳴らして背後に浮かぶ

金の門から数本の武具を射出するだけで事足りる。

 

 「羽虫が。どう言うつもりだ?」

 

 これが本気で攻撃してる訳ではあるまい との言葉を省略しての呟き。

十数秒して残る全員も気づき始めた。

 

(何だ……? 異常な程の量あるに関わらず、まるで本物の蝶の如く脆弱だ)

 

 (最初こそ、圧倒的な弾幕に危機を抱いたが。これであれば、量を無視すれば

腕を振るだけで消し飛べるぞ)

 

 蝶達の動きは、最初こそ周囲にいる者達だけに飛来していたが。残る蝶達は無規則に

飛んでいく。倉庫街の上空を舞って……遠くへ。

 

 (? ――っ不味いっ!)

 

 「舞弥。ランサーのマスターへの狙撃は中止だ……今すぐ逃走に移るぞ」

 

 蝶達は、何もサーヴァント達が密集している場所で留まっているわけでなく。まるで

彼らサーヴァントとマスターのパス。見えない線を誘蛾灯のように正確に遠方に潜む

ランサーのマスターであるケイネス。そしてセイバーの真のマスター衛宮 切嗣の元へ

飛翔していく。そのスピードは、普通の蝶の速度であれど……速い!

 

一方、切嗣とそう遠くない場所からランサーの動きを見守るケイネスにも

蝶達の魔の手は差し掛かっていた。

 

 (っキャスターめ、ランサーの魅了に冒されてたかと思えば。小癪なっ)

 

 圧倒的な物量の無差別の範囲攻撃。成程、確かに共闘する存在なしマスターが近くに

ない状況であれば最適解だ。敵マスターをも追尾する攻撃も理に長けている。

 

だが、所詮 ()()()()だ。聖杯戦争と言う大規模な魔術儀礼において、盤上を

一体のサーヴァントの宝具で一気に形成を逆転しようなどと、ケイネスに言わせれば

非理論的な全く以て美しくも無い博打な手段だ。

 他のサーヴァント達が、この一戦で生き残れば。全ての陣営が敵として対立する。

ソレすら分らぬか? キャスターよ。

 

 「このケイネス・エルメロイ・アーチボルトが、ロード(君主)と言われるまでの力

先見の目のないキャスターが飼う魔物等に披露するのは、惜しいものだが」

 

迫って来た十数匹の白い蝶に対して、ケイネスは微塵も顔色を変える事なく落ち着き払い

試験瓶を取り出すと共に、その容量から想像出来ぬ質量の水銀が出現する。

 人差し指より少し長い程の細長い瓶から、人が数人呑み込めそうな銀の液体が高名なる

魔術師の傍らに迸りつつ鎮座する。

 

 「Fervor,mei Sanguis」(沸き立て、我が血潮)

 

 「Automatoportum defensio:Automatoportum quaerere:Dilectus incrisio」

  (自律防御:自動索敵:指定攻撃)

 

 

 銀の液体は、瞬時に彼の魔術師の命に沿って鞭状に形を変えていく。

これぞケイネスの魔術礼装において、最強。月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)

 

 「Scalp」(斬)

 

  ――シュパァァッ!

 

 ダイヤすら豆腐のように容易に切断せしめたる水銀鞭の一撃は、白い蝶たちを呆気なく

二つに分離させる。肩透かしを覚える程だ キャスターの編み出した魔物と言う位なら

何かしら仕込んでいるのも一瞬期待していたのに。

 

 そんな風に、軽い気の緩みが芽生えかけた時だ。柔らかく空気が揺れる音、それと同時に

ケイネスの頭に一瞬だけ過去の情景の数多が浮かび上がった。

 

時計塔、学生時代の学問での極めて稀有だった成績不振。その後、判明した学友と考えていた

者達によっての工作であるとの判明。父や母の喪に服する場面

 ソラウと過ごしての彼女の様々な軽蔑の仕草や静かな怒りの表情。自分でない者に対し

情欲と色欲の入り混じった熱望の視線を向ける横顔……。

 

 「――っ!? Scalp(斬)っ!!」

 

 情景が浮き出て、沈むと共に眼前の下で自身の靴に留まる蝶を見留めると反射的に

月霊髄液の一撃にて蝶を切断する。

 軽い冷や汗を拭い、今しがた靴に留まった蝶のいた靴の上を汚らわしい汚物か獣でも

触れたような目つきで魔術の水を扱い清める。

 

迂闊 月霊髄液の自動追尾攻撃は正確なものの、距離が開くと其の動作に一定の単調さが

生まれてしまう。あのキャスターの怪物が使役する蝶の中の一匹、されど一匹とて

見落としたのは腹立たしい。

 

(精神感応の類 か)

 

やはりキャスターだ、何の変哲もない蝶の使い魔な筈もない。魔術防御施す衣類越しでも

精神に悪影響を施す精神汚染の魔術を編んだ蝶。いま一瞬の過去に起きた負の軌跡は

不愉快と感じるものの、それ以外で不調は体にきたさない。

 

(だが、キャスタークラスともなれば長期的な呪いの魔術も扱うかも知れんな。

詳しく解析し治療をするにしても、あの蝶が第3波を繰り出さない保障もない。

 ふんっ、癪ではあるが 今宵の戦場の退き時と言う所か)

 

ケイネスの過去において、挫折 と人が称する程の重たい過去はない。

本来自身が召喚する筈だったライダーの聖遺物を、小憎らしい形式の弟子たる

ウェイバーが奪取した事や、ランサーの魅了により変調見られる許婚であり今の妻の

ソラウが見せる様子など腹に据えかねる事は起きてるものの、彼自身にとっての自信や

信念と言うものが絶対的に破綻したり崩御した事は今と過去にとって無いのだ。

 

ランサーのマスターである彼が、キャスターの攻勢によって少ないものの痛手を負った

事で退陣を考えていた頃、もう一人の遠方から伺っていた彼はピンチに陥っていた。

 

 棺から開け放たれた魔力によって造られた蝶。物理的な銃では迎撃しようにも相性が悪い。

魔術によって強化したナイフ、ブランクがあるものの未だ戦場での動きのキレは幾分

残っている体術と共に蝶達を切り落とす。

 パートナーである舞弥と現状の報告を短く行い、第二波が迫る事も考えて撤退の方針

に移ろうとした時にだ。眼前に出現した存在に、二人して動きを止めた。

 

 「っキャスターの魔物……」

 

蝶の頭をした、喪服を着た異形の存在。それが、待ち受けていた。

 見た限りでは肌を刺すような殺気、肉食獣が獲物を狩るような威圧感もない。

悪感情は見当たらないが好意もない、冷え冷えとした不気味さだけが佇んでいる。

 

 (令呪にてセイバーを……いや、アイリと共にこの場を脱出したとしてキャスターの宝具の

性質が解明されてない現状。奴が僕達を追跡しない保障はないっ

此処にセイバーとアイリを戻しても。あのキャスターが退路が狭まる場所に対して

みすみす逃走経路を用意しようとする可能性も低い)

 

 令呪はそう簡単には使えない。疑似的な不可能を可能にする代物は、これから聖杯に

願うにあたって必ず相反するだろうセイバーへの強制命令。その為に一つ消費するのは

確定だとして、使用可能なのは最低二つ。いま此処でその一つを使用する訳にはいかない。

 

 (だが。舞弥の銃 僕の携行している武器と固有時制御(Time Alter)で……いま目前で

相対しているキャスターの怪物に通用するのか?)

 

いや、通用するのか? でない。通用させねばならない。

 

衛宮切嗣の秘蔵であり切り札である『起源弾』は、魔術回路を備える人間が最大限に回路の

出力を高めてる状態でなければ一撃必殺たりえず、魔力の結晶で動くサーヴァントには

通用しえない。他の魔術礼装たりえる物品も対サーヴァントを想定しえてない。

 

 

 「Time alter ―― double accel(固 有 時 制 御 二 倍 速)!」

 

切嗣の魔術、「固有時制御」。抑止力の干渉を限界まで抑え、自身の体内の時間の速度を操る。

 補佐パーツの目には、気づけば彼が銃を構え射撃の音が響いていた。それ程の速さで早撃ち

が成されるが、神秘で形成された異形は海水の飛沫が掛かった程度に不動に立ち尽くしたままだ。

 

切嗣のサポートでありパーツの一つ、久宇舞弥も武装しているキャリコM950を遅ればせながら

火を吹かせるが。神秘の結晶体には、やはり焼石に水 落ちる水滴が1から2に変わっただけだ。

 

蝶の頭はスッ……っと棺を担うのと、真ん中に付属した腕でない背広の衣嚢に差し込んでいた

両腕を外に吐き出させ、その手を子供が遊びで良くするような銃の形へ変える。

 

 (ガンドかっ!? くっ……固有時制御を最大限にしても後が続かないっ)

 

構えてる銃、いや両腕を犠牲にしてでも回避はしたほうがいい。例え重傷を負っても

セイバーの宝具エクスカリバーの鞘と言う、隠し札がある以上 死ぬ以外は戦闘続行可能だ。

 

 パァンと、乾いた音が響いた気がした。それと同時に、二つのマシンガンの音の内一つが途絶え

地面に人が一人倒れ込む物音が直ぐ近くから、未だ激しく銃声が満ちてるのに良く耳に通った。

 

 「舞  弥?」

 

 横たわった人影と、瞳孔を開いた様子が見られると共に。殺戮機械としての仮面を被っている

彼の心に罅が生じる。引き金を引く指の力が弱まると同時に、彼は新たな破裂音と意識が暗転した。

 

 

              

               ――ケリィ!

 

 

     ほらっ  こっち! 此処がベストスポットなのよ!

 

            

         今日はカナリナウスモルフォがいっぱい飛んでるわっ!

 

 

 ……眩しい 陽射し   小麦色の繋がる手   琥珀の瞳

 

    走る   疾風のように  白い蝶のカーテン

 

「――シャー レイ」

 

 「つぐ……切嗣っ」

 

 かつて、幼少期に愛され 暖かい思い出が詰まったアリマゴ島に居た一人の少女。

年齢に相応しくない英知に富んでいた。僕にとって、初恋の人……。

 

常夏の陽射しに照らされた眩しい笑顔と、そして彼女に手を引き連れたままに見た

白い蝶達が飛び交う情景。それを打ち破る……険しい、舞弥の声。  舞 弥?

 

 その瞬間、意識は微温湯のような夢から冷え冷えとした冬空に裸で放り込まれたように

一気に覚醒した。そうだ? 僕は何をやっている。いま自分は死闘の渦中にいる。

 

意識が戻ると共に、頬の片方に強い熱と微かな痛みを覚えた。舞弥が気づけの為に平手を

施したのだろうと冷静な思考の傍ら、視界に起きる出来事を呆然としつつ声で表す。

 

 「……何故、アサシン達がアノ化け物と交戦しているんだ?」

 

「解りません。私が意識を戻したのも、つい先程なんです切嗣」

 

 今しがた見た、過去の淡い宝石のような記憶が脳裏にチラつく中。何とか思考をクリア

にして目にしている現実を整理する。

 

あの蝶頭の怪物。いや、怪物なのか過去に実際に存在していた英霊の擬態なのかは定かで

ないものの、その敵が四方八方に銃の形をした指でガンドを放っている。

 そして、それを縦横無尽に黒い影……全滅したように見せかけ、表舞台と異なる場所で

マスター達の暗殺の隙を伺っていたであろう多勢のハサン達。その数体が見た事のない

ボウガンや、大砲などで蝶頭と戦闘している事には疑問符しか出せない。

 

 (何故、このハサン達は僕たちに構わず。あのキャスターの刺客と戦っている?

こいつらの専門分野はマスター殺しだろっ)

 

 理解が追いつかない中、ハサン達も無言で蝶頭に交戦……鎮圧作業に没頭している。

彼等も心中では不平と不満が募っていた。何故に、恰好の獲物をみすみす見逃して

このアブノーマリティと言う存在を倒すのに身を費やなければならぬのか?

 

 管理者は、アブノーマリティT-01-68が蝶の弾幕を放った後。そこから弾幕の蝶達と

共に遠方に存在する衛宮 切嗣のほうに向かうのをサーヴァント達がアブノーマリティの

攻撃に晒される中で冷静に見届けていた。

 Xにとって、聖杯戦争は大型のツールアブノーマリティ。超常現象を人為的に織りなす

傍迷惑な超技術の産物だ。ソレを解析及び破壊する事が優先事項であり、人に有害たる

アブノーマリティが、この世界の人類を捕食する事に寛容ではない。例えそれが敵対者

としても、人類である限りは庇護対象だ。

 

(職員達を、この世界に招来させT-01-68を追尾しようにも。彼等には内部の収容する

アブノーマリティの作業と言う大切な役目がある。

 F-01-57の依頼は、あのアーチャーと呼ばれるアブノーマリティが以前交戦した時の

様子を顧みれば、状況の悪化が危ぶまれる。容認するのは酷だが、現在の雇用する

ハサン達を外界に出させ、鎮圧指示をするしか手立てが無い……)

 

 数体の戦闘分野に手心を持つハサン達を、蝶の弾幕が未だ残り管理者に気を回す余裕が

ない中で招来させる。それによってT-01-68が舞弥と切嗣に止めを刺す前にハサン達が

鎮圧作業を行使するのに間に合ったと言うわけだ。

 

(我等が、あの管理人とかの狩り主の言いように使われるのは小癪。だが、中々

このE.G.Oと呼ばれる武器は使い勝手が良い……初めて目にするものだが馴染む)

 

 業火と称されるハサンは、F-01-02より抽出された武器。四本目のマッチの火と

言われる大砲の火を吹かせ。

 

 風弓と称されるハサンは、F-01-18より超出された髪の毛が多く絡み合った

クロスボウと思える武器。通称、悲鳴と呼ばれる武器の矢が女性の金切り声を

伴って飛来して、蝶男の肩に突き刺さり。

 

 O-03-88と呼ばれる、透明なアブノーマリティから取り出された武器は。一見すれば

只の棒だが透明なハンマーだ。それを無彩と呼称されるハサンが振るい蝶男を打つ。

 

アブノーマリティT-01-68 死んだ蝶の葬儀は、その鎮圧作業に苛立ちを覚える仕草と

共に両腕で銃撃を繰り出すが、ハサン達は俊敏性と数の利を活かし立ち向かっていく。

 

大砲と、クロスボウそして透明なハンマーの攻撃を味わいながらも狼狽するような

様子はなく(頭が蝶な為、表情を読み取る事が前提として不可能なのだが)指鉄砲を

三体の影を追って放つものの成果は出ない。

 

 やがてT-01-68は最後に三体のどれかの攻撃によって動きを唐突に止めると。その

両腕の棺を横たえ、一旦仰向けに宙に浮かぶと共に棺の中に自分から収まり……消失した。

 

「……終わったか」

 

「あぁ、後は……」

 

 チラッと首を向けて、銃床を支えとして立つ男女を軽く見遣る三つの視線。それに

僅かに体を揺らすも、未だ戦意を失わぬ目でこちらを観察する男の眼光は鋭い。

 

(このまま、あの女の命令を無視し。このサーヴァントのマスターであろう男を

殺害するのは、我等の数とこの武器さえあれば造作もないが……)

 

 ――タッ!

 

 三人の影は一気に跳んだ。衛宮 切嗣とは真逆の方角へ、三者僅かにルートは

異なれど切嗣達と十分に離れれば管理人の元に戻る道に駆けた。

 

(令呪によりサーヴァントを呼び戻せる事。それに聖杯戦争で他のサーヴァント達の

交戦が未だ我等がバーサーカーと闘った時以外では、これが初。

 故に、我等の行動が彼の女の指示で動いている等と知る由は誰にもない)

 

(バーサーカーの女。まだ背景は謎であり実力や素性は未知数ではあるが

我等に他マスターの救助を任せる事を考えると、人情家が余程の善性もあると見る。

ならば、此処は恩を素直に売って我等の価値を高めようぞ)

 

(かつてのマスター、言峰氏には悪いが……ハサンともなれば鞍替えも常套手段。

元より騎士道や正道から外されし我等。この戦争で勝つ為ならば如何なる恥辱にも

耐えようとも……例え、100の内1を残し死しても、その1が最後に残れば勝利)

 

 百貌は、管理人にハントされてから多くの怪物達の世話をなしつつも下克上の時を

狙い、それと共に最善の道も模索していた。

 

 幾つもの蟻の巣のような道を忙しなく働き、すれ違いながらもハサン達は独自の

サインを扱い今の現状で出来うる事を必死に編み出し、それを決行している。

 

今暫く、このバーサーカー(管理人X)の手足となり動く。そして、奴の監視網が

手薄になった時、我等の宝具 妄想幻像 (ザバーニーヤ)が輝く時。

 

寝首を掻く機会は必ずある。だが、今は未だその時ではなし。

 

 バーサーカーの宝具、使役する怪物達の能力。アレ等は脅威的だ

あの最初に遣わされた赤い頭巾の死に鎌にすら歯が立たなかった我等にとって

狙うべくは一人、アノ管理者と呼ばれる者のみ。

 

 (彼奴めに良いように扱わされるは確かに我等ハサンにとって屈辱。

然し、奴が飼うアレ等の魔性。そして、コレ等の武器は我等にとっても好都合)

 

(あの蝶男も、単純な力であれば正騎士に勝らずとも劣らず。神話に名を遺す

英霊に太刀打ち出来ずとも食い下がる力量はあるだろう。ソレ等に対し斯様な

固有結界で産まれし武具を持つだけで数の利で勝る事が出来る)

 

(――ゆくゆくは 彼のバーサーカーが他のサーヴァントを落とし。そして

彼のアーチャー『英雄王』と相打ちまで持ち込めれば……)

 

 百貌達は、持ちうる情報を正しく統合させて数少ない勝機への道へ走る。

 

管理者Xの指示通りに動き、そして遠坂が招来した古代の文明の創造なした

最強とも言って過言でないサーヴァントを倒す。アレに勝ちうるには全ての

サーヴァントが協力し合うか、何かしらの手段でマスターに令呪で自害を

命ずる以外の第三の手段があるとすれば……あの自分達が直接目にした邪悪な

存在が犇(ひしめ)き合う怪物達 全勢力をぶつけるしかない。

 

(そして、あの管理者と言う輩は。サーヴァントに対して嫌忌を抱いている

無論、我等もその対象ではある。だが、それだからこそ有効価値が未だ

ある限り、処理される事はない。怪物達への人材に過剰が起き得ない限り)

 

(――遂げて見せる。未だ背信する事なき別けた我等よ

彼の神の信徒に仕える事で、お前達にも勝利の機会がある事を祈ろう)

 

彼等は体感時間で数日。管理者のアブノーマリティと接する事で

その脅威的な力を肌で感じ取り、叛逆の芽は少し異なる華を咲かせ始めた。

 

例え汚辱に濡れても、その手に光を勝ち取る。かつて教団として生き

自己を見定める事すら出来なくなった者達は、多芸を得る代わりに英雄と

しての強大さを衰弱させた。だからこそ、外道は外道なりの礎となるのだ。

 

 

 

「……何だったんだ。何故、アサシン達が」

 

 「切嗣。思考するのは後です、私達も早く」

 

何もする事もなく、ただ闇の中へと一挙に消え去ったハサン達と棺も何もかも

消え去り、残るは多くの薬莢と煙硝の匂い。そして多大な疲労感と幻痛。

 

いや、これは幻痛と言うべきか? この戦争に飛び込み、いやソレ以前から

アイリと愛を育み、聖杯を得る過程で封じ込めていた淡い陽だまりの記憶。

 無理やりこじ開けられた太陽の光は、ほぼ闇に同化しかけようとしていた自身の

心身には死徒のように辛く耐えがたい悲しみが罅の入った蓋から漏れ出る。

 

「なぁ、舞弥」

 

 「何です? 話し合う事があれば、後で」

 

「君はあの倒れた時、何を見たんだ?」

 

 「――  」

 

 軽く肩を支えられつつ、無意識に告げた問答。自分が見たのは初恋の記憶。

あの白い蝶の。死の匂いが濃い異形の手に掛けられ 彼女は何を虚空に見たのか。

 

 返答を一瞬窮しつつも、自身を鋼鉄の機械。切嗣の一部として動いている

存在と認識する彼女に、質問の答えをはぐらかす選択はない。

 

 「赤ん坊」

 

 「私が、産んだ赤ん坊。意識が定まらない中で、泣いている……それと

切嗣。貴方に手を差し伸べられた時の記憶 ソレを思い出しました」

 

「……そう か」

 

彼女 久宇 舞弥は。幼少期から少年兵として戦場の駒として扱われ

女として産まれた事により、子や性行為が成せる頃には慰み者として生きて来た。

 中東などの戦争では、余り珍しくもない出来事。だが、彼女のような境遇の

人間が居なくなる事が一番だ。だからこそ、聖杯を得るために 僕は。

 

 あの蝶の異形の怪物。アレが何を伴って、何の理由があって僕たちの記憶を

掘り返したのかは解らない。 解らない……が。

 

「もし、今度あの異形に相まみえるのであれば  ――僕たちの手で倒す」

 

 「――はい 切嗣」

 

あのキャスターは未だ生存している。なら、またアノ怪物が目の前に

立ち塞がらない保障などない。

 在りし時の陽だまりを不躾に何の予兆もなく見せつけられた彼の目には。

冷徹なる機械としての目でなく、人としての怒りの火が瞳に点っていた。

 

 

 

 

 一方、戦場の中心でも変化が着実に見られていた。

 

T-01-68の蝶の弾幕を掻い潜った彼等は、その後に主犯が飛び立った蝶達と共に

消失するのを視認すると共に、未だ他にも残るアブノーマリティ達が動き始めていた。

 

  ブゥゥ――ン

 

 銀河のような長い髪を靡かせた、少女の顔をした魔性の化身の周りには宙を漂う

レイピアのような長剣が幾つも浮かんでいる。

 

 「あ、あいつもアーチャーと同じく大量の剣を所持してるのかよっ!」

 

 上空で、戦場を観察するウェイバーは小さな呻きと共に見た物を言葉にする。

彼の審査眼が正しければ、あの剣の一つ一つも宝具に劣らぬ力を秘めている。

 

 手を組み黒い眼孔から涙を流し続ける少女は、何の予兆もなく数本の剣を

両の横い位置する英霊達、槍と剣の騎士に対し空気を切り裂き飛来させる。

 

 気合一閃と共に、セイバーは見えざる剣と風を叩きつけ。ランサーも魔槍で防ぐ。

蝶達とは異なる重い感触、ソレが武具越しに伝わり並みの相手でない事を同時に知る。

 

 (風王結界(インビジブル・エア)を纏うエクスカリバーで受けても 重い!

この者 只の怪物では……っ!?)

 

 「ランサーっ!」

 

「っむん――!!」

 

               ズドンッッ

 

 怪異の女の先にて、同じく剣を受け止め僅かに地面を後退したランサーの背後に迫る

巨大な鎧、掲げられた斧。セイバーの警報と目線、そして戦士としての直感により

彼は旋回すると共に大きく横に飛びのくと同時に、彼が居た場所に重い鉄塊の刃が

振り落とされたアスファルト軽く抉る。

 

 「不意の一撃としては中々だったな、斧使い! だが、このディムルットの首

そう易々と獲れはせんぞ!」

 

 巨漢のブリキの鎧の戦士。人程の大きさの斧は槍で受けるなり直撃するのも危うい。

だが、ランサーとて生前の戦で多くの戦士と相対した。その中には、このような大柄な

戦士との死闘も幾度も行った。故に、このような手練れとの闘い方も熟知している。

 

伐採斧を持ち上げる動作。その僅かな隙をフィオナ騎士団の精鋭が見逃す筈なし。

 フッ―! と呼気を強めると共に体を反転させつつ破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)が

鎧を薙ぎ打つ。と、同時に魔槍が鉄鎧に弾く音が小さく耳に届いた。

 

 (ゲイ・ジャルグが弾かれるとなれば。この鎧、真の鉄塊か!)

 

彼が所持する二振りの魔槍。一本は魔を払いし破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)

残る一本は妖精王から授かれし、如何なる癒しの術すら弾き傷つけられた者は

その槍の傷に侵され死する黄の短槍必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)

 魔力を帯びた鎧であれば、セイバーに傷を負わせた時同様に。サーヴァントであるなら

幻想防具を無視してダメージを与えられる。だが、普通の鉄なら効果は薄い。

 

 (只の鉄……なればっ!) 

 

 「その心臓 貰い受けるっ!」

 

どう考えても、このゴーレムと見受けられる鉄塊の斧使いが急所は胸部に晒された心臓。

 明らかに罠臭くもあるが、自身の魔槍であれば如何なる魔術の罠であろうと宝具の能力を

無視する力でない限りは打ち破る事が出来る。

 

 致死近い斧の一撃を掻い潜り、もう一つの空いた手も逃れ胸部へと腕を突き出し槍を飛ばす。

限界までリーチを活かし、黄槍は心臓の中心に肉が突き刺して何かの膜が破れ水が噴き出す

音が激戦の中で小さいながらも際立って響いた。 よし……これでまずは一体!

 

 ズゥン―― ……

 

鉄の足が前進する音が止まる。体の動きも心臓を刺すと共に動きが少し緩慢になり

自分の元に一歩二歩距離を詰める、と言う所で動きを停止する。

 

 他のほうに視線を遣れば、セイバーはあの剣を幾つも浮かべる少女と睨みあっており。

ライダーは蝶の残る弾幕を雷撃で処理してる所であり、アーチャーはこちらから見る限り

小さな影が周りで飛び回っているのを、あの背後にある歪から武具を飛び出させ打ち落とそうと

しているのが見える。少し気になるのは、手が空いているランタンを持った奇異な鳥と

そして魔術でこれ以上攪乱や追撃するでもなく沈黙を貫き観察に徹するキャスターだ。

 今ここで止めを刺すのは容易いかも知れない。だが、先程の疲弊すら大規模な魔術を

隠す擬態であったのなら、今ここで肉薄しても又なにかしない保障はない。

 

 マスターからの指示は今のところない。この膠着状態に思慮深き主が何か思惑あっての沈黙

ならば自身の思うがままに行動して良いと言う事だろう。

 

 (さて、助太刀するのはセイバーからにするっ!?)

 

瞬間っ ゾグッと今までにない程に背筋に悪寒が走った。

 目前にあった只の置物が、一瞬にして自分を喰らおうとする猪に変貌したような危機感。

 

 あのブリキの木こりが、動いた。目覚ましくも先ほどまでの何処か鈍さが見えた時と異なり

まるで油が挿し終えたばかりの人形にように滑らかに斧を振り上げる。

 

 あの心臓は――破壊すれば、この怪物の真の力を取り戻す制御装置だったと言うのか!?

 

 鍛え上げた肉体の信頼のなすがままに、振り上げた斧が見上げつつも手は勝手に腰に据える

ようにして魔槍二つを脇腹の一つを守るように構える。

 

 疑問視を掲げる前には、その槍を置いた地点に強烈な衝撃と痛み。自分が宙へと舞いつつ

地上と空が逆転しているのが見える。気づいた時には斧で横腹を叩きつけられた訳だ。

 

 「ぐ ぁ……!」

 

小さく呻くと共に平衡器官が一時乱れるが、彼の戦士はクー・フーリーンの鮭飛びの術にも

比肩するほどに敵の城壁や夥しい敵の軍勢を跳び越す名技を担う。

 しなやかな体格を、高所から落ちて反転して見事に着陸する猫のように華麗に体を捻り

地面へと着陸する。打ち付けられた脇が、着陸の衝撃を伝播し引き攣るような痛みが

伝わるものの、未だこの肉体は痛みを押し殺して戦える。

 

 (幾らか猶予は残るものの まさか これ程とはな……!)

 

地面を振動させ、先程よりも一段と早く斧を振り上げて襲い掛かる戦士を見据えつつ構える。

 

キャスターが召喚した戦士。本来サーヴァントと言う性質上、本来の時代で生きてきた時より

どうしても写し身は劣化し、当時に冴えた術や技だって基本落ちるもの。

 

なのに、この斧使いはどうだろう? ゴーレムか、または異界の存在かは判別つかぬものの

このディアルムド・ウア・ドゥヴネ エリンの戦士と互角に張り合う実力!

 正規でのサーヴァントでない、キャスターが呼び出したものがここまでの力を発揮するとは。

 

体が震える 恐怖からではあるまい。ディムルットの口は静かに歓喜の笑みを繕っていたから。

今代の主よ 感謝する。セイバーに続き、こうまでの好敵手と相対出来るとは戦士としての冥利!

 

(だが、些か贅沢を口にする事が許されるなら。

 この斧使いに戦士としての名乗りが出来れば良いのだがな)

 

質の良いゴーレムか、巨人族の亜種なのかも知れぬ生き物には無理からぬ事かと自分の中で

考えを纏め上げ、ランサーは斧使いへと更に闘志の炎を両目に掲げ躍り出る。

 

それに対し、不気味な程に何も発さぬまま。木こりは血と錆で覆われた斧を高々と振り上げた。

 

 

 

(鳥めがっ)

 

ランサーとブリキの木こりが激闘を繰り広げる最中にも、アーチャーは苛立ちを高めていた。

 飛来してきたのは小鳥。時臣からも聞いていたが、ハサンを何の躊躇もなく一撃で喰らう

事が出来ると言う、見かけは間抜けな顔つきをしているが油断ならぬ生物である。

 

 「だが この(オレ)からすれば、蠅も当然よ」

 

 ギルガメッシュの宝具、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から射出される武具ならば

間抜けなハサンのような、豹変した魔獣の一撃を喰らって傷を負うなどと言う愚行を

犯す事はない。次々と射出される、魔に関して天敵とも言える剣や槍に矢など射出していく。

 

小鳥は、その轟音と共に迫って来る武具を偶に回避するものの殆どは着弾する。

だが、簡単には消滅しない。フラフラと飛行は一定でないものの不規則な軌道で奇跡的に

アーチャーの宝具を多段に命中する事なく段々と距離を詰めよっていく。

 

 (チッ……エアを使うか? いや、このような鳥一匹に我の秘宝を晒すなど一笑に附す)

 

彼にとって、このようなもの余興にもならない。今この自分の眼前で悪戦苦闘を続ける

サーヴァント達どれ一つとて対等なものはいない。キャスターと殆どが誤認する

バーサーカーとて、少しの嫌な予感が容易に攻撃する事は制止しているが完全に脅威とは

見なしてはいない。最強は己のみと自負している。

 

 そして、彼の関心は目の前で宝具に撃ち落されるが時の問題である小鳥よりも怪物と英霊

が混戦する中心で何をするでもなく佇んでいるバーサーカーの女性に映っていた。

 

一見すれば、ただ無表情で生気なく全てのサーヴァントや招来した怪物達を見つめてるだけだ。

だが、注意深く観察すればその一挙一動を見逃してない事もわかる。

 

クリスタルで出来たかのような透明な視線がこちらに向けられる。

全世界を統べる王を自負する彼からすれば、対等でありもしない生き物が自分を見る。

それだけでも磔刑百回に飽き足らぬ罪だが、それよりも気になる点があった。

 千里の先すら見通す、魂の色すら理解せしめん彼の目には管理者の真実の一端が見えていた。

 

 (あの女…… ()()()()()() )

 

 本来なら、彼にとって『混ざり物』。例えばアイリスフィールのような雄と雌が

番う事によって産まれるでもなく、人工的に造り合わさった生物と言うのを好まない。

 いや、彼の王にとって価値なしと断じた物は全て誅滅すべしと言う姿勢だが。

 

 目を細めアレキサンドライト色の目が彼女の全体を映す。そして、彼はこう思った。

 

 (――不思議だ。途轍もなく不潔 悪徳 汚物と感じる一方で……アレから

アレの姿から我はエルキドゥを彷彿させている)

 

 セイバーの人となりで正史で彼は、その在り方から生涯の友の面影を見出し求婚に至るまでの

執着を見せた。

 だが、今のアーチャーはどうであろう? バーサーカーの何を以て朋友の存在を見出したのか?

 

 「きさ」    ――……Ar……thur……

 

英雄王は、剣でなく言葉での問かけをなすと言う。彼を知る者からすれば極めて稀な行動を

出しかける前に、異変は起きた。セイバーと対峙する、銀河の髪の乙女から異変が。

それが彼と彼女が互いの理解を遅める切っ掛けとなる。

 全ての歯車は回っていく 恐怖へと あの直ぐ傍にある地獄の火に連なる道へと。

 

 それをLobotomy coopで内と外を見守る者はぽつりと呟く。

 

        「……雁夜。君は召喚時、何を触媒にしたんだ」

 

 セイバーは、飛来してくる剣を防ぎつつも。その攻防により相手の戦術を理解し

反撃の方法をようやく編み出しかけた時に起きた変化に目を見開いた。

 手を組みつつ、黒い涙を流していた乙女は急に痙攣し体をくの字に反らす。かと思えば

背筋を針金のように真っすぐすると共に、その半身の染め上がる黒は全体を覆い……。

 

 

           ――Arrrrrrthurrrrrrrrr!

 

 それが……傷だらけの黒いプレートの騎士と成り代わったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




死んだ蝶の葬儀「彼(切嗣)も哀悼者……苦しみから解放してあげないと!」

罰鳥「こいつ(ギルガメッシュ) なんか随分森を傷つけてるフェイスしてる」

暖かい心の木こり「同じく、こいつ(ディムルット)も」

大鳥「ステンバーイ ステンバーイ」

絶望の騎士「なんか私の中に余計なもんいる うざいナウ」

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