fate/zero x^2   作:ビナー語検定五級

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貴様は王冠を被り 奴隷を使役する

奴隷の骨と血肉で紡がれたマントを翻して

そして奴隷は傅き 終焉の世界にて
木霊する処刑の声に倣いて死骸の王を差し出すだろう

王と奴隷にどれ程の違いがあるだろう?

誰もが何かに傅き生きている事は万物の理だ

強きものは弱きものを喰い そして地より下の生者は
土を耕し 命を育むのに助けを担っている

お前は違う お前は最も強いかも知れぬが全ての
命を奪い去りて大地を平らにするだろう

それは もう王でも奴隷ですらない

それ即ち神と 大勢の民たちは塔の下で呼んだものだ






吝嗇

端末の垂直同期実行

 

 優先順位の決定...

 

 施設の電圧チェック...

 

 TT2コンポーネントにアサイン...

 

 エンケファリン活性化...

 

 エネルギー抽出及び精製工程再開...

 

 クリフォト抑止力を縮小...

 

 すべての職員を配備...

 

 同期中...   同期完了

 

 

 

 ありもしない幸福に現を抜かしていたとしか言わざるをえない。

 

 突如の悲劇が、絶望が降りかかる事がこの場所では突然の

木枯らしで舞う木の葉が目の前を通り過ぎるように当たり前であったのに。

 

 私は、また見落としていた。この世界がどれ程無情で希望が無い事を。

 

 

 バーサーカーことスラーは、コトネと今日も何て事のない

語らい、心の湯に浸かっていた。

 

 「……そうか、学校の鶏小屋に窃盗が」

 

「うん、可愛がっていたんだけどね。例の家畜荒らしかな?」

 

 「決めつけるのは早計だが、可能性はあるだろうね」

 

 本格的な聖杯戦争、願望機の奪い合いなど彼女にとっては何の興味も

関心も抱かない。ただ、この日常での数時間の浅瀬のほうが余程大事

だったし、少しでも目の前の小柄な友達が自分が居なくなっても

自力で、自分の手足で抱える問題を解く力を培わせるほうが重要だった。

 

 だからこそ、今日も今日とて距離感が存在する遠坂 凛の睨みに対して

曖昧な笑みを浮かべつつ、コトネと凛が去るのを見届ける。

 どうも彼女とは、コトネが反抗を現した事が大きな原因だろうが

過剰とは言えずとも敵視されてる事は明白だった。

 

 彼女の父親とも、いずれ話を付けなければいけないが。突如

来訪すれば要らぬ危惧や警戒を抱かせるのは目に見えてる。ましてや

参加者の子たる彼女に仲介を頼んだとしても、どれ程自分の真意が

伝わるか計測出来ない。差し障りない程度に雁夜の胸中や

間桐 桜の安否に関しても伝えなければならないと思ってた時だった。

 

 背筋に感じた感覚に、一瞬だけ思考が空白になったものの。

スラーはバーサーカーとしてやるべき手順を瞬時に行う。

 

 念のために用意していた携帯機器をパーカーから取り出して耳にあてる。

そして、数秒のコールらしきものが鳴ったあとに大き目に告げる。

 

 「マスターか? わかった、すぐこちらに来ると言うのなら待機しておく。

今後の行程についても、もう一度話し合いたかった所だ」

 

そう言って、彼女は機器をしまうと人気が無くなった公園のトイレの

中に姿形を一時晦ました。

 

 

 

 

 

 (……今の会話は、あのバーサーカーの使い魔らしいマスターが来るとの事か。

これは、チャンスだ)

 

 百貌のハサン、その一人であるザイードは。彼のマスターである言峰 綺礼

との同盟者である時臣の指示を下されていた。

 

『言語を解し、凛の学友に接近している事を含め。高確率で迂遠に遠坂を

調略せんとする手段としてバーサーカーのマスターが私の娘に近づく為に

ソレを遣わしたに違いない。中々の知略戦と称したい所だが、私が偵察の

エキスパートたる君らアサシンを抱えている事は思いもよらなかった事だろう。

 使い魔如き、アサシンでも処理する事は可能だろうが何か有益な情報を

抜きだせるかも知れん。極力生かしたまま捕縛したまえ 方法は任せる』

 

 昨日に遠坂の娘へ秘密裡に護衛の任を下されたハサンの一人からの報告。

時臣は、未だサーヴァント全てが召喚されてない事。そして現存しているのがアサシンを

除いて最初に発現されたバーサーカーのみである事実からコトネと相対しているのが

敵対するマスターの使い魔だと推測した。

 

 その考えはまず正道な魔術師の考えとして間違いない。

どうあっても、狂化しているサーヴァントが一般人と偶然仲を深めて

その一環として聖杯戦争抜きで談話を楽しむ所に、自分の娘が居合わせた等の

考えに発展する事や信じられる筈はないのだから。

 

遠坂 時臣は、そのマスターの狙いが自分の娘であると踏んだ。

 娘の知人と友人になり、そして交流をある程度通して心を許した所を見計らい

マスターの暗示なり何なりで娘を自分の攻撃からの盾に使用とするつもりだったと。

 

悪辣で卑劣な、と怒りは沸き上がる。しかし、それでも理性を失わずアサシンの質量での

総攻撃へ打って出ないのは現状 そのマスターの背景が見えない事。

 娘に将来的に危害を及ぼすつもりであっただろうが、その方法が未遂で終わる事と

魔術師として神秘の秘匿に重みを持っており、貴族の末裔であり多くの魔術師に畏敬の念

を抱かれている自分が、家族の一人に不埒な真似をされかけたからと言って激昂し

直接的に、その使い魔を白昼堂々と己の手で天誅を下す等と言う事は魔術師として

あるまじき事だったからだ。何より群体としてのアサシンのメリットを、相手の使い魔

一体を犠牲にするのと引き換えに晒す等と言うのは情報の対価としては余りに破格すぎる。

 

 他の伝手を考えもしたが、いま動かせる駒となれば同盟を隠蔽している弟子のみ。

直接自分が動けば、家名を傷つけ同盟者は動かせない。ならば、自然と街を索敵していた

サーヴァントが、使い魔を見つけて駆除したと言う流れが最良だ。

 

(サーヴァントに対峙され、相手がどう反応をするか……。アサシンである事はマスターも

使い魔越しとはいえ理解せざるを得ない。それで自害すると言うのならば、アサシンの

能力を碌に把握せぬまま外観だけで満足する三流。もし、交渉を望むのであれば

この遠坂の当主が寛容に手を広げ、娘に成そうとした蛮行を取り直してあげようではないか)

 

まだ遠坂 時臣は、凛の友人であるコトネ。その彼女と交友を広げる相手が何の下心も

無い事や、そしてバーサーカーのサーヴァント本体にあたる事を知らない。

 その未知なる女性は宝具の一部かも知れぬが、使い魔であるならばサーヴァントの中で

最弱にあたるアサシンであろうと容易に打倒出来ると考えていた。

 

互いの価値観の齟齬、そして戦争と言う舞台が起こす 悲しきすれ違い。

 

バーサーカーは決して遠坂に牙を向ける気はなかった。だが、口火を切ったのも

彼女の何気ない行動が齎した狂いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 アサシンのサーヴァント 百貌のハサンであるザイードもまた。少し遠方から観察

しただけであったが、そのステータスが余りに虚弱である事から。幾らか優秀な魔術師が

サーヴァントを模して作り上げた人形だと侮っていた。

 

(主の同盟者の言葉とおり、やはり使い魔か。厠で待ち合わせか……貴様のまだ見えぬ

マスターの顔が苦渋に濡れる様を我が手で染まらせてやろう)

 

 空気を切り、人払いをなした公園の中に音もなく着地する。召喚時に全員が携行している

生前愛用していた小剣を構え、公共トイレのほうへジリジリと近寄る。

 

(他愛なし……簡易的な結界にどう反応するか伺っていたが。この様子だと

気付いてる様子もなさそうだ。ならば、一気に中へ突撃して捕縛する)

 

 最初の狩りとしては、容易い獲物。だが、小さな積み立てが後に自身の力量の真価を

認められ、自分自身が百貌を代表とする一人となるのも夢ではない。

 これが黄金の鎧で包まれ、星の数ほどの伝説の武具を降り注ぐ英雄との対峙だと

言うならば、死の恐怖に硬直するだけであったが。相手は何の変哲もない婦女子のソレ。

 

 

              ――バサバサ……

 

 「ぬ……っ?」

 

 トイレ正面の出入り口。そこから飛び出した小さな影に、すぐ中に入ろうと身構えていた

体を一瞬強張らせて再度死角に入ろうとするも、映ったのは羽ばたく小鳥。

 

 (新たな使い魔か。! このザイードの侵入に気付いたとするならば、援軍を向かわせる

合図と言う事か! 不味いっ)

 

 シュッ、と小剣を宙を踊る鳥めがけて振る。

小動物、主に鳥獣は一般的な魔術師の使い魔によく見られる存在。特に鳩やそういった生き物

は伝達の使い魔としては常套手段にあたる。

 

 あの20代後半程度の女性の姿形の使い魔が、空間の異常を察知して本来のマスターに

サーヴァント、バーサーカーを向かわせる事が成功したら。

 戦闘能力では最弱であり、スキルと言うものも殆どないのが己だ。一瞬とは言わずも

狂化でパラメーターを底上げされた英霊に勝てる等と妄想は抱いてない。

 

 小さな肉を裂く感触が腕に伝わる。やはり 他愛なし

直ぐに体を向き直し、伝令を放ったトイレに引き籠る相手をアサシンの所有する俊敏さで

自害など試みるまえに四肢の腱を切ろうと思った直後だった。

 

              ――グワァッ゛

 

           Punishment!「処罰!」 

 

 

「――は?」

 

 ……基底のザイードは、振り向いた瞬間に見た。言峰 綺礼のサーヴァントの一人として

最後に見た情景は、小さな体躯が血の色に変色し その嘴と思えるものが

真っ赤な、この世のどんな肉食動物にも合致しない牙を持つ口に変貌する所。

 

 彼は真意を知った。

 

あの女、アレこそバーサーカーだ。いや……バーサーカーを制御する存在。

 狂乱の檻に囚われしモノ達を  その鎖を手繰る者――。

 

そして、その半身は二日程まえに鶴野が見た死体のように刹那、上半身は一瞬で

この世から、どの世界にも存在しない小鳥の胃袋に収まり 残りは消失した。

 

 

 

     

 

 

 ――そして、彼は気づけば見知らぬ今まで見た事のない近代的な建造物の

中に取り囲まれた場所に佇んでいた。目の前に先ほどのパーカーを着ていた女

バーサーカーが、白衣に着替え直し自分の前にいた。

 周囲には武器を携行しているスーツ姿の男女達が、各自なりの驚愕さを

伴わせていた表情で一斉に視線を自分に ザイードに向けている。

 

 『――は?』

 

アサシンとバーサーカー。両者は、互いに先ほどまで敵対に

至っていた事を一時的に忘れ間の抜けた呟きの合掌をなした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (――何がどうなっている)

 

そう思ったのは、鶴野だったか。同行しているチャンだったか、それとも一部始終を

観察していた管理人か。

 

 いや、アブノーマリティに侵食され。今やその魂は奈落の底か根源へと消えて

しまったであろう、赤い斧を持ち、赤いエナメル靴を履いた女性自身が

最後に何時も通り、安全と思えていた収容室に入って常切れる寸前の思いだったか。

 

「ツルノっ、此処はいい。逃げろ! 近くにいる女性エージェントにオフィサーへ

避難するよう伝えながらだ! クソッ、クソッ!! 何でだ。何でO-04-08が!??

アレの『以前の能力』は完全に消失した筈じゃなかったのか!!??」

 

            ――アハハハハ

 

     綺麗   綺麗     綺麗ナ  私ノ 赤イ靴

 

      ネェ   モット   見テ  私ノ  ワタシ ノ 靴

 

間桐 鶴野は、此処が決して安全な場所でない事は認識してたし、色々な化け物と

思われる収容室で、世話もしてたから身に染みていた。

 

 だが、ほんの少しだけ確かな安全も信じていた。今のところ、この数日で

管理人と言う奴は絶対の安全は保障出来ないと、交信する度に注意していたが

目に見える範囲で大怪我や、死ぬような人間は過去に起きた映像と言う記録以外で

彼は目撃しなかった。人は、時間が過ぎると共に強く意識していた恐怖が

緩慢になったり軟弱になる。ストレスで肉体を壊さない為の措置であり

コントロール不能なものだが、鶴野は今まさに起きてる出来事に対しての

覚悟を失念していた。人が死ぬ様なんて見たいんじゃないかと楽観を抱いてた。

 

 確か、彼女はユミと言う名前だった気がする。度の合わない眼鏡をかけていて

何でそんなもの掛けるのかと聞くと、視線に晒されてると思うと怖いの、と少し

恥ずかしそうに告げる娘だった。ちょっとだけ恐怖症があるだけの

鶴野から見れば、この会社で働いてる一人の仲間だった。

 

今の彼女は、とても妖艶に嗤っている。眼鏡を捨てて、その目はアノ妖怪爺い

を彷彿とする濁りきった色に染め切っている。足取りはステップを踏んでいて

一歩こちらに近寄る度に、まるでダンスをしてるようだった。

 

乾いた銃声が数発、隣で鳴る。目の前で彼女は、斧を片手に携えながら

紅い華を咲き乱れさせ、見惚れるようなターンを決める。

 

「ユミ、正気に……っ 戻れよ、おいっ!! 中層にいるクソったれな

アブノーマリティの管轄から外れて、此処で思う存分心機一転して

働くんだって言ってただろうがっ! 何でだよ……何でてめぇが……っ!!」

 

チャンは必死に、戻ってくれ と血の滲む声で叫ぶ。

そんな彼も本能で知っている。もう、彼女が戻らない事を。

 鶴野は、彼女が裂けるような笑みを向けながら胸の鮮血を浴びて

一層と、赤く輝く斧と靴を揺らして前進するのを見つめていた。

 

 振り翳される赤い斧。チャンの絶叫

 

 (……あぁ、結局。俺は何もしてやれなかったなぁ)

 

警棒を構えるでも、体を反転して逃げる事もできず。ただ、その斧が目前に

迫るのを鶴野は見て   そして、光が見えた。

 

眩い粒子、それがユミと呼ばれる赤い靴に侵食された憐れな

アブノーマリティと化したマリオネットを包み込んでいくのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ザッ……

 

「――新手か。成程、貴様ら群体か?」

 

 「……答える必要はなし」

 

ザイードがO-02-56こと罰鳥によって消滅したのを見計らい、その地点へと

歩くバーサーカーは、事態の異様さに内心では内でも外でも起きてる

混乱に対して多大なる処理を必死に行っていた。

 

(何故O-02-56が職員でないものに対し、能力である処罰を繰り出せた?)

 

そう、本来。その罰鳥と呼ばれるアブノーマリティが反撃した相手に対し

致命傷となる攻撃を繰り出すのは社内にいる職員で限定されている。

 

(何故O-04-08が、耐性に対して問題は無かった女性職員ユミを魅了する

事が出来る? その能力は……以前、消失したのを知っている。

 その能力の代わりに、クリフォト抑止エネルギーが一定に低まった場合に

対してのみ自制数値が一定に低い作業員をチャームする技能が産まれた)

 

赤い靴と呼ばれるアブノーマリティが、ユミを魅了した事。それは担当

していたチャンが、本日は急遽鶴野の補佐であったユメカを別の部署に

向かわせる事情があった為に起きたアクシデントだった。

 

彼の代理として、あのアブノーマリティの作業を彼女が行った。

 

チャンは、管理人に対して違和感を告げる事を結局報告しなかった。

善意での行動が、一番最悪な形での地獄の舗装に至った。

 

 (まさか…… ()()()()()()のか)

 

(全てのアブノーマリティが、かつて会社を。魔法少女達の地獄の宴や

O-05-65-Hが居た頃、いや、それ以前の能力を全て取り戻している、と

そして、ツール型アブノーマリティの所為で幾らか力も変質してる)

 

 xは、いま理解した。自分自身が狂う事が出来ぬままに狂っている事は

当の昔に把握していた事だが、今の時点になってそれ以外にも最悪と

称して良い現実が目の前の直結している事に。

 

 そして、追いついた最悪の事態に新たな邪魔が二体踊り込んでくる。

時臣が、先の尖兵が頼りない事を漏らしていたハサンの忠言に従って

念のためにと待機させていた二体のアサシン達だ。

 

時臣の保険は正しく機能した。一瞬の内に、今まで経験した事のない

小鳥の姿をした魔獣が自分達の指一本に値する群れの一人を何て事なく

消失させたのを目にし百貌の二人は、このバーサーカーに対する

危険の位置付けを数段階上げていた。こいつが、司令塔だ。

 この女が、あの怪物を操作して我々を欠けさせた。

 

「私は撤退する。足止めは任せるぞっ」

 

 「然り……必ずやマスターの元に全てを届けよ」

 

藍色に近い長髪が覗く、黒装束の影が一気に後退する。バーサーカーはそれに

対して罰鳥で追わせたり、職員達を召喚して追わせる事はしない。

 

一気に押し寄せる内なる混乱を制御する事にリソースを傾けていた所為である。

 

無防備に直立しているパーカーを着る女を、大柄なハサンは決して油断しない。

つい先ほどに仲間が一人呆気なく半身を喰われたばかりだ。

 

先程の小鳥を模した怪物は、この女の体に触れたか何かした後は姿が見えない。

 アレを出されれば一気に自分も消されて良い筈だが……。

 

(ふむ。どうやら、おいそれと出せるものではないか。何か宝具に

カラクリがあるようだな)

 

 「――むぅんっ!」

 

 巨漢のアサシンは、二の腕に血管を浮き出させ猪突の勢いでバーサーカーへと

駆けだす。策など無い、自身はもう一人の影が無事に今目にした出来事

その詳細の一部始終をマスターの耳に届ける事。

 その為にこの命は捨てる! 統合果たせぬものの、百貌の一人としての

責務は果たしてくれるっ!!

 

 「――っ  First Trumpet(非常事態レベル1)」

 

彼があずかり知らぬ所だが、その攻撃は間違ってなく限りなく有効打である。

 なにせ、このバーサーカーこと管理人Xは。全く単体攻撃能力は

サーヴァントはおろか、この戦争に参戦してる魔術師にすら劣る。

 

 狂乱の檻より、鎖を解いて怪物達を暴れ回す事しか出来ない……。

 

         

              (  ユミ 御免ね  )

 

 

          「――O-04-08 Red Shoes(赤い靴)――!」

 

 そして、迫りくるアサシンに立ちふさがったのは。哄笑を公園に響かせながら

墓場のダンスを披露する、かつては愛嬌のある職員の成れの果て。

 

アサシンは、出現した新手の人の姿をした狂気に濡れた敵を目視すると心中で

一瞬動揺を浮かべるも、そこは歴戦の戦士の一人。

 ただ一つの揺るぎのない剛腕の一撃を、斧を振り回す女の胸部へお見舞いする。

 

 ――ドゴォ……ッ     グ  シュッ……!

 

 (――ッ! こい、つ。心臓を、今の一撃で 間違いなく潰した)

 

 なのに……何故 何故何事もないように動ける――!?

 

 アサシンの片腕に伝わったのは、未だ鼓動を放っていた人の核がサーヴァントの

一撃で確かに破壊される音と感触。

 

 だが、女は。赤い靴に使役された操り人形は何一つ感じない。

当たり前だ。この女は既に生きていない、ただ赤い靴が放射する呪いを撒き散らす。

 

            ――私を見て ワタシを

 

 

 腕に体が縫い付けられたO-04-08の傀儡は、血反吐で喉までつまった不明瞭な

笑い声を上げ続けながら、大きな的をその斧で切り付ける。

 

 最初アサシンも、残る腕で斧を持つ手を叩き落とそうと奮戦したり掴んで

振りほどく事も試みた。だが、コレの性質か何故か斧が放せない。

 繋がる腕や手も、溶接されているかのようにアサシン一の剛力でも千切れない。

 

 「ぐぅ  ヲ  オォ……」

 

 一撃、一撃が重い。女の形をした何かの邪笑を仮面越しに睨みつけ せめて

最後の抵抗とばかりに顔を数発、全力の拳を頭部にお見舞いする。

手の甲に相手の返り血が付着し、哂う顔の上には幾多もの陥没が出来上がる。

 それでも止まらない、斧の鋭利で鈍重な感触が肩や頭に伝わるのを尻目に

自分達の一人がマスターの所に辿り着いたのかどうかだけ気がかりだった。

 

(いや、あのバーサーカーの重苦しい顔が雄弁に語っている。

マスターよ、そして我の一人よ。努め  は  果たした   ぞ)

 

 言峰 綺礼のサーヴァントの一人。巨漢のハサンもまた、立派に責務を果たした。

そして、彼が最後に見た光景は。斧を遮二無二振り下ろす女の後ろで

涙を流す形相で、剣らしいものを振りかざすスーツの男の姿だった。

 

 

 

 

 

 ――そして、彼もまた何処ぞと知れぬ場所で最初に散った筈のハサンの隣に。

ザイードの隣に出現し 一瞬、彼も思考が停止した後に こう口を開いた。

 

 「……ふむ、此処が地獄と言うものか。まさか座に戻る前には、このような

手順を踏まなくてはいけないとは初めて知った」

 

 「いや。お前が勘違いするのは無理もないが。我よ どうやら未だ我らは

一度死んだものの、厳密には脱落できぬようだぞ」

 

ザイードの言葉に、彼は自身が地獄ではない面倒な場所に誘われた事を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 ザシュゥ   ゴンッ゛ ドォ゛ン

 

   シュッ ガシュッ゛

 

「ユミ 畜生っ  畜生っっ!」

 

 剣で切り付ける音が 棍棒で叩く音が 大砲を放ち 地響きが木霊する。

 

チャンは、彼女が現実世界へと召喚されるのを理解すると。茫然と座る

鶴野に一喝すると同時に、直ぐ管理人へと願い出た。

 O-01-73こと絶望の騎士のE.G.O Weapon装備の借用。

つまり、アブノーマリティ達から抽出して作成された、人間でも

サーヴァントと互角に戦えるよう開発された武器といって良い。

 

勿論、これを扱うのに対して幾つか制限もあるし資格もなくてはいけない。

チャンは制限も理解してるし、今のところO-01-73の武器を振るうのに

相応しい力は備えていた。長く会社で生き延びた、クソッたれな恩恵。

 

 他の厳しい顔をした職員達も加勢する中、ユミと叫ばれる彼女は

人の原型が無くなった表情で、血の涙と反吐を撒き散らして折れた腕で

無規則に斧を振り回す。それに傷つく職員達もいるが、手を緩める事なく

彼女を鎮圧する為にのみ武器を振るう。

 

 もっとも、多くの傷を浴びるチャンは。レイピアの形をした武器で

何度も何度も彼女の膝部分を狙って切りながら思い出していた。

 

  ――中層でのアブノーマリティがトラウマでね……それ以来誰かと目が

遭うたびに、思い出しちゃって。だから管理人が、ピントの合わない

眼鏡をくれた時はさ……こんなので克服できるわけないじゃないって思ったし

段々視力も悪くなるわで、自分でも結構拗らせてたと思うけどね。

 こっちに上がらせて貰って、段々と自信も付いてきたし。

今度から、コンタクトにしてさ。新しい自分になろうって思ったりして!

 

  ――チャン、私ね。貴方みたいに自分に自信はないけどさ。それでも

Lobotomy coopの社員として……立派に 使命を果たせたら

 

 

 「畜生っ 畜生っっ!! なにが立派に使命を果たすだよ゛っっ!!!

てめぇは、そんな事思わなくても十分に立派だったろうがっ!」

 

 斧が目の下へと走る。顔を反らせるが、完全に躱せはせず、目頭から血が走る。

 

血の涙を流しながら、チャンはユミと死の舞踊を公園で交わす。

 

 鮮血が滴る斧が空を切る 涙を帯びた剣が天へ幾度も向けられる。

懺悔の棍棒が 暗き森の哀歌がなす棍棒が女性の体を叩くスティックに変わる。

 

バーサーカーは 管理人は、それをただ鉄のように一切顔色を変える事なく見る。

目を反らす事はなく、ただこの無情で残酷で 一切の光なき光景を目に焼き付ける。

 

 処刑を執行する弾は翳せない。これを見届ける事が 自身の責務であり罰だ。

 

 そして、終わりはとうとう迎えた。骨と肉が完全に断たれる 木の枝が老朽化して

折れるような、あっさりとした断絶音と共にユミは地面に横たわった。

 

 段々と、深淵の縁に染まっていた顔色は人間の顔へ戻っていく。

 

 慟哭が響く。レイピアを投げ捨てて彼女に震える両腕で哀悼を表す職員へと

管理人も同僚も声をかける事は出来ない。

 

……そして。

 

 

             「――スラー…………?」

 

 完全に油断していた。

 

ザイードと呼ばれし最初のアサシンが消失し、そして剛腕を持ちしハサンが消えた

事で完全に、此処ら辺りの人払いの結界の効力が消えていた事を。

 

そして、遠坂 凛と彼女の仲が。最近では自分が原因で少々折り合い悪かった事。

 彼女の心を占める割合に、スラーの存在が傾いていた事を。

 

小柄な少女は、何時も通りの黒い髪 そして無機質とも思える透明な瞳を見た後

その普段とは異なる、凄惨と言う言葉で表現できるか分からないスーツの死体

それを取り囲む同僚らしき同じ制服の複数人。

 そして、とても綺麗で目を離せない 真っ赤な 深紅の靴を凝視した。

 

 「一体……これって……」

 

「コトネ」

 

 理解が追いつかない少女に、スラーは優しく声をかける。

顔を上げる少女は、何故 彼女がとても悲しそうで優しい微笑を向けるのかと

 どうして 子供が銃を撃つ真似をするような手つきを自分に向けるか訝しむ。

 

 スラー  そう唱えようと口を動かす。

 

 ごめん  そう彼女の唇が紡がれる。

 

 何で、謝るの? スラー

 

 スラーは、何も悪い事をしてないんでしょう? いま倒れてた人だって

スラーが何かした訳じゃないんでしょう? あの綺麗な靴は何処から来たの?

 

 スラー……どうして

 

 謝らないで

 

 私たちは 友達 だ か

 

 

 

 

 鎮静を成す、魔力の弾丸はコトネの額を貫いた。

公園の大地に、その体が預けられる前にスラーは彼女の体を支え抱きかかえる。

 

 「すまない」

 

 「すまない コトネ  ユミ」

 

 「私には この方法しか取れなかったんだ この方法しか最良と思えなかった」

 

 「既にO-04-08に支配された君を開放する手段は、物理的な鎮圧を除いて他にない。

他サーヴァントなら、もしかすれば生存か蘇生可能出来たかも知れない。

 だが、限りなくその可能性は無に等しく。それ等を模索する間に我々にも職員にも

この世界の住人にも限りなく多大な被害を及ぼす」

 

 「処刑弾を施せば、君を一瞬で楽にしてあげる事が出来た。だが目の前の

サーヴァントの戦闘能力を分析する為に、私が 我々が意図的にアブノーマリティに

支配下に置かれた職員がどれ程の力を発揮するか検証させたのは間違いない」

 

 「君に、全ての事情を説明できた筈だ。鎮静弾を放つ前に 私たちの事情を

説明すれば、荒唐無稽など思わず、君は絶対に信じてくれたのに……この日常が

壊れるのを恐れて 私は君を撃った」

 

 「すまない……すまないコトネ すまないユミ」

 

 彼女の、管理人の哀願を遮ったのは。死者に対し簡素ながら葬儀を済ませ

阿修羅の如き気配を覆うチャンが置いた手だ。

 

 「……これ以上、その娘を抱えているのを他の一般人が見れば軽く騒ぎになる。

ユミの死体は消えましたし、俺達も帰還します その前に一言だけ良いですね」

 

 「――しっかりしろ あんたは管理人だ。あんただけが頼りなんだ」

 

 「過ちを悔いる暇があるなら 最もより多き善の為に進んでくれ……っ」

 

 

  私は  管理者X  

 

このLobotomy coopの唯一の絶対権限の所有者。

 

 同期中...   同期完了

 

 

 「あぁ わかっている。わかっているとも」

 

 暗示と言う魔術が、この世界にはある。

 

それと同じように人の脳にアクセスを行い、短期記憶を消失させる技術も

この会社の中に所有されている。人の脳を弄るこの悪質なシステムに

関しては、もう数度もこの世界でやったが決して慣れる事はない。

 

 穏やかな寝顔の彼女の額を指で撫でる。

 

 安らかに眠ってくれ、何もなき日常だけを心の中に。

 

そう願いつつも、今日の出来事が変わるわけでない。

 ユミの死も、アブノーマリティの変質も、遂に遭遇したアサシンのクラスであろう

サーヴァントとの遭遇 敵対も、リセットは出来ないのだ。

 

 一人の職員が、不慮の死を迎えた。その墓標は誰も掘り起こす事のできない

地下深くへと眠る。そして、いずれ忘れ去られる。

 

 忘却は、消滅に似通っている。だが、私は例えこの惑星(ほし)が消えようとも

我々は覚えてなくてはいけない。決して、繰り返さない為に。

 

 

              「――本日の夜 鎮圧を決行する」

 

         

                「対象は アサシン」

 

            「アレ等が私たちを傷つけるならば……構わない」

 

            「見せてやろう 傷跡の記憶。を」

 

 

 

 

 

 




百貌のアサシン ザイード

本来の時空では、時臣のアーチャーに敗れ 聖杯戦争からアサシン
脱落の演出の為に散った。この世界線ではバーサーカーの
アブノーマリティを侮り、致死の反撃を喰らう。
 しかし、他の仲間と共に理由はいま現在不明ながらも
Lobotomy coopの中で復活を果たした。

 
アブノーマリティ達は、本来正規の手順を踏めば比較的暴走しない
存在ながらも、バーサーカーのクラスとして存在する為か
現存の情報以外の能力や異常行動が見られる。
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