fate/zero x^2   作:ビナー語検定五級

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管理者が冬木市に戻る頃、鶴野がホテルへ帰還する間の話です


談合:幕間

緊張から解放された彼はハイアットホテルの窓から見える、遠方の繁華街の光

自動車や街灯など動いたり動かない小さな明かりを何も考えず眺めていた。

 

全く生きた心地はしなかった。何だあの魔術師は? 妖怪爺いは生まれつき既に

化け物だった為に、そう言う存在だと括られてるから納得出来るが。偉ぶった

あのケイネスと言う人物は、ほぼペーパー魔術師の鶴野でも見ただけで全身から

発される魔力の濃さは最高峰だと感じられた。隅に控えてるランサーに至っても

Lobotomy coop内で見たハサンと違い圧倒的な凛凛しさと凄味がある。

 あれが爺いが口にしていた、戦争の正騎士の三騎の内の一人と言う奴かと

心底身震いがする。よくもまぁ、あの愚弟はあんなもの達と闘う事を決めたものだ。

尊敬と言う気持ちは全く芽生えずとも、無謀だと言う呆れの感情は泉のように湧く。

 

(いや、それより驚くのは……そんな奴等を目にしても余り取り乱さない自分自身か)

 

いま働いてる会社内で直接命懸けで給仕したり 話しかけたり掃除したりする存在は

聖杯戦争の英霊と同等の力を備える怪物ばかり。最初は泣き叫び、床やら配管に

齧りついてでも作業を拒否してたが。いま目の前でケーキを貪り食う上司と、その

同僚等によって泣く泣く自分もエージェントと言う者達と同じ行動をとる内に

段々と度胸が付いてきている。いや、恐怖や生存本能麻痺しちまってるんだ。

 

 あの何考えてるかさっぱりな女の所為だと何度目かの軽い怨嗟の声を心中に浮かべ

あの魑魅魍魎の巣窟に引きずり込まれる前なら時計塔の魔術師やサーヴァントを

前にしても震え上がるだけで喋る事も出来なかっただろう。

 だが、気づけば同盟関係も取り付ける事は出来たし、そいつ等が上層にいる中で

呑気に茶と甘菓子を口にする余裕さえある。

 

いや……ケーキに関しては目の前の菓子魔人が秒内で消費してるのでアウトだ。

これ以上見れば、胸やけどころか以前治療した筈の虫歯部分が痛みかねない。

 

「お前 もうそろそろいい加減止めとけよ?」

 

 「ひゅるほはひーへふほっ! ふわっへほふひひはへひふ ひゃへふはへへしょ!?

ふぁはひ ひふはほわはひへふほっ!? ひ ふ は!」

 

「全部食ってから喋れや!」

 

 「ゴクンッ!!

 ツルノはいいーですよっ! すわって用意した台詞 喋ればいいでしょ!?

わたし 淫魔呼ばわりですよ!? い ん ま!」

 

生前でも死んだ後でも、今まで言われた事のない人生初めての屈辱ですよ! とプンプン

目の前の彼のcoop内上司 ユメカは怒りのケーキの自棄食いに没頭する。

 交渉が終わった後、使い魔などの監視圏内から外れるやいなや滝のような涙を

流したのはギョッとしたものだ。そして理由を聞けば、それが自分に対する侮辱の発言

によるものだと言うのだから始末に負えない。ついさっきまで保っていた緊張感は

バイキングコーナーに入る頃にはすっかり消え失せていた。

積んだバベルの塔染みた皿の山と、そして今も置いてあるケーキを見て。

周囲からの畏れる視線に羞恥心は爆発寸前だ。

 と言うか、こいつの胃袋は本当にどうなっているんだ。主に内臓器官全ては

今のご時世の女は、甘い物は別腹とかテレビで見た気がするが。これは別腹と言うか

ブラックホールとか、そう言ったものじゃないのか? いや、魔力で出来てるのなら

腹の中に入れた瞬間、全てがエネルギーに還元されるのか。便利だな、サーヴァントは

 もういっその事サーヴァントをケーキに変える魔術でも編み出して、こいつに

全部食って貰えば戦争だって集結するだろう。

 

下らない思考を少し脇に追いやって、もう少し建設的な話でもしようと思う。

 

「つーかよ、戻らなくて良いのか? 俺達、こんな場所でのんびりしてる余裕ないだろ?」

 

管理者と言われる、あいつには仕事が終えたら帰還しろと言われてた。明確な時間を指定

されてた訳じゃないが、早めに戻るに越した事はない。

 

 「あー、ツルノには伝えてませんでしたね、まだ。

管理人から、このケーキバイキングに入る少し前ぐらいに連絡が来ていて

貴方にとっては義理の姪っ子さんになるMiss桜と同行していたゲブラー様との通信は

回復して居場所は把握出来ましたので。管理人が市内に戻るまでは衆人のいる中で

待機して下さいとの事です。迎えの車は来るらしいですよー」

 

何でも、人を襲うような危険なアブノーマリティ……サーヴァントが確認されたんですって。

と、他人事のようにケーキを頬張るのを見て青筋が回答を受け取った彼に浮き上がる。

 

「おまっ……! そう言う事は早く言えよ! んなヤバイ奴が居るんなら早く戻るほうが」

 

 「もーツルノ、落ち着いてくださいってばぁ。この戦争のルールって神秘の守秘が重要項目

なんでしょう? だから、人がいっぱいいるホテルにいればノコノコその建物に襲ってくる

ようなのは居ませんよ……多分」

 

「なんで断定じゃねぇ語尾なんだよ!?」

 

例え一般人が沢山いるような、全国に情報拡散されそうな場所であろうと平然と虐殺を

愉しみそうなセフィラが一人心当たりあるユメカとしては、この甘い一時がそんな

悪魔より恐ろしい存在が介入して来ない事を祈るばかりだ。あれは遭遇すれば回避不可避

な悪夢と言うか何と言うか、筆舌し難い彷徨う天災なのだから。

 

ツッコミつつ、目の前にある茶を飲んで平静さを僅かに立て直して質問をする。

 

「ゲブラー様ってのは?」

 

 「セフィラです。と言っても、詳しく鶴野にセフィラの内容を話した事って多分ないですよね。

謂わば会社の大きな歯車の一つです。ネツァク様は、一番最初に見た事があるでしょ?

 私達の会社は、上層・中層・下層の三つに分かれてまして。全部で十人の大きな権限を有す

方達で仕切っているんです。管理人も、セフィラの一人ですが序列で一位と言う事ですね」

 

ゲブラー様は、セフィラ切っての唯一の武闘派なんです。と、補足説明しつつユメカは

新たなケーキを目の前に置く。もはやソレに何も言わず頬杖をつきつつ鶴野は呟く。

 

「そんな強いのか」

 

 「強いなんてもんじゃないですよー。アブノーマリティの数体位じゃ、あの方を押し留める

事は出来ないですからね。今は力をセーブしてますけど、完全に開放したらエージェント全員で

綿密に作戦を練って波状攻撃なり何なりしても太刀打ち出来るかどうかってレベルですし」

 

「……なぁ、そいつ人間なのか?」

 

 「生前は間違いなく人間だったと思いますよ。今はセフィラですけど」

 

いや、だからセフィラって結局何なんだ? あの化け物共と互角か、数体でも蹂躙する事が

出来るって、ソレのほうがもう化け物じゃないか。もう、そいつに聖杯戦争に出て貰えよ。

 と言うか、それを部下に出来るアノ管理者もどう言う奴なんだよ?

 

質問するだけ、疑問が次々と出てくるのに頭が痛くなってくる。更に踏み込むと寝ている獅子

を起こすような禄でもない事になりそうな予感がビシビシとしている。故に、彼は追及の

代わりに長い溜息だけを吐くに止めた。

 

 「もー ツルノ。幸せが逃げちゃいますよ、そんなに溜息ばっかりついちゃ」

 

「うるせっ。……あのサーヴァントを見て、目をハートマークにしてた癖によっ」

 

普段から発破をかける為の工夫なのか、それとも鬱憤晴らす為に自分を利用してるのかと

思うぐらい口の悪さが出る時も目立つ女だ。だからこそ軽い意趣返しと言う感じで皮肉を飛ばす。

 だが、相手は水をかけられた蛙と言う感じで涼しい顔でケーキを食べ進めている。

 

 「あー、あれですかぁ? 演技ですから」

 

「……は? いや、お前 あれはどう見たってよ」

 

 「あはは ツルノ、本当にアレは猫被ってただけです。精神汚染……チャーム魔術って言うもの

ならLobotomy coopでも数体は発するアブノーマリティはいますし。私これでもエージェント歴

は結構長いんですよ? 見た瞬間に意識喪失させるような代物でない限り平気です」

 

あのアブノーマリティは確かに顔立ちは中々整ってましたけど、とショートケーキの上にのった

苺を頬張りつつの感想だ。

 嘘や虚勢と言うわけでなさそうだ。誑かされてるのなら、少しはあのランサーとか言う奴を

擁護するか、味方としての発言もして良さそうなものだが、こいつは何時も通りだと解る。

 その様子に、何故か自分が安堵や喜ぶような複雑なものが胸の中を渦巻いてるのを無理に

誤魔化すように、少しだけ残ってた茶を一気に飲みつつ喉を潤す。吐息をつきつつ会話を続ける。

 

「まぁ……お前が平気だって言うんなら、別にそれで良いけどよ」

 

 「心配してくれて有難う御座います。管理人から軽く説明を受けて、少し心配はしてましたし

最初は顔を見たら、背筋が熱くなって意識がふわっと浮き上がるような感じがしたんですけど。

 普段のアブノーマリティの世話だ、気を抜いたら終わりだって思ったら一気に冷めましたよ」

 

「そりゃ、そうなるよな」

 

黒子の呪いだか何だか知らないが、普段から超常の存在に毎日死ぬか生きるかの綱渡りな生活

してるのだ。チャーム自体は女性特化で、レジストは一定レベルなら可能だと言うハードル低い

事を抜きにしても、ユメカ以外の女性エージェントでも魅了される奴は殆どいないだろう。

 

ちょっとお手洗いに行ってきますね、と席を立つのを見つつ。ようやく一人静かになれたと

ほっと一息ついて、今度はゆっくりと茶を入れて口に含む。

 

(酒……そういや、もう最近ほとんど口にしてねぇ気がする)

 

強制的に禁酒して数日……いや、一週間経ったか? どうにも体感時間が曖昧だ。正確には未だ

三日か四日ぐらいしか、あの会社に拉致されて経ってない筈だが。あの会社内で過ごしてると

どうにも竜宮城の浦島ではないが、長い時間過ごしてる錯覚に陥ってしまう。

 アルコール中毒の末期だった自分だが、毎日が死と恐怖の隣り合わせの衝撃の連続で酒を

欲しようとする前に、生きる事に精一杯で。この前、冬木のセンタービル方面で帰りがけに

買った数本を寝酒に一口ぐらいしか口にした記憶がない。

 だとしても、成人してから三十路手前まで年がら年中ずっと晩酌を続けてきた自分が

この魔術師達の常軌を逸した戦争が終わった後で、生まれ変わったと心を入れ替えて禁酒し

真人間になると言う事はないだろう。例え、妖怪爺いがこの世から消え去っても。

 犯した罪が消える訳じゃない、染み付いた恐怖や自己嫌悪が無くなる筈はない。

慎二が帰ってくれば、あの爺いから解放された吉報こそ伝え……伝えた後、俺はどうする?

 妖怪爺いに命じられたからと言って、痛めつけた娘は恐らく遠坂の元に還される。

あの弟も、全てが終わったら。また根無し草となり世界中を転々して、時々は冬木に顔を

見せる事もあるかも知れないが、それでもあの家に戻る事はないだろう。

 俺はどうする? 慎二を成人まで育て上げるのはまず間違いない。間違いないが……。

 

(――そうか。俺には、俺自身の展望ってのが全くないんだ)

 

考えてみれば当たり前だ。ただ目の前の暗い現実に直面し絶望して、素質が無いと言う

魔術師の世界では落第生なれど、外道の魔術師にどっぷり染まる事を忌避していた

自身から見れば願っても無い幸運と受け取り、間桐と言う大樹の割れ目から出る蜜の

おこぼれを吸って生きてきたのが俺だ。

 

ずっと、ずっと。妖怪爺いの影で、慎二が誰かと子を宿し、それが魔術師の素質あれば

新たな傀儡となるのだろう。それをただ憐れみつつ、そうならなかった自分を安堵して

ひっそり墓の下に入る。つい数日前まで、その未来は当たり前だと考えていた。

 だが、世界は変わった。あの弟が呼び込んだ鬼札は、まさしく自分達間桐を狂わす者

であり長く続いた家系を終わらす者だ。例え、この戦争で聖杯を獲得する勝利者か

敗北するなれど。絶対にあいつは人から外れたアレが世に蔓延るのは許容しないと

断言していた。なら、それは遂げるのだろうと確信めいた予感がする。

 

間桐臓硯が滅びる。それは俺にとっての解放、慎二も魔術師の道などでなく自由な未来を

掴む事が出来ると言う事だ。

 アレが消えたら自分はどうすればいい? 何か趣味でも持つとか? いや、そんな

老成するまで仕事一筋で生きて来た殊勝な人間染みた考えが出来る奴か俺は。

 犯した罪を償わず、慎二の成長を見守りつつノウノウと生き続けるのか。

 

少し前までなら、それでも構わないと思っていた。少し前までなら

 

「ちっ……あいつ何時までかかってるんだ」

 

御手洗いから戻らない彼女に対し意識をやって、懊悩を打ち切る。まだ先に対する

答えを出すのに、気持ちの整理は出来ないでいた。

 

 

 

 

「……Fポイントへの設置 完了」

 

黒髪のショートヘア、全体的に引き締まった筋肉による曲線美が西洋の美しさとも異なる

和と言う名の美しさが際正せている。久宇舞弥は、各ビルの支柱へとプラスチック爆弾の

設置を丁度終えた所であった。後は、安全圏に避難してビルを爆破すればランサー陣営の

工房を完全に破壊出来る。その前に民間人の避難や、ランサーのマスターが居残る為の

暗示などの前準備も残っている。魔術の手解きは切嗣より受けたが、そう言った暗示の

魔術は破壊工作などに比べ不慣れである事は自覚している。だからと言って、不得手で

ある事を理由に拒否しようなどと考えは欠片も浮かばない。全ては切嗣の勝利の為に。

 

 人が出入りする事は殆どない建築の中心部分を抜けて地下駐車場のあたりへ出る。

僅かな体に付き纏う疲労を紛らわせるように首を回す。

 あのキャスターであろうサーヴァントが召喚した魔物の所為で、予定してた計画にも

遅延が生じた。主に切嗣は精神的な負荷が大きい、今は近くの安ホテルで横になっているが

まともに体を動かせのは早朝まで掛かるだろう。自分一人でやるしかない。

 

駐車場近辺に、人気は殆どない。幸運だ、なるべく人の目に触れずに完了出来れば。

……? いや、違和感がある。今の時刻は深夜に差し掛かるが、それでも全く駐車場辺りから

人が居ないのは不自然ではないか。

 

戦場で鍛えられた勘に従うままに、携帯しているグロッグを引き抜く。

 

「……あちゃー、気づきましたか。なるべく穏便に気絶なりして終わりたかったんですけどね」

 

間延びした、緊迫感と無縁そうな女の声が柱影から生じる。私はこの声を知っている。

 グロッグ17の引き金に指をかける、既に人払いの結界がなされた駐車場に銃声が轟く。

 

「のわっ!? ちょっ 普通前口上ぐらい言う暇与えるでしょ! 

空気読めない人だなー もうっ」

 

柱の影に隠れた。前傾姿勢に移り、駐車してる自動車の死角に移動して射撃地点を変更する。

 

「ねー、そう行き成り喧嘩腰にならないで、ちょっと話しませんか?

 私の上司も、そちらの陣営さんとは仲良くしようって姿勢なんですよ。まぁ部下には部下

なりの方針の違いとか、報連相の食い違いがあるって言うのは承知ですけどね。

 そんな銃をぶっ放してたら、後でホテル駐車場で起きた事件として持ち上げられて

此処のホテルも暫く立ち入り禁止になっちゃいますよ。そうなると、二度と私が此処で

ケーキバイキングに参加できなくなっちゃうんで止めて欲しいのが切実なんですけどー」

 

その内容が内容だけに、隠れ甘党な舞弥は一瞬体の動きを止めるも。直ぐに乗り物の影から

飛び出して連射射撃を試みる。少しだけ間が抜けた悲鳴と共に、またアノ女が遮蔽物へ隠れた。

 肩には一発着弾したのが視認出来た。

 

「いったー!? その弾、間違いなく魔力篭ってますよね! めっちゃ痛かったです

本当滅茶苦茶痛かったですよ!」

 

ふざけた発言だ。遠距離の攻撃手段は持ち合わせてないのだろうか? いや、油断はしない。

 あの蝶の姿をしたサーヴァントとの交戦による完全な敗北を受け、切嗣に自分も対策を

打ち立てなかった訳ではない。用意していた銃弾には、出来うる限りの強化や対英霊にも

通ずるように加工されものに変更した。それでも本物のサーヴァントに対して豆鉄砲ほど

の威力にしかならないだろうが無いよりはマシだし使い魔程度なら殺傷可能だ。

 

(通用するなら予期していたがサーヴァントが召喚した使い魔か)

 

記憶の中では、間桐の現当主と同行してた光景の1シーンが脳裏に過る。

 あの時から既にサーヴァントを間桐家は召喚していたと言う事だろう。

中々の策士かも知れないが、この銃弾が通用するなら話は早い。迅速に処理して

計画を遂行しよう。

 

「あーもう、話し通じない人だなー……ハァ 穏便に終わらせたかったんだけどなぁ」

 

声は幾分陽気さが含んでたが、それが消えた。そして隠れる柱から僅かに魔力と思える

密度が濃くなっていく……宝具かっ。

 

(此処で爆破させれば、この使い魔も質量の圧力に太刀打ちする事は流石に出来ない筈。

……いや、そんなテロリスト染みた方法は取れないか。

 相手の宝具も自分すら巻き込む強火力の宝具では無いだろう、なら精神操作系?)

 

自分は切嗣の補佐パーツだ。例え自分が死んでも切嗣なら聖杯を獲得出来ると信じている。

 聖杯戦争の序盤で、こうもあっさり退場する事になるのは不本意だが。それでも構わない

無線で切嗣のほうに傍受はされている、残った記録が敵のアドバンテージを奪う。

 

 どのような宝具か、しっかり見極めてやろうと腹を決めて姿を現した相手を睨む。

そう、睨むのだが……相手の異様な姿に、一瞬だけ本当に素のままに呟いてしまった。

 

 「……は? コアラ?」

 

「熊ですよ、テディベア!! 誰がコアラですかっ!!」

 

何なんだろう、この女は? まともな行動をとろうとする意志を持ち合わせてないのか。

 あのスーツを着ていた女は、その普段の恰好にプラスして僅かに耳が齧られたクマの耳

灰色と茶色が混ざった防弾らしき全身を保護する衣服。そして両手には、綿らしきものが

はみ出した着ぐるみのグローブらしきもを装着し、それでボスッ ボスッと気が抜ける

擬音と共に両方の拳を打ち鳴らしていた。ふっふっふっと、今のご時世アニメでしか

お目にかけない悪役笑いと顔も浮かべるか凄味がない。

 

一瞬、どう対処するか選択肢が幾つも浮かんでは沈んだ。逃げる その馬鹿げた恰好に

コメントする。穏便に病院へ行く事を促すなどetc etc……。

 

だが結局は防護箇所が一番無い脳天へと改造したグロッグ17を射撃した。

 

パキュン! キンッッ

 

「あー、本当に。まったくこちらと会話する気ないですね。何処となく貴方

セフィラに似てますよ」

 

(……魔術礼装)

 

銃弾を防ぐ反射速度。そして綿で合成されてるとは思えない強化された弾丸を防ぐ防御力。

 馬鹿げた恰好をしてるが、実用的な機能は持ち合わせているようだ。

 

地面を相手が蹴る、前進する速度は速い……っ。持ち合わせた銃で応戦するのは分が悪いと

舞弥は即座に決断し、一発だけ動きを少しでも止める意味合いを込めた発砲を行うと共に

地面へと取り落として腰に備え付けたナイフを引き抜き様に、斜めに切り上げる。

 

おっとぉ、と相手はまたもや気の抜ける声を出すものの。その柔らかい素材で出来てる筈の

クマのぬいぐるみのグローブは、ただの物理的な素材を豆腐のように切り裂ける自信の刃を

表面だけに滑らせるに止める。

 

「ちょーっとだけ、大人しくしてください よっ!」

 

空気を切る音、頭部目がけ振られた手を屈みつつ回避しながら相手の胸部にナイフの

先端を当てる。鉄に鉄がぶつかる音を耳にして、僅かに眉間の皺が強まりながら

苛立ちの力を蹴りに凝縮し、その勢いのまま間合いを開ける。

 恰好は変てことしか言いようがないが、生半可な火力で倒れない装甲を備えている。

幸いなのは、動きだけは鈍そうと思える所か。

 

片手にナイフを逆手に構えつつ、予め安全装置を外しておいた予備の拳銃を乱射する。

両腕に交差させたグローブと胸部に何発か命中するも大した痛手にはなっていない。

 だが、視覚を一時的に塞ぐ要因となりえた。器用な手つきでピンを引き抜き自分と

サーヴァントが遣わした特殊な使い魔の中間へ放り投げつつ、素早く遮蔽物へ隠れる。

 

一瞬遅れて、塞いだ耳に耳鳴りする轟音と背を向けていても瞼の中に一瞬だけ暖色を

感じさせる程の光量を感じた。音が途絶えると、目を開き影から相手の出方を伺う。

 

……横に突っ伏している。動きは見えない、沈黙したか。

 

 警戒は緩めない。どんな奇天烈な恰好や動向をしてるとは言え英霊の一角か

その類なら突飛な襲撃を擬態しつつ行って可笑しくない。

 露出してると思える、攻撃が通じそうな頭部に照準を合わせながら、にじり寄る。

加工したとは言え、一番威力のある射程内で撃たなければ効果はない。

 

一歩 二歩 三歩……この距離なら。

 

歩みを止め、引き金を引き絞ろうと指を掛けた瞬間……その背後に気配を感じた。

 反射的に振り返り銃を気配のするほうに構える、その目に白い骸骨のマスクと

華奢と思える細いしなやかな体つき、そして青藍を見た。

 

 「良い反応だ 時代が異なれば我等と競い合えたと思う程に」

 

(アサシン……!)

 

港倉庫方面でも見たアサシンのサーヴァント。バーサーカーと戦った軍勢等の生き残り

この聖杯戦争で暗躍する、どの程度あるか不明な多勢で動く影の刺客。

 

          「つ  か  ま  え  た」

 

「……っ ?!?!」

 

 撃とうとした、だがその前に柔らかい体毛が胴体に滑るのと同時に背中から抱きすくめ

られると言う、状況に不似合いな感触が動きを阻止する。

 さっき一時戦闘不能にしたと思ってた、女。スタングレネードをどう言う方法か防いだ?

 いや、考えてる暇はない。背後の間桐のサーヴァントの尖兵と思える者、いま忍び寄った

アサシン 挟み撃ち 拘束 迎撃手段 は。

 

そこまで考え、久宇舞弥は背骨と肋骨に急激な負荷を加わり意識を手放した。

 

 

統率のハサンは、両腕を掴まれぐったりと倒れる刃物のように鋭い雰囲気を担っていた

女を見下ろす。気配遮断は普段通り行っていたのだが、この女はそれでも自分が後僅かで

仕留められる距離に寄る前に振り返った。サーヴァントに比肩する程の危険予知は

賞賛しえる。先程の言葉は彼女自身の素直な誉め言葉だった。

 実際、指示された通りこちらへの意識を向ける事以外で傷つける意思は無かったものの

戦闘力はともかく、この先に立ち塞がる存在として脅威になり得るとは思えた。

 

(まぁ、我等には生殺与奪の権限は今の所無いがな)

 

 「どーも、有難う御座いますね。もー、この人ってば全く話を聞かず撃ち殺そうと

するんですもん。酷いと思いません?」

 

朗らかな虫も殺せない調子で言ってるが、手練れな戦士を熊式鯖折りで意識をつい

さっき奪ったのを見ると、その柔和さも不気味だ。

 日夜、通りすがるたびに捕食しようと感じる目線が扉越しに感じるストレスが

鰻登りな社内で、その捕食者達ともある程度我等と同じく対抗する力を持つ者達は

通称エージェントと呼ばれ、この女もそうだ。

 

こいつ等は、確かE.G.Oと呼ばれる武器や防護服、それに身体の能力を上げる効力を持つ

魔術礼装を使用して怪物達と立ち合いを演じているが、サーヴァントと言う仕組みを

理解してれば、それがどれ程に可笑しいか解る。ハサン達の何人かは、我等にも

都合が良い便利な代物ではないか、と嘯く馬鹿はいるが私は違う。

 あの怪物達は、神代か本当の煉獄に住まうであろう人々の信仰によって形成された

英霊と反する、謂わば反英雄だ。収容する魔術様式でさえ、どれ程の仕組みがあれば

常に大人しく出来るか不明なのに、それが暴れ出しても只の幽体とも言える存在が

数の暴力で防ぐ事が出来る。これは正しく異常である。あのブリテンの騎士王や

フォオナ騎士団の槍、征服王の戦車のような武具も多くの歴史を紡ぐに至った偉業

あるからこそ強い輝きとなり宝具となる。しかし、怪物達の爪や牙を僅かに切り取り

それを武器にしたからと言って、ただの農民が怪物の爪を槍代わりにしたからと言って

直ぐに英霊に比肩する騎士に成り得る筈がない。にも拘わらず、それが通じてしまう

あの会社の異常さは、今の説明で理解出来るだろう。

 

とりあえず、厄介な人が目覚める前に爆弾回収しないと。と呟き、のんびりとした

伸びをする女はサーヴァントに匹敵するような様子の片鱗は無い。社内の他の

者達もそうだが、大抵は魔力で出来てると言う点を除いては一般の人間と違いは

無いのだ。なのに、何故あのように怪物達の檻を守る番人の妖精として正常に動ける?

 

「……何故、お前達は。あの女の下で甘んじて動いてる?

 どれ程の対価があれば、あの異常な中で平常さをもって当たり前のように生きれるのだ」

 

統率は、割り当てられた仕事をこなしつつユメカに問いかけた。

 質問された本人は、少しだけ立ち止まりハサンの代表者を見つめ、僅かに考える

仕草をしてから、こう答えた。

 

 「――そう生きるしか、選択肢が無いからですよ」

 

その目を見て、僅かにだが背筋に悪寒が駆け巡った。

 顔は微笑んでいる、然し瞳の奥にはおぞましい程の憎悪……いやコレは憎悪なのか?

異なる人格と言うものを駆使し暗殺の生を送って来た身ゆえにバラバラな記憶だが

それでも生きて来たと言える経歴の中で人と接したと言える映像がある。

 性や年齢は様々なれど、殺した瞬間や騙されたと気づいた瞬間。手に掛けた者達は

誰しも我等に対し、自身と同じか、それ以上の苦しい死を辿れと願った目をしていた。

この女の目は、それ等のどの目とも違う 深く 深く昏い目を兼ね備えている。

 馬鹿な……只の女が身に着けられるモノじゃない。私はここまで深く絶望を認知して

背負ったものは見た事がない。

 

そんな統率の戦慄を知ってか知らずか、次にさっさと任務を終わらせて管理人と合流

しないと、と呟き。仕事の終わりを催促する時には、その瞳は顔と同じくおっとりとした

感じへと戻っていた。

 

 自然と溶け込み、鉄筋コンクリートの森の中で英霊としての最先端の科学の捜査網を

潜り抜け、ただ立っているだけで誰の知覚にも残らぬ幻影とも言える気配を殺す力を

行使する中、厠に入っている時間が長すぎるとぼやく男の足を抗議を込めた軽い蹴りで

応酬している、先程まで相対していた闇を瞳に負う女を遠巻きにアサシンは見守る。

 

(今は、ただ影として黙しておこう)

 

(あのバーサーカーが、何故あれ程まで理知的に動いてるのかは使役する魔獣が狂気で

動いており、それを統率する頭脳だからと考えたが、それは大きく間違ってたかも知れん。

 我等の考えが正しければ……)

 

 

 

 

――場所 ??

 

柱に括りつけられた少女達が居る、いや括り付けるではない。()()()()()()()()()

 

鋲 いや、もっと鋭い錐のようなハサンが使う武器に近しい道具。それで直接手の平の中央を

その凶器で肉と骨を貫通して、柱に打ち込まれている。謂わばキリストの磔刑だ。

 

「……ぁ゛ ぅ゛」

 

常人なら瀕死でハヤニエかソレに似た虫の標本のように人間がされてるのを見て悲鳴を上げる

若しくは直ぐ助け出そうとするだろうが、その場にいる只一人健常な出で立ちの夜の繁華街

とかなら女性に一夜の甘い一時と誘えば好感触を得そうな幾らか二枚目な男が一人。

 その男は、普通の人の反応と異なる満足気な顔つきで発声も碌に出来ない少女を見終えてから

適当な場所に腰掛けつつ、ある物を触れた。

 

おぞましい悲鳴とも呻きとも区別つかない低音が生じる。最初こそ、その反応に幾らか

納得してたが、次第に変わるそのくぐもった歪む声に対して頭を掻いて彼は呟く。

 

 「あー……そうか。同じ部分の腸を刺激したからといって音階が一定では無いんだな。

まいったなー これも失敗かぁ」

 

男が弄繰り回しているものを、一般大衆の何人か一目でそれが何かを脳が認識出来るだろう?

 ほぼ衣服を取り払われた、元は第二次性徴を達したかソレ以下の女性のハラワタは飛び出て

何本もの大腸 小腸と言える内臓器官がバラバラに並べられている。鍵盤に見立てて。

 

その悪魔のような所業を平然と行う者 雨生 龍之介はキャスターことジル ドレと出会って

からは、彼特有の感性に基づいて度々連呼されるcoolな刺激は未だ出会ってから一日過ぎたか

その程度ながらも、何度もcoolを味わう事が出来ていた。

 深山での児童がキャスターの召喚した魔物によって、外に出る希望を一瞬与えてからの

蹂躙しての捕食。生きた人間を使っての弦楽器や芸術品の作成。

 それ以前に行っていた連続殺人ともまた異なる気色の新たな道徳と掛け離れた意味合いで

兼ね備えられた真理の一端を掴み取れたように本人は思っていた。

 

 キャスターの魔術で、既に死んでも可笑しくない状態なのが辛うじて息ある変わり果てた

少女の姿に軽い落胆の溜息をついてから、ふと昇った気配に振り向き声をあげる。

 

 「あぁ。お帰り 旦那」

 

彼が殺人の師として仰ぐサーヴァント。雨生 龍之介は自身が聖杯戦争と言う大規模な

魔術儀礼に参加している自覚は無い。実家の古文書から儀式と言う死の探求のアレンジの

果てに棚ぼた式に呼ばれた悪霊に近しき英霊。青髭の旦那 その彼は挨拶に対し無反応で

カツカツと人間オルガンと呼称する物体に近づき……渾身の英霊ならではの腕力で潰す。

 

龍之介の、必死に夏休みに作った工作の課題が台無しにされたかの様な声を他所にジルドレは

その目に並みならぬ感情を込めつつ謳う。

 

ジャンヌと彼の歪んだ憧憬が魂の似た輝きから惚れ込んだセイバーの拒絶。聖杯の獲得を行い

聖処女と邂逅すると言う目的は無くなり、あとは彼女と時許すまで共生だけ望めればと

思った独り善がりな祈りが踏み滲まれた事は彼の余り容量ない許容を超えていた。

 フランソワと誤解する旧友の思いがけぬ再会も、腹の底から昇る衝動を抑え込むに至らない。

 

 その常軌を逸した精神から発する演説に対し、龍之介は心からの理解はしてない。神の悪戯か

彼等は齟齬が一致しておらずも、心の器が何処か決定的に欠けてるものが割れ鍋に綴じ蓋と

いった具合で偶然今は噛み合ってるが故にとんとん拍子で話は進んでいる。

 高尚な理念の基に、聖処女が大衆に裏切られ最後に魔女と呼ばれ摩耗しきって失った心を

自身が取り戻すと明後日の方向に錯乱の中で決意するキャスターと、女絡みの厄介事で

旦那が昔惚れ込んだ女との諍いかと、軽い受け取りしかしてないマスターの彼の心境には

大きな隔たりが存在している。どちらも互いの根元を真摯に見てない事は幸運なのだろう。

 

「龍之介 まずは今捕獲している子供達を全て贄とし更なる数を浚いますよ」

 

 「OKだ、旦那……あいてて」

 

「どうされましたか?」

 

 「いやっ、ちょいと肩がね。まいったねー、どうも この年で四十肩とか洒落じゃないな」

 

意気投合するマスターの彼は、肩に覚えた軽い痛みを苦笑しつつ回して答える。

キャスターを召喚する前、センタービル近辺で儀式に良さそうな女を誘うのが空振りに終わり

再度人並みを行きかった時に、見知らぬ誰かとすれ違い様にぶつかった箇所なのを本人は

既に頭の中から抜け落ちてはいるものの、痛みは時々彼の中で蠢いていた。

 聖処女と邂逅させてくれたマスターの彼に対し、ジルドレも感謝を持っている。無理を

なさらないでくださいと労いつつ、軽い魔術で痛みを和らげると共に懐から腕輪を取り出す。

 

「龍之介 これを御使いなさい。未熟に相応の意志しかない子羊達であれば手を握るだけで

貴方に従うままとなるでしょう」

 

 「おっ! ありがとー旦那っ

それじゃもーっと、この町にcoolを広めようぜ!」

 

彼等の運命は、正しき定めでは騎士王達の鉄槌により戦争中盤にて脱落する事になる。

 

 無邪気にはしゃぐ龍之介に、子を見守るような笑みを浮かべるキャスターは真顔に戻り

その出目金のような魚眼を暗闇の虚空がある横に向ける。

 

「ん? 旦那 どうかしたかい」

 

 「…………いえ、何でもありませんよ」

 

(何処からかの視線……私の結界に悟られる事なく? 

気の所為かとは思いますが海魔の守りを強めておきますか)

 

産まれながらにして、人としての大事な部分を欠落しつつも人の中に潜み生きる彼と

焼け付く程の眩しさを失い、人の心を捨てた魔導士達の因果も徐々に狂おうとしていた……。

 

 

 

 

 




鬼畜先輩「見守ってるよ キャスター陣営 君達の活躍を。

そしてプロジェクトムーンでLobotomy coop以降の世界を
舞台にした新作が出るようじゃないか。
 『頭』が更に深く掘り下げられると、私の性格とか作品上での
動きに進展が出るので、楽しみにしてるよ」
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