この煉獄においては 見渡す限り目の端にあるものだからな
何万もの吐瀉物で描かれた地上絵と言うのも また普段と
違った趣があって良いものではないか?
遠目で見れば あらゆる過程で死を遂げたものたちの体液で
形成されたコントラストも名画と遜色のない美を飾る
そして 絵を作る為にはまっさらな板が必要だ
我々はソレを持っている この広い世界と言うキャンパスを
遠坂 凛と同級生である子達。彼 彼女等は登校の最中に魚眼の異様な風貌の
男が突如として現れて忽然と街から居なくなったと言うわけでもなく、現在は
普通に上気して赤らんだ額を両親に拭いて貰い、大人しく休んでいた。
「んー36度8分。大分下がってきたけど、今日一日は安静にしないと駄目よ」
はーい、と素直に返事しつつも子供は退屈だった。昨日の学校帰りから少しだけ
頭痛と喉の痛みを感じ、その後だいぶ熱も上がった。両親の話だとクラスの
他の皆も大体同じらしい。ちょっと時期外れのインフルエンザかしらねぇと
学校が臨時休校になる報せを電話で受けつつ母親がぼやいていたのが子供の
印象には残っていた。父親は既に仕事に向かってるし、今は自分と母だけだ。
「それじゃあ、お母さん買い物に行くから。
熱が下がったからって無理に動いちゃ駄目よ」
母に行ってらっしゃーいと挨拶したが、そう素直に寝ている程に体は疲れてない。
退屈だから、テレビかゲームでもしようとする。学校が休校になったのも
ラッキーだ。暫くは休みが続けば良いなと考えてると玄関のチャイムが鳴った。
誰だろう? お母さんもお父さんも出て行った。一人で外には余り出ないように
言い含まれてるけど……そう悩んでると声がする。
「すいませーん。宅配便です」
若い男の人の声だ。なんだ宅配便か、けど何時もはお母さんが出てるからなと
考えるが。暇な分、子供も何時もお母さんが出来る事を幼稚園児じゃないんだし
宅配の荷物を受け取るぐらい出来るとドアを開けた。
「あーどうも。……おっ 君一人で留守番かい? 偉いね~」
ドアを開けると、いつも良く町で見る宅配の制服を着たオレンジ色の若いお兄さん
が自分を見て朗らかな笑みを浮かべて褒めてくれた。少しだけ愛想笑いを浮かべて
宅配のお兄さんが持ってきた荷物を一瞥する。すごく大きな段ボール箱だ
お母さんかお父さん用の荷物かな? それとも親戚が何か届けてくれたのかも知れない。
「わぁ大きな箱。何処から届いたの?」
無邪気な質問に、お兄さんは陽気な笑顔で見てみるかい? と包装してるテープを切る。
あれ? 勝手に解いて怒られないのかなと思いつつも、何が入ってるのかワクワクして
お兄さんが傾けてくれた段ボールを覗き込んだ。
――何も入ってない。
「え?」
「ははっ。俺は届けに来たんじゃないんだよ君、
……ガチャン ブロロロロォ
ドアを閉じる。宅配トラックの後ろに段ボール箱が積まれ、発進する。
こうして、この子供の命運はありふれた日常の中で突如一瞬に尽きた。
「これで……人目、と。いやぁ 好調だよ」
ねっ? 旦那と無線のほうに声をかける。少ししてノイズと共に声が返って来る。
『……えぇ龍之介……彼の旧友と邂逅せしめた天の采配……聖処女の現界と共に我々の
願いが紡ぐ道は開けてますよ』
「確かに、あの旦那好きの姉さんの活かした計らいで芸術品の素材集めも
滞りないよね。こりゃー とってもcoolなもんを今夜中にでも完成出来そうだ!」
キャスター陣営のジルドレェ及びマスター雨生 龍之介はアジトの港から通ずる
地下空間から冬木市の夜の散策して新たな贄(子供)を集めようと行動開始。
その直前に邪魔が入った、いや新たな彼等の味方と言える駒の投入だが。
「ム……其処におられるのは何方(どなた)です」
海魔を繰り出す準備をしつつ、闇夜に目を凝らすジルドレ。側にいる龍之介も
遅れて誰かが潜んでるらしいと、殺人に師である旦那の振る舞いを見て目を移すと
日傘を開いて歩いてくるゴスロリのような少女を目に映した。
普通なら若く中々容姿も優れた女性は、龍之介の殺人アートの標的となるのだが
その女性からは不思議と食指が動かない。彼のある種の審美眼と言えるものが
ソレを普通の女性でないと無意識に見抜いたからだろうが、彼自身は理解してない。
優雅に微笑む女は、指を軽く鳴らす仕草をする。すると周囲の景色が移り変わる。
地面はおぞましい人の屍で埋め尽くす絨毯となり、近くにある草木も人間の屍で
織り合わさったものへ変わる。龍之介は、その景色を純粋に美しいと感嘆の声を上げ
ジルドレェは、そのとても懐かしい魔術で出来た光景に沈黙し。それが解除されると
少女へと出目金の眼光を一層強め、肩を震わせた。
「おぉ……おぉ! 今の魔術はっ、忘れる事は未だなし! おぉぉ!」
フランソワ! そう叫ぶように名を唱えて魔術師は駆ける。普通なら常人から逸れてる
爬虫類染みた風貌が凄まじく迫るのを見れば、大半の女性が悲鳴を上げて逃げるが
名を告げられた女性は、にこやかに彼が広げた両手の中へ無抵抗に受け止められ
情熱的な接吻を彼に施す。その何年も別離を交わした恋人同士の再会のような光景には
流石に彼の人間性の大事な一部分が欠落してるマスターも、頭を掻いて数時間ぐらい
どっか他所で素材集めなりアートの新たな構築を練って邪魔しないほうが良いかな?
と気遣いを浮かべる程には熱烈なワンシーンだった。それでも、彼は目的である
素材集め(子供狩り)を放置するのはちょっと不味いよねと感じてる為、通常運転で
口挟むのには少々勇気いる二人の空気へと声をかける。
「えと……旦那の恋人すか?」
濃厚な唇同士の接触は一筋の唾液を蜘蛛の糸のように引いて離され、妖艶な眼は
龍之介に向けられる。普通の人間なら魅了される風貌だが、向けられた当人は
やっぱりアートの材料にするには微妙な感じだなと評価を変えない。
「アハハハハッ! 私が? ジルの恋人? まーっ 昔はそんな時もあったよねー
ねっ? ジル」
気さくに少女は旦那へ話しかける。感涙と思える雫を流しつつ未だ声を発する事が
出来ぬ程の歓喜に震えてるらしい魔術師は肯定の首振りだけに収まっていたが
暫くして感激が収まると、不思議そうにフランソワと言う少女へと声かけた。
「……然し、不思議ですフランソワ。貴方とはつい少し前に聖処女と共に傍へ居た
時は随分とつれない態度だったと思いますが」
この、かつての正体が今一つ謎に包まれた幾多の姿を持つ相方ならば昨日の深夜の
姿とて仮初の一つと納得出来るものの、その時の対応と今の彼女の和やかな雰囲気
敵を騙す策であったとしても、今一つ結びつかない。
「あーもうっ、ジルってば」
何時まで経っても、思い込むと一直線な部分は変わんないねーと本当に可笑しそうに
ジルドレの頬を艶めかしい手つきで撫でつつ説明を開始する。
雨生 龍之介に関しては、その内容は殆どチンプンカンプンだったが。彼の頭で
よーく噛み砕いた感じでは、旦那が思慕してる女性の側にいたセフレの知り合いの
女は、この目の前の本物のセフレと良く似た美術品を持ってるようだが。それは
自分達よりもっと未来の収集家だったからで、これからその人物は俺達の芸術作成を
邪魔しようと躍起になって町をしらみ潰しに探索するとの事。
前者に関しては、余り考えてもさっぱりだったが。後半はとりあえず旦那と俺の
大事な作品作りを潰そうとする奴がいると言う危機が迫ってる事だけは解った。
「なんとっ、未来の英霊と……ふむ、俄かに信じ難い話ではありますが。それならば
貴方が譲り渡した、この宝具を持っている事は説明つきますねぇ」
「でしょ? ねージル、昔みたいに楽しくやろうよ。……それとも、やっぱり
大事な大事な聖処女様の心を取り戻すのが一番優先?」
蠱惑な目が魚類を思わせる視線と絡む。間としては数秒足らずで答えは反って来た。
「無論そうですね。貴方がこうして私に会いに来てくれたのは感無量ではありますが
それでも、私はジャンヌの心を呼び戻さなければいけません。そう この手で!」
狂わしい程に情熱の高まった声と共に掲げられた手を、うんうんと感心した同調の
態度を少女は向ける。然し、勘が変な部分で冴える龍之介は少女が対応とは真逆に
旦那に対して何処か見限ったような冷淡さを覚えた。
(……まっ、旦那が嬉しそうなら別にいっか)
そうマスターである彼が、喜んでやる気が充填されてる自分の師に水差す事も
ないだろうと遠巻きに見守ってるのを傍ら、予感が的中してるフランソワこと
フランチェスカは、聖処女狂いのジルに情愛を向けた目の奥で冷めた感情も向けてた。
(やっぱり、この時期のジルって麗しき聖処女様に傾倒しきっていて
魔術の話は弾むんだけど、やっぱ英霊として発現された所為なんだろうなー
ちょっと反りが合わない部分があるんだよね)
フランソワ 今は名を変えてフランチェスカ プレラーティ。彼・彼女は本来の
時空では蟲使いの末裔(間桐臓硯)に妨害され第四次では姿を現す事は終ぞ無かった。
この聖杯戦争では、その妨害者が召喚と同時にXの並みならぬ殺意と共に与えた宝具
のダメージから外部に対する警戒が取り除かれた事。
そしてこの盤上が掻き乱される事を望む邪悪の意志を携えたセフィラの工作により
目出度く数百年の時を経て旧友との邂逅を果たした訳だが、歪んだ英霊として現界する
彼との短いやりとりから自身と血肉の通ってた頃に無辜の民を面白おかしく
虐殺してた頃の記憶は併せもつものの、自分の直接接していたジル ドレとは大きく
一線を画す部分がある事実を、肌を重ねた事もある程には深い関係であるからこそ
フランチェスカは理解した。
生きてる頃のジル ドレ。聖処女が尊厳を踏みにじられ、民衆に辱められ全てに
見放され、それを助けようとする試みも叶わず、神に必死に救ってくれと祈るも
願いは終ぞ届く事なく火刑になったジャンヌ・ダルク。そして、その事実に
信仰する神を呪い、神など居ない事を世界に証明しようと自分と共に大量殺人
に手を染めた。あの頃の神へ反抗せんと漆黒に輝いていた彼はとても輝いてた。
元より少児性愛を併せ持っていた彼と共に、黒魔術の為にと騎士見習いと理由を
付けて多くの子供を浚い、あらゆる方法で拷問死を観賞・実行したのは今でも美しい
思い出として残ってるが、英霊と言うのは当時の頃の状態を強く映し出していても
当時付き合っていた頃の細やかな癖や特徴までは持ち合わせてない。
当たり前の話だが、何百年も前の英雄と知人だった者が聖杯戦争に参加して当時の
英霊と接する等と言う前代未聞な想定を聖杯のシステム及び作成者が知る筈はなく
そしてその実例を今ここで産まれさせた少女の体をした悪魔の感想と言えばだ。
(んー……
中々新鮮だけど、やっぱ出来の良い写し身っぽいのが抜けないんだよねー。
昔のジルなら、ちょっとは私の揶揄に躊躇い見せたり少しドン引いて人間臭い
可愛げのある部分もチラッと見せてくれたけど)
このジルは、そう言う所がないもんねとプレラーティは心中で彼の評価を斜め下だ。
別に失望してる訳でない。元々、聖杯戦争と言う魔法を作り上げようとする産物に
羨望より蔑視の感情が彼女には大きい。あの、胡散臭い黒孔雀服もどきの代行者に似た
女の話に一枚噛んでるものの、全ての説明を受け入れる程に純粋ではない。
いや、信用どころか虎視眈々とフランソワも頃合いを見て逃走するか勝機があると
踏めば裏切る気でいる。既に、アレは同じ穴の狢であり性質は自分と同等には悪と
少しだけの付き合いであるものの長年生きて来た勘から見抜いていた。
あらゆる事情で奇縁ながら今は仲間として同席するキエフの末裔の蟲使いも
あの女の腹の底に関しては薄々感じ取っているだろう。同種であり、隙あらば蹴落として
自分以外の全てが破滅に陥る様を望む、そう言う存在である事は間違いない。
(まっ それはそれで偶には違った趣向って事で面白くはあるけれど)
このサーヴァントであるジルはジルで、自分が好みだった存在とは別物に近いが
一応自分の相棒だった頃の記憶は根強い。聖処女への妄執が強く、時間を積み重ねた
事で幾らか自分と言う存在があの頃より少し変わった事で今の魔術師と
あの頃の堕落騎士となった微妙な違いに抵抗感があると言う感傷がないと言えば
嘘だと思える自覚もある。だか、それはそれ これはこれだ。
昔の誼で応援や、ある程度の援助はするが全身全霊を懸けてサポートする気はない。
ある程度、円滑に魂喰いが捗るようにと手近なジルが好みそうな児童のいる施設は
魔術によって流行病を撒いておいたし、それでもヘマをするようなら潔く見捨てよう。
永く多くの戦争を傍観してきた身としては、この戦争以降でも彼と出会える可能性は
幾らでも有り得るのだ。彼等の行動が魔術戦争の秘匿を破ってる事から脱落の兆しも
目と鼻の先にあるし、その関門を乗り越えないようであれば陰で見送るのみ。
フランチェスカの当面の目的は、聖杯獲得による大迷宮の攻略だが。アレ等今回の戦争の
黒幕を担おうとしてる輩の話だと、今回の願望機は外れの中でも大外れのようだ。
(けど、面白い札が揃ってるわよね。最優の騎士王から始まり、マケドニアのファラオ
フィオナ騎士団を崩御に至らしめた黒子の騎士 貌を見失いし群体のハサン
更にはメソポタミア最古の王ギルガメッシュ そして
自分が提案した計画にのり、近くの宅配業者へと移動するキャスターとマスターより
少し遅い歩調で背を見つめつつ、口を笑みの形に歪ませる。
面白い、この聖杯戦争はとても面白い。キエフの末裔や、あの未来で死徒等を駆除する
機関の使者を名乗る女だけに、この街で起きる禍殃の甘美なる催しを独り占めさせて
なるものか。フランチェスカ・プレラーティは正義の味方等とは口が裂けても言えないが
誰かが描いた筋書きを素直に演じる舞台役者でも無いのだ。
(けど、真正面からじゃ。アレと相対するの 分が悪いのよね)
単純な魔術戦による化かし合いや、生存戦略と言う意味合いで外法なり何なり制限なく
手段を選ばなければ勝機はあるだろうが。あの女の所持している『――』が盤上を軽く
引っ繰り返せるが故にアプローチも手狭となっている。
まぁ、それはそれで楽しいゲームが出来そうだと、やる気は十二分にある。
手札はブタばかりではない。精々キャスター陣営に取り入れつつ美味しい部分を浚い
ジョーカーと交換出来るようにポーカーを行う事にしよう。
表面上は大いなる時間を超えた上での再会を果たした高度な魔術師同士の結託と言う
麗しき情景であったが、その背景は只人の視線からは淀んだ色が渦巻いていた。
バーサーカー陣営。管理者Xと雁夜がハイアットホテルに在留した時間は太陽が真上より
少し傾きを見せるまで過ぎていた。ここまで長くランサー陣営と話し込むのは予定外だが
サーヴァントである彼女やマスターである彼自身、単体でしらみ潰しに冬木市内を網羅し
魔術の隠蔽に長けたキャスター等を把握する術は持っていない。雁夜は自分にとって唯一
あの怪物の手解き、御下がりである業とは言え蟲を使役する力があれば少しは探索に
助力出来たのにと口惜しい態度を見せる事もあったが、今の所はハサン達の諜報を無視
してまで勝手に動こうと無謀な真似は見せる意図は無かった。
ランサー陣営のフィアンセの紹介、ロード・ケイネスのコレクションのお披露目など
ちょっとした出来事はあったものの、ホテルを揺るがす程の事件は未だ発生してない。
何もする事なく静観以外の術がない事に、椅子に座る白髪の彼は少々貧乏ゆすりが目立つ。
「まだ手掛かりは見つからないのかな?」
「そう呟くのは6回目だな、雁夜。幾らあの群体アブノーマリティ達が探索に有能でも
冬木市内は広い。何より数種類の危険性を孕む存在が潜伏しているから、どうしても
慎重にならざるを得ない。少なくともアレ等は冬木にある聖杯と言う大型ツールに手が届く
圏内に点在しうる目的があるし、捕捉するのは時間の問題だよ」
「捕捉出来たら、またアサシン達の時のようにアレを差し向けるのかい?」
F-01-57の依頼によって、百貌のハサンの半数を殲滅した時の事を示唆する彼。Xの回答は
彼の10段階評価で4か5程度の冷淡な内容だ。
「あの時とは状況が異なる。直接私が接したものでなければF-01-57の依頼は機能しない。
キャスターと言われる存在に対しては行使出来るだろう。だが、あのアブノーマリティは
T-09-90を宝具として携帯していた事を踏まえて、F-01-57が接触する前に絡め手で
直接戦闘が開始される前に鎮圧される可能性が高い」
「じゃあ、キャスターと再度接触した時はどうするんだ?」
「あらゆる耐性の高いlevel5エージェント達に一時任せ、戦術を把握した後に有効な
アブノーマリティを発動させる。若しくは、彼等の気配遮断と言うスキルを駆使して
不意打ちをするべきだろうな。あの手の存在が、こちらのフィールドで戦ってくれると
楽観視は期待しないほうがいい」
その言葉に、力ない溜息と共に肩を落とす姿が透き通った瞳に映る。今の発言に彼を
落胆させる部分があったか小首を少し傾げる白衣の彼女に、少し僻みの色を帯びた
目が向けられ、そして色んな感情が混ぜ合わさった声が上がる。
「俺は自分の無力が恨めしいよ。こう言う時、君に任せて何も出来ない……臓硯なら
直ぐにでもキャスターの居るところなんて割り出せただろうにな」
「それは、あのアブノーマリティが私のマスターであると言う事を想定した上での
発言と捉えていいのかな? それは、とても私にとっては好ましくない言葉だが」
眉を顰めて、普段無表情が基本であるXには珍しい気分を害した顔に慌てた声が挟まれる。
「い いや違うっ、俺がもっと力があればって話なんだ。
……ランサーのマスターを見ただろ? 俺なんて凡才だと改めて感じさせる。
君だって、出来るならもっと力のある魔術師とパートナーになるべきなんだ」
その提案とも言えない提案に、賛同も否定の声もXははじき出さない。ただ、少しだけ
目線を斜め上に向け直ぐに戻し、顔は何時も通りの無となり声も淡々としつつ答えた。
「ランサーのマスターは、確かに力量は秀でている。またフィアンセと共に並列で
魔力を循環させ消耗を最小限に抑えると言う方法も私には新鮮なものだ」
解ってた事だが、評価は高いんだな。そう落ち込みが強まりそうになるが、言葉は続く。
「だが功績と名声、権力の躍進の為に戦争へ参加すると言う方針には賛同出来ない。
そのような事で召喚されれば、私は直ぐに彼とこの大型ツールの参戦を拒絶してただろう。
そうであれば、令呪の強制で使役されるだろう。そして、私の能力は君も知っての通り
宝具と言えるアブノーマリティの氾濫は制御不可能なものだ」
遅かれ早かれ致命的な決壊が生じてたよ。と彼女はケイネスと自分には溝が出来るため
相性の良いパートナーとは言えないと告げる。それに瞬きをしつつ雁夜は呟く。
「なら、俺なら相性は良いのかい?」
「参加目的が、何の咎も責もない少女の救済。そして彼のアブノーマリティの鎮圧。
その内容なら私も不承不承で宝具の使用を躊躇はしないよ。それに君に負担をかける
代物では幸いないから、マスターの魔術回路の優劣など元々気にしてない」
Xとしては彼の暗澹な心を少しでも照らすための言葉だったが。効果は芳しくないようで
考え込む顔つきに変化する。それにどうしたものかと考えると更に質問がぶつけられた。
「……ランサーのマスターはパンドラって君の事を言ってたけど、そうじゃないだろ?
君の力は、確かに言われればそう思えるような力だけど。違う事はもう何日も
過ごしてたから解る。……君は、一体何者なんだい?」
ずっと疑問ではあったのだ。
今まで見聞きした事のない幾多の怪物と奇怪な代物を封じ込める建物。
それを世話したり、脱走するのを防ぐ人種も異なる近代の人々にセフィラと呼ばれる不可思議な存在。
奇跡かソレに準ずるものでない限り除去するのも至難だった刻印蟲の除去に高度な
臓器移植。パンドラと言うサーヴァントに出逢った事は無いが、激痛で思考が低下しない
正常な頭なら、こんな出鱈目な事を古代の存在が出来ない事は一目瞭然だ。
Xは、その質問に沈黙を生む。地雷を踏んでしまったか? 雁夜は心の中で召喚時に初めて
会話した時と同様に焦りが生じたが、遅れて耳に抑揚ない声が打った。
「……研究者、と言えば良いのかな。正直、私は自分の事をどう説明するべきなのか
君に話して、それを理解して貰えるかどうか答えに窮している」
その態度は、今まで雁夜が目にした中で初めての様子の変化だった。アブノーマリティの
暴走と言う、画面越しに人間が命の危機に瀕してる時でも常に狼狽の欠片も見せず機械
のように冷静に指示と対処を下す普段の姿からは見られない初めての弱さを見た。
暫く通る天使の間は長い。雁夜が無理に答えなくても良いと告げようとした最中、その
曇りのない瞳に何やら光が伴い、口は開かれた。
「そうだな、雁夜 ――私は」
ジー ジー ジー ジー
告白を遮るように、通信を報せるブザー音が鳴り響く。僅かに顔を歪めて遮られた主は
耳に指を当てて受信される幾多の内容を正確に知ろうと集中する為に目を閉じ
そして次の瞬間には強い目力を宿し立ち上がった。
「見つけたのか?」
「いや、不味い事が起きた」
表情は崩れてないが、口調には僅かに苦々しい色合いが見え隠れしてる。不安を
携えた視線で先を促すと、Xは静かに悪報を述べた。
「――『あちら側』のハサンが、こちら側と衝突した」
冬木の一目につかぬ斜影の世界にて、黒い影法師の姿形に髑髏の面を被った者同士が
跳ぶと共に交差しあう。すれ違う度に金属が鋭くぶつかりあう反響音が空気を震わす。
「くっ……! 我等よ、聞け! 志しを決して忘れた訳では無いのだぞっ」
「笑止、既に袂を別れているのは火を見るより明らか。何故に伸う伸うと貴様等は
我等を半壊させた魔女の影として甘んじている? 何故に真の主に心を捧げるならば
命を捨ててでも叛旗を記そうとせん? 機を見ている等と言う日和見を宣う気ならば
即刻この場で魔女について知る限り吐き終えてから、その手に持つ刃で自害せよ」
「先の戦を観賞していたのなら、解らぬのか!? 安易な反乱が通ずるような容易な
相手でないのは百も承知ではないか!」
「もう囀るな。既に、あの朧月の下で紅い死の狩人の手から落ち延びた我等は
夜に紛れ忍ぶ短剣で非ず。ただ我等の主の願いが頂きへ届く為の幾つもの段差と
なる事も是非にもなし ――いくぞ!」
言峰綺礼の残数兵力であるハサン達は覚悟を決めていた。
バーサーカーの宝具である紅の狂戦士が起こした殺戮によって激減した兵力では
諜報活動も目覚ましい活躍は出来ない。それでも、自分達のマスターは宝具で
無理強いに分散させる事はなく、お前達は有りの侭に自由に動いて良いと言葉を
投げかけてくれた。それだけで既に死に体当然の身と心も軽くなる思いだった。
願望機であわよくば聖杯をとは思うが、自身のマスターに危害を加えようと言う
微かにあった邪心も消え失せていた。自分達の願いを叶えると共に、出来うるなら
彼が仕える遠坂よりも、マスター自身の心にあるだろう願いや祈りがせめて届く
ようにと尽力する気概を残る真のアサシン陣営は心を鬼と徹する事に至った。
例え元々は同種でも、この前に多数のサーヴァントの乱戦でアサシンを使役してた
バーサーカーをみすみす見逃す程に我等は情け深くない。既に取り込まれた以上は
あの悪鬼共々滅する事が条理であるとバーサーカーの宝具下から逃れた刺客達。
アサシン達の総意は、敵陣営に対する能動的な排除だった。
「他のアサシン……! えっと、確かマスターの名前は、言峰 綺礼
冬木教会の人間、時臣の隠れた同盟者かっ」
今の今まで仇敵に固執してた雁夜ではあるが、サーヴァントである彼女の言葉に
奴が子飼にしてる伏兵が不味い時に動いたと言うのを知った。
どうするのか? と彼女を見遣る。それに、彼女も同じ位に挑戦を向けた視線を
彼へ送る。当惑を顔に浮かばせる前に、声が降る。
「君なら、こう言う場合どう行動しようとする?」
「おっ、俺が? ……ハサン同士のぶつかり。実力は元々拮抗してるなら、短期戦で
相手を倒すのはかなり困難だ。泥沼になるのは間違いないから、何か新手を繰り出す
なり別のアクシデントを引き起こさない限りキャスターを見つけるのは無理だ」
「そうだな。……その新手はどう産む? F-01-57は、言っておくが限定的に一体を
標的にしか出来ない。この前半数を壊滅したのは、相手がどう言う代物か理解
出来てなかった幸運が合わさったからだ。他に被害を周囲に与えず展開出来るものは
無いと考えてくれ。エージェントの出動も出来ない事も踏まえてだ」
彼は必死に少ない知恵を振り絞る。そして気のりしない様子でランサー陣営に助力を
頼み込むと言う回答を告げると、彼女も鷹揚に頷いた。
ハサン達の戦闘にランサー陣営を介入させる。こちらがハサンと言う戦力を保有してた
事を今まで話さなかったのを不義理と詰られ印象を悪化させてしまうデメリットは生ずる。
だが、遅かれ早かれ情報が晒されるのなら良い機会として、今の内に同盟を乱す膿と
なるものは吐き出すほうが良いと言う見解をXは持っている。
ならばとばかりに腰を上げようとした時、扉が短いノックと共に遠慮なく開かれる。
そこには、少しだけ不服そうな機嫌が芳しくないケイネスが顔を覗かせた。
二人同時に、嫌な予感が走った。そして次の発言によって覚えた感覚は正しい事を知る。
「不躾に失礼するよ。然し、急な案件なもので君達にも報告しなくてはいけなくてね。
どうやら、セイバー陣営が我々に挑戦状を繰り出してきた。場所はここから少し先の
廃病院との事だ、これから行こうと思う」
「な……未だ日中なのにか?」
「それは私も思った。戦争の流儀と言うのをアインツベルンは何だと思ってるのか……
内容としても断れば陣地となるホテルに外から宝具による攻撃の意思もあると言う
とても穏やかでないものでね。なので、行かざるを得まい」
これは、本当に偶然が合わさった不幸なのかと雁夜は訝しむ。言峰綺礼と言う
自分が余り把握しない陣営と、こちらが保有するハサンの交戦。それに対処しようと
助力を願おうとした矢先のランサー陣営に宣戦布告したセイバー陣営。
まるで天の意志か何かが、自分達に好機を与えないようにしてるかのようだ。
「君達はどうする? 我々に同行するか否か」
一瞬顔を二人は見合わせ、そしてバーサーカーが引き継ぐ。
「申し訳ありませんが、こちらがキャスターを見つけようとする為に指令していた
使い魔から、残る軍勢のアサシンに攻撃されてるとの報せがありまして」
ランサー陣営がセイバー陣営と対峙する以上、こちらはアサシン陣営と交戦する
こちらのハサンの現場を収拾するのが最優先。
後に決闘の現場に向かう事を約束しつつ、短い荷物を纏める彼等に対しケイネスは
少ししてから提示された場所に向かうと言う事で彼等を見送る。
「ほぉ? それは一大事だね。まぁ、それならばそれで残るアサシンを殲滅する好機
ではあるだろう。君達の活躍を期待する」
僅かだが、発破をかえる声色が冷たさを持つ事に雁夜は違和感を覚えた。だが、何時
こちらの抱えるアサシン達が倒されるか解らない瀬戸際に、自分の不安を彼女に
伝えて要らぬ心配をさせるわけにもいかない。
急ぎ足で、ホテルを出る彼等を。窓から侮蔑を伴った目で見送るケイネスを知らず
バーサーカーとマスターである彼は出て行った。
「ケイネス。この報せ、セイバー陣営の情報は本当に正しいのかしらね?」
ソラウは、セイバー陣営から受け取った真の正しい情報
『バーサーカー陣営は秘密裡にアサシン陣営と同盟または共謀を画しており
複数のアサシンを自分達の隠された兵力として、ランサー陣営に隠蔽を敷いている』
と言う内容の真偽を伺っていた。宣戦布告に関しても上記と一緒に同封してたが、今肝心
なのは、ついさっき同盟が結成したと思われる相手の隠れた危害を加える意思だ。
鼻を鳴らしつつ、顎に軽く手をかけてロード・ケイネスは自分の考察を語る。
「セルフギアススクロールは、相手の魔術刻印を感知して自動で発動される。
例え、どんな高度な魔術の隠蔽でも契約すれば不可避の呪術に値する。
アサシンを保有してるとしても、今の所はこちらを暗殺しようとする意志は無い。
それを踏まえれば、セイバー陣営の情報はバーサーカー陣営との関係に亀裂を与え
足並みを揃えまいと言う攪乱の意図は見えるものの、あちらの情報にあった配下が
こちらへ偵察した時にバーサーカーの使い魔とアサシンの一体によって危害を与えられた
事実に関して虚偽は無い。となればだ、バーサーカー陣営が我々の陣営に情報隠蔽してた
と言うのも、もまた動かしがたい真実なのだろうな」
セイバー陣営、正しくは衛宮 切嗣が与えた情報。あえて、工作活動をしてた事を
白状して、ランサー陣営とバーサーカーの陣営の同盟関係に罅を入れる。
キャスターに対し共同で征伐に行かせず、まずは魔術師殺しとして確実に潰せる存在である
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを討つための切嗣の策略だった。
結果は、完全な同盟の決裂までは行かずも。ランサーのマスターには幾らかの効果を齎した。
「バーサーカーは、やはり中々悪知恵が働くようだな。真名パンドラ、伝説の逸話には
神々の伝令であるヘルメス神から犬のように恥知らずで狡猾な心を贈られたと言うが
ソレに相応しいモノを備えてるではないか。自身の宝具を建前とし、第三者の諜報に
関してはギアスが発動しないように、こちらを良いように騙して取り付けたのだから」
「ならば主……バーサーカーを討つので?」
アサシンを保有してた事を、不義理と受け取った上で戦うのか? と遠慮しつつ聞く
サーヴァントに、野良犬をあしらうように手を振りつつケイネスは話を続ける。
「今は未だ早い。あのパンドラが狡猾で会話してた大半が虚偽と思える事が解ったが
それでもギアスに縛られている事実に揺るぎはない。元より、話しの全てを鵜呑みにしてた
わけで無かったのだし、セイバー陣営の情報でソレが濃厚になっただけでも良しとしよう」
そう。ランサーも、バーサーカーについても聖杯戦争を勝ち得る道具としてとしか
彼は捉えてない。彼等の話を心から信じる事は典型的な魔術師である彼に、競争相手である
マスターの使役する存在に信頼を寄せる事など元々ないのだから。
バーサーカーと間桐 雁夜は自分の意志で我等には攻撃出来ない。保有してるハサンも
ギアスの関連者に含まれるからして、こちらに危害を加える事は出来ない。正し、こちらを
死角からランサーの宝具の展開や心身の状態、秘密裡に他のマスターとの情報戦を占有しようと
武力戦以外で優位に立とうとする腹黒さは見えた。
宝具の性能から考えても、途中で箱の怪物がこちらへ飛来して脱落したとしても
別に構わないのだろうし、もしかすればその飛び火による不運ゆえの死が元々狙いかも知れん。
やはり自分以外信用出来るものでないなと、戦争の非情さを再認識しつつセイバー陣営の
待ち構える舞台の場へ踊りだす。虎穴の場所であれど、この私に恐れはなし。
見ておけ、バーサーカーにセイバーの陣営。お前達が如何に秘密裏に策を弄しようと
ロード・ケイネスの実力は、それを遙かに凌ぐと言う事を。
各自が共に隠していた想いが、祈りがすれ違い、善として動こうとするもの達の
願いが段々と奈落の穴へ、見えざる蟻の巣へと近づいて行くのが見える。
――キャハハハハハホホホホッッ!!
「……O-01-17-H Clown Smiling at me(僕を笑うピエロ)だと……?」
――カーニバルが開演される。
鬼畜愉悦セフィラ「………………」
愉悦神父「どうかしたのかね? そのように張り詰めた顔をして」
鬼畜愉悦外道セフィラ「…………プロジェクトムーンの最新ゲームの
トレイラーが出たんだ。見た限りシステムはとても良い感じだ。
そう、とても素晴らしい……素晴らしいんだ……が」
愉悦神父「が?」
鬼畜愉悦外道悲しみセフィラ「……あの酒浸りの緑(※ネツァク)は
トレイラーに出ていて、私は登場してない」
愉悦神父「……w(苦笑)」
作者はプロジェクトムーンの新作完成を応援しております。