fate/zero x^2   作:ビナー語検定五級

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何時かの日に お前は小指を差し出して同じく差し出された
小指を絡め合う事で無数の痛みを乗り切れると思っていた

だが見るがいい その両の指を京よりも多く山のように
積み上げる程に切り取ったとして、頂きへ赴く事は決して
叶いはしない事を未だ理解できないと言うのか



FACILITY X-394

夢を 見ていた。

 

目を開けて、映し出される群像と周囲の映像を見て夢だと理解出来た。

 このような部屋を、俺は知らない。

 

――おはようございます 管理人 今日も良い一日を過ごせるように

私がサポートします。私は■■の■■■■■です。

 

背もたれにかかる馴染みある椅子の背。身じろぎすると同時に重心が体ごと

軽く移動した事から、キャスター付きの椅子に座ってると理解する。

 耳を打つ声は、今まで耳にした事のない音声だった。

 

――貴方の目に映るウサギロボが見えますね? そうです、その

アブノーマリティの収容ルームへとエージェントを向かわせて下さい。

 

複数の画面が混在していた。その一つの画面に映る、ウサギなのかダルマなのか

良く分からない物体が佇んでいる。ソレに対して音声の指示するがままに

自分は何時の間にか置いてあった小型マイクに対して命令を下していた。

 

画面の中で人が動く 食事 清掃 etc……

 一瞬、砂嵐らしきものが産みでて、二頭身のサウスパークを思わせる人々が

泡をくって右往左往する最中に、そのウサギロボと呼ばれる存在は収容されている

場所から移動していた。鎮圧の指示を音声の言われるがままに下す。

 ロボットは、複数の画面の中の人達に叩かれると立ち位置を崩さずに姿勢を

真逆へと倒立した。不気味な赤い染みを地面に残しながら。

 

――よくできましたね 管理人 初めてにしては上出来です。

この調子で、アブノーマリティからエネルギーを収集していきましょう。

大丈夫です。貴方ならきっと出来ますよ

 

ふと、その音声は機械的なものから何時しか肉声に変わっていると気づいた。

 首を横に向ける。

空色  長い髪  白い肌……

 黒い髪  透き通る瞳……

 

……夢を見ていた。

 

 「……■■■■主任 彼を異動させる事を考え直してくれませんか?

はい、わかっています。心神喪失の症状を無くさない限りは今後の業務に

支障をきたす事は。けど、Ms.■■■を事故で亡くしたばかりなんですよっ」

 

 「えぇ、お願いします。もう少し……もう少しだけ休養とメンタルケアを。

アレ等から抽出して作られたエンケファリンの効力に対して疑ってはいません。

ですが、副作用が例え無いとしても。人の自然治癒と古典的な治療方法は

歴史学から顧みても、その信頼性は崩されないと考えています」

 

 二人の女性が見えた。一人は、何処か最近良く見た白衣の女性で

表情は自然な複雑さを形成している。

 

もう一人は背中しか見えなかったが、何処か声は必死さを伴っていた。

 白衣の背中をじっと見ながら、何処かソレに既視感を自分は憶えていた。

 

 

 

 

「……ぅ  あっ」

 

「! ……っ 管理人に報せて 患者が気づいたと」

 

ナニカの夢から目覚めた雁夜は、瞼を開けて最初にマスクと施術衣を

身に着けた複数の医者と看護婦らしい人影を見た。一人が慌てた様子で

その場から走り出すのを目の端に捉えつつ未だ覚醒しない頭を動かす。

 

(此処は……病院、なのか?)

 

 此処ら辺の大きな病院と言えば冬木市では新都にある聖堂病院だ。

何時の間にか普段着ている服は全て取り外され患者衣になっており

普通ならば倒れ込み、そのまま病院で手術を受けたと思うべきだろう。

 だが、それにしては違和感もある。

 ……そうだ。自分は半死半生の体であり何時急患として病院に運ばれて

可笑しくない体だが、それをアノ父が許す筈もない。

 何よりも、自分の体が長くない事は理解しており、やるべき事がある。

そうだ……自分はっ!?

 

 「っ! そうだっ、聖杯戦争はっ! ぐぁっ!?」

 

仰向けの体を起こすと同時に背中に痛みが駆け抜ける。

だが、痛みなど慣れたものだ。それよりも一刻も早く今の現状を

理解して動かなければならないと、苛立ち混じりに腕に繋がれた

点滴管らしきものを強引に引き抜き、地面に体を起こして驚愕した。

 

 「……!? 体が、軽い?」

 

そうだ、体の痛みが少ない。

 普段いつも感じる刻印蟲の激痛に不快感。魔力を作り出す故の疲弊が消えている。

いや、そもそも体の中にある蟲そのものが……。

 

 「!? 目が……見える」

 

麻痺していた部位の目頭を触れて、静かな驚愕に浸る。

目が、見えるのだ……魔術回路の生成の為に代償として壊死した筈の目が……。

 

 

「……あぁ、起きたか。予想に反して随分と回復と覚醒が早い。

ソレも、魔術師と言う存在にある回路の成す賜物なのかな」

 

 カツン、カツンと床を反響させ。自動ドアを開いて現れたのは。

あのバーサーカー、自分が召喚したサーヴァントだ。

 

最初に見た時と違い、片方の目に眼帯を施しつつ出現した彼女はモルモットを

見るかのように不躾な視線を彼に寄こす。

 

 やはり、自分は聖杯戦争に参加したのだ。と言う現実感は肩に圧し掛かり

決して自分が今までして来た事は夢でなかったのだと言う事実は、苦々しさと

同時に安堵と悲しみが混ぜ合わさった奇怪な酸っぱい感覚が生じる。

 

だが、サーヴァントが普通に病院内に居ると言う事実が頭の中に入ってくると

同時に雁夜は大きく目を見開いた。

 

 「なっ、何で……」

 

狼狽える彼を尻目に、彼女は冷静そのものの態度を貫いて切り捨てるように

言葉を放つ。二の句を継がせぬ静かながらも圧倒的な口調で。

 

 「Mr.雁夜、君の考えているであろう疑問に対して回答を投げかけよう。

まず第一に、此処は病院ではない。FACILITY X-394 通称Lobotomy coop

と呼ばれる会社の施設に付属しているmedicalroomである。

第二に、君の体のなかにある……あぁ、刻印蟲と呼ばれる疑似アブノーマリティ

に関してたが、可能な限り切除した。管理人として人としての立場でもアレを

ツール型アブノーマリティとして容認する事は出来ない。

第三に、君は此処で約数週間意識を失っていたわけだが……後遺症と思しき

体への違和感は存在しないか聞きたいのだが」

 

 ガツンと頭を殴られたような気がした。

 

第一と第二の内容に関してはほぼ理解が出来なかった。まず何だかの会社と言う

内容やツール型アブノーマリティと言うのも意味が分からない。

 だが三番目の内容だけは、はっきりと聞き取れた。

数週間 自分は意識を失っていた……?

 

 「は……はは、もう 終わりだ」

 

「Mr.? Mr.雁夜?」

 

 「くそっ、数週間気絶していただって!? 俺は終わりだっ。既にそんなに

期間が過ぎているなら聖杯だって誰かが獲得する寸前に決まっている。

 葵さんを幸せにする為に、この一年間を耐えて耐え忍んできたって言うのに……!」

 

「Mr.雁夜っ」

 

 ガンッ。

 

 崩れ込み、地面に拳を叩きつけ張り叫ぶように自身の悲哀を綴る雁夜に下されたのは

慰めの言葉でなく、軽くも意識を我に返す脳天への衝撃だった。

 

 軽く涙目になり顔を上げると、表情は変わらずも心なし呆れの目線で自分を見下ろし

手元に何時の間にかウサギを模したハンマーらしきものを彼女は携えていた。

 ……何故か、とても見憶えがあるハンマーだ。

 

「落ち着いたかな?

……何やら時間に対し拘りを見せているようだが、心配はしなくていい。

君が治療として受けた期間は数週間だが、外の世界では数時間だ」

 

 「は……? 一体なにを」

 

「ホクマーに会ったら感謝するんだな。尤も、彼が誰とも会いたがるか不明だが……」

 

 ブツブツと呟く彼女に対して、雁夜はやはり意思疎通が出来ない人物だと改めて

思えた。だが、今まで想像していたバーサーカーと言う存在ともイメージは合致しない。

 

不気味なものを見る視線に移り変わる彼に対し、ふと、彼女は気づいたように

顔と目線を戻すと呟いた。

 

 「そう言えば。君の実兄と義娘の事だが」

 

「! そ、そうだっ。桜ちゃん! 桜ちゃんは家にいるんだ! 戻らないとっ」

 

 バーサーカーの声に彼も我に返った。

絶対に救い出して見せると約束した、幸せにしてみせると願った彼女の娘。

 サーヴァントを召喚する其の時刻、彼女は用意された私室に居た筈だ。実兄も

居るが、あの兄が何かしてくれる期待など家を出奔した時から持ち合わせていない。

 臓硯は責め苦を受ける身代わり(自分)が居なければ彼女へと再度アノ地獄を

味合わせるのは想像に難くない。何としても……。

 

 「Miss桜は、いま現在この会社の中央本部に置いているroomに居る」

 

「――は?」

 

 もう 「は」 を馬鹿見たいに連続で上げるだけに留まっていた。

完全に間の抜けた顔つきを隠そうともせず、顔を上げる雁夜へと彼女は

少し溜息をついてから、周囲にいる看護婦らしき人物に命じた。

 

 「記録ビデオを持って来てくれないか?」

 

 

 ・

 

 ――場面は雁夜が気絶する前に遡る。

 

バーサーカーである白衣の彼女。その詠唱が終えると同時に地面に現れたのは

円形の中に腸詰のような模様が模られた魔法陣のようなもの、そして出現するは

全身が煤のようなもので形成された少女を模る物体。彼から見て恐らくは想い人の

愛娘より少々高い程の背丈だった。

 だが、それが少女でない事も明らか! 異様な空気を宿し、胸部を貫くように

火掻き棒のようなサイズのマッチ棒を生やすソレは、立ち尽くしながら

シクシクと全体の黒から僅かに刳り貫いたような白い虚空の目と口から物悲しさを

感じさせる声を発生させていた。

 

 「召喚魔術かっ 小癪な」

 

間桐臓硯も出鼻を挫かれたとは言え立ち尽くすような小物ではない。

 彼は息子が呼び出した英霊の能力がどうであれ、その能力よりも早く圧倒的な

物量で雁夜と召喚者であるサーヴァントを再起不能にすれば良いと判断していた。

 その意思に従って、牛骨をもパンを噛み切るような肉食の翅刃虫に蟲毒によって

数百年手塩にかけて育んだ優秀な蟲達を飛翔させ一斉に飛びかからせんとする。

 

 成功すれば、瞬く間に彼らを倒せる筈だった。成功すれば……。

 

 

  Why……(なぜ……)

 

    

     Why is my Story the Only Tragedy?

       (なぜ私の物語は悲劇しかないの?)

 

 

       ボ   ォォオオオオオッッ!!!

 

 

 「が っっ゛!!!??!!!」

 

 

 ・

 

 

 「……っそ、そうだ! この熱っ……憶えてるぞっ。この女の子が突然

泣き叫んだかと思うと、地下全体が一気に温度が急上昇してっ」

 

 記録ビデオ、と称された。雁夜の知る限り目にした事のない軽量化された

パソコンが運ばれ。その物体に対しても軽く衝撃を覚えつつもバーサーカーの

説明に流されるままに、あの日の召喚以降の場面を第三者目線で記録された

映像を指しつつ小さく叫んだ。

 

 「息も出来ないと、このまま死ぬんじゃないかって感じた時……」

 

「その時、私が治癒弾とシールド弾を君に発砲した。その衝撃にさえも

君は耐えうる事が出来ない程に体力を消耗していたようだが。

 いや、逆に意識を失ってくれて幸いだったかも知れないな……滞る事なく

この会社の中に入れる事が出来たし、手術も容易に進めた」

 

 その言葉に、また新たな記憶が頭の中を駆け巡る。目頭を灼く赤、少女の鳴き声

それと振り返った白衣の彼女が向けた人差し指、それと胸に突如生えた衝撃と暗転……。

 

 幾つか追及したい事が、彼女との出会いから幾度も生まれてる事だが

このまま質問攻めにしても、肝心の桜の行方や大事な現況についての情報を

得る機会を恐れて胸の中に一時その欲求を抑制した。

 

 ビデオの続きが再生される。

 

 

 ・

 

「ぉ  のれぇぇぇええ!!」

 

臓硯は吠えた。熱は 火は間桐の魔術にとって、構成する蟲にとって天敵である。

 サーヴァントが召喚した煤で出来合わさった少女の形の出来損ないのようなソレが

いかに自分にとって最悪を思い知った。だが、只では終わる事など出来ない!

 

 「このマ キリを  舐め  るナァァァ!!」

 

 空間を満たす人を、生物を一切蒸し殺す温度を間桐の魔術を最大限に行使して

魔力の膜を作り上げる。その場しのぎの急ごしらえである事は承知の上

 だが、数秒だけでも構わない! 数秒あれば十分!!

 

サーヴァントが、倒れ伏した雁夜へと近づき手を翳すと。その肉体が淡い粒子と共に

消失した異変や、この自分を焼き殺さんとする高温に対してサーヴァントが平然と

している事に対しても気に留める余裕は今の大魔術師に無い。

 

 サーヴァントと煤の少女。どちらを優先的に襲うか1コンマの決断を有したが。

まだ隠し種を抱える危険のあるサーヴァントよりも、いま現在の危機的状況を処理

する生存本能が上回る。

 

 おぞましい蟲の大群の全てを、その少女の形をした煤へと群がらせた。

ミツバチがスズメバチを蜂球(ほうきゅう)で仕留めるように。間桐の魔術の

特性は束縛と吸収。サーヴァントとは即ち、魔力の塊なのだ。

 受けた一撃は多大な被害を周囲の蟲達に与えたが挽回の目はある!

 気づけば周囲を満たす業火に近い熱気は薄れており、蟲達の動きも活性化を

取り戻さんと蝕肢を振るわんとしていた。よしっ、封じ込めた!

 

 (バーサーカーがっ 貴様の宝具もろとも、我が飲み干してくれるわ!)

 

 この何百年程、蟲達の使役のみに魔力を注ぎこみ魔術といった魔術を行使する

事など無かった。だが、自身の領域であり巣が壊滅する危機を覚えている今

間桐臓硯は死に物狂いで、かつての全盛期にありし業の片鱗を発揮しようとしていた。

 

 だがしかし、しかし……だ。再三告げたが、遅すぎた……。

 

 老兵が気づいた時、その彼女は死闘の自身や召喚した使い魔に全く意識を向ける事

なく、散歩に出るような歩調で地下の階段を上がっていた。

 いや、一人ではない……バーサーカーの周囲には2、3人の彼女の白衣の中と同じ

スーツ姿らしき恰好の武器らしきものを携えた取り巻きを連れて。

 

 「オ  マエ……」

 

 キリキリと火打石のように鋭く歯を鳴らす蟲達から発生する音に意を介さず

地下室の出入り口に辿り着きかけた時、ようやく彼女は口を開いた。

 

 「一つだけ言っておく、亜種T-04-50」

 

            「ソレのカウントは五秒だ」

 

 

「ナ」

 

 5  4

 

 「ン」

 

   3 2

 

  「ダ」 

      

       1

 

 蟲達の感覚は鮮明に間桐臓硯へと伝達される。捕食される餌の悲鳴、暴れまわる儚い抵抗

苦痛に宣う肉体の脈動等に悦を得るために得た魔術の技能の一つ。

 その蟲達が感じた。一瞬の膨張と、膨れ上がる純粋な暴走の赤い魔術を。

 

 

 

            ――0

        ボ ォ  ォ   オ    ンッッ

 

 

 

 ・

 

 

 「……恐らく亜種T-04-50には多大なダメージを負わせる事は出来たものの

完全に消滅させる事は出来ていない。

 気絶した貴方から亜種T-04-50の疑似ギフトを取り除いた時も、未だ活性化を

有していた事を考えても、まだ生存しているだろう」

 

 少女の形をした煤のサーヴァント? の自爆。地下室を満たす爆風と最初の熱を

上回る火の暴威に呑み込まれる蟲達。それを最後に途絶えた記録映像を

見収めて半ば茫然自失している雁夜に対し、淡々と説明を彼女は続ける。

 

 「遠坂 桜……いや、今は間桐 桜だったな。彼女の体内に潜伏していたギフトも

可能な限りは摘出を行っているが、致命的な場所に関しては今の所麻酔処置で対応している。

 今後、あのアブノーマリティを見つけた際は完全なる処理をした後に改めて手術の続きをする」

 

 「……つまり」

 

 「ん?」

 

 「桜ちゃんの体にあった蟲は……臓硯の一部は、取り除けた。

桜ちゃんは……解放、されたって事だよな?」

 

 「現状、まだ不安定な状態ながらも。概ねそう受け取って貰って構わない」

 

 肯定の頷きを見ながら、まだ夢見心地のように体の感覚が覚束なかった。

出来の良い夢を見てるかのような、いや 何と表現すれば良いのだろう?

 

 サーヴァントを召喚して体感時間として一時間にも満たない間に、目的の大まか半分が

達成されたのだ。臓硯の悪夢から解放され、桜ちゃんも自由の身になって保護されている。

 まだ、この目の前の白衣の女性の力に対して把握出来かねずも。あの生まれた時から傍にいた

群体の悪夢を一蹴にした頼もしさは未だ体に染みついている。

 だが、殆ど喜びの感情は心の中になかった。

   

 「あの映像の中にいた、何時の間にか居た複数の奴等は?」

 

「我々の会社の所属のエージェントだ。スぺシャリー、アレックス。

二人共信頼出来る人物であると私が保証する。他にも仲間達はいるが

紹介は後ほどにする。それで構わないだろうか」

 

 「……さっきから口にしているアブノーマリティって言うのは?

サーヴァントじゃ……ないのか?」

 

「現代科学では解明できない未知なる異常存在全般を呼称してアブノーマリティと

我々は呼んでいる。君の言うサーヴァントも我々から見ればアブノーマリティと

捉えられる存在だ。あの、君達の便宜上の父か祖父もソレに値する」

 

 「……。コレは、夢なのか?」

 

「残念ながら、君は現実の中にいるよ雁夜。

FACILITY X-394

 世界の翼 その一つの中の初めての部外者としてね」

 

 「つば さ?」

 

また新たな謎の言語が飛び出してきた。もうバーサーカーがまともに会話のやりとりを

していると言う奇妙さすら追及するのに精神は疲れ果てていた。

 酷く、倦怠感が襲い項垂れる雁夜へと彼女は静かに告げた。

 

「再度告げるが、君は数週間死の淵を彷徨っていた。切除した部位を移植して適合出来た

とは言え、君がアブノーマリティから受けたダメージは深刻で、我々の見解から見ても

手術後で半年生きられるかどうかといった体だ。無論、安静にした上でだが」

 

「半年? ……ははっ、十分すぎる位だな。そんなに生きられるようにしてくれて有難い」

 

 拳を揉み解しつつ、乾いた笑いを浮かべる。

一ヵ月も本来保たなかった体。体の中の魔術回路は間桐の家に戻った時ほどに落ちている。

 寿命を犠牲にして得た強化の魔術回路。それを、このサーヴァントは未知なる技術で

全て台無しにした上で、自分の肉体を半年ほど生きられる体にしてくれた。

 リターンとリスクでは、リスクが計り知れない。だが、臓硯の悪夢を終わりにしてくれた

功績や桜ちゃんを保護した事(この目で確実に確かめてからだが)も踏まえれば

十二分に、このバーサーカーはたった一夜で魔法のように解決してくれたのだ。

 

 だが、それでも達成感や満足感は得られない。雁夜は、どうしようもない 訳が自分でも

わからない苛立ちが沸き上がるのを自覚していた。可能ならば、目の前の彼女に当たり散らしたい

そんな暗い 暗い欲求が立ち昇るのを。

 

 その欲求を鎮めるように、大きく息を吸って吐くのを眺めた上で彼女は告げた。

 

「此処の空間は、現実の時間と異なる」

 

見下ろす視線と口調は侮蔑や嫌悪もないが、好意も無い。

 

「余りに多くの情報を処理するのは貴方の体調に差し障るだろう。

もう少し、休むと良い。必要なものは巡回する職員に告げてくれば大体のものは用意する」

 

 そう告げて、踵をかえす彼女の背を無言で見届けようとして。今まで見落としていたが

まったく聞いてなかった事を慌てて言葉にした。

 

 「ま、待ってくれ! そう言えば……君の事を俺は何て呼べば良いんだ?」

 

その言葉に一瞬ブレるようにして静止した彼女の背中は、何処か逆鱗に触れたように

無言の圧力が膨れたように見えた。

 だが気の所為だったのだろう。振り向く彼女は変わらず淡々と告げる。

 

「……私の名前か。他の職員たちには通称管理人と呼ばれている。

 だが、正式な名称を読み上げるとするなら―――」

 

 

 ・

 

 ……。

 

 名前を告げた彼女が立ち去った後も雁夜は揺れる感情の坩堝を制御する事に手間取っていた。

 

 だが、ゆっくりと自分の中で整理をしていき理解出来る事を明確な言葉にする。

 

「……臓硯の奴から 生まれてからずっと覚めないと思っていた悪夢から。

 あの生き地獄であり奴の束縛から、遂に解放された」

 

「桜ちゃんも、まだこの目で見ないと安心出来ないけれど……ようやくだ。

ようやくあの子の顔に笑顔を取り戻せる、幸せにしてあげる事が出来る。

 葵さんと凛ちゃんと、三人でまた一緒にあの公園で……」

 

俯き、緩慢に上げた顔には笑みが零れ、何処か病的な光を目に帯びながら笑う。

 

「……ははっ、何だあとは簡単じゃないか!

時臣の奴を、倒す事が出来れば。もう後は何も心配しなくていいんだっ……

俺の……俺が喚んだサーヴァントは未だ良く分からない部分が多いけど……万能で 最強だっ」

 

「待っていてくれ、葵さん……もうすぐ、夢が叶うから」

 

 はは   はははははは……。

 

 

 

 

 ・

 

 

 『待っていてくれ  葵さん……もうすぐ』

 

 雁夜の病室での様子。それはLobotomy coopのある一室に流れていた。

そこには、つい先ほど去った彼女。それに数名が同席して流れるメッセージを

無関心に近かったり、軽蔑を浮かべるようだったりなどの感情を浮かせて聞いていた。

 

「……この御仁は随分と屈折した人格形成をなさってるようですね。

管理人、私の意見を言わせて頂けるならば。彼は幼少期からの精神汚染を既に受けてると

思われます。medicalroomでの暫くの養生をさせるべきです」

 

 「イェソド。君の意見も理に適う部分はある。だが、事態は非常に複雑且つ困難を有している。

この我々の世界線と異なるが、それとも接続されるか否かの『過去』に招かれた時点で

彼を拘束する方法は適解とは言えないだろう」

 

 ビジネススーツで、紫色に紫の髪と言う全体的に紫を基調とした男性が管理人に意見を述べる。

それに対して彼女は意見を受け取るも自論を述べて反論を検証する。

 

「エンケファリンを投与すればいい。そうすれば彼の鬱病と思える言動や性格も

幾らか緩和するさ。それより、coopの拡大と新調の中で、いい加減ビール自販機

の設立をしてくれても良いんじゃないかと思うんだ、管理人」

 

 「ネツァク。アブノーマリティから抽出された生成品を気安く、この世界の人間に投与する

事は出来ない。それと、自販機の設置も却下だ」

 

 次に、やる気のない声で口を挟んだのは。緑の髪の毛を切るのが面倒といった具合で伸び放題

にしたスーツの男性だ。彼に対して彼女は厳しい口調で諫めた。

 

「まぁ、管理人の命令に俺は従うだけさ。どんな指示であろうとも俺はこなすだけだよ。

そのカリヤと言う男を無理にコントロールしたいって言う事であってもな」

 

 「……ケセド。冗談でもそのような事は言わないでくれ。会社の品位に関わる」

 

青いクラヴァットを洒落たボタンで留める、20世紀に良く見られるスーツを着こなした青を

基調とする男が気軽な調子で、そう述べた。彼女は静かに、その言葉を宥める調子で返答した。

 

「あ! でもでもっ、私もケセドと同意見ですっ。

管理人が命じる通りに、何でも行動しますよ! Miss桜の世話や、あのカリヤと言う人物の

兄である……ツルノの矯正に対しても精一杯サポートします!」

 

 「…………Miss桜の相手は、現在ティファレトに任せている。それでも状態に良好の兆しが

見られないようであれば。マルクト、君のサポートに期待するつもりだ」

 

 茶色と黄色の髪の毛のショートカットをした、明るい感じのキャリアウーマンといった具合の

女性は屈託のない笑顔で管理人に張りきった声でケセドと呼ばれる人物の言葉に同調する。

 それに、僅かな沈黙の後に彼女は労いの声を投げかけた。

はいっ! とニコニコと微笑む彼女は、光ない黒の瞳を最後に無言でいる隣席に向けた。

 

「あら? ホド、どうしたの? 何時もなら真っ先に管理人に声を掛けるのに」

 

 纏まった長い髪が頭頂部から1本はねている、暗い青の瞳をしたスーツの女性は俯いていた。

この居室にいる全員が全員、このLobotomy coopではカーストの上に値するのであろう事が

会話から察せられる。その中で、同席した最後の人物はマルクトと呼ばれる女性の声にも

ただ沈黙を守りぬくだけだ。全員の視線が集中した時、ようやく声があがった。

 

「……皆は、本当にそう思ってるの? 違うでしょ」

 

 「ホド」

 

「違うでしょっ。こんな、こんな訳の分からない催しに参加して

口では皆は普段通りに振舞ってるけど本当は嫌なんじゃないの?」

 

ホドと呼ばれる女性は、他の者達と違って負の感情を前面に押し出す。

 

「必死に、私たち必死にこの会社でアブノーマリティを管理してノルマをクリアして。

何度も、何度も何度も何度も……気が可笑しくなる時間、延々と繰り返して

 ……ようやく休めるって 私たち皆で ようやく穏やかに眠れるって。

本気で、そう思ったのに……私達なんでこんな事になってるの!?」

 

 彼女は切羽詰まった声を一室に響かせる。苦い顔を多くがする中、管理人と

皆から言われている人物だけは決して声の調子を崩さずにホドへ告げた。

 

 「……根源に接続した以上、時空間の異常跳躍によって何が起きても可笑しくない。

聖杯と呼ばれる、市町村を一つ占める巨大なツール型アブノーマリティ。

 それを解析すれば、きっと我々の問題も解決出来るとも」

 

「そんな慰めなんていらないっ。管理人っ……ねぇ、管理人。

 本当はこの出来事や先行きも全て掌握してるんでしょ?

だって、だって貴方は本当の意味で管理者だもの! そうですよねっ!!?」

 

 「ホド、止めろっ」

 

イェソド、ネツァク、ケセド。どの三人か言ったのか、それとも同時に告げたのか

不明な制止の声も振り切り、彼女は必死に手を組んで管理人と言う彼女に懇願する。

 

「どうか……」

 

「どうか、お願いです……また、あの頃のように 私たちを……導いてください」

 

そう、万感の想いを満たした涙声を彼女は発する。ある人の名前を。

 

 

 

 

                「――カルメン」

 

 

          「……私は彼にも告げた通り、Xだ ホド」

 

 

 

 

 

 

 

 




この世界線では、間桐 雁夜がサーヴァントを呼び出した日は
原作よりも数日ほど早くになっています。他のマスター達の
サーヴァント召喚に関しては原作通りです。

このサーヴァントはオリジナルですが。Lobotomy coopの
ゲーム作品の完全なメアリースーと言う訳ではありません。
 サーヴァントに至った経緯や理由は明確に存在します。
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