fate/zero x^2   作:ビナー語検定五級

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 自我の殻を打ち破ると共に流れ出る液体 これは黒で出来ている

ダークマター これは知っているな? 
 質量を持ちつつも観測出来ない物質…… 〝ある〟と言うのは証明されている
だが誰もその〝ある〟が何である事が知らない……お前の核のように。

あの乙女が流す涙 会社の割れ目から生じる廃液 怪物達の汗腺と言える
場所から染みるもの ソレ等の黒と同等に 未だ我々は本当の意味で
理解してないのだ。恐怖の意味を 本質を 産まれた時に得たものを

ならば二本足で立ち 多くの黒を採取し 標本にし続けて行けば
やがては理解できるのかも知れないな そう あの女がしようとしたように




Tの導出

「うーん、何とも混沌とした戦場となった物だのう」

 

飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)達が気性荒く、宙で足踏みする度に稲妻が軽く走り

宙へと舞い上がりライダー等を覆わんとする蝶の弾幕は焼け切り、やがて鎮火する。

 その間に立て続けに巨漢の斧使いとランサーがぶつかりあい、銀河の髪を靡かせる

半身少女で半身漆黒の鬼と言える形のものがセイバーと対峙し、珍妙な鳥が命知らずに

アーチャーに躍りかかっている。

 

(キャスターの宝具による大判振る舞いによって、どのサーヴァントも一進一退と

言うところか。あのセイバーとランサーと対峙する者達、単純な力量で言えば

正騎士の二人が優れておるが、相性によって拮抗しておる。あのアーチャーは

未だこの戦局を大いに崩せる隠し種がありそうだが、それを使うのを惜しんでいる

ようだな。ふむ、となれば手が空いているのは余と彼のキャスターのみか)

 

 「面白いっ 面白いぞぉ!」

 

ライダーは心底この場を楽しんでいた。ブリテン王のアルトリア、フォオナ騎士団の

彼の悲劇の騎士ディムルット、そして未だ正体は看破せずとも大量の宝具の担い手で

王の中の王と呼称するアーチャー。そして最後には前者二人を圧倒させる程の大規模な

召喚魔術を披露せしめた謎のキャスターが形成させた戦場の形。

 それ等すべての新鮮さをイスカンダルは満喫してた。

 

「なにを呑気に傍観してるんですかぁ!? さ、さっさと逃走するなり

どのサーヴァントを攻撃するとかさぁ……!」

 

 傍らで控える、彼からすればとても小さいマスターの額に人差し指一発の制裁で

騒ぐのを黙らせて腹の底より宣言を成す。

 

 「ド阿呆! この征服王イスカンダルっ 古今東西の一騎当千の王や騎士が

集いで力と力をぶつける場において、不意打ちなどと言う王にあるまじき事を

するまいで! それに、このような宝具を所持するキャスター。

 ――ますます余は欲しくなったぞぉ!」

 

爛々と目を輝かせ、彼は焦がれた瞳でキャスターと思い込む管理者を見下ろす。

 彼にとっての正道は略奪とも言って過言でなし。一体どのような英霊かは知れぬが

四体のサーヴァントに怯みもせずに大襲撃を繰り出したサーヴァントに対して怒りなど

覚えることはなく、むしろ感嘆と称賛が胸中に浮かんでいる。

 

 (他にも、どうやら秘策を隠し持ってるようだしな。そのどのような色も持たぬ

瞳の奥に何を抱いてるのやら)

 

 身を乗り出し、彼は戦場に手を出す事なく半分ほど物見雄山気分で英霊観察を

行っている中で。激流と言ってよい方向が幾つも変化する戦場の中に引き続き未だ

流れが変わる目が浮かんでいた。

 

 「おぉ!?」

 

ライダーがどよめきの声を発する中、その光景はゴッド・ブルの稲光の下で行われる。

 

「これは……っ」

 

 セイバーに対しレイピアのような鋭い剣を飛来させていた乙女のような鬼のようなものが

合わさった存在。それの黒い半身であった部分が全身を覆ったと思えた瞬間に全てが黒い霧

で覆われたかのような屈強な黒鉄鎧の戦士へと姿を変えたのだ。

 

 気の所為だと思うが自分の名に良く似た唸り声を発しながら、その乙女の姿形であった者は

最初の対峙よりも剣呑な空気を身に纏い、未だ宙に漂っている数本の剣を無造作に両方の手に

一つずつ鷲掴みにする。剣に一瞬光が走ったかと思う束の間、その戦士の姿がブレると共に

セイバーの上空に感じる殺意。顔を上げ、急降下する黒い殺意へと剣を横に掲げる。

 

                ――ガ ギィィンッ!!!

 

 

「くぅ……ぅっ!」

 

強い! 繰り出した剣の重みは、全身の力を振り絞れねば脳天をかち割れそうな威力だ。

 何よりもセイバーはランサーと対峙した時の攻防により、左腕の腱を切られ満足に片手の

指も動かせない状態。その状態での近接戦は言うまでもなく不利な事は伺える。

 

 (何 よりも……! この者から感じる並みならぬ剣圧っ。受け返す、いなして斬ろうにも

双剣がそれを許そうとしない)

 

 「――Arrrthurrrrrr!!!」

 

 赤い神経のようなものと黒い靄が生えたレイピアが一閃 二閃 咆哮と共に振られる

予測された軌道に前以て剣を構え防ぐ事は出来ている。だが、その剛剣と息をつかせぬ

猛攻は、先のランサーとの対戦でも幾らかの消耗を負っているセイバーを着実に先にある

敗北へと近づかせている。常に自身に最適な展開をとらす直感も、このように幾つも

不利な条件が立ち並べば、立ち塞がる敗北を打ち崩すのは容易ではない。

 

(エクスカリバーを、放とうにも片腕が満足に使えぬ事には……!)

 

本来ならば。管理者という異物のない世界軸であれば、このバーサーカーは彼女に所縁深い

存在であり、それ一つであり。十数分前に敵対していたランサーの助力も得られた。

 だが、今の空間では其のランサーも心臓を欲する斧使いの怪物と猛攻を繰り広げている。

目の前の戦士よりは格は下がるかも知れぬが、底を見せぬ動きで執拗にランサーへ出鱈目に

斧を振り回し、ランサーはソレを飛び業師のように掻い潜り立地を活かし街灯を盾にしたり

などして回避するものの、斧使いは枝でも折るかのように障害物を幾多もの生物を屠った

残酷な鉄塊にて、ランサーを両断せんと躍起になっている。

 アーチャーに至っても、小鳥と戯れており積極的にセイバーを助ける意思は低い。

その小鳥も、数回は弱いサーヴァントなら一撃で伏す威力の宝具の武具を受けながらも

少々ふらつく程度で、未だ飛行出来る事は異常な事なのだ。傍目では少々間が抜けてるが

アレも気が抜けば恐ろしい本性が内部に秘めているのが読み取れる。だから黄金の弓兵は

他のサーヴァントを狙うでもなく、小鳥一匹に集中しているのだ。

 

 黒い戦士は、尚も自分を呼ぶように絶叫しながら遮二無二とあらん限りの力で長剣二本の

斬撃の嵐を繰り広げる。全力で、片腕だけでも犠牲にすれば勝てる望みはある。だが、重傷

を負えば、未だ暴れ狂う怪物たちを使役するキャスターはどうするか?

 

(騎士として 恥ずべき事は承知の上 だが。この身を犠牲にしてでも、キャスターに!)

正しき騎士は、守るべき姫君の為にも。この場を切り抜ける為に、自身の正道を汚してでも

目前の戦士の手厳しい連撃に負傷を代償にしてでもキャスターの中核である存在を倒す方向に

思考が寄っていた、その時だった。

 

               パァン――!

 

瞬間、一つの破裂音が剣戟に混じり聞こえた。目の前の剣士の動きが、遅くなっていく。

 刹那、音の聞こえたほうに目を走らせてセイバーは驚愕を禁じ得なかった。

あのキャスターが……ガンドを、この黒い剣士へと放ったかのような恰好をしていたから。

 

 「! はぁぁぁぁ ああぁっっ!!」

 

 理の外の行動であるも、大きな隙を逃すほど彼女も愚鈍ではない。

 その隙だらけの胴体へと力強く宝剣で切り付ける。鈍い破損音 鉄が罅割れる鈍重音。

握りしめた双剣が宙に放り投げられながら、戦士は大きく吹き飛び一つのコンテナに着弾すると

共に土煙が立ち込める。手応えは、十分……だが、安心する暇はない。今しがた起きた

キャスターの狂乱とも言える行動は解決してないのだから。

 

「率直に、いま居る三名のサーヴァントを使役する方達に聞きたいのだが」

 

ガンドを動かす手は、ランサーのほうにも向けられる。だが、そちらもランサー相手でなく

自分が招来した斧使いへと魔力を込めてるであろうガンドが放たれた。

 彼もまた、少し驚きを表情に浮かべるも。直ぐに真顔に戻り斧使いの胴体へとゲイ・ジャルク

ゲイ・ボウの魔槍の刺突の嵐を見舞って、無銘の斧の担い手の戦士を別方向に吹き飛ばす。

 ここまでくると、過ちで自分でなく戦士に動きを阻害する呪いを帯びた弾丸を放った訳でない

と理解できる。この女は 私を助ける為にガンドを行使した事を。

 

セイバーの軽い呆然を意に介さず、彼女は無表情に未だ動かない黒い鳥が忙しなく多数の

複数の黄色い眼球をギョロギョロと動かしているのを横目に鋭く見遣りつつ。

 困惑顔のアイリスフィール。頭上で軽く狼狽えた様子で観戦していた

ウェイバーに視線を向け淡々といった口調で質問を投げかけた。

 

「一昨日の事だ、深山町の住宅街で起きた一家四人殺人事件。

これに関与してるかどうかだけ聞かせて貰いたい」

 

穏やかでない内容だ。セイバーは、剣の切っ先を土煙のほうから管理者へ変えて告げる。

 

 「愚問だ、キャスター。我がマスター及び、このセイバーも 異邦の下々の民に

悪戯な殺生を施す真似、一片の欠片とて意思も行為もない」

 

その胸を張っての宣言に対しても、管理者もとい彼女は何一つとして反応しない。ただ

アイリスフィールに目線が向けられている事から、セイバーは自ずと彼女が自分に対しての

回答を全く耳に貸す気はない事を遅まきに知る。それに怒りを覚えるより先に、残るこの場の

マスターからの返答が生まれる。

 

「いえ、キャスター。その事件に、私達は関係ないわ……私もセイバーも、一昨日は遠い外国で

過ごしていたもの。この日本に到着したのも今日、いえ昨日の深夜になるわ」

 

その言葉に、彼女が微かに納得するように顔を上下に揺らす仕草を見て取って。やはり、この

サーヴァントが他のサーヴァントの言葉を聞く様子がない事が解る。

 

『……キャスター。きみが何故そのような出来事に対し、この場の参戦者たちを挑発してまで

問うのかは理解しかねるが。その質問に対してはNOと、このランサーのマスターは

答えさせて貰うとも。私も、この極東の地に降り立ったのはつい近日なものでね。魂喰いなどと

いった美しくもない行動をするほど、困窮の身ではない』

 

 「わっ 私だって同じだ!」

 

魔術のよる遠隔の声の発信。ロード・エルメロイの声に、彼に苦手意識が根強いウェイバーも

負けない調子で白衣の女に返答する。憎らしい学問の師に少しでも弱味は見せぬとばかりに。

 

そうか、と小さく呟く管理者はそれより先の動きを見せず召喚した未だ残る怪物達を戻したり

する気配を見せない。それにアイリスフィールは未だ何とか穏便な口調で告げる。

 

「あの 納得して貰えたのなら、アレ等を戻してくれれば嬉しいのだけど」

 

その言葉に、彼女は静かながらはっきりとした口調で告げる。

 

「不可能だ。アレ等アブノーマリティは収容から解き放たれてしまえば、活動不可能な程の

ダメージを与えない限りは自身の意思で戻る事はない。

 ……一応、全体を戻す術はある。だが、そちらのサーヴァントと言える者達の干渉でこちらも

余儀しない負荷が生まれた。よって全体を収容するにしても、約十分ほどの時間は掛かる」

 

その言葉に、マスター サーヴァント含め、驚きや顔の顰め 不適な笑み恐怖などの

散りばめた多くの表情が彩られる。

 その中で一早く復帰したセイバーは強く声を荒げて言い返す。

 

 「負荷、だと!? 勝手な! 我々が何をしたと!」

 

『ふむ。宜しければ我々に通ずる釈明を願いたい事だね? キャスターよ』

 

セイバーの言葉に、一切の無言を貫く様子を遠方より観察するロード・エルメロイは

この管理者の性格、と言うよりもサーヴァントに対して冷徹である事を察して積極的に

質疑応答を投げかける。それに対する回答は早かった。

 

「理由は多々あるが、強いて言うならば。そちらの使役する存在の精神汚染だが」

 

『成程な……だ、そうだが? ランサー。誉れ高き騎士と言う割には、随分と

この私に労力をかけさせる真似をしてくれたものだな』

 

 「……っ返す言葉も御座いません」

 

思い当たる節がない訳でなく、生前も呪いと言える黒子で散々な辛苦を味わってきた故に

眉を軽く震わせ、ディムルットは今代の仕える主へと謝罪の意を唱える。それに対して

溜飲が下がるまではいかぬものの、ケイネスはこの管理者の素性が幾らか推察出来ていた。

 

(女性。そして召喚魔術に長け、多くの魔獣や魔道に堕ちている剣士と言えるものも存在する。

今まで目にした所、ソレ等は全てが負の指向性を依ってる所を見ると……成程。

――見抜いたぞ キャスターの真名を)

 

 時計塔の一級講師の人物が、何かの得心をもった頃合い。そこで、大きな破砕音と爆発が

近くより起こり、居合わせるマスターとサーヴァント達の視線がそちらに向けられる。

 

 「――ちっ、よもや(オレ)がここまで雑種共にいいように虚仮にされるとはな」

 

輝く黄金。逆立った同色の髪の下に怒りで形成された眉間の皺と燃え滾るような光が眼孔に

覗かせている。黄金色の籠手が指を鳴らすと共に、その光の門から幾多もの武具が覗く。

 その彼が留まる鉄柱の下では、ピクピクと痙攣する小さな鳥が目に付いていた。罰鳥は

彼に喰らいつこうと肉薄する距離まで飛行は成功したが、如何せん地力が違い過ぎた。

 

全てを統べる王として、頂きの上にいる自分が場を制する事なく名も不明な貧弱な女に

戦局がとって変わられた事。その女の使役する鳥が目の前を邪魔立てする事、どれ含めても

未だ自身の友の面影、いや残滓とも言えるものが何故かその煩わしさの元凶から漂う異質さ

含めてギルガメッシュは怒りを覚えていた。

 

正しき世界軸との異なりは流れを大きく変えていく。本当なら、この流れでアーチャーの

マスターである時臣は令呪に願い、彼の怒りを収めさせ撤退する筈だった。自身の

サーヴァントが宝具を開帳し、そのアドバンテージを失う事を恐れるが故の魔術師として

リスクマネジメントを考えた故の行動だった。だが、いま居合わせるキャスターと皆から

思われるバーサーカー、管理者Xの存在が彼の方針を変えさせていた。

 

(あの赤い頭巾の狂戦士以外に、蝶を模した異形……半身乙女半身怪物で変化可能の戦士

ハサンの一人を瞬殺する事ができる魔鳥と正体不明な夥しい眼球を宿す鳥。

 心臓破壊を発動として活発に戦闘可能なゴーレムと共通性が全くない怪物ばかり)

 

(更に凜になそうとした調略行為……これに、間桐の翁が絡んでるとするならば危険だ)

 

(あのバーサーカーの宝具は底知れない。もしかすれば、彼の英雄王と言えど敗北を喫する

可能性が出て来た以上ここで終焉を確定させる!)

 

遠坂邸にて戦場を見守る時臣は、バーサーカーに対する危険視を十二分に備えていた。

例え、この場で未だ姿を見せぬキャスターと対峙するとて。アサシン陣営と自分が

同盟しているのを半ば暴いた存在を許容する事は出来ない。アレは危険すぎる芽だ

早々に摘みとらなければ、盤石と思えた自身の勝利が危ぶまれる!

 

遠坂時臣は、アーチャーの行動を黙認したのだった。

 

「ま 不味い不味い不味いっ! ライダーっ アレっ」

 

 「ふむっ……ありゃー心底怒ってるようだぞ? キャスターよ」

 

ギルガメッシュの宝具 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

バビロニアの宝具、原典を取り揃えた彼の財は底を知れぬ。その圧倒的な質量を本気で

射出すれば、どのようなサーヴァントとで五体満足で戦闘続行する事は困難だ。

 

セイバー・ライダー・ランサーが結集しても、このずば抜けて他のサーヴァントを凌駕

する無数の宝具を雨あられと降らすアーチャーに劣勢の目が見えていた。

 

(状況は芳しくないのぉ。セイバーは負傷し、あのアーチャーにはフィオナ騎士団随一と

言われるランサーにしても、あの宝具の弾雨を凌ぎきって対峙するのは中々骨が折れるだろう。

余の宝具を開帳するのも決してなくはない手だが)

 

 聖杯戦争、見聞きするに二戦目にして未だ他のサーヴァントの全身全霊の力を目にする事の

ないままに、ライダーは彼自身の切り札と言うものを見せるのが乗り気でなかった。

 

(とは言え、遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)は何度も連発できるもんでも

ないし、小僧の事を考えれば。あの何かを秘めているアーチャーに同乗させて攻め込むのは

如何なものだしな……はてさて、この局面で打つべき手は)

 

(どうする? 風王鉄槌(ストライク・エア)は一度だけ放つ事が出来るのみ。同じく

約束された勝利の剣(エクスカリバー)も、ランサーによって傷を生じた今では

令呪の援護でもない限り放つ事は出来ない)

 

いま此処で逃走を選択して無事に逃げ切れる可能性があるとすれば、音速にすら到達が

可能で遠征できるゴッド・ブルを持つライダーのみ。

 セイバーは左手の腱を切られた事により、宝具の真髄たるエクスカリバーを解放出来ず

遠距離戦として適用出来る技は一度のみでありアーチャーの限りない宝具の射出を

止めるには余りにも役不足。

 近接戦以外では遠距離の戦闘に長けるアーチャーと相性悪いランサーは言うに及ばず

この目に映るものが自身のサーヴァント以外は敵陣営と言う場面で、彼のマスターが虎の子の

令呪を使用してまでアーチャーの撃破に熱意を注ぐ事はない。

 

船頭多くして船山に登ると言うものではないが、この怒れしアーチャーが次の瞬間には数多の

宝具に物言わせての蹂躙戦を繰り出そうとするのを止める手段を持つサーヴァントが状況や

背景の事情も相まって乏しかった。緊迫下の中、一人の溜息が非常によく響く。

 

 「ビナー確保の為にも、余り使用する気はなかったのだがな」

 

 スッ――

 

 「Special Work/特別作業  F-01-69

Der Freischütz (魔弾の射手)」

 

動いたのは、Xだ。彼女は水平に片手を掲げると同時に円形の独特の魔法陣が彼女の隣に

生えて、普通のサーヴァント招来よりは控えめな光の奔流と共に新たな人外が出現する。

 他サーヴァント達の警戒や興味の色の監視の中、出てきたのは管理者よりも長身な

青い大きなクロークを纏う、軍服らしきもの以外の露出してる体の部位は銀河の髪をした

外見の少女の半身と同じく全てが黒い影らしきもので構成されていた。一番目立つのは

その腕に掲げた平均男性ほどのサイズはありそうな禍々しいマスケット銃だ。

 

 「――Request(依頼)  Freikugel(魔弾)」

 

ヴゥン――

 

「むっ!?」

 

全体が黒い影の射手が両腕を動かし、マスケット銃を立ち撃ちの姿勢で構える。

すると、艶やかな色の魔法陣が銃口の先端から小・大・中・小と言うサイズで産まれる。

 それだけならアーチャーも警戒はしても意識を揺するほどの衝撃はない。彼が目に

したのは自分自身の直ぐ目前にも出現した同様の蒼い魔法陣を見てた。

 

出現させた女の言葉の内容。魔弾の射手、魔弾 銃口に連なる魔法陣……となれば!

 

「ちぃっ!」

 

 

       ―ズガァァァァァァァァ――――ン!!

 

おのれ! と睨みだけで人を殺せそうな視線に罵りを乗せつつアーチャーは跳ぶ。

刹那 その彼が乗っていた鉄柱の先端へ轟音と共に青きポータルとなる魔法陣から

管理者の側で構えた魔弾の射手のライフルの弾丸が藍色の光の奔流と共に空間跳躍

しながら発射され、まるで点火し終えた後のマッチ棒のように鉄筋は其の頂上部分を

蝋細工のように半ば溶け、そして倉庫街のテナントの幾つかが円形一直線の穴を

一瞬にして作り出したのであった。

 

超高度な魔術、空間転移による障壁などを無視した貫通力に長けた射撃。

 

「貴様ぁ……!」

 

大地に降り立ち、わなわなと眉と唇の端を震わせつつもアーチャーは彼の持ちたる

黄金の門からの宝具の無慈悲なる連弾を行わない。

 

単なる直線状の破壊力ある遠距離射撃であるならば問答無用でギルガメッシュは

舐めた威嚇射撃を放ったXを、他サーヴァント諸共宝具で虐殺する事も出来た。

 だが、彼女が放ったのは『タイムラグがほぼ無い空間転移での魔法射撃』だ。

何処からでも、やろうと思えば自身の脳天に照準を合わせるようにポータルを生んで

狙撃出来ると言う事は、鎧や宝具の盾を展開する意味が無くなる。

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)に集中すれば、再度あの距離を無視した霊基の大部分を

破損せしめる魔弾が襲う。やろうと思えば宝具を展開するフェイントで魔弾を誤射させ

その隙をついて集中砲火を行う事も出来るだろう。だが、そうなるとライダー・ランサー

セイバーが邪魔だ。アレ等の力量は射出した宝具の数発程度ならバーサーカーの女を

守りつつ防ぎ切る事も可能だ。そうすれば、次弾を発射させ自身に深手を与える事も出来よう。

 

管理者Xが招来したF-01-69こと魔弾の射手が放った弾丸は正に『魔』弾だ。

 その一撃は、徐々に悪化しつつあった戦況を再び膠着状態まで戻した。

 

 「ほほぉ!! キャスターよっ、お主 こんな隠し玉を未だ備えていたかっ。

うむっ、実に良い! 欲しいっ! なぁっ、今からでも余の配下になる気はないか!?」

 

管理者の発現させた魔弾の妙技にライダーは無邪気に興奮する。その他の面子も彼女の

繰り出したアーチャーの虚をついた射撃に対して感心を浮かべたものの、それ以上に

正体不明の彼女さの謎についても更に疑問が深まる。歌劇では有名であるものの

ソレは英霊となるには異質な存在。人々の信仰によって魔弾の射手と言う存在が確立され

招来される事は有り得る。だが、多くの異形の怪物達と共に何故それを彼女は喚べるのか?

 

 「キャスター 一体、貴公は」

 

   ―――Arrrrrrrrrrrrrthurrrrrrrrrrrrrrr――――!!!!!

 

 セイバーが彼女に対し、また沈黙が貫かれる事も覚悟して問いを投げかけんとしたのを

阻害したのは、またしても荒れ狂う感情の木霊を込めた自身の名のような絶叫。

 

土煙が晴れ、そこから黒鉄のソールレットが近代のアスファルトと打ち鳴らされる

ガシャンガシャンと言う音が段々と音量を増幅していく。誰かが、それに声を上げた。

 

 「まだ動けるのか!」

 

 黒いフルアーマーの文字通り狂戦士を体現した存在が固まるサーヴァント達のほうへ

近づいて行く。セイバーが全身全霊で剣で叩き飛ばした時の影響で持っていた双剣こそ

消えていたものの、その体から立ち昇る常軌を軽く逸脱させた異常な執着とも称せる

気配は微塵も薄らいではいない。その姿を認識してウェイバーが震え声で呟く。

 

 「あの、さ……さっき見たいにガンドで動きを遅くさせて、ここにいるサーヴァント

全員で袋叩きにして倒すって言うのは」

 

「移動減速弾に関しては残弾は保有している。然し」

 

 Xはウェイバーの独り言染みた提案に対して返答しつつ、再びガンドの姿勢に移り

ダメージは未だ幾らかあるのか突進こそしないものの余力ある前進をする黒い靄で

覆われた戦士めがけ発砲する……が。

 

 「ArrrrrrrRrrrrrrthurrrrrRrrrッッ!!!」

 

黒き鎧の戦士は、その兜から僅かに覗かせた赤い光を強めると共に。近くにあった

ランサーと斧を結び合った最中に切り払い転がっていた街灯の柱。

 重機でもなければ普通は上げる事も出来ない鉄柱をサッカーボールでも蹴るかのように

蹴り上げて掴むと同時に、Xが指先から放った小さな光の弾丸は

シャボン玉でも払うかのように一瞬にして戦士が握ると同時に魔力の篭った武具と化した

鉄棒の裂帛の気合一閃の掛け声と一振りで掻き消されたのだった。

 

「やはり、O-01-73のA Sword Sharpened by Tearsの変化を見るに、変質した

アレは幻想・物理限らず手元に持った道具をE.G.O Weaponとして扱えるらしいな」

 

 「おっ おっ 落ち着いて感想を述べてる場合ですかぁ!?

どうするんだよっ。お前、いやっ そちらが召喚したサーヴァントだろぉ!」

 

白衣の研究者の、無機質に述べる感想にウェイバーは激しい口調で責める。

 彼の恐怖や困惑は尤もなものだ。死を身近に感じさせる絶対的な貫禄を宿す

アーチャーだけでも末恐ろしさを感じてたのを我慢出来たのは、横に同等の存在感と

風格を担うライダーがいたからだ。だが、今や状況は二転三転となってキャスター

らしき女が呼び出した魑魅魍魎の数々が気が抜けば襲い掛かりかねない状況。

 それに、あの得体の知れない無骨な黒靄の戦士が突撃してくればどうなる?

これ幸いとばかりに、今度こそ彼のアーチャーは満を持して溜め込んだ憤懣と共に

その数々の伝説の武具を降らしてくるだろう!

 

 セイバー、ランサー。居合わせるマスターも近づいてくる脅威に覚悟を決める。

対して、ソレよりも別のものに対し観察者は余念なく目を光らせていた。

 

――そして、遂に『時』が来たのだ。

 

 彼らに、招来してから全く関知する事なく。動きを見せる事のなかった影で繕ろわれた

ような色合いの球体で出来た鳥……大鳥は。

 

 

   ギョロ   ギョロ  ギョロ ギョロ

 

ギョロ ギョロ ギョロ ギョロ ギョロ ギョロ  ギョロ ギョロ  

 

 ギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロ

    ギョロギョロ  ギョロギョロ ギョロギョロギョロギョロギョロギョロ

  ギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロ……

 

 

           ――ギョロ  

 

「永久の平和のために」

"For the Perpetual Peace"

 

 

瞬間、その港に面するマスターとサーヴァント以外は無人の倉庫街の一角は。

 全て 闇に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ――!? この闇は……っ」

 

 全てを埋め尽くす光なき一色の暗闇。何の前触れも危険を感じさせる直感にも

引っかからなかった。保有するスキルによる視覚妨害の遮断の効果も活きない。

 

(これも、キャスターの仕業か? いや、考えるよりも先に)

 

 「アイリスフィール、直ぐにこの戦場から。……!? アイリスフィールっ!」

 

 (居ない!? 何処へ……っ)

 

セイバーは守るべき姫の居所を見失っていた。先ほどまで、直ぐ背後へ控えさせていた

白き乙女は、大鳥の眼球が全て一か所に定まったと同時にその中心から広がった暗黒に

よってアルトリアと引き離されたのだった。

 

 幾ら叫べども、闇の中は静寂である。セイバーは一瞬の迷いの後に風の鞘といえる結界

を解除し、エクスカリバーの本身を晒す。

 

(我が聖剣であればっ)

 

闇と対成す光の剣。アーサー王を語る上で欠かせぬ象徴、幻想の最強格。

 予想した通り、その聖剣から零れる発光は一片の光なき闇を薄めてセイバーの周囲にある

視界を大きくクリアにしていく。

 

(よしっ。これならば直ぐに、貴殿を見つけ出し脱出も可能)

 

この混沌と化す戦場にて、明確なる勝利の花を咲かすのは相応に代償強いる。

何より、守ると誓った仮なれど大切な姫君を。この異質な怪物達が蔓延る空間内で立ち往生

させる等、幾つ命があっても足りないものだ。決して小さくない傷は負ってしまったが

この五体は未だ十分に戦場で武技を繰り広げられる。そう、生きてさえいれば……!

 

            …………Ar……thur……

 

 ゾク と、背筋に走る悪寒。

振り向いて見えるは、この倉庫街で何度もつい先程まで耳にしたノイズ、そして不気味な朱光。

 

迂闊だった。彼女の宝具は、闇の中で一点に輝く太陽に等しく それでいて、この戦士にとっては

とても良く慣れ親しみ、そして幾度も目にし 背けたいと思っていた輝き。

 

聖剣の輝きの中、浮かぶ闇と同化した騎士が魔力で形成された血管のようなものを生やす鉄棒を

構えて近寄るのを、僅かに目を伏せ小さく声を紡ぐ。

 

 「っ申し訳ありません、アイリスフィール」

 

 少し、貴方の元へ馳せ参じるのが遅くなりそうです。

 

心の中で謝罪を述べながら、唇を噛み締めつつ。セイバーは、何度目かの激闘に身を投げた。

 

 

 

 

 

 「セイバー……セイバーっ!」

 

怖い 怖い。まるで、この世界から全ての人が居なくなり、独りぼっちになってしまったようだ。

 

真冬の凍てつく風を凌ぐ防護服も、ある程度の害意が秘めた魔術の遮断も。この音も光も

何もかも吸い込んでしまったかのような闇の前では力を失せてしまう。

 

 (寒い まるで……切嗣と会う前の頃のよう)

 

 アイリスフィールは肩を抱きしめながら、その一点の光なき空間で脳裏に過らせたのは

アインツベルンの城にて産み落とされた頃。まだ心と言うものは出来上がらず

ユーブスタクハイトの手足となり動いていた時節。あの時の自分は、この闇のように手を伸ばしても虚空しか掴めない寒々とした空間を往来していた。

 

 (駄目 思考を停止しちゃ。とにかく この闇から脱け出さないと)

 

このまま自分が何も出来ず倒れれば、自ずとセイバーのマスターでない事が暴かれる。そうなれば

切嗣の身に新たな危険が降りかかる。キャスターの助力が得られかけた機会もあったのだ

 あのサーヴァントはライダーにランサーのマスター、そして自分の言葉にも耳を貸す態度は

とってくれていた。なら、手を結ぶ事も出来るかも知れない。

 

彼女は、ただ切嗣の為にと。愛する夫の少しでも助力になる為にと重い足を動かす。

 だが、行けども行けども闇の迷宮ともいえる空間の出口が見当たらない。

どうして? この倉庫街はこんなにも広い空間だっただろうか?

 

 (――あ    ひ  か  り)

 

段々と気力が薄れ視界が完全に0に近づいて行く中で、ふと遠方に小さな灯が見えた。

 普通なら有り得ない。こんな光を、希望を、生きようとする輝きを呑み込もうとする

ブラックホールのような暗黒空間内に一つとして明りが点くなど。どう考えても

誘蛾灯のような罠であるに関わらず、自然とアイリスフィールはそちらへ近づいて行く。

 

 (良かった、これで この闇から脱却できる。

待ってて 切嗣、イリヤ  すぐに  私 帰るから……)

 

                ガシッ。

 

 その時、力強く自分の手首を握る感触が唐突に走った。

ひっ、と短く悲鳴をあげつつ反射的に振り解こうとするが。アイリスフィールを握る手は

決して緩める事なく、その闇の中に一つ揺れ動いている光と反対方向に引っ張っていく。

 

 「いやっ 止めて! セイバー! 切嗣っ! 誰かぁ!!」

 

               ――大丈夫だ

 

え……っ、と白銀の姫君は拒否の悲鳴を上げるのと左右に激しく動かしていた手を動かすのを

途絶える。その声は   いや 聞き間違える筈は。

 

「切嗣?」

 

 「……」

 

ただ、暗闇の中で。アスファルトに反響する靴音だけが響いた。

 けど その握る手の感触、僅かに見える後ろ姿も。彼女には今まで慣れ親しんだ最も

愛する人の後ろ姿に見えた。そして、掛けられた短い言葉も。

 

 何故? 貴方は別行動をとって、敵マスターを殺害する為に遠くに居る筈。

 

予定を変更したのか。この急展開する戦場に危惧を抱き、方針を変えて戦場に乗り込む

事に決めたのかも知れない。細やかな疑問が浮かんでは消えるものの、直ぐに大切な

人の手の感触に安堵して、ようやく心の中に熱いものを浮かばせる事が出来た。

温度のない極寒の中で裸でいるように、凍えかけていて血流が春の暖かな到来で

雪解けるように手足に再び熱が蘇ってくる。

 決して手放しで喜んではいけない事は解っている。けど、助けに来てくれた。

 

感謝と、愛情の言葉を心の中で唱えながら。体の中に再び活力が戻るのを実感しつつ

暗闇が突如晴れたのを感じた。

 

 未だ夜でありながらも、まるで何十年も外気に晒されなかったかのように夜空でさえ

眩しく感じ、瞼を細める。

 手の中に、未だ自分を守る感触が続いているのを実感し。その方向へと顔を向け

アイリスフィールは笑顔を浮かべ口を開く。

 

 「ありがとう、助けにきてくれて。きり……」

 

――違う。彼女は、微笑みを形成しようとした顔を硬直させ、次に当惑へ移り変わった。

 

 「……キャス ター?」

 

 闇は晴れた。そして、ようやく自分を光なき空間から引き摺り上げた人物が誰なのか知った。

黒い肩まで一房で括った髪。僅かに消毒臭がする白衣、糊が利いたスーツ。

 クリスタルのような透明な瞳。決して喜怒哀楽の表情が出ない顔つき。

 

自分を助けたのが、思わぬ人物であり。そして、何故自分が彼女を最愛の人物と誤認したのか。

その矛盾と不気味さに戸惑う中、あの闇夜のように全く温度を感じさせぬ瞳は自分だけに

焦点を向けている。握っていた手は離されて、代わりに開かれた口が言葉を咲かす。

 

               「君は」

 

              「……私と同じか」

 

 

  ――ビュウウウウィィ……ッ。

 

「え……」

 

 それがどう言う意図で、どのような意味を込めての言葉なのか理解出来ず返答しようする間際

アイリスフィール! と切羽つまった様子で今しがたまで囚われていた闇を払って、肩を上下し

疲弊の色を隠せぬ様子のセイバーが彼女の元に辿り着いた。

 

「お怪我はありあせんか!? っ……キャスターっ、貴公は何を」

 

聖剣を握り直す翡翠の瞳は力強く敵意に満ちている。今にも剣の切っ先を棒立ちの彼女に

当たりかねないのを慌てて割って入る。

 

 「待って、セイバー! 彼女は……命の恩人よ。あの中から私を助けてくれたわ」

 

 招来して、あの空間の形成の原因の根元となるのは管理者だが。それでも、あの闇の中に唯一

浮かぶランタンめいた光。アレは、確かあの多くの黄色い複眼の鳥が宿していたのと酷似している。

 もし、接近していたら自分はどうなっていたかと言うのは余りイメージしたくない。

その発言に怪訝な顔つきを浮かべるも、彼女は闇の中で起きた闘争の決着が未だ完全に付いてない

のを思い出すと、気を取り直して口を開く。

 

「色々と述べたい事は多々ありますが。急ぎ、此処から離れましょう

この暗黒が内包された一種の結界の中に、まだあの襲い掛かろうとした

戦士やアーチャーもいます。長居は無用です」

 

大鳥が形成した闇の中。その内部で発生する音源や光も外側からは認識出来ないが、あの黄金鎧の

サーヴァントや、荒れ狂いし黒い靄の戦士の性質を考えれば中でどれ程の暴走が繰り広げてるかは

想像に難くない。この黒の結界が完全に解除される前に逃げる事が先決だ。

 

 数メートル、その黒いドームから離れたと同時に。

 

                 ――ズゥンッ――!

 

          「……不本意だが。キャスター その命、頂戴仕る!」

 

 飛び出した一陣の影、そして二槍の美丈夫は。ほぼ無防備な管理者Xへと躍り出ていた。

 

その光景に至る、長針が時計の十度程を通過する前に大鳥は闇夜を形成させた。

 怪物達から仲間を守る為に、その仲間達が無くなれば襲われる事がないと言う矛盾なる防衛

鳥の狂気ともいえる意思が織りあわさった黒い森の一角を産む結界陣。

 

 今にも宝具の射出の危険があるアーチャーと、どのような道具も自身の武具に変えてしまう

黒い戦士に誰もが警戒を怠らない中で、ランサーだけは念話でマスターから指示を受けていた。

 

 『ランサーよ、幾らか。セイバー及びキャスターから距離をとれ』

 

 (? ……畏まりました、我が主)

 

 その内容に対して何故と言う疑問は生まれるものの、召喚後から折り合いが余り宜しくない

マスターが寄こしてくれた言葉。再び現世に降り立った彼の夢である騎士として真っ当な

生き様を果たす為にも、特に拒否するものでない彼の言葉に従った。

 

 その後、起きたのが闇の結界だった。然しながら、その前にケイネスが寄こした命令が

完全に闇に体が囚われる前に、その場から逃れる事がディムルットには出来たのだ。

 これは何も偶然ではない。遠方からランサーとの視点のリンク以外で使い魔でも戦況を

観察している彼には。その大鳥の一貫として彫像のように動かぬ異質さに警戒していたし

蝶の異形の存在の魔術を肌で実感した事で、キャスターと思っている管理者の招来した存在

全ての中の一つである鳥に、何もないと言う事などある筈ないと決めつけていたからだ。

 

 黒のドームが完全に形成される前に、脱け出した彼はマスターの明敏な洞察に賞賛の

声を上げるも束の間、次の指示には言葉を失くした。

 

 『では、ランサー。そのまま、お前はこの結界から出てくるであろう

キャスターを仕留めよ』

 

 (っ ですが、あるじ)

 

 『何だね? ランサー。騎士の誇りと召喚時から言葉にしているが

貴様の言う誇りとは。こうまでキャスターが呼び出した魔物の猛攻を防いだうえで尚

一対一で挑む事だとでも言うつもりではなかろうな?』

 

 キャスター相手に、そのような大義を負おうなど笑止千万なのだよと言外に告げる

ロードの言葉に、ランサーは唇を噛み締め眉を僅かに震わすも反論はない。

 

 現状、我がマスターの言葉は大いに正しい。あの斧使いの戦闘や、アーチャーが対軍に

比うる宝具を発射せんときも擁護して貰った故に、あの子女は自分等サーヴァントに

決して好意的でないものの、根っからの悪性とは思えない。

 だとしても、自分の騎士道を主張したところで。相手はキャスター、正々堂々と

掲げる武具を互いに主張して尋常に勝負といえないのは確かだ。

 

 マスターの言葉は全て理に叶っている。だが……だが!

 

 「し……しかし、あの者は私やセイバーにも助力を」

 

『自身に有利な状況の為に、セイバーや貴様を一時的に手駒として使う策略に過ぎない。

これ以上なにか言うのであれば、令呪に命じても良いのだが?』

 

この今の状況は、ケイネスにとって中々悪くない状況だ。キャスターが大いに

働いてくれた故に、ランサー自体の消耗も殆どないし、最優のセイバーのダメージも

蓄積されている。そして、一番の働き手は今まで目にしたサーヴァント中での最弱。

 

セイバーとの交戦で、彼女相手に好敵手としての一種仲間意識をもった彼の事を

マスターのケイネスから見れば、道具が何を勝手に絆されてるのかと言う感想以外ない。

 然しキャスターの兵相手に、幾らか連携をとったセイバーを討てと告げても

大いに反抗しそうな予感のあるサーヴァントだ。なら、敵対する魔女を討てと告げれば

否が応にも承知するだろうと、魔術師としての怜悧な理論からの命令だった。

 

 数巡の黙考のあと、結局ランサーはその言葉を呑んだ。

これよりも仕えし忠義を向ける相手に、令呪でまで自分の心身を操られ敵を刺すぐらいなら

自分の意思で、いずれは戦争で討たないといけないキャスターに今ここで引導を渡そうと。

 

 (完全なる 隙。どのような魔術の防護あっても、我が破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の前では)

 

pi pi pi pi

 

無意味。と唱えつつ長槍は鮮やかに紅の穂先を輝かせて、こちらに振り向く横顔に迫っていく。

 

pi pi pi pi pi pi pi pi

 

 セイバーも、アイリスフィールも距離的に彼女の間合いに一瞬で割り込む事は出来ない。

アレが抱える魔物達の殆どはドームの中。魔弾の射手の招来する時間もなかろう。

 

 終わりだ。せめて痛みなく一瞬に……っ。

 

pipipipipipipipipipipipipipi                

                 ――キィィィ……ン

 

                  F-02-44  カウンター0

 

驚愕を短くランサーは唱え、突進する体を止めた。彼と彼女を挟むように突如あの不思議な

形状の魔法陣が突然形成されると共に、そこから魔物と思える存在が出て来たから。

 

(無詠唱の召喚かっ?! かなりの高度な魔術を最初の召喚時から施行するとは思っていたが)

 

いや、注目すべきはそこではない。この目の前にいる魔物は何だ……。

 赤い 赤いダリアの花。ねじれた角、腹側部に赤い大きな傷跡があり後ろ足はまるで黒い

大きなカマキリのような昆虫の節足で出来ている。

 

 『なにをしているっ ランサー! そのような怪物、貴様の宝具でっ』

 

 「……駄目 です。主  私は 私はこれを討つ事が出来ません」

 

 「これを……仕留めた瞬間に。私は生前と同じく憂き目の佇みの中で死を迎えるでしょう」

 

 何を言っているのだと、叱りつけ令呪で無理やりにでもキャスターを排除しようと試みる様は

その前に、黒いドームから上空へと飛来しalalala!! と蛮声響くと共に、最初の正騎士二人が

挑みあったのに水差した時と同じライダーの登場によって済し崩しに失敗した。

 

 舌打ちと共に、ランサーに撤退を念話で指示するマスターに。謝罪を返しながら心中では安堵し

目線で、次回は尋常なる決闘をセイバーに願い。そして複雑な感情込めた視線をキャスターに

一瞬向け、彼は霊体化した。

 

 「ふむっ、今宵は中々楽しかったぞ。セイバー、そしてキャスターよ

また巡り合った時には、この征服王イスカンダルの配下となる事 いま一度よく考えてくれよ」

 

 多くの出来事に魂と意識を半ば抜け落ちたウェイバーに、呆れる仕草を交えてライダーも

立ち去る。そうして、セイバーとアイリスフィールはようやくこの戦場から拠点に戻る為にと

近くに駐車させていた場所に戻ろうとする。

 だが、付かず離れず歩行音が一つ減らない事に。無言で二人は振り向き、その二つの瞳は

クリスタルで帯びた視線に対し、沈黙で何故同行しようとするのかを問いかけた。

 

 「……申し訳ないが。宜しければ市内まで帰還する交通手段を持っているのなら

私も送迎して頂きたい」

 

「送って欲しい……って。貴方、キャスターでしょ?」

 

魔術で、幾らでも此処から遠くに行くのなんて可能じゃないと言わんばかりのアイリスフィールは

この湾岸区の港に面する場所で、多くのサーヴァントを目にし 数々の衝撃を受けては

死の危険にも晒されて、これ以上動じるような事はないだろうと思えたのを

また見事にその目の前のキャスターと……いや、その内容が出るまで

キャスターと思っていた者の言葉に彼女ら二人は取り乱すのだった。

 

 小さな溜息と共に、白衣の女性は夜風で頬に張り付く髪を払いつつ告げる。

 

 「ずっと、訂正しようしようと思いつつも、言う機会が出る前に急変が起こり続けていたので

ここまで指摘する暇がなかったが、ようやく言えるな」

 

 「――私はバーサーカーと言うクラスで顕現している」

 

 

 

 

……冬木市 ハイアットホテル。

 

外国人旅行者や、地方の旅行客なども冬木を訪れる際に宿泊施設として利用する一般及び

富豪層にも利便性が高く、サービスにおいても現代の中では充実している。

 その高層ビルの最上階近くにて、ほぼ全ての家具が外国のブランド品等で構成されるか

普通の人には一目では分からぬ高度な魔術にて施された代物が点在する室内にて一人の貴人。

 生まれながらの貴族と言う出で立ち、そして魔術師の最高峰に位置するロンドン塔の麒麟児。

人呼んでロード・エルメロイ。その彼は容易に不機嫌と言う表情で、傅くランサーを侮蔑を

込めた目で見下ろしながら告げた。

 

 「良くも、まぁ。この私に恥をかかせてくれたな? ランサー。

……して、だ。貴様があぁもキャスターを消すのに これ以上ないと

言う程の好条件の最中(さなか)で、だ。

 あのような零基も取るに足らぬであろう魔物一匹に躊躇して尻尾をまいて逃げたのを

どう説明するつもりなのかな?」

 

 幾らか柔らかい言い方ではあるが、アーチボルト家の後継者は至極まっとうに

怒りを抱いていた。もっと彼の性質が荒ければ鞭か月霊髄液にてランサーの

体に罰を与えていたであろうと言うぐらいに心中は穏やかでない。

聖杯戦争と言う魔術儀礼において、自身の許婚を勾引(かどわ)したばかりか 碌に命令に

実直に動きもせず、さらにはサーヴァント中もっとも最弱なキャスターは倒せぬと言う軟弱振り。

 

下手な言い訳をするならば、令呪を二画使用してでも自分の言う事以外何も消えぬ操り人形に

してやろうかと暗い思考に因る中、返された言葉は想定してたものと外れていた。

 

 「主は、私の伝説については何処まで詳細を織っていられましたでしょうか」

 

「なに? ……言うに事かいて痴れ事を。この私が、召喚する英霊の歩んだ歴史に関し無知のまま

呼び出すような蛮行をするとでも言いたいのかね」

 

 「いえ、申し訳ありません 失言でした。ならば、この名も耳にした事がおありましょう

――サングリア・デ・ベン・ブルベンの名を」

 

 その言葉に、少しだけ体から発散させていた怒気を消し。側頭部を人指し指でノックして

考えてから、ソレが何を意味するか理解して 彼は顔を大きく顰めた。

 ランサーに対する怒りからでなく、彼の出した問いによる真の解答を知ったが故に。

 

「まさか あの時、キャスターが呼び寄せたのは」

 

 「えぇ  間違いなく  ―――魔猪です」

 

……ディルムッド・オディナ

ドゥンの息子。若さの神、妖精王オェングス、海神マナナン・マクリルを育ての親に持つ

フィアナ騎士団の悲劇の騎士。

 彼の顛末と言える最後の末路は魔猪と相打ちになった事が死因の直接の原因である。

そして、何より彼らケルトの戦士には『ゲッシュ』と言われる誓約があり。これを死するまで

尊守する事で神々の祝福が得られ、破れば多くの禍が自身に降り注ぐ。

 

ディムルットの数々の英雄譚と言える中で、一番大きく挙げられるだろう誓約。

その一つは『婦人の頼みを断らない』そして、もう一つは『猪を狩らない』だ。

 

ディムルットは、キャスターが呼び出した? のが魔猪だと認識した。例え、完全に姿が

猪でなくとも、当の槍騎士がその存在を魔の猪だと体と心が理解したのだ。

 

彼の状態に、頭痛をおさえる姿勢で歯茎を出して唸りかねない顔つきでケイネスは悩む。

 

(キャスターめ……まさか、ランサーのゲッシュに完全に起因する魔物を飼ってるとはな)

 

こうなると、完全にキャスターは鬼札だ。宝具だけなら、サーヴァント中での実力派な

アーチャーに互角の引き合いを見せ、セイバーも劣勢に強いる戦士も保有している。

 そして、今度はランサーの完全なメタと来た。どうあってもケイネスとしては早期に

キャスターには脱落、願わくば他サーヴァントも道連れにして貰いたいのが実情だ。

 

「……ケイネス。今の状況になった事に関して、ランサーには何の咎もないわ。

そう責めるのは可哀そうじゃなくて?」

 

 彼にとって、ランサー召喚時から頭を一番に悩ますものが側に立ち。それを顔に出せず

悶々としたものを抱えつつ、横目で自分のフィアンセを見遣る。

 

 「あぁ、わかっているとも。然しながら、ランサーのゲッシュを幾らでも取引材料として

優位にキャスターが立てる今。あの時に、セイバーやライダーが阻害するリスク抜きに

魔猪を無視してても倒せなかったのはな……」

 

「けれど、そうしなかったからこそ。今ここでランサーは健全と舞い戻る事ができたのよ。

戦局を冷静に見据えて動いてるのは、彼よ」

 

 (ソラウ……君は解ってないんだよ)

 

 一体どこで歯車が狂ったのか。あの小憎らしい弟子から聖遺物を奪われた事もそうだが

セイバークラスが既に埋められていた事、そして、よりにもよって召喚したのが乙女を

魅了する呪いの黒子を宿す、このランサーだった事だ。

 

全てが順風満帆だったと言える時計塔での生活から、この大規模な聖杯を勝ち得る為の儀式

へと赴き、アーチボルト家9代に大きな華を自身が添えようとした行いの何処に暗礁へ

乗り出す所があったのか? 魔術師が功績を築き上げる為に、自身がしてきた今までの

行動には何の不備もなかった筈。そう……私の行動に過ちなど無いのだっ。

 

 (そうだ、あぁそうだとも。此度の聖杯戦争と言う大掛かりな魔術儀礼とて、この

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトからすれば茶番も当然。全てのマスターに我が

ロードの洗練されし魔術の妙技を見せ付け、屈服させ。最後に我がサーヴァントが抱いてる

であろう凡性な欲を解消させてやり、消せばチャームの力も消える。

 そうすればソラウの変調も無くなり、所詮これまでの蟠りは胡蝶の夢であったと知れるとも)

 

彼は誇り高い。だが、誇り高さは傲慢と等しい。彼女に向ける確かな愛も、その自身が培った

驕りとも言える自信が邪魔し、真摯に向き合わなくてはいけない人物と向き合えずにいる。

 

 本当なら、その夜にでも放火を報せる電話が鳴り響いた。そして、この時空でも電話は鳴る。

 

 「えぇ……あぁ、私がアーチボルトだが。…………なに? 

…………宜しい。勿論こちらのサーヴァントは引き連れていくか、それは構わんかね。……あぁ」

 

カチャン……。

 

 「どうしたの?」

 

電話での会話をするにつれ、段々と普段の面白味もない静かな昂然を帯びた夫の様子が

何やらきな臭さと調子が崩れるのを目にし、ソラウは尋ねる。

 

 それに、受話器を置いたケイネスは珍しく歯に衣着せぬ様子で。ゆっくりと自分自身にも

整理を付ける様子で呟く。

 

    「……バーサーカー陣営が同盟の打診に我々の元に訪れたと言う」

 

 

 

 ……正史は崩れていく。不純物(X)が、段々と世界にその存在を肥大化させて

本来の流れを、もっと別の もっと異なるうねりの中に。

 

 そして……。

 

              「ガキ 側を離れるなよ……っ」

 

         「キハッ  キハハハハッ! 想定外! 想定外!!

     面白い 最ッッ高に面白いわよ 貴方! 狂ってる 狂ってるのに

     狂いきって180度廻ってとっても正しい人類の味方さん!

      もっと もっともっと楽しませてよ! このフランチェスカを!!」

 

 世界は狂っていく。本来起こり得ない筈の異物は、更なる異物を呼び寄せていく。

 

 

 

 

 

 

 

 




愉悦神父「よく、彼女の事は知らないが。招待して良かったのかね?」

愉悦先輩「なに、長年の別離を交わした旧友と折角再会出来うるのだ。
子羊達のソテーを晩餐に、大いに感動の祝杯を挙げて貰おうではないか。
よくよく考えれば、数百年夢を叶えず腐っていた人物に一世一代の
願いを果たす舞台を用意し、同じく生前の友との再会の機会を与えている
私は、かなりのお人好しだと思わないかね?」

愉悦神父「然り 然り」
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