妖精なき夏の夜の夢のようではないか……
砂場で造り上げた城のように 稚児の気紛れで崩れ去る
然しながら観衆の支持が我らが舞台の生命となる事も
また不可避なる事実である
痛み入り道化の極みを担おう
(※翻訳:ハーメルンランキングに一時載ったぜ! ひゃっほーい!!
これからも頑張って執筆しまーす!)
ウェイバー・ベルベットは朝陽の零れる下の中で激しい問答をサーヴァントと
交わしていた。彼の激しい詰問に対し、古代の王 イスカンダルは眉を吊り上げ
自然と人が平伏したくなる気配を発散しつつ野太い声を家の一角に響かせる。
「――成程、あいわかった!! つまり余が敵の首級をとればズボンを履かすっ!
そう誓うわけだな?」
「……お前、そんなに外を現代の恰好で出歩きたいのかよ」
こいつは一体何なのだ。通信販売を使ってシャツを買ったりなど、人の目を盗んで
やりたい放題だ。何度も実体化は控えろと言っても聞く耳持ちやしない。
図書館の不法侵入とすら言い難い夜間強盗から始め、自分の資金を濫用しては
現代の娯楽品を買い漁りて間借りしている老夫婦の一室でウドの大木のように
ゲームに勤しんでいる。これでは英霊と言うより魑魅魍魎を引き連れる東洋の
大妖怪のぬらりひょんなどの呼称が似合う。
「キャスターの居所も探さないといけないって言うのにさ……あの時のあいつが
そうでないって事は未だ気がかりだけど」
そうなのだ。今日の日付になる前日、ライダーの宝具で平衡感覚が未だ不安定な頃
突如教会より上がった狼煙。使い魔を飛ばして見ると教会の監督役より通達あった。
――キャスターのサーヴァント、戦争に対する不義理働かしたり。
神秘の秘匿を怠り冬木の町にて市民を失踪・殺人を繰り返している。よって
討伐を各陣営に命ずる。報酬は、かつての戦争より貯蔵されし令呪である。
驚きは一入にある。テレビでも報道されていた穏やかでない事件にサーヴァントが
関与してた事もそうだが、今までキャスターと思い込んでいた者への対処を
考えあぐねていた時に、思いもよらぬ場所から真のキャスターが露見したのだから。
あの港倉庫で大規模な召喚魔術を使役して全体に混乱せしめた存在。アーチャーに
対しても強力な魔術砲撃で牽制を入れた、ウェイバーには敵であるものの一応の恩も
あると言えばある、何ともこの戦争に参じるには少々異様な存在だ。
(つまり、あのサーヴァントは消去法でバーサーカーって事になるよな? 理性を
保ってるなんて反則じゃないか……いや、それは一旦置いて。あいつは深山の殺人事件に
対して僕達マスターに追及していた。どういった理由かはともかく、事前に情報を
入手していたって事か)
憎らしいランサー陣営。セイバー、アーチャーの陣営も報せは届いてる筈。アサシンも
ライダーの考察が正しいのなら、遠坂と同盟関係のアサシンのマスターが情報収集に
乗り出している筈。自分達がぶつかり合う前から調査に乗り出しているバーサーカーは
言わずもがなだ。全陣営がキャスターを打倒しようとしてるの今、このウェイバーが
一足早くキャスターの出所を割り出して功績を挙げれば、あの鼻もちならない師匠を
ギャフンと言わしめたる一因にもなる。令呪の報酬も魅力だし参加しない理由は無い。
「遊んでる場合じゃないんだよ。もたもたしてたら、あのパンドラが先にキャスターを
倒してしまうかも知れないんだから」
「それだかな坊主。余の審美眼が正しければ、あ奴はパンドラでは無い」
「何でそう思うんだよ? あんなに大量の怪物に、黒い靄がかかっている見てくれから
して邪悪な騎士。出てくるもの全て暗黒面に堕ちてるんだぞ」
短髪の、櫛で梳いても次の日には荒海のような髪を掻きつつライダーは自身の見解を唱える。
「まず神秘の名残が少なすぎる。お主も知っての通り、英霊とは聖杯に呼ばれる最は当時の
全盛期の姿で現れておる。故に、余もこのように瑞々しく頑強なる体を兼ね備えておるしな」
軽いマッスルポーズで自慢をする彼に、皮肉交じりに話の続きを小さなマスターは先を促す。
それに気分を害する様子は無く、更に別のポーズを取りながら話は続く。
「余のように古き生まれならば、風土こと違えど親近感を感じる筈だ。仮にアーチャーが
パンドラと同じ神代の存在と告げれば納得もするが、あのバーサーカーからはまーったく以て
神々しさが感じられん。どちらかと言うと、アレのほうに近しい気配を感じたぞ」
「? アレって何だよ」
ウェイバーの疑問に、ライダーは無言で二階のある箇所を指し示す。そこは、確か自分が
マッケンジー夫妻と以前ともに過ごしてた息子の為にと空けてた部屋で今は利用してる自室。
思い返す、余り思い出したくない回想。煎餅齧って寝っ転がり黙々とゲームしたり雑誌
読んだり、クリントンの事を批評したり……駄目だ、下らない怒り湧く出来事しかない。
「アレって何だよっ」
「あー ったく、解らんか?
ならば、これも余のマスターと認められる為の宿題としておく!」
しっかり励めよ、と自然に頭に置かれた厚みある手の平を感じ。頬に熱を浮かばせつつ
払いのける。なにが宿題だっ 子供扱いしやがって。
「っ馬鹿にしやがって」
どうせ、こいつの事だ。適当な事をさも真実のように思わせてるだけで、隠してる事は実際
殆ど大した事のない内容に違いない。
水汲みに行くぞっ。と肩をいがらして外に飛び出すマスターを。こりゃ、採点の結果を期待
するのは望み薄であろうなと。残念な目つきで後ろから征服王が見つめてたのを彼は知らない。
本来なら既に全壊していたハイアットホテル。それは未だに健在で通常通り不穏な風が過る
冬木市の気配を感じさせぬ様子で観光客ならびホテル施設のレストランを利用する為に
今日も賑わいを見せている。その上階を貸し切りにした人気が殆どない広けた一室で高級品と
一目でわかる礼服で身を包む貴人が膝を汲んで対面する男性を眺めていた。
(これが、間桐家の当主の弟にて聖杯戦争の参加者。
バーサーカー パンドラのマスターか)
昨日に面談した間桐 鶴野の兄弟と言われて観察すれば、成程と感ずる程度には面影がある。
重病患っていて直接の談判に難が生じていると言う話は、何らかの罠を工作する為かと疑いを
持っていたのだが、本人が直接来ると報せを受けた今の時でそれが現実と化して疑念は晴れた。
――まさしく、半死半生の病人だ。恐らくは余命も一年あるかどうかの。
白い毛は染色などでなく肉体を限界以上まで痛めつけた故の副作用であり、肉体の所々も軽く
麻痺と思える箇所が幾多も見受けられる。片目も、自分の解析魔術の結果から高性能の義眼
らしいと判断出来た。もし自分がこのような体であれば憤死しかねない状態だ。
「……昨日は。俺の代わりに間桐の嫡男を向かわせた事についての失礼は謝罪する」
「いや、構わない。貴殿も体を御自愛する事だ」
口を開きつつ肩が震えるのは疾患から来る体の痛みを堪えてだろうか?
同情は浮かばないが、ケイネスからすれば鶴野から告げられた情報が正しい事を理解し
表情には出さないものの同盟に渡って、このマスターを利用するのに想定していた障害や
懸念は無い事に安堵していた。
生きながら死に体同然のこの状態であれば、歯向かって来ようともパンドラの魔猪さえ
封じ込めさえすれば魔力で編んだ蝶よりも卸しやすい。マスター同士での力量は比べる
までもない事は一目瞭然。遅滞する可能性もあった協定も予想より早く済みそうだ。
……その肩の震えは間桐の大魔術師の積年の恨みが魔術師全般を大いに嫌悪する怒りであり。
会話する前から彼自身のサーヴァントから、今は利用する事が最善だと説き伏せられた事により
我慢はしてるものの、それでも抑え切れず出てくる嫌悪が肩の振動として発現してるだけだが。
その震えを抑えるように、ソっと乗せられた手は僅かに冷たく。雁夜には自分の怒りを
汲み取って貰えたかと錯覚する程度にフォローの利いた動作だったが故に僅かだが
胸の中で火花を立てていた黒い炎は僅かに勢いを弱まらせる。
「このように、マスターの体調も芳しくない。余り行儀良くない事は承知で私が代理に
そちらとの交渉を引き受ける形がある事も問題は無いでしょうか?」
「応じよう。もっとも、事を荒立てるようであれば直ぐに控えてるランサーの槍が
君に降りかかる事を念頭に入れたまえ。……あー、ランサーの黒子の魅了に対し対策は?」
当たり前だが自身の工房を、あの夥しい災厄の化身達に暴れては堪らない。
どんなに大人しそうな外見でも相手はバーサーカーだ。なにより自身のサーヴァントの
起こした不手際だが、その魅了を切っ掛けに暴れた前科はつい先日の事だ。
ケイネスの不安を読み取り、声色は変わる事なく一定の調子で返答はなされる。
「既に出来ている。先日は不意の事により暴走してしまい申し訳なかった」
試しにケイネスは念話で霊体化を一時解除を指示する。それに応じて姿を現す槍の騎士を
先日のように彼女は一瞥するが特に反応はしない。
ならば良いと、工房が無闇に破壊される恐れが減った事に胸中一息をついているのを
悟られないように強気な調子を崩さずにロードは再度口を開いた。
「いや、不手際は双方ともにだ。共にこれから配慮を設けていこうとも」
ホテルに来る前に起きた出来事を軽く情報交換し終えて、本題となる話が始まる。
隣席で、何時もの白衣とスーツを身に纏うバーサーカー。白衣こそ同席してる場所でしか
身に着けてないものの、それ以外は偽装も霊体化することなく白昼堂々と彼のマスターと共に
ホテルの中に入っていった。こう言う時には彼女の現代に全く違和感ない服装は、他の英霊には
無い強みだと再三して彼は実感する。
魔術師と同盟する。この方針に関しては雁夜も大いに渋りは見せたのだ。体が小康状態の
今でこれなのだから、精神と肉体を蟲に這いずり回られた当時なら論外の選択肢。
『君が魔術師と言うカテゴリーに敵愾心を持つのに共感はするよ。私も、アブノーマリティに
好意なんて持てないし持ちたくない。それでも利用しなくちゃいけない局面は存在する。
F-01-57やF-01-69、他のツール型アブノーマリティのようにで非常時の場合は致し方なく』
静かな何色でもない瞳が自分を見ている。
『忌避と直面すべき時は。これは必要な事だ、こいつ等を最後に恥かかせる為にはと
優位に立つ意識を持つ事だ。相手がどんなに我慢ならない事を言っても、最後に敗北すると
理解があれば、不思議と相手の言葉や態度も許容出来るものだよ』
(そうだ、俺のサーヴァントの言う通り……こいつ等を俺は利用してるんだ)
信じると決めた矢先だ。結果論だが、背景に謎と言う言葉が濃色な彼女に従って悪い事になった
事は今の所ない。遠坂を彷彿とさせる傲慢さにも、彼女の言葉をリフレインさせ落ち着く。
胸の中で犇ぎ合う理性と感情を知らぬままに、時計塔の魔術師は用意していた巻物と羽ペンを
テーブルへ滑らせる。二つの視線が注がれるのを見届けて抑揚をつけ会議は開始された。
「間桐の家の者ならば説明するまでもない事だが、相方はそうでもない事を踏まえて
こちらの魔術道具を紹介しよう。――『
この証明書に、そちらのマスターであるMr.雁夜。貴殿にサーヴァントがこちらに対しての
不可侵の約定を署名して頂こう」
「なに……」
「不満かね? 同盟するにあたって互いに連携を口上では唱えようとも、我々魔術師は
悲しきがな直系の刻印を継ぐもの以外には排他的なのが一般的だ」
その台詞に、大いに心当たりを覚える雁夜は思わず手の平に爪が食い込む程に拳を作り
心の堰を崩しぶつける相手は別であるが怒鳴りたくなったものの、その前に肩を軽く
指でノックする感触が行動を起こす事を防いだ。話は拗れる事なく続いて行く。
「そちら、間桐の願いは今後の子孫等の魔術師としての血脈が始祖同様の力を取り戻すとは
既に聞いているが。見た通り貴殿は聖杯を得ようとする為に文字通りの命を賭して
挑んていると見込んでるのでね。無いとは願うが、戦争終結までに裏切り行為や背を向けた
時に矢を放たれるような事は露ほども望んでない」
冷静に会談に臨んで貰いたいとは言われたものの、渋面が僅かに顔に出てしまった。
ロード・エルメロイの言葉も当然ではある。相手のサーヴァント、バーサーカーは
パンドラ(正確には違う)であり、その災厄が引き詰まった箱が開かれれば思いもよらぬ
怪物達が相手の底が読めぬ魔力が途絶えぬ限り半永続的に活動される。魂喰い行為も相手が
辞さなければ脅威。他の手札でも魔弾と言うアーチャーに多大な負傷を可能せしめた宝具も
備えてるし、ランサーには手出し出来ない魔猪と言う鬼札を抱えている。
「無論、そちらにも利益は提供する。私ことケイネス・エルメロイ・アーチボルトが
聖杯戦争に馳せ参ずる動機は、時計塔を躍進する為の実績。それ以外は必要としない」
「……は? それじゃあ、聖杯に願うものは無いってあんたは言うのか」
「如何にも。よって願望機の使用権利は譲るが、この魔術戦争の勝者の栄誉は
エルメロイ家が貰い受ける」
おもわず砕けた雁夜の口調に、無礼と感じつつも病人であり連携する相手である事を踏まえ
僅かな無礼は視線の温度を下げつつも黙認する。
雁夜の頭には間を置いて老朽化した壁の穴から次々と出てくる蟻のように猜疑心が湧く。
聖杯に何の願いもないだと? 嘘をつくな魔術師め。こちらが間桐の廃退した子孫だから
適当な言い訳が通ずると思ってるのかと。
暗い疑念ばかり出てくる。それを切り取るように、冷静な声が隣から発された。
「――受けよう。私はMr.ケイネス及び、そちらが使役するサーヴァントに対し
この戦争が終焉すると確信されるまで危害とする全行動を禁止する」
「良く宣言してくれた。では」
「ただし」
さっそく署名をと切り出そうとした彼の整えられた眉は、滞りなく契約完了間近なのを
崩された事で吊り上がる。当の本人は反応する様子は見せず言い放つ。
「そちらも確認した通り、私の宝具と言えるべき機能は制御困難であり。暴走した際は
標的を任意選択は出来ない。ソレ等も契約の不可侵に違反するとなれば、私のマスターを
悪戯に戦争の激化の渦中に無防備で晒す事になる。それ等も項目の中に追記して貰いたい」
「ふむ、当然の事ではある。貴君の要望通りにしよう」
予期していた回答でもある故に、ケイネスは即答し承諾する。目の前の理知的な応対を
崩さぬ狂戦士の冠を授けられた彼女の宝具が制御困難なのは確認済み。不慮の事故で
こちらに宝具が飛び火した事による自滅などは誰だってしたくない。
「第二に、不可侵の定義だが……私の宝具の中には自律して独自に行動するサーヴァント
が存在しており、ソレは私達にとっても不穏分子であり脅威を孕んでいる」
「なに? ならば、今の冬木を騒がせている事件は……」
「連続失踪に関しては、キャスターのサーヴァントだが。そのサーヴァントと私の
宝具の中より脱走した一人が協力してる可能性はある。この場合、ソレがキャスターと
結託して貴方がたに危害を加えた場合は、こちらの過失となり誓約は発動するだろうか」
その言葉に、顎に手をかけ数秒だけ頭を回転させる。
このバーサーカーの宝具から脱け出した魔物と言う新たな情報。キャスターの神秘秘匿
魔術師の暗黙のルールを平然と踏み越える悪徳の者等。パンドラの箱と言う性質を
考えれば、本体に逆らう程の自立した呪いが作動しても可笑しくは無いかと。
今回の主要となる同盟に関して交渉する前に、軽い雑談として教会からの報せによる
キャスター討伐については把握している。ケイネスとしても、令呪の報酬は勿論の事
魔術師としての本分に沿う依頼を断る気も理由も無い。本来の時系列なら自身の工房を
爆破された事により、セイバー陣営を打倒する事に意識を割くのにキャスターへの意識は
無くなってたが。今この場で無傷であるホテルに陣取る彼はセイバー陣営を倒す意欲と
キャスターを討伐する意気込みは半々と言った程度に心の中を占領していた。
「バーサーカー。宝具ならば、その脱走したものを呼び戻す事も可能なのでは?」
この前の三つ巴ならぬ四つ巴の交戦で仄めかしていた発言を忘れた訳ではない。
ロードの鋭い質疑に静かな応答が一室に響く。
「恥ずかしながら、現界し保有している宝具だが大まかに制御出来るものと出来ない
物に大きく隔たりが存在している。昨日に同行させた彼女のように、一般的な使い魔と
同じく素直にこちらの指示を聞く者もいるが、サーヴァントと同等の力を備えつつ
こちらの方針と真逆の行動と思想を抱えているものが実情だ」
もっとも、脱走した者については私達の中でも限りなく特殊な事例ですが。と付け加え
バーサーカーは一枚の肖像が描かれた画像をケイネスの元に差し出す。
黒い羽をあしらった独特のコートのようなものを身に着ける、聖遺物を盗んだ忌々しい
弟子にも少し似た容姿。写真ではあるのだが、どうも独特の気配が感じる女の肖像。
「これが、貴君の言う危険分子か……」
「ビナーと言う名が通称だ。そして、こちらが先日にセイバー陣営の拠点に向かう際に
邂逅したキャスターのサーヴァントの姿形。真名はジルドレだと対象が告白していた」
新たな情報提供に感謝の意を短く唱えつつも、常に整えてる柳眉を歪めて彼は告げる。
「そうだ、君達はセイバー陣営に対しても和睦を望んだと聞き及んだが……何故そこまで
執拗に停戦を四方八方に宣伝している? 昨日の行動との矛盾を私は知りたい」
バーサーカーの行動は不可解だ。自分達陣営を除く三体と遭遇した時は、マスターに対し
配慮と捉えられる発言はあったものの、本当に非戦を望むなら撤退なり霊体化なりの
消極的方法で戦闘回避する事も出来たのに関わらず宝具を結局発動させた。
その行動だけで敵対を認定されて可笑しくないに関わらず、複数戦に最適な能力を
最大限に発揮しようと考えず徒労と言える多陣営の非戦に努めてる事は奇妙だ。
聖杯に対し願いがあるなら、他者を踏み台にしてでも勝利に固執するならケイネスとて
疑わないが、その逆ともなれば不気味と呼べるのが今の彼女。真意は何処にある?
誰もが知りたい疑問を、冷たくも感じる瞳は虚偽を纏った様子は見せない。
「最初にセイバー陣営にも告げましたが。私には何でも叶う万能の願望機と言うものに
自身以外の代償を支払う気は無いのですよ」
「貴君の願いは、その宝具を捨て去る事。謂わば呪いの解除では無かったのかね?
昨日の様子からして戦争に勝利しようとする欲は本物であっただろうし、他の英霊を
蹴落とす事はルールに違反する事では無い。なら何故行動と真逆の言葉を放つ?」
「私も誰かの代償行為の犠牲の糧にはなりたくない。自衛行為は行うし、マスターが
狙われても同じ行動をとるでしょう。
然しながら、己の欲に従い倫理を破壊し殺戮を続けるのは人でなく獣や畜生の道理です。
――人として生き、人としての死を願う。その当たり前の行動を、例え幽鬼のような存在
だとしても行いたいと言う欲求は可笑しいでしょうか?」
短くケイネスは唸りを口の中で展開させた。
これが、もしランサーの告げる騎士道精神と言う。御身への忠誠を果たす事が願い等と
言うものであれば理知の外であり嫌疑も容易で見限るに値したが、バーサーカーの発言は
気狂いが宣うような物でないし、願いを叶う姿勢としてが他陣営への停戦行為と言えば
納得は出来なくもない。魔術師の感性としては合わぬ理想ではあるが、人として基づく
一般的な考え方としては未だ理解できないものではない。
(英霊でありながら『人として生きたい』……か。ふんっ これまた随分と滑稽と言うか
歪な思想ではあるが、バーサーカーの承認欲求がそう言ったものだと此処で解ったのは
収穫としては中々高値ではある。
要は、この英霊にとってみだらやたらに他者を殺傷・魂喰い行為は忌避、嫌悪の対象で
人道的なものを好むものなのだ。それならそう言った体で活用は大いに出来る。
キャスター陣営の蛮行は、このバーサーカーが最も嫌う行動。あの征服王のライダーに
敵対関係の遠坂のサーヴァントのアーチャー。どちらも好戦的な故、数日もすれば私が
手を下さずともバーサーカーと衝突するのは目に見える予想図。残るアサシン陣営と
セイバー陣営は我が魔道を駆使しつつランサーが打倒すれば良い)
完璧だ、完璧なプランだ。キャスター陣営は積極的に目の前の英霊が宝具を浪費しても
打ち倒そうとするのは会話の節々から相手への嫌悪を知ってるが故に確実。
教会の公布もあった以上、他の陣営とも協力取り付ける事が可能な以上は彼のフランスの
軍師が敗北は決まったようなものだ。運があれば私が打倒し令呪を貰い請けよう。
それ以降はアーチャー、ライダーを彼女が倒し。その間に自分は宝具で負傷している
セイバーを倒し、雌伏を掻いているアサシンを倒せば聖杯は獲得。
「良かろう、貴君の思想は大いに私も感銘を受けた。証明の内容に立ち戻り、貴君の
姿勢も踏まえて条約は簡潔に纏めるのであれば……だ。
汝の意志においてアーチボルト及び配偶者とサーヴァントへの危害の禁止。尚
こちらが履行を破棄し、署名者へ攻撃が認められた場合この条約は破棄される事になり
バーサーカーの意志関係なき宝具の暴走及び関連者の利己的な攻撃に対しても除く。
この制約が破られれば、即座に条件下として令呪を行使し貴殿の英霊の自害の命令すべし」
「待って欲しい。こちらマスターの令呪が全て消費されてる場合は?」
基本的な抜けを指摘すれば、ケイネスも羞恥の色は浮かべずも失態を覚えたのが誤魔化す風に
軽く咳払いしつつ回答する。
「令呪が全て消耗されてる場合であっても、現界を宝具等を使用し自決するべし。
それが出来なければ、悪戯に貴君が存在を継続すればだ。Mr.雁夜にセルフギアスの呪いが
発動し、残り少ないであろう命が削られる事になる。人道を志すなればだ」
条約を尊守すべきは当然であろうと言葉を静かに耳を傾けてから、Xは肯定の頷きを示した。
「問題ない。私の存在が消滅すれば、例外ない限り動いてる不穏分子も現界する力を
失くす筈だからな。
……然しながら注意は払って頂きたい。入手した情報では外来の魔術師並び間桐の血を傀儡と
化していた存在も未だ闇夜に蔓延っている」
夜道を走り冬木市に到着した彼女は、キャスターの捜索をエージェントと行う傍らに。早朝
桜も藤村邸より迎えに行った後に彼女の口から第三の介入者の名を聞いた。
何かあれば、これも縁だし何時でも頼ってこいと言う気風の良さを感ずる藤村の首領に
礼を告げつつも、新たな刺客への対策をバーサーカー陣営も練っている最中である。
「フランチェスカとか言う魔術師だったな? 時計塔では認知せぬ者ゆえ私からは警戒を強める
としか言えないね。それと、そちらが提供してくれた間桐の旧くより根付く臓硯とか言う者。
どうやら私の出生前より、市井の者々へと神秘の秘匿は守れどすえ随分とそちらの血縁者は
外法に手を染めてたそうではないか? いや、貴殿を責めるつもりでは無いがね。
だが聖杯戦争初日にでも、魔術師の定義を重んじるならばだ。
聖杯敷設の協力者の手を仰いでても誅滅しようと試みるべきだったのではと苦言を呈するよ」
雁夜には出来ないやり方。肉体を苛まれ精神を歪める後でも前でもしなかった方法をXは
実施した。ずばり、御三家以外の聖杯戦争参加者に彼の亜種T-04-50を討伐を依頼する事だ。
桜を養子へと差し出した遠坂に、恥を捨てて頼むと言う事を雁夜は意地でも望まない以上は
他の魔術師に、彼の間桐悲願である彼の怪物を滅ぼすのに協力を要請するべきとXは彼の心身を
治療する期間でも口酸っぱく説き伏せてはいたのだ。
『君の願いの一つでもある、あの亜種T-04-50を消滅させるのには私以外の
別の協力者が必要だと考えられる』
『誰に? まさか、桜ちゃんを臓硯の前に無防備に差し出した、あいつの元とか言うんじゃ』
『それが無知ゆえの推定無罪なら、その方法も考えるが。相手の思想は解らない以上は私も
軽率に頼らないよ。この聖杯戦争と言うものは、システム的に君や遠坂の当主以外では
アインツベルン。それ以外で四人は選ばなければ大型ツールは機能しないのだろう?
つまり最低でも四人の君が認知しない部外者であり、幾らかの報酬を差し出せばサーヴァント
を行使してでも抹殺対象 間桐臓硯を鎮圧し消滅させるのを手伝ってくれるだろう』
『けど……そいつ等は魔術師で。君の宝具なら』
『私にも出来る事と出来ない事がある。蟲で構成された怪物を、町全体を囲い込んで駆除する
程に高性能なものではない。一応火力ある兵器を兼ね備えているが、周囲への被害を抑える
事が出来るものとなると怪しくなる。君とて、他の人間を犠牲にする程に冷酷で無いだろう?』
ずるい言い方だとは感じた。そんな風に言われて自分は冷酷な人間だと言い切れる者は少数だ。
彼女の理論は正しいものだとわかる。それでも、嗚呼なぜこんなにも胸の中を巣食っている
悪辣な部分は、そんなものは偽善だと自分を助けてくれようとする相手を詰っている。
――お前は■■■■ではないのに お前は■でないのに
――なのに 何故そうまでして『人』に従っている?
「……っ」
頭に浮かぶ奇妙な囁きと、壊死したと思いきや治療された部分の目頭の奥に鈍痛が走った。
反射的に顔を歪ませて其の部分を手で圧迫させると。丁度私見を言い終えたケイネスと
隣からの強い視線を感じ、自分が注目されてる事を認識して恥が込み上げて来た。
「大丈夫か、雁夜? ……すみませんが、誓約についても少し掘り下げたい部分もありますし
一旦別室で休んでから再開して頂いても構いませんか?」
「そうだね。思えば随分と熱心に話し込んでいたものだ……良ければ昼餉もこちらで
済ませれば良い。此処のルームサービスは今一つだが、我が妻の料理は絶品だからね」
本来ならしない好待遇だが、魔術戦争を勝ち残るにあたってバーサーカーの宝具はこの先で
価値強まると考えてるが故の対応でもあった。二人が一旦他の部屋に移動するのを見遣り
ケイネスはビル下の有象無象の光景を眼前に映しながら未来を案ずる。
(間桐のマスターはともかく、あのパンドラは幾らか話術に長けており智略も嗜んでるようだ。
とは言うものの、時計塔の権力闘争を勝ち抜いてきた私からすれば造作もないがな。
一先ず、これでバーサーカーにライダー・アーチャーの相手は決まったも当然。アサシンも
あの英霊の口振りを信ずるなら対処はあちらで出来るとの事だし、お手並み拝見といこう。
残る問題とすれば、まずはバーサーカーが追跡しても痕跡以外の行方知れずのキャスター。
後は、ランサーが討ち損じたセイバーをどう処理するか、だな)
超然と在ろうとする背中を、控えていた従者と妻は感情異なる視線を向ける。
一人は、本当にこのまま敷かれた道を進むべきかの憂いを含ませ。
もう一人は、愛を誓えた後も揺るぐ事なく良し悪し抜きに何も感ずる事の無かった彼の背を。
バーサーカー等とランサー陣営が綿密に誓約を築こうとしていた頃、エージェントとの交戦に
破れ意識を刈り取り、その後は近くの公園へと適当に放置されていた殺戮装置の一部である
彼女と、そのパーツの主である切嗣は今後の方針を編み出している最中だった。
(ホテルへの爆弾は全て回収された……舞弥を相手が殺さなかったのはキャスター陣営の犯行で
冬木界隈に広がる悪感情が自分達に向けられる可能性を危惧したからか、はたまた挑発行為か。
なんにしろ短時間で復帰出来た事は僥倖だな)
一晩の睡眠の中で、久方にあの陸の孤島の陽射しと永遠に喪失した彼女の面影が未だ蝶の呪いの
残滓が残ってたからか鮮明に映っていたが、心の中に浮かぶ過去の痛みを除けば体調の影響は
殆ど残ってない。直ぐにでも戦場へ舞い戻れる。
だが、慎重さは無くしてはいけない。横目を向ければ一糸纏っておらず、鍛えられた筋肉が
程よく細い躰を艶やかさと異なる美しさを見せる女体が見える。
解析を試みれば、特に彼女の回路に以前と異なる様子はない。深層下での暗示など埋め込まれた
可能性はあるからして油断は出来ないが、探知機能などは埋め込まれた様子は無いようだ。
重大な情報を再統合する意味で、新しい衣服に着替える彼女に対し口開く。
「舞弥。バーサーカーの配下と思しき存在はハサンと協力関係であった.
……間違いないんだな?」
「背後からの突如の急襲。意識暗転するまでに戦闘する気配が皆無だった事を考えれば」
久宇舞弥の破壊工作が失敗に終わった事。彼女の体に付けてた盗聴機能の記録など纏め上げて
戦闘してた間桐の当主の相方とハサンが戦闘してた可能性が薄い事からも、協力関係に近い立場
である事は解る。バーサーカーのマスターは間桐雁夜、なら消去法で残るは危険視している
アサシンの背後に控えているは言峰綺礼である事は当然の事実として帰結する。
(だが……奴は表に出ている様子は未だにない。最初の交戦から、住まいとしている教会に
篭っているか、食料の為に外に出ていた以外で間桐と接触する気配は調査の下で一度も。
群体であるアサシンを使って密かに交渉していた可能性は十分ある。然しプロファイリングの
中での言峰綺礼の動きと、今回の聖杯戦争でほぼ動きを見せずバーサーカーの背後での手引き。
この合致のしなさは何なんだ?)
「今は、バーサーカー陣営は、ランサー陣営の拠点に居るか」
「間桐からの参加者も同じくホテルの中へ入室したのは確認済みです。ですが、潜入には
かなりのリスクがいります」
「分かっているさ。君の顔は割れているし、蝶と人が合成されたような魔物と遭遇した時も
僕達は一時戦闘不能になり、その時に他のハサンを通じて僕がセイバーのマスターである事を
バーサーカー、ランサーの陣営が入手してる可能性は高い」
戦況は着実に不利に傾き始めている。当初の予定であった妻のアイリとセイバーを主従関係と
誤認させて背後からマスターを仕留める事は、自分の正体が割れてないからこそ出来た事だ。
それが群体ハサン、中世に遡る程の暗殺の始祖の英霊の手で隠密は台無しにされた。
セイバーも負傷を帯びてるし、見えない致命傷は確かに自分達陣営に刻まれている。
(微かな望みに掛けるなら、アサシン陣営とバーサーカーの陣営の内密な共謀であるからして
暴露されるのは情報戦として痛手になる事。それと同盟を築こうとしてる今の状態……)
「舞弥 動くぞ」
「はい 切嗣」
(間桐。そちらが何を願い聖杯を求めているかは知らないが……聖杯は僕が使う。
人類の恒久的な平和の為に……これ以上、世界に悲しみが降り注がない為なら幾らでも僕は)
悪魔にでもなって見せると、新たに決意し直した魔術師殺しは外に飛び出した。
「……と、言う訳で本日は午前中で授業は終了です。皆さん、ご両親に連絡をして下校してね」
冬木の初等部の子達が通う学校の一室で、教壇に立つ初々しさも新任として残る教師の声に
まばらに生徒たちから肯定合唱がなされる。
その学校では、初等部の中ではと言う注釈つきで遠坂に生まれついての英才教育を施される
遠坂 凛は教師の一部からも頼られるリーダーシップだ。そんな彼女は、空席がある程度
目立って普段は元気に授業に参加する見慣れた知り合いが居ないのを視認する。
(インフルエンザね……)
この時期には、珍しいと言えば珍しくあり。でも可笑しくないと思えば可笑しくない流行病。
凛も、授業が予定外に早く終わる事を嬉しく思ってない訳ではない。事件性を匂わせる形で
学園のクラスメイトが登校する途中で失踪されたとか言う形でも無い。
(でも、何だか不安だわ)
今では学校に登校する以外では母親と別邸で過ごす毎日。勿論、通行手段は幾らでもあるし
少しの期間だけの父が人生きっての大事業を成功するまで邪魔しない為。それが終われば
直ぐに見慣れた邸宅に戻るのだけど、それでも子供故の冴えた直感が暫し警告を発してる。
最近身近で起きた事と言えば、全員で世話していた鶏が悪質な部外者の誰かに取られた事。
他で言えば、ニュースで度々放送される失踪と殺人。周囲の畜産場所で牛やら豚やらが
何かの獣に襲われたと言うのも多発している。
もしかして、お父さまもこの事件に何かしらの関与をしてるんじゃないかしら? と言う
暗い考えも時々浮かんでしまう、けどそんなのはきっと妄想だ。
それを振り払うように、凛は何時もの笑顔を浮かべ休憩時間になると思いがけぬ事で
子供には苦痛な時間が半分で終わる事に喜びの声を上げる子供達を抜けて親友の元に近づく。
「良かったわねコトネ。学校が思ったより半分で終わって」
「うん、凜ちゃん」
少し前に、彼女が公園で気づけば眠ってた話を聞いた時は少し穏やかでない気分にも
陥ったが、見た限り何時もの彼女。最近知り合ったアノ大人の友人も元の場所に帰った
からが多少元気がない時も見えるものの、それ以外は至って普通だ。何故だか今日は
彼女と会えないような体の芯が冷える感覚があったものの、やはり気の所為だ。
そのまま軽い談笑に進むと胸のうちにある不安も段々と蒸発していく。何気ない日常の
何時ものやりとりは、自分と外で起きてる凄惨な出来事は別々の世界で切り分けていると
実感出来るからだ。雑談の中で、彼女は登校中に思い出した事を呟いた。
「そう言えば、コトネ」
「うん?」
「――外靴、替えたでしょ? 赤いのに。あれ、とっても素敵じゃない!」
その言葉を受け、無垢で引っ込み思案な何時もの彼女は
照れた様子で口数少なく感謝を唱え微笑んだ。
……赤い靴 履いてた 女の子
明けましておめでとう御座います。
遅筆ですが、完結に向け より良い練度の作品を仕上げようと思いますので
これからも宜しくお願いします。