学術的な弁論など聞くに値しない あの美しい輝きの
どれかが惑星(ほし)を破滅に陥らせる万物を集約すべし
光の子が到来する予兆でないとどうして言える?
知ってるだろう 道理とは踏みしめる場所があってこそ
付けられるものであり 進むべき足も膝も それどころか
転がり落ちる奈落さえ無い場所で何を望んで進むのだ
……そうか まだそれでも お前はそれが前進と言うのか
その目指すべきと思っている輝きが 光と名付けるのか
刻まれた終焉の執行者よ いま一度 指揮(タクト)を持て
楽器は我々が持って弾き語ろう 鎮魂歌をな
遠坂 凛。彼女は小学二年生にして成績優秀 品行方正
学園では常に先導を切って歩く穂群原学園の小さき華だ。
だが、その可憐な華は其の可愛い顔を眉を吊り上げ鋭い目つきで
目玉焼きの乗ったハンバーグを、少々粗くナイフで切り付けていた。
察しの良い者ならば、その少女が不機嫌なのは見て明らかだ。
「どうしたの? 凛。今日は機嫌が悪いわね」
子供の機敏な心の変化について親は見逃さない。幼い娘へと温和な
声を降り注ぐのは、母である遠坂 葵。
むっつりとした少女に暖かい目線を向けて穏やかに告げる。
「何か学校であったのかしら?」
「違います、お母様。ただ、コトネと」
駄々をこねる平俗な子供のように無視したり短く切り上げるような作法
を学んでない彼女にとって、母親の質疑応答をはぐらかす腹芸は備えてない。
思い出し、ぶり返しかけた怒りを切り取った粗挽きの肉と共に呑み込んで
よく吟味した上で言葉を紡ぐ。
「コトネとちょっとした事ですけど口論になってしまったんです。
新しい友人が出来たのですけど。少々、風変わりな大人の女性で……。
友を得ると言う事は何よりの宝である事は承知の上ですけど、今最近の
世間で、良く分からない人と親交を深めるのは危険だと私は言ったんです。
けど、コトネは私の友達に酷い事を言わないで。って、一点張りで」
最後の部分では、遠坂の子として行儀が悪いと捉えられても仕方がないが
顔を俯かせて、唇をすぼめての竜頭蛇尾な声の調子だった。
凛にとって、コトネはクラスの中で放っておけず。それでいて価値観は少々
異なれども、小学二年の中では高度な教育と体質により少しばかりマセている
彼女の話題に関して、例え自分が言いたい放題でも微笑んで聞いてくれる
友人の態度は、感受性豊かな年齢の彼女にとっては貴重な聞き上手な人間だった。
悪く言えば、体よく自分の悩みや不満を解消する為に利用してる感じではあるが
凛はコトネのフォローや不器用な彼女の手助けをし、コトネは自分の悩みを聞く。
その関係はイーブンであると。彼女はソレで対等なのだと考えてた。
対等である、と考えるのは。無意識の内に相手を見下してる心理にもなる。
そんな友達の最初と思える反抗。例え嫌悪はなくとも凛にとっては少なからず
衝撃があり、その揺らつく心を安定する方法は暗中模索だ。
そんな彼女に、優しく母親は慰める。
「そうねぇ。確かに凛の告げた事は正しいわ。
でも、コトネちゃんもコトネちゃんなりの言い分があったのよ。
新しく出来るお友達って、とっても素敵だもの。
凛も、お父様から新しい事や物を授かったら嬉しいし。それを
貶めるような事を誰かが言ったら不愉快でしょう?」
母親の理論は正しい。素直に首を振る花を愛おしく見つめて唇は動き続ける。
「コトネちゃんも、凛が言った事は自分の為だって少し落ち着いたら
わかってくれる筈よ。ね? 明日の学校で昨日の事は言い過ぎたって
ちゃんと告げれば、あちらも謝罪してくれる筈よ」
「……はいっ、お母様!」
可愛げのある悩み。それでいて、1を聞けば10を学び、行動する自慢の
才女たる愛娘の晴れた顔つきに遠坂の妻は穏やかに口を綻ばせる。
「ふふっ、良いお返事ね。それで、そのお友達ってどう言う方なの?」
「それが、スラーと言う外国人の方で。オーストラリア出身らしいですが……」
凛は事細やかに、コトネから口伝した内容をそっくり詳細そのまま家族に話す。
遠坂 凛にはスラーこと、あのパーカーを羽織るスーツ姿で黒髪をゴムで
一括りにした、日本かアジア系と外国のハーフらしき顔立ちで少々乾いた
瞳の女性が、まさかサーヴァントであるとは気づく事はなかったし、人物像を
聞いた両親も、それをサーヴァントであると連想するのは至難だった。ましてや
バーサーカーなどと神たる視点であるものが告げぬ限りは有り得ない閃きだ。
彼女は趣味や特技に関しても当たり障りのない答えで濁したし、汁粉の件
に関しても、長く外国に居住している人間なら知らない事も特別不思議でない。
もっとも、バーサーカーはトラブルを恥だと感じたし、凛も彼女にあるだろう
尊厳を保証するため、自販機の件に関しては曖昧に伝えたが。
出生はオーストラリア。職業はフリーのエンジニアとして日本に来所してる。
そのような不備は無い設定を無垢なコトネに凛も信じ切っていた。
母親は、食事の手を止めて娘の説明の節々で笑顔を崩さず頷きを繰り返したし
父たる当主も、食事を終えてナプキンで口を拭き終わると優雅に彼女の話す
内容が丁度切り目を迎えた頃に一言を放った。
「凛 先に済ます事があるだろう?」
未だ全体の4割か5割は残る肉と前菜を暗に告げると、少女も軽く赤面
しつつ背筋を伸ばして謝罪の言葉を口にする。
「っ 申し訳ありません、お父さま……つい、話しに熱中してしまいまして」
「いや、とても有意義な話だったよ。凛の学友は、素敵な知人を得たな」
顎鬚を撫でる遠坂 時臣。この遠坂家の5代目であり、由緒正しき魔術士。
資質は魔術師としては凡庸なれど、その克己と自律さ。常人の何倍もの
修練を経て得た実力は本物であり、冬木市の魔術師から一定の畏敬を抱かれてる。
彼は、穏やかに子の可愛らしい作法の崩れを窘めつつ思考はこれから先に
行われる非常に大きな。人生を賭ける盤上に想い馳せていた。表の仮面として
家族愛豊かな父の面を被っても、裏には冷徹な魔術師としての顔がある。
(この幸せな日常も、いずれ終わる。私が根源に到達すれば……)
遠坂の悲願として、根源に至る事は魔術師として、自分の使命として最終到達点だ。
根源。実現不可能な「結果」を齎す事象を呼び起こす全能の渦。
誰もが決して到達しえた事がない存在であり、ソレの解明も理解も今まで誰一人
成し遂げたものは居ないだろう。
だが、『行き方』は解る。通路の作り方だけは魔術師たちが産まれて何世紀か
経ったいま現在、その研磨と修練の果てに得た一つの盤石な方法。
聖杯戦争、六つのクラスの英雄の蟲毒。それによって生じたラインが根源までの
道のりを築き上げる。その段階の一歩へようやく踏みしめようとしている。
(準備は整えている……監督役の璃正氏との関係に問題はない。弟子の綺礼にも
アサシンを召喚する手筈は整えさせた。後は、私があの伝説を呼び覚ませば)
遠坂時臣は、伝説にて人類最古の英霊を召喚しようとしている。
全ての人類の基礎、それにて最初の王。神話に出てくるアダムやイブ
その他の神に深くかかわる系列を除き、その実在は確かな事が発掘された
歴史が証明している。その王が自分のサーヴァントとなってくれれば……!
(叙事詩や文献から、どのような相手であれ臣下として対応する節度は覚えた。
あとは、天が微笑んでくれる事を祈るのみ)
サーヴァントと言う存在は未知の霊基で出来合わさった出来の良い現し身だと
時臣は捉えている。謂わば、劣化はすれど其の時代の本人を良く模倣した存在。
彼は魔術師として、聖杯戦争中は自分の矛となり盾である絶対の守護神に礼節を
忘れず、家族を危険に晒す要求以外では如何なる歓迎も行う覚悟だ。
(確か、明日にでも彼はアサシンを召喚する)
アサシン。サーヴァントのクラスの中では最も戦闘能力が劣ると言われる存在。
だが低い力の代わりに隠密性、気配遮断と言う。マスターに感知させる事のない
襲撃を主とするのが役割だ。サーヴァント同士の戦いでなく、マスター殺しの為の。
(……承諾してくれて、とても安堵している。どのような物が召喚されるとすれ
魔術師として常日頃から影の刺客に対し余念は無いものの、サーヴァントと言う
規格外の存在から狙われる状況が日中夜続く不安に晒される事は無くなったのだから)
彼は何処か空虚さを帯びてるものの敬虔なる信徒であり、教会の代行者だ。
第八秘蹟会の司祭と言う、誉れ高い名誉と地位があり八極拳の達人である言峰氏の息子。
受け付いた技術・人格・経歴ともに問題ない優秀な人物だ。
もし彼が願望機そのものに執着する願いがあるのなら、自身を裏切りサーヴァントを
扱って聖杯戦争終盤を見計らい自分を謀殺する可能性もある。単身でも2流の魔術師なら
圧倒して蹂躙できる素質を兼ね備えている。実力行使に打って出る危険性を親友の子であれ
疑わなかった訳ではない。実の子でさえ牙を向く 魔術師の世界とは厳しいものだ。
特に冬木と言うハサンが喚ばれる、この戦争で。彼が暗殺のスペシャリストと共に
代行者の実力で責めてくれば、負ける気はなくとも勝つのには骨が折れるだろう。
(だが、その心配はないだろう。わざわざ彼から自己強制証明(セルフギアス・スクロール)を
持ちかけてくれた位だ。私は、その彼の真摯な姿勢に心を打たれ結局する事は
なかったものの、あの態度さえ見せてくれれば恐れる事はない……)
彼は胸に手を当ててこう宣言してくれた。
―我が師であり、第二の父でもある貴方に対し決して背信を成す意思も手を掲げる事はなし
―もし、誓いを崩す事があるならば。この心臓を捧げましょう
(あそこまで忠誠を見せてくれた彼に対し不信を向けるような事、遠坂の当主としても
言峰の親友としても有り得ぬ事だ)
旧き家柄なる貴族の一人として、命を懸けてまで身を預けると宣誓をした綺礼を疑う真似は
遠坂時臣と言う今まで培ってきたものを侮辱する事だ。
既に未だ見ぬサーヴァントと共にアサシンを味方に付けている。二騎の英雄がこちらの
勢力であると言う事実は、途轍もなく心強い。
(残る不安要素は外来より来たれし魔術師……)
外部から参戦する魔術師。いずれにしろ、この60年に一度の大戦に参入する輩は実力含め
自分に並び立つ可能性、それ以上の脅威も有り得るだろう。
遠坂の権力は確かなネームドを備えてる物の、アインツベルンやアトラス院といった
ネームバリューに富んだ組織は世界中にも各地散らばって存在はしている。
(そして、間桐の翁の動向も探らねば)
間桐家……養子と出した桜の事も相まって複雑な関係ではある。最後に間桐の当主と直に
対面したのは一年ほど前になるだろう。何と月日が経つのは早いものかと溜息が出かける。
(そう言えば、あの軟弱者が出戻りしてたとか聞いていたが……ふんっ、今更なんの未練が
この冬木にあると言うのか)
桜はきっと大きくなっただろう。今は、どれ程の魔術の教育を受けているか。
雁夜に対し、時臣の感情は淡々としたものだ。自分の妻に対し未だに浮ついた気持ちを
隠しても隠し切れず接してる負け犬。吠える事もできない負け犬だ。
嫌な事を思い出したとばかりに頭(かぶり)を軽く振った時には、小さく食器を置く音と
食事を終える礼を告げる小さなレディーが目に留まった。
「それでは、お父さま。凛は自室に戻っています」
「うん……あぁ、凛。朝にも告げていたが」
「わかってます。お忙しいのでしょう? 私は、教えて頂いた事を復習いたしますので」
少し残念そうな瞳に心は僅かに痛みを生じさせる。聡い子であるが故に、余計に気遣いを
覚えさせてしまう。そのような家の長女として産まれた事を誇りと言えども
あのように逃れぬ辛苦や寂しさを覚えさせしまう事に良心は軽く身を捩った。
(いや、全ては聖杯に悲願を叶えてこそ。根源の力を得て、帰還が出来た暁には
遠坂と言う名は永遠に世界に名を刻むであろう。さすれば、凛や凛の子 その子孫にまで
黄金色すら超える輝きは残り続ける)
例え、根源から戻る事が叶わずとも。到達と言う事実がある限りはエレベスト頂点への
到達など目ではない。地上で唯一の成功者としての名誉を授かる事になる。
聖杯戦争は開始を向かえないものの、甘い夢に、今この幸せな一時は浸っても罰はない。
葵と凛に、就寝の接吻を交わした後に。軽く魔術礼装たる自分の愛用の武器たる杖の
調子を確かめた後に、外へと出る。向かう先は、言峰教会だ。
その立ち去っていく人影を、遠坂邸の高所にある窓から。大き目の蒼い双眼は
通路へと時臣がいなくなるまで見届けてるのを知らずに。
「……お父さま」
遠坂 凛は父親が外套を纏い夜の冬木に赴くのを見届けつつ以前ファンシーショップで
買った少し間の抜けたライオンめいたぬいぐるみを抱きしめる。
何も言わなくても血縁であり、聡明な凛にとって父親からの魔術の手解きを受けて
その背を見続けてきたからこそ理解出来る事がある。
父は、自分達を置いて遠くへ行こうとしている。多分それは地理的な意味合いでない
どんな魔術を用いても決して到達出来ない頂きへと向かおうとしている。
名門たる遠坂の子として、その目標は崇高なものであるだろう事は解る。けれど、時折
この自室の窓から覗き見て、闇の中に溶けるように消え行く父の姿を見ると
そのままフッと二度と戻らないのではと言う寂寞が襲って来るのだ。
……カタカタッ。
「うぅん……お父さまの事だもの、きっと何も心配いらないわ。どんな時であれ優雅であれ
遠坂の家訓ですもの、私がこんな調子では遠坂の名折れと叱られる」
カタカタカタッ
彼女の私室の片隅で、何か一定の硬度はありそうなものが固い箱か何かに仕切りに
当たるような音が、神秘的で憂いを保つ凛の表情の翳りを徐々に青筋を立てて
鈍く光る月によって出来る影が、儚い少女から悪魔の形に見えさせる。
カタカタカタカタカタカタッ
「うっ る さ い!
何なのよ、このド変態アホステッキ!」
極力声を抑えた上で、最大限の怒声を上げると言う器用な真似を手習いの魔術と共に
表現させた少女は、その顔にはとても合わない形相で宝箱を開ける。
その中には、一つのステッキが入っている。そのステッキは見かけ、玩具のステッキだ。
プラスチック製に見える白い鳥の羽らしきものが付いた頭は五芒星と言う、いかにも
早朝で少女向けアニメで使用されていそうなステッキ。だが、普通と異なる部分で一つ
目立つ事があると言えば、これが本物の魔法のステッキでいて、しかも自律している
(傍迷惑な)自我を宿していると言う事だろう。
凛は、以前このカレイドステッキと呼ばれる先祖が残した(信じがたい)魔術礼装には
散々な屈辱を味あわされた経験がある。あの、思い出すのも身を引き裂かれるような苦痛
でしかない羞恥と人生の汚点とも言える蛮行(変態行為)は、100万回目の前の元凶を
砕いても積年の恨みは晴れはしない。
凛の力では、このステッキをどう頑張っても破壊はおろか破損も出来なかったが。
だが、どう言うわけか。ここ最近は一件での口論と死闘染みた喧嘩の上で冷戦状態で
宝箱に封じ込めてたのだが、どう言う訳か昨日から妙に騒がしい。
無視するのも限界だった上で、凛はこの二度と直視するのも御免だったステッキへ
話しかけ、もとい怒鳴りつける。
「あんたねぇ、ちょっとは静かにしなさいよっ。ただでさえ最近は、母様も父様も
大きな行事が差し掛かっているからピり」
『私を移してください 早急に』
「……はぁ?」
怒鳴るのを一旦停止して、怪訝な声と顔を作った。
何時もなら、この即席変態魔法少女作成機こと魔法の杖は。自分に対して無茶な行動や
屈辱的行為を要求するか、それが出来ないならば唯我独尊といった自分本位な
他者に全く遠慮や配慮をしない調子の無意味な喋りが売りなのだが、今日は何時にも
増して可笑しい。いや、何時も変なのだが今日はまた何処か違っている。
「あんた、何かしこまった口調で」
『お願いします。私を早急にエーデルフェルトでも隣町でも東京でも何でも良いですから
別の場所に輸送してください。でないと……でないとぉぉ……!』
凛は、今度こそ困惑した。この自称マジカルルビーちゃんことカレイドステッキが
このように振動してるのを見るのは初めてだ。いや、絶交して宝箱に投げ込んだ際は
ブリキ製の箱を突き抜けそうなほどに、外へ出ようと暴れたが。恐怖して震える
そんな様子は本当に初めて凛は見た。
だが……因果応報と言うべきか。このステッキと凛の関係は既に修復不可能だった。
「一体全体、今度は何を企んでるって言うわけ? まぁ、ちょっと私が悩むぐらいには
真剣な雰囲気が垣間見えた演技だったわ。でも、残念ね!
あんたの無駄話に、付き合ってる暇はないの!」
『いやっ! 本当にマスター! 今度ばかりはルビーちゃんもマジと書いて本気で
身の危険を感じてるんですって! あの理知と理性で覆ってると見せかけて完全に
キマっちゃってる奴に目を付けられたら、このマジカルルビーちゃんの貞操が……!』
堪忍袋の緒が切れる前に、凛はこの時間を無駄だと判断して宝箱の封を再度行う。
何か言いかけているものの完全無視だ。既にこのステッキに何の情も持ち合わせてない。
バタンッ!!
カタカタカタカタカタカタガタガタガタガタガタッッッ!!! ……シュン。
「ふぅ……お父さまから習った消音の魔術、もう一流の域まで達せたわよ」
茶番劇の所為で、先程までの真剣な憂鬱も雲散としていたが空気は何とか平常に戻った。
あのステッキに関わると碌な事はないが、今日ばかりは何だか勝った気分になれた。
気持ちよく眠れそうだと、凛は伸びをして浴室に向かう。
遠坂の家には代々として、肝心な時にヘマをすると言う呪い染みた現象が付随している。
この時、もう少し以前はパートナーの関係だったカレイドステッキの話を聞けば
彼女も未だ幾らか平穏な日常を過ごせていた筈だった……。
「『霊器盤』に既にサーヴァント召喚の兆しありですと?」
「えぇ、招かれたのは『バーサーカー』のサーヴァントであると見て間違いない」
冬木教会こと言峰教会。その今は無人の時間帯である礼拝堂にて礼服を纏う二人と
時臣は杖を軸として木製の椅子に腰かけつつ打診していた。
言峰 璃正 言峰 綺礼。齢いとして既に人生の終盤に差し掛かる璃正の肉体は
二十代中盤の綺礼には負けず劣らずの神父服越しに張りのある筋肉が見え隠れしてる。
それも全て、求道に人生を賭けた上で我欲を去った上での求道の賜物であり
聖職者として、神が遺した奇跡の産物を守り抜く上で得たものだ。
そして、その父の技術を幼少から学び、施された綺礼においても体術は父に未だ
追いつけずとも代行者に至る力を秘めた鋼の筋肉の装甲を担っている。
然しながら、これが人同士の戦いならば100人力なれど聖杯戦争は人の基盤を超えた
謂わば人の形をした戦闘機同士の対決だ。サポートは出来てもサーヴァント同士の
戦闘で単純な人間の武術は猫の手よりも非力だろう。
霊器盤とは、監督役が持つサーヴァント召喚を報せる魔術器具。どのような
クラスが招かれたか、現存する英霊の数を表示する優れもの。
時臣は、親友の璃正から報告した急性とも言える早いサーヴァント召喚に多少の
狼狽がなかった訳ではない。だが、常に優雅たれの家訓を思い起こして短時間で
冷静さも取り戻した。直ぐに詳しい近況の事情に移る体勢へとなる。
「マスターから監督役への挨拶などはあったのかね?」
「いや、一日過ぎたか何の音沙汰も御座いません。バーサーカーと言う
御し難いクラスに魔術師が手間取っているか、他に事情があるのか」
「ふむ……いや、少し取り乱したが焦る事はあるまい。七つの英霊が
降臨してゆえの聖杯戦争。その始まりなくしてはサーヴァントは只の
野良武者同然。逆にその召喚したマスターが憐れに思う程だよ。
本来の霊格以上の力のものを喚ぶと言う事は、それだけ消耗を
余儀なくされると言う事なのだからね」
聖杯戦争は、七つのクラスが争って故に願望機が隆起する。それ以前は
強大な霊格を行使する事で悪戯に自身の浪費に繋がるだろう。
もし既にマスター候補の人物に目星を付けており、虐殺するなどの
外道さを発揮するならまだしも。そんな効率悪く強硬手段に出れば直ぐに
発露して身内に近しい監督役の厳罰を味わう事になる。
時臣は直ぐに自分の盤台が不動である事を確信した。
予定通り、このまま最強の触媒が届くまでは心安らかに過ごせばいい……。
同士に対し首を向け、本来に話すべき議題へと移らせる。
「予定外の事は起きたが、なに 大事ではない。いま暫く
バーサーカーを呼び出したものについては使い魔で調査を
するにしても、それ以上の対策は構わないだろう。
それよりも綺礼。やはりアサシンを紹介するのだね?」
「はい。冬木と言う地の特性上ハサンを喚ぶに越した事はありません。何よりも
隠密と偵察に関して彼らに並ぶものは居ないでしょう。
我が師のサーヴァントが剣と盾なれば、私のサーヴァントは師の目と耳です」
綺礼の言葉に鷹揚に時臣は頷く。第三次の戦争、璃正の保有してる情報や残る記録を
見るにあたって冬木の戦争では山の翁を筆頭とする暗殺集団が召喚される。
無論、その魔術儀式に手を加えて別の古来か近代にあたる暗殺者を召喚する事は
出来なくもない。だが、ソレを行うメリットは特にないし過剰余分に戦力だけ
求めて無理な事を試すは愚の骨頂。過去の遠坂の魔術師に倣い、自身も自分の心に
従って正道たる儀式手順を施すだけだ。
「散々口にしてきたが、ゆめゆめ油断する事はないようにな綺礼。
古来よりの暗殺教団。サーヴァントと言う使役する存在であれども十字軍と
敵対してきた存在。君は聖堂教会の代行者であり、アサシンとの関係は……」
「確かに、彼らとは教義において私と異なる部分がある事は重々承知してます。
然し、彼らの歴史に刻まれる暗殺の所業は全て神への敬虔さと共に、その神の
教えを歪め利己的に強欲を満たそうとした者達への鉄槌として産まれた事」
聖書を胸に押し当て、目を閉じたまま静かに説法を行うように綺礼は言葉を続ける。
「彼らと私の教えには齟齬がある事は必然、ですがソレもまた神から賜う試練です。
汝の敵を愛せよ。そう、神の語句に載っています
最初こそ確執はあれども、真摯に私が訴え出れば彼らも私の言葉を理解しましょう」
参った、と言わんばかりに杖から少々手を離して額に手を当て時臣は首を振る。
呆れたとか言うマイナスな感情からでなく、感嘆の意味でのジェスチャー。
「フッ……綺礼、我が弟子よ。男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よと言うが
昨日よりも増して、君から啓蒙の輝きが強まるのを感じる」
「勿体ない、お言葉です」
「いや、謙遜せずとも良い。だが、これにてはっきりした。
少々迷いもあったのだが、凛の後継人に君ほど相応しいものは居ない」
「我が師よ、それは」
何時かの時、自分が聖杯戦争にて不慮の死。または大望の根源に至り、その帰還の不可
が決定された時に遠坂の家には未だ幼少の凛が家督を継ぐ。
娘は年齢の割に大人びてはいるが、子供だ。葵だけでは遠坂の家を守り抜くには
余りに、我が家のブランドは寄って来るハイエナ共が多い。自分と言う獅子が消えれば
我が妻と子を巧言令色で財を貪ろうとする者は後絶たないだろう。
親交では、言峰を除き盤石な家は競い合う間桐を除いては遠縁のフィンランドの家門だが
アレはハイエナの中でも優美が付く存在であり、任せられるものではない。
この冬木に集う2流3流の魔術師らよりも、身近な仲間であり弟子の言峰は長い間
交流を続けてきた。少し前まで、空洞めいた気配がどうにも不安を過っていたが
この若き頃の璃正氏を彷彿とさせる清廉さを帯びた佇まいを見れば言う事はない。
それから少し時間をとり、三人での予想しえる不慮の事態での対応、報連相の
確認を取り合って談合を終了した時臣は、しっかりとした足取りで
自信に満ちた目で杖を鳴らし、その背中は教会の扉より見えなくなった。
綺礼は、その背を見届けて正面の扉を閉じた後に振り返り少し目を瞠った。
父が、ハンカチを出し目元を拭っていた光景を目にしてた。
「父よ、どうされましたか?」
「いや、なに……これは感涙だ。
綺礼よ、少し前は執拗に自分自身を痛めつけて何か得ようとしていた
お前を見るのは、とても痛ましかった。
だが今のその瞳には確かとした光がある」
その言葉に、父から光を帯びてると言われた子は硬直しながらも手は目に触れていた。
「……私の苦しみに気が付いてたのですね」
「子の異変に気付かぬ親が何処にいるか。だが、求道者として一人の父として
綺礼、お前が自身の苦しみを晴らすには自身の力で打ち破らねばならんと考えてた。
そして、この予感が正しいのなら。我が子よ、お前は自身に打ち勝ったのだろう?」
その言葉に、確かな答えはなくとも綺礼はただ口元に笑みを模るに留まった。
だが、璃正にはそれだけて満足だった。
「その答えが何であれ、私には祝福の言葉以外掛ける道理はない。だが、もしこの
戦争が終着する暁には、聞かせて貰っても構わんがな?」
「えぇ、父よ。その時は、特上のワインと共に話しましょうとも」
踝を返す綺礼を、穏やかに璃正は見送る。彼が何処へ向かうかは聞かずとも解る。
丁度日中帯に、外国人墓地での供養の依頼が頼まれた事を聞いていたからだ。
(だが、何もこのような夜更けに頼まずともな……)
何かしらの罠ではないかと疑ったが。綺礼が直に依頼人に会い、日の光に抵抗ある病状
がある事を聞いた為に不安はない。何より、大抵の悪鬼程度では代行者の
実力は依然劣らず鋭さを見せる実子の手で葬られる事だろう。
……カツ カツ。
璃正に告げた通り、綺礼は外国人墓地にいた。
周辺一帯に綺麗に整えられた墓石が立てられており、彼は一つの紙袋を携える。
――どうだ 魔笛の序章は
墓地の奥へ奥へ歩き続けると、闇夜に流れる生暖かさを伴う風に乗って一つの声が
綺礼の耳を打った。だが、彼はそれに微塵も驚きを示しはしない。
ただ、口の端を吊り上げて呟く。
「ふむ、些か苦労はしたがね。
最後の場面で、父が感涙したのを目撃した瞬間は喉を鳴らさない事に必死だったよ」
――道化師の役柄は 不満か
「いや……斬新なやり方だと感じたよ。
君の言う通り、自身も巻き込んで予測出来うる破綻の前に石を積み上げると言うのは
中々に私のこの心に潤いを満たしていく」
――笛吹きは もう直ぐ整う
「期待してるとも、同好の士よ。
なに、斯様なものを見せてくれた礼として。君が静かに花見をする権利を損ねはしない。
それにしても、師の痛々しい姿は見てられなかった。
目指すべきものが、直ぐ目に届く範囲を見渡せばあると言うのにな……」
ザァァァ……。
気付けば長身の男に並ぶように、一人の中性的な顔立ちの人物が無遠慮に、冒涜的に
余り清掃なされてない墓石を椅子代わりに、ティーポットを携えていた。
「……乾杯しようではないか、綺礼」
「何にかな? 月夜に舞い降りた堕天の御使いよ」
「なに、簡単なものだ。これから産まれるだろう愛しい子等と……昇華される子達に」
「ククッ…… 乾杯」
月は無情に照らし、ただ見下ろすのみ。戦士達に休息はなく、また覚醒もなされず。
宵闇は目覚めつつ、そして背負うものとも邂逅した。恐怖は色付き始めている。
英雄の到来はないのか? いや、必ず来る筈だ。ほら、あれをご覧。
「チッ……この私が何で子守りなんて」
「……」
「おいっ、ガキ。黙ってないで何か言え」
「私はガキじゃない……私の名前は桜」
「そうかよ 私は」
「私は ただのゲブラーだ」
今回の最後部分の愉悦同士の会話の要約。
※キャラ壊れてるが、ご容赦ください。
鬼畜先輩「自分ww宝具の一部として活動していて、その宝具は
根源につながってるからwww あんたの師匠の目指すもん
私 既に持ってるからwwwww 召喚時点で既にゴール見えて
んのにすっごい遠回りして得ようとしてんの まじ お疲れwww」
綺礼「……ww」
鬼畜愉悦さん「まぁww 自分ちょっとまだ腰が本調子じゃないし
管理人が目ぇ付けて戻されても面倒なんでwww この世界での
愉悦素質は冬木市の1位の綺礼ちゃんww 表はよろぴくww
自分はちょっと舞台裏でかき回す準備やってるからwwwwww」
綺礼「おkww 把握www」