詰め込まれたものを何と称する?
夢か はたまた希望か 或るいは未だ見ぬ選択の兆しか
割らなければ正体を知る事もできない
遠く遠く 高く高くと離れていくソレは いずれ落下するのだ
鳥がやがて飛べなくなるように 物事には全て始まりと共に
終わりがあってこそのものなのだからな
なのに お前はその筏を今でも漕ぎ続けるのだな
既にお前が漕いでいるものが どんなものかも理解せぬままに
……話は数時間前に遡る。冬木ハイアットホテルにてケイネス・エルメロイ・アーチボルトは
その空間に整理整頓と鎮座された、使用用途が只の人には判別し難い品に対し大振りに手を
空いた空間に弧を描く仕草を交えて饒舌にソレ等の独特の気配を放つ物を説明していた。
「君程の名を馳せた英霊ならば逐一詳細を述べるのも愚かしいものだが、私が揃えているのは
時計塔でも選りすぐりの技巧を担う者等が創り上げている。どうだね? そちらの所有する
箱の中の宝具には及ばずとも、魔術師の中では一流の域とは思わんかな」
栄光の手、レガリアをオマージュした錬金の品、護符や退魔の力を秘めた呪術及び魔道具。
ロード・ケイネスが時計塔講師として華々しい人生を謳歌してきた中で収集してきた品々を
間桐との同盟記念を一環としてコレクション自慢を行っていた。
マスターである雁夜には至極どうでも良く、目の上のタンコブとも言える魔術師への
嫌悪を濃厚に感ずるランサーのマスターが優越感を隠そうともせず実入りのない話をするのに
辟易としていた。隣で耳傾けるサーヴァントの彼女が自分と同調しておらず、その気に入らぬ
相手の話にも多少関心ある事にも一層と気分に倦厭が増す。
一方で、バーサーカーことXは。アブノーマリティから抽出された武器や防具ほどの力は
無くも魔術師の力が凝縮された品々の中で、取り立てて騒ぐ程のものじゃない山々から
少々無視するのは難しい物品へと距離を縮めた。ほぅ、と呟きつつコレクターが告げる。
「目が高い、君も気づいたか。その槍は時計塔地下にある通称アルビオンと呼ばれる場所から
発掘され、創造科の君主も手を加えた逸品だ」
手に入れるのに中々労力を強いられたよ。と笑うのを尻目に彼女は上から下まで細部に
透き通った瞳を映して評価を下す。
(これは、この世界のE.G.O Weaponと呼称しても可笑しくない代物。
この世界にも、遺跡や黒い森のような領域は微小ではあるものの存在する事は認知してる。
そして、コレも希少な幻想を根幹とした侵食性を省みず使用可能な優れた品。
この武具は耐久力さえ低いものの、今稼働している大型ツールから派生されている私や
他サーヴァントと呼ばれる存在にも十分効果を発揮出来る)
「無理を承知で伺うが、これを譲渡して頂く事は可能だろうか?」
振り返った言葉の内容を聞くと体調芳しくない様子の男はギョッとし、もう一人の男は
鼻で笑いつつ首を大仰に横へと振りつつ謳うように返事をする。
「馬鹿も休み休み言いたまえ。今さっき語った通り、ソレは数十年前に時計塔君主へ至る前
数々の伝説作り上げた者が半ば命懸けで入手したものだ。私のコレクションの中で有数の
譲れぬ一品なのだよ? まぁ、ソレに見合う物を等価交換とするか。または力尽くで
奪うとでも言うのならば……」
「そうか、わかった」
躊躇う事なく、一つの並べられた輝かしい短剣をXが取り上げる。その蛮行とも言える行動に
控えていたランサーが顔色変えて前に進み出ようとするも、落ち着いた様子でケイネスは
片手を上げて制する。セルフギアスで縛られている故に、危害は加えられないからこその
余裕の対応と、次にとろうとするバーサーカーの挙動を見逃さぬ為に。
勿論Xにロード・ケイネスを武器で脅そうとする思惑は一切ない。そのまま手に持った武器を
自分のマスターである雁夜へと柄の部分を向けて手渡す。
次に何をするか読めない自分のサーヴァントの挙動に困惑を見せながら危なっかしい手つき
で受け取る彼へと淀みない口調で、それで出来れば軽い自傷をしてくれと更に彼が混乱する
内容を頼んだ。それでも尚、彼女は冷静そのものといった様子で傍目気が違った内容を求める。
「別に深く斬ってくれとは言わない。軽く手の甲に滑らせるぐらいで構わないから」
黒鉄の威圧的な姿形の騎士なら断固として拒否していただろうが、見かけは雁夜より少し年下な
これまで自分の事を気遣ってくれてる女性だ。戸惑い隠せないものの、軽く目を瞑り
肯定と共に言われるがままに短剣に手の甲を当てる。心身に直接的な害ある呪術は無いものの
強化に連なる力を付与されてる事により、思った以上の出血と痛みに小さく呻き目を開けると
既にガンドの構えをXは一歩距離を置いた上で執り行った。
「――HP-N弾」
エメラルドグリーン色の光と共に小さな閃光が彼を貫く。小さな火傷めいた感触と共に手の甲の
傷が数秒で瞬く間に塞がるのを、コレクションルームに居る全員が目視した。
「――REDシールド」
続いて赤い閃光が雁夜を直撃すると共い淡いルビー色の光が体を包む。一見して何も変わらずも
解析を帯びたケイネスの目には彼の体に生半可な魔術師の攻撃では貫けない膜のような防壁が
覆われたのを認識する。了解とらず、そのまま白髪の男から取り上げたナイフで再度同じ部位に
ナイフを滑らすが、僅かにルビー色の火花が散るのみで傷は生まれない。
検証終えた後、白衣の女性が投げ渡した銃弾の形をした魔術礼装を受け取る。
「肉体の再生、魔力回復、幾らかの魔術及び肉体に対する攻撃を防ぐ力がソレには込められてる」
「ふむ……形状こそ私の審美眼に相容れぬが、中々どうして」
これは利便性に長けていると呟き洩らす。月霊髄液の切り札ある故に、物理的攻撃を防ぐ銃弾は
余り必要性感じなかったが、魔力肉体の回復の銃弾は非常時や妻たるソラウの緊急治療としても
使用出来るだろう。保護の銃弾の幾つかは彼女に渡しておこうと考えつつ質問する。
「攻撃用のガンドの弾丸はあるのかね? また、コレはランサーに使用するとなれば
どの程度の回復が期待出来る?」
「申し訳ありませんが、回復と保護の用途の物以外の危害を加える効果の物は流石に。
サーヴァントに対しては劇的な防御、回復の作用は余り期待出来ないでしょう」
あくまでも人間、サーヴァントのマスターを守る為ですと説明された後にトレードを再度
提案され、少々の思考を費やした後にロード・ケイネスは首を縦に振った。
――バチン!!
「がぁぁ゛っ!!? ……くっ うぅ! 魔弾かっ!? 小癪な手を、傭兵めがぁぁ゛!!」
月霊髄液の堅牢がドロリと溶け、切嗣が放った起源弾によって魔術回路が出鱈目に継ぎ接ぎ
された末路の満身創痍な姿で出てくるであろう未来図は裏切られた。
堅牢は解除されたものの、並みならぬ怒気と生気を顔に貼り付け歯を食い縛りつつ片腕を
抑えながら睨むケイネス・エルメロイ・アーチボルトの其の姿は未だ戦闘継続可能だ。
PALE(生命の分割)とBlack(浸食)から防護するLobotomy coopの弾丸。
時計塔地下魔窟アルビオンの武器と引き替えに貰ったサーヴァントの保有する
魔術礼装をセイバー戦後にでもじっくり解析しようと肌身に離す事なく携行していた事が
ケイネス全身の魔術回路を破壊する運命から脱却した。
ただし、月霊髄液を操る為に動かしてた利き腕のほうはシールドの影響よりも
起源弾の威力が勝ってしまい無傷で危機を回避とまではいかなかったが。
(馬鹿な。確かに着弾した筈だ……あの魔術礼装に他魔術を阻害する力が含まれてた?
然し部分的に起源弾の効力は及んでいる。なら、持ち込んだ礼装に起源弾を阻害する
アイテムを僕の情報外で保有してたか)
やはり、幾らかの人命の犠牲かテロと称されてでも。魔術工房たるホテルを破壊するべき
だったと後悔するに、この局面は遅すぎる。
瞬時に改造銃のトンプソンを戻すと同時に発動した固有時制御と共に横へ跳び
反撃の銀の槍から逃れようと体を捻る。
だが健在の月霊髄液の捕捉は二倍速となった状態でも避け切れるものでなく、水銀の槍は
狙いたがわず黒コート越しに胸を直撃し、窓を粉砕して傭兵の体は廃ビルの外に
投げ出されるのをケイネスは見た。幾らか溜飲を下げるも、未だ引く事のない激痛に
苦悶の声を漏らし治癒を試みる。……駄目だ、どんなに試しても回復しない。
手の指先から二の腕にかけての魔術回路が完全に回復不能になったのを悟ると
残る無傷な手の爪を噛みつつ怒声を上げて暴れたくなる衝動を抑え込み。
(くそ、くそくそっ! この私がたかが傭兵如きに大事な腕を破壊されるなど
この上なく人生最大の屈辱だぞ! 許さん! 赦さん!! 今の月霊髄液で止めに
なったとしても、その五体がこの世に残ると思うなよっ)
死体を蹂躙、未だ憤怒に染められない思考で令呪が消滅しないなら剥奪する意図で
窓に近づき地に伏してるだろうセイバーのマスターのいる地上に顔を向け目を見開く。
「!?!! いない 何処へ……!?」
亡骸がある筈の地面には肉片の一つすら無い。確かに心臓部分をロード・ケイネスの
最高結晶である魔術礼装が貫いた筈だと言うのに関わらず。
理解し難い現状に、解答行きつかぬままに念話で新たな急報が飛び込んでくる。
『……主 ソラウ様の身に危険が』
「っセイバーを抑えられなかったと言うのか、ランサーっ」
内容に自分のサーヴァントが敗北し、ソラウを人質にとられたのかと激情含めた唱えを
上げるが、サーヴァントの返答は異なりを見せる。
『いえ、決着つかぬままにキャスター陣営の使い魔が発生しました。然しながら追手として
バーサーカー等が駆け付けたようですので、その救援が』
ソラウ様の保護は整えられようとしてます、との言葉に最悪の事態にはならなかったかと
安堵の息をついて地上に視線を走らせてから、舌打ちをしてフィアンセのいる場所へと
踝を返す事にした。陽炎のように忽然と姿を消した傭兵の始末が出来ないのは名残惜しい
ものの、彼にとって最愛の妻の身がセルフギアスで最低限安全の保障が出来ていようとも
仮想敵になり得る同盟相手の側に長居させる程の度量は無いのだから。
▽ ▲ ▽ ▲
剣戟が秒数単位で何度も鳴り響く戦闘の最中、突如として不穏な空気が身に包むのを
交戦していたサーヴァント達は察知し、動きを止めて周りに目を向ける。
ヒトデのような海棲生物を模したグロテスクな魔力で出来た生き物。それが影から
触手を伸ばしセイバーとランサーの体へと巻き付こうとする。
「――フッ」 「――破ァ!」
だが伝説に名を遺す歴戦の英雄に不意打ちなと高がしてれている。海魔のウネウネとした
蝕肢に肌を触れさせる事も許さず槍と剣の錆へと変わる。妖気とも称して良い気配に
キャスター陣営である事を一早く察知するセイバー、その呟きにランサーも少し遅れて
華々しい決闘へと水を差す輩が居る事を理解すると手に携えた槍の向きを変えた。
「セイバー、ここは一時共同といこうか」
鋭気に満ちた目がかち合い、輝く翠の目も逸れる事なく受け止めて力強く応答する。
「ああ、良かろう」
続々と地上の影から深海より這い出てくるかのように次々と数を増やす水棲の魔の光景に
圧巻する事なくとも英霊同士の誇りを伴っての決闘と言う雰囲気でない事は承知。
セイバーの後ろの安全圏で見守りつつ、出現した海魔を認識してアイリスフィールは
少しだけ仲を深められたと思えたあの白衣の女性を想って呟いた。
「……あの人は、間に合わなかったのね」
先日の宣言通りにキャスターを早期で討つ事が適わなかった事に対し失望はなくとも
欲を言えば、この戦争を悪戯に掻き乱す不穏分子の代表とも言えるキャスターを打倒して
くれれば良いと望んでいた。
自分でも不思議だが、彼女はいずれセイバーと戦うであろう存在であり切嗣が聖杯を
獲得する為に立ち塞がる敵だと理解しつつも、どうしても心からの排除を願えない。
再度合流して無事だった切嗣に安心しつつ、そんな自分の心象を告げた所で愛する人は
君は優しいなと告げるばかりで真摯に応対はしてくれない。
わかっている。このような戦争で今この優柔不断な気持ちは本来なくて良いもので
正しいのはきっと切嗣のほうだ。
それでも、あの時彼女の宝具の暴発によるものだとしても。闇の中で手を掴み引き揚げた
あの切嗣と見間違えた事と、自分と同じ存在であると仄めかした彼女の表情。
それがどうしても脳裏にちらついてしまって仕方がない。
そう、考えていたのは油断だったのだろうか? いや、セイバーにランサーも突然密集した
海魔の変則した動きには警戒しつつも一手遅れた。ヒトデの要塞のように化した物の中から
潮と鼻を刺す異臭とも違う気配を感じ取るや刹那、その海魔達を引き裂くように新たな
黒いロープ状のものがセイバーとランサーの元へ駆け抜けた。
二者一様に僅かに目を見開いて新たな奇襲に短いリアクションをすると同時に愛用の武具で
その黒鞭を防ぐ。
『く(ぬ)っ!……っ!?』
だが、その攻撃は海魔達の幾らか規則正しさもあった猛襲に体が馴染んでいた二人の英霊が
見込んでいたよりも強い衝撃を与える。予想以上の攻撃に足踏みすると共に其の気配が消える。
セイバーの背後に悪寒が走る。振り向く先は自身の守護する姫君の居る背後。
「! アイリスフィール 逃げ」
「え?」
緑のエメナルドの目が一層開かれる。先程の海魔の壁に隠れてた異様な正体が何であるが
黒い墓石のような石碑の形、その石碑の中央の左右に黒く紐のように揺れ動く大きな触手が
揺らめいている。そして、その一般にモノリスと言われる物体が次に何をしようとしてるかも
否が応にも知れた。アレは彼女自身の石碑と物理的になそうとしてるのだ。
「おのれ外道め……くっ 邪魔をするなっ」
ランサーも騎士にあるまじき戦えぬ者を抹殺せんとする新たな魔物の不意打ちを阻害しようと
するも海魔が悉く邪魔をする。
宝具……魔力を揮発させ駆けつけ……念話で真のマスター(切嗣)に令呪でアイリスフィールを。
駄目だ、どれも間に合わないと直感が冷徹に告げていた。
止めて 止めてくれ 私は国を救う事が出来ず そして自身が守ると今世で心許した彼女すら
みすみす目の前で守れないと言うのか。止めろ 止めろ止めろ止めろ止めろ
「アイリスフィール!!!」
――ダンッ
「地中の天国」
誰でも良い、誰がアイリスフィールを救ってくれ。
その祈りを届けさせたのは神でも仏でも無い。一本の閃光と化した槍がモノリスを穿ち
姫君の肉体をプレスしようとする寸前に、流星の如き勢いの投げ槍の餌食となって銀色の
髪の毛に触れるかどうかの距離に墜落した。慌ててセイバーの側に駆け寄る彼女が五体無事
な事に少し放心気味になりつつ緊張を抜けた息を吐き、誰が助けてくれたのかと槍の投げた
方向へと体を返す。共に交戦していたランサーでない事は二槍とも携えてるからして一目瞭然。
其処にいたのはチャリオッツを率いる大柄な粗暴そうな男でも、黄金鎧の神々しい片鱗を見せる
英霊では無い。言うまでもないがハサンでも無い。
それは赤を基調とした独特の装甲服を身に着け、鉄よりも硬そうな兜を身に着ける出で立ちの
謎めいたサーヴァント。こちらへと向ける明確な敵意は無いものの、体全身から発する殺気は
四方八方に散漫しており、新たな救援と素直に喜べる感じでは無い。
一体誰の刺客なのか? と言う疑問は浮かべる必要は無かった。それに遅れて数秒後に一台の
走行音が遅れて聞こえてくると、その謎の赤い戦士の側へと危なっかしい手取りでバイクへ
ブレーキをかける白衣の女性が目に付いたからだ。
「バーサーカーっ」
「……私だと、この乗り物の操縦は余り上手くないな」
安定した乗り物が一番に限ると、溜息ついて疲弊を背負い地面に降り立った英霊は声をかける
サーヴァント等を堂々と無視しつつ、アイリスフィールへ声をかけた。
「……間に合ったかな」
黒い髪のポニーテイルを揺らし、何故か悲しそうに微笑を浮かべる彼女の言葉に
アイリスフィールも同じく笑みを浮かべて頷いた。
▽▲▽▲▽▲▽
とある親切な御仁からバイクを拝借しランサー セイバーの交戦地に赴くゲブラーとX達と別に
冬木公園には複数の同じ制服の男女と一人の少女がベンチを中心に佇んでいる。
廃病院から異様な気配がある事を見抜いたゲブラーが、セイバーとランサーの交戦をついて
キャスター陣営が襲撃に及んでいる事を知ったが故の急行。
Lobotomy coop内が荒れてる状態で、桜を収容して現場に駆け付けるのは余りにも危険と
考えた上で、Xは数人のセフィラと共に公園で待機するよう言いつけた。
紫陽花色の髪の毛に、細い手が肩にまばらに付いた部分を梳きつつ労りを以て告げる。
「Miss桜 大丈夫ですよ。管理人もゲブラーも直ぐに戻ってきますから」
「それと……改めて助けてくれて有難う御座いました」
ホドの礼に、桜の反応は殆ど無だ。
だが、微かにだが。別に気にしなくて良いと言う表現で首を揺らすように見えた。
それは、気の所為じゃないと思いたかった。
今は日中帯でまばらに一般の人達もいる。常識を知っていれば突然襲い掛かって来る
サーヴァントは居ないだろうとXは見込んでいた。
セフィラの彼女、彼等も同様の見解だった。敵対するアサシン達も消耗してる事や
キャスターを除外するサーヴァントを扱うマスター達を除く外部の異物(フランチェスカ)は
宝具内のテレジアの音色で立ち去った後に、その気配は公園と逆方向へ向かっていた。
……現状での危険性のリスクを回避する為に彼等の判断は確かに正道ではあった。
だが、その道を軽々と踏み越えていく存在がある事をバーサーカー陣営は認知してなかった。
「――はっきり言って 見るに堪えぬ顔ぶればかりよな」
『な(え)っ……!?』
服装は現代の出で立ちなものの、その濃密な気配と重圧をモニター越しで認識してる。
たった一人で他サーヴァントを殲滅せんとする力量を担う存在。赤ずきんの傭兵やハサン含め
一撃にて粉砕する実力、多種多様な古代の伝説の武具を無数に保有すべし古代の王。
ハサンの一人から遠坂時臣が触媒としたもの、交戦時の異質な能力とLobotomy coop内にある
資料と技術の結晶からの調査から知れた。それは彼の『ギルガメッシュ叙事詩』の主役
メソポタミア最古の王 ギルガメッシュ。
何故此処に? 遠坂時臣と言う者の情報は余り入手してなかったが、ハサン達の観察眼に優れた
者達の意見を踏まえると、彼のアーチャーのマスターならば自分のサーヴァントを護衛として
身近に置いておくだろうと管理者から聞いてたのに。
スーツを身に着けたエージェント達の幾人かは桜を背に隠して立つ。
ただ佇んでいるだけでも、木々の揺らめきを起こす程の威圧と覇者の気配に自然と汗浮かぶ。
バーサーカーの配下の彼等は一様に、Lobotomy coopのどのような抽出武器で完全装備で包み
挑んでも数秒時間を稼ぐのか関の山だと感じた。
映像の中での英霊や、Lobotomy coopのアブノーマリティ達とも異なる絶対強者の気配。
ここまで何もしてないのに畏怖を感じさせるのはセフィラの特例を除きいなかった。
対するギルガメッシュは、その蟷螂の斧と称して良い布陣を鼻で笑う。
彼の目には、その並ぶ人盾が脆弱で自身の宝具を開帳すればたちまち崩れるのが
比喩表現で無い慧眼で理解出来る。多少は、自分を唸らす隠し種は抱えてそうだが大半は
全力の三分の一を出せば簡単に血の海に沈む。
一人だけ、少々人間なのかどうか分らぬものが居た。恐らく、体格も実力もこの兵士達の中で
一番下なようだがギルガメッシュには解る。この中のリーダーはそいつだ。
「おい、そこの雑……」
雑種と何時ものように自身以外は下の者へ呼びかけようとしたが、思い直した。薄々知れる
その正体を感じれば、雑種は相応しくない。
「――『人形』、貴様に聞こう。あのバーサーカーは何処だ?」
人形と呼ばれた、どうにも気弱な雰囲気が抜けない一見20代前半、十代の後半にも見える
女性はピクリと肩を震わしつつも、目を反らす事なく弓の王へ口を開く。
「管理人は、ランサーとセイバーのほうに。サーヴァントのマスター達がキャスターに
襲われるのを見過ごせないと」
「ふん。暗鬱と狂気に沈んだ怪魚の類の元へか」
漁師の類の真似事をする気色でもあったが、と嘯くアーチャーは手に持った現代の菓子を
放り込みつつ、胡乱気にホドより後ろを見遣る。
庇うように視線の障害となるホドだが、地平線より向こう側を見たギルガメッシュの目は
欺けない。ベンチで置物のように佇む桜を見とめ、口元を嘲りへと変えた。
その小さな変化を見て、斜め下に伸びてた評価を90°直下へとホドは改める。
多少は異なるものの、この目の前の男は自分の幸福であった場所を破滅に陥らせた要因たる
身近な存在の一人と似たような存在だと。
「はっはっは。そして、お前達の主は人形娘の御守りに人形と死人を囲んでると言う訳だな」
御苦労な事だなとアーチャーが響かせる嘲笑をじっとホド達は身動きせず聞き流す。
このサーヴァントが何処まで自分達の実情を知っているのか、いや知らずに当てずっぽうと
超常的な勘のみで喋っているのか予測はつかない。
それでも情報では最古の王、自身が絶対の存在であると疑ってない以上は軽はずみに
反論や口を挟むのは自殺行為だ。
そんな思惑を関知や配慮する事など全く無いままに、彼は自身の独白を続けていく。
「まぁ、あ奴めには今後とも相まみえる機会はある。我は寛大ゆえに、貴様らの主の命が
長引く事も許そう。して……だ まぁ今更告げる事でもないと思うがな」
――今の内に死んでおけよ
そう、唇を弧の字に歪めるでもなく。王は目を丸く開ききった女へ告げる。
それは残酷な内容だと言うのに、声色は愉快そうでもなく真摯な音色を含めている。
「――自分で無理だと感ずるならば、我の元に下れ。さすれば直ぐにでもこの手で
この
「何を 貴方は何を知って」
「質問を許した覚えはないぞ、人形。まぁ……答えを知りたければ何時でも来い。
ただし、この我の耳を煩わすような場を作るでないぞ」
彼女の求める答えとも違う、遮っての真理を知りたくば一人で来いと言う悪魔の誘惑。
公園内に吹きすさぶ木枯らしが強まる中、言いたい事だけを言い放った後に王は踝を返す。
ただ、その背を彼女達は見送るばかりだったがホドは強く睨みながら囁くように呟く。
「……私は、違う。もう、以前のcoopの私じゃないんだから」
その感情込めた呟きは誰にも聞かれず、風だけが流していく。
(余興にもならぬが、暇を潰すに至る程度には飽きない代物か)
ギルガメッシュにとって、こと聖杯戦争の聖杯は何を願うものでもなく、全身全霊賭して
得ようとするものでない。彼は生前にほぼ全ての物を手中に収めた。
聖杯と言う願望機さえも、彼にとっての財宝の一つと言う認識でしかなし。それを
横から掻っ攫おうとするハイエナたけだけしい盗人崩れな英霊が気に食わないと言うだけ。
黒鳥の見せる暗黒の空間や、吠える黒鉄の狂戦士やゴーレムもどきの斧使いとて彼には
煩わしい以上の何物でも無い。小細工を仕掛けて退却したバーサーカーに関しては
最初こそ自身を侮辱した怒りは残っているし、いずれは雪辱を濯ぐ為にもぶつかる事を
決めているものの、それを除いてこの世界。冬木市に彼を愉しませるものは余りに少ない
事が現状だった。それが、大いに彼の不満を溜らせる要因ともなっている。
正史とも言える、雁夜がセイバーと因縁深い戦士を呼び込んでいれば自ずと言峰 綺礼は
まだ自身の暗黒面と向き合わない懊悩とする求道者であり、その生き様に関心惹かれ
ギルガメッシュは彼の人間観察に重みを置くのだが、この世界は異なる。
バーサーカーの中にあるセフィラの一人、歯車であるが決して意図して回らぬ一つが
自由に世界へと羽ばたき、そして呼び寄せたのが言峰 綺礼。早期の出会いは彼の本性を
取り戻す一端となり、
であればどうなるか? 彼の英雄王は元より愉しむ筈の玩具が側にない事で別の玩具で
暇を潰す為に外出する時間を多く設けている。本来なら入り浸る仮住まいの教会も
胡散臭い存在が陰に潜んでいると知れば好んで足を運ぶ気にもならない。
彼は薄々勘づいている。マスターの時臣を差し置いて、あの傍目は忠臣を演ずる者の
瞳の奥に全てを崩そうとする蛇の目を。
(まぁ、それでも構わん。この俺も薙ぎ払う存在が余りに小物過ぎても退屈過ぎる故にな)
それでも彼はそれをあえてマスターの遠坂当主に忠告する気は無い。もし偶然に気付き
自分に守れと命ずるなら、呼び出した臣下の頼みを聞かぬ程に狭量でもないからして
蹂躪もしよう。だが、彼は頂点に佇む者として小虫が裏で何をしようとも率先して
それを潰そうとする意欲は無い。
彼の関心は今の所バーサーカーの正体。そして、この聖杯戦争と言う盤面の行く末だ。
その鍵を握るのは、恐らく自身が否定しても惹かれているであろう存在だと言う事も。
(アレが我を教会より遠ざけ、何を画策していようと。そして小蠅が情理を歪めた
魔術師と何を成そうとも ――全ては我の前では無意味)
ギルガメッシュは道を行く。その道が正解なのか? 愚問だ。
彼が進む道こそが正解となるのだろう。
▽ ▲ ▽ ▲
結果を顧みれば、悪くないものだった。
廃病院から海魔は退かれ、ランサーのマスターは決して小さくない傷を負ったが再起可能。
荒れた様子で、許婚と合流後にセイバー陣営を追撃しようとする構えを見せていたが
まだキャスター陣営の動向が不確かであり、疲弊してる状態を突かれれば自分達の援護が
あっても撃退するのが難しい事を説くと、渋々な様子ではあるが納得を示した。
(海魔を放った痕跡を辿れば、今日の夜にでも拠点を突き止められるだろう……な)
幾つもの思考を巡らしながら冬木市内に戻ると共に、Xの足取りが乱れた。
僅かに体が斜めに倒れかけようとするのを、少し大きな手が体に回ってソレを止めた。
「大丈夫かい? ……! 凄く、体が熱いじゃないかっ」
雁夜が慌てて彼女のを引き寄せて、その体温に愕然とする。
顔こそ普段通りに冷たい表情に近いままだが、服越しに肌は真夏の海岸の砂を思わす程
暑く、そして呼吸も乱れている。サーヴァントである、と言う認識こそ頭から抜けて
病人を介抱するように近くの低い塀まで移動させ座らせる。
「宝具の、副作用かな。慣れない使い方をした弊害さ」
既にアイリスフィールを助けた際に同行していたゲブラーは桜の側に戻らせていて居ない。
不調の原因として思い当たる節は幾つもある。T-09-09ことテレジアを本来と異なる用途で
現実の一般人のいる周囲に使用した事、Lobotomy coop内での異常な記録外の超常存在が
暴走した事やエージェントにオフィサーに犠牲が出た事。ゲブラーに対し外部の魔術武器を
無理やり馴染ませて行使させた事。どれも本来はないシステムを無理やり正常に起動させ
ようとした反動がここにきて一気に体を風邪に似た症状として発生している。
「大丈夫さ、まだ我慢出来る範疇だから」
「痩せ我慢しないでくれっ。……ケイネス さん」
本当なら頼りになんてしたくない。だが自分の相棒が具合悪いのを見過ごせる程の薄情者に
なりたくない為、反発する感情を押し留めて休憩出来る場所を懇願する。
その様子に対し、体たらくだと揶揄する余裕はケイネスに無い。サーヴァントは基本的に
使い魔と同等の下としか見てない彼だが。自身の窮地を救ったのは、運も絡んでるが
二人の半死半生のサーヴァントと魔術師崩れによってなのだから。
もし彼がもう少し傲慢さが少なければ、命の恩人が頭を下げないでくれと言う寛大な
台詞も言えただろうが、そこまで大人な対応もとれず顔を僅かに背け。
「構わんとも。ソラウ、昼と同じ部屋へ案内を頼むよ」
そう告げるのが精一杯だった。返ってきた答えは了承ではあるものの、その目は自然と
人通りの多い場所に来るまでに同行していたランサーのいるほうへ目が追っているのが
戦闘後の未だ研ぎ澄まされた感覚が嫌でも理解させる。
壊死した腕を摩り、その感覚が全く生きている余地を見せぬ苦渋と共に許婚の心を
取り戻せない腹立ちも混ぜ合わせて顔は大きく歪む。まだ怒鳴り散らさないのは一重に
自身が偉大なるロードであると言う矜持が残ってる事と、魔術回路が健在だからだ。
(だが、今日の傷は遙かに大きいぞ。あのセイバーを使役してるだろう傭兵はどう言う
仕掛けが、我が月霊髄液から逃れる術を持っている。それに私の腕を壊した魔弾……
バーサーカーの宝具で首の皮一枚繋がったが、アレが未だ幾つも所有してるとなれば
脅威でしか無い……くそっ ランサーがもっと奮戦しセイバーを倒していれば直ぐにでも
アインツベルンの居城に乗り込むものを)
全ての苛立ちは自分のサーヴァントに向けられる。されど、まだ挽回が利くのだと
必死に理性を繋ぎ止め、荒ぶる感情を大きく息をつく事で抑える。
ホテルが目と鼻の先に見える。今日は何も考えず、祖国から持ってきた秘蔵の一品を
開封して飲んで英気を取り戻す事にしようとエルメロイは考える。
だが……。
「アーチボルト様?
……アーチボルト様は、既にホテルに帰還なさり最上階に居る筈ですが」
『なに?』
ホテルの受付へと足を運ぶと共に、預けた部屋への鍵を貰おうとすると共に異変を知った。
怪訝そうな受付嬢。そして、下に降りて来たエレベーターの扉から昇る人と異なる気配。
目を走らせ、ランサー陣営とバーサーカー陣営は僅かに目を見開いた。
そのエレベーターから、ケイネスとソラウに良く似た容姿と服飾に身を包んだ存在が
出て来たのだから。
受付へと、機械的な微笑を向ける。その気配に、バーサーカーは呟いた。
「……やられた アサシン陣営がこう動くとは」
その内容に、聡明な時計塔二人も瞬時に合点がいき眉を顰めた。
アサシン 百貌のハサン。そのハサン達が如何様にしてか、ハイアットホテルの工房を
セイバーとの闘いの隙を狙って乗っ取った事を。
「馬鹿なっ……ホテル内の結界は完璧だった!
私達以外の霊的な侵入への阻害と対策は万全だった筈っ」
「相手はアサシンです。どうやってかは知りませんが、結界を超える方法を見出したのでしょう」
一旦、奪還は諦めましょう。そう静かに告げるバーサーカーに構う事なく、今度こそ人目を
気にせず、決して声量は大きくないながらも獣のように短くケイネスは唸った。
アサシン陣営による工房の占領。
正史の世界と異なる小さな動きは、着実にだがこの冬木市に不穏な空気を更に募らせる。
ある程度の知名度と人が密集する建物に人払いの術をかけて強引に戦闘する訳にもいかず。
タクシーを呼んで、名残惜しくホテルを見るケイネスと続く許婚とサーヴァントと共に
日が沈む中で、仮の拠点とする海浜の安宿へ車を走らせた時にXはある光景を目にした。
(コトネ……か?)
それは、体調の悪さから来るものか。昼に降りかかった精神攻撃の名残の可能性もあるが
確かにコトネだった。学校も終わっている時間帯だし、家族と共に買い物しているような
一瞬の光景だったから、本当に両親と一緒に手を繋いで買い物帰りらしい光景の中にいた
少女の姿はコトネだった可能性は高い。赤い靴を履いて、普段の学生服とは違う秋服に
身を包んでいて愛くるしい笑顔を手を繋ぐ親へと見せていた。
(元気そうだな 良かった)
一瞬、車を止まらせて貰い声をかけたい欲求が浮かんだ。けど、既に彼女と別れを済ませ
戦争の渦中へと本格的に飛び込む自分が、平穏の日常の中にいる彼女と接触する事が
どれ程に危惧を与えるが十二分に知るからこそ、その望みを黙殺した。
(……何事もなく、私の事など自然と時間が経てば良い思い出の一つとして忘れてくれる筈)
どうか、そうなってくれと祈りつつ。車は日が沈む方角へと進んでいく。
赤い 靴 履いた 女の子
異人 さんに 連れられ て
柳洞零観 「うーん! 学園から柳洞寺まで向かうのに不便な事と
これから先の事を考えて買ったが、良いものだな! バイクは」
ゲブラー「良いバイクだな」
柳洞零観「え!? あの……誰でしょうか
(未熟! こんなに簡単に背後を俺がとられるとは)
ゲブラー「なに、通りすがりのものだ。火急の用件があって
どうしても小回り利く乗り物が早急にいるんだ。と言うわけで
暫く借りてもいいか?」(威圧+鶴野が下した大金の諭吉十数枚)
柳洞零観「…………はい」
バイクの入手経路