それでも書いてしまったものは仕方ない。せめて読者の皆さんが読みやすいように書いていこうじゃないか。
カンピオーネ。それは神話の世界に存在する神々を殺逆せしめた人間を指す人類最高の称号。彼らは神々から簒奪した唯一無二の権能でもって神々、ひいては同類であるカンピオーネとの闘争に身を投じていく。
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激しい豪雨の中、都心から少し離れた墓地で、少年が手をあわせていた。年の頃は17,18くらいか。黒いスーツにフレームの細い銀縁眼鏡をかけているがそれが、これから面接に向かう学生のようなアンバランスさを醸し出している。
「・・・・・・」
あわせていた手をそっと解いて立ち上がる。雨足は早くなる一方で、それが同時にタイムリミットを示していた。
「そろそろ行くよ、叔父さん。また東京は荒れるだろうけれど叔父さんはそこで父さん達と高みの見物でもしててよ」
少年――蒼桐宗助――はどこか懐かしむように墓前に語り掛け、墓地をあとにした。
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時間は少し遡る。
「社長、正史編纂委員会の方からお電話です」
あまり綺麗とは言えない事務所に青年の声が響いた。
「ん。また甘粕さん?」
『社長』と呼ばれて返事をしたのは少年、蒼桐宗助。今年でまだ17歳と未成年だが一応、れっきとした一結社の一首領である。
「いえ、今回は彼の上司にあたる人物です」
一方、宗助を社長と呼んだ人の好さそうな顔をした青年は御手洗槐。今年で27歳になる元密教の破戒僧。そろそろ将来の相手を探し始めた方がいいんじゃ・・・と他の社員に言われたり言われなかったりする青年(?)である。ちなみに課長。
「もしもし、お電話変わりました。こちら人材派遣会社〈リマイン〉代表取締役の蒼桐宗助です」
返ってきたのは男女区別が着き難いほどに中性的な声だった。
『こんばんわ。正史編纂委員会東京分室室長の沙耶宮馨です』
正史編纂委員会とは古くから日本の呪術業界を取り仕切ってきた日本最大規模の呪術結社である。そして沙耶宮家と云えば、その中でもトップに君臨する四家に連なる一族である。
「沙耶宮・・・それに室長ですか。そのような方が今日はどのような?」
『〈リマイン〉の実績を見越して日本の危機回避に尽力してほしい』
日本の危機とはまた大袈裟な・・・とは一概にも言えないか。なにせついこの間、東京に「まつろわぬアテナ」が降臨したばかりなのだから。・・・まあ、その時は〈リマイン〉も社員総出で裏方作業に徹していたのだが(宗助だけは他用で海外にいた)。ちなみに前回の事件は日本に唯一《・・・》存在するカンピオーネ、草薙護堂が撃退した。
(また神様?それともどこぞのカンピオーネでも来日してきたのかな?)
どちらにしても日本にとっては迷惑極まりない。件の草薙護堂と戦ったというイタリアの『剣の王』サルバトーレ・ドニは療養中と聞いているのでおそらく無いだろうとしても、バルカン半島を根城にする現存最古の魔王、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバンや中国の魔術結社〈五嶽聖教〉の教主である羅濠教主、何をしているのかまったくもって謎なアイーシャ夫人、他にもイギリス〈王立工廠〉の総帥アレクサンドル・ガスコインや『ロサンゼルスの守護聖人』ジョン・プルートー・スミスも何かしらの理由があれば来日するだろう(可能性は低いが)。
「・・・・・・何がありました?」
『ヴォバン侯爵が来日しました』
・・・最悪だ。ヴォバン侯爵と言えば常に闘争に飢えていることで有名なカンピオーネだ。彼の欲求不満で廃都と化した都市は数知れない。そんな人物が日本に来日するとは、なるほど確かに日本の危機かもしれない。
「今はどういった状況ですか?」
『それはこちらの依頼を受けてくれるということですか?』
「内容によりけりです。魔王を相手取れと言われたらこちらが全滅しかねませんからね」
『流石にそんなことは言いませんよ。目には目を歯には歯を魔王には魔王を、ヴォバン侯爵は草薙護堂さんに相手をしてもらいます』
確かに毎日暇を持て余しているらしいヴォバン侯爵には効果的な策である。
が、しかしだ。
「それは彼が戦うことを承諾することが前提の話でしょう。聞くところによれば彼は平和主義を謳っているとか」
『それについてはおそらく問題無いでしょう。これについては依頼内容に関わってくるので先に内容を話します。今回の依頼はある媛巫女の護衛です』
「護衛、媛巫女の・・・?」
『はい、その媛巫女こそがヴォバン侯爵の目的だそうで』
ヴォバン侯爵、媛巫女。この二つのキーワードに宗助は心当たりがあった。
「【まつろわぬ神招来の儀式】・・・!」
【まつろわぬ神招来の儀式】とは4年前、ヴォバン侯爵が主催した儀式のことで内容は「世界中から召集した30名弱の優秀な巫女を使って人為的に「まつろわぬ神」を降臨させる」というとんでもないものだ。だが事実、儀式事態は成功。しかし結果は巫女の三分の二が精神に重大な障害を残し、降臨した「まつろわぬジークフリート」はヴォバン侯爵ではなくサバトーレに倒される始末だ。
『・・・おそらくは。ここで先ほどの話に戻りますがその狙われている媛巫女が草薙さんの学友、なおかつ先日のアテナ戦でも色々あったようで、向こうからの印象は悪くないようでして。その上草薙さんは情には厚い方のようですから』
「そうですか・・・・・・。わかりました、その依頼受けましょう。しかしそのかわり三つ条件があります」
『・・・何でしょう』
「条件は派遣する人材と護衛する場所、護衛する上での手段です。この三つについての自由権を許可していただきたい」
『・・・わかりました。ではすぐにそちらに向かいますので』
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そして話しは冒頭に戻る。
宗助が事務所に帰ってすぐに迎えが来た。車から降りてきたのは4人。運転席から降りてきたのはいつも通りヨレヨレのスーツを着た男性、甘粕冬馬。助手席から降りてきた平均よりも身長が高めの少年、どことなく一般人と離れた雰囲気を感じる、おそらく彼が草薙護堂なのだろう。そして後部座席から降りてきた金髪と茶髪の二人の少女。金髪の見るからに異国人な彼女は〈グリニッジ賢人議会〉のレポートにあった草薙護堂の愛人、エリカ・ブランデッリ。見た目十代半ばだが、この年ですでに大騎士の階級にいるこの世代ではトップクラスの天才魔術師である。そして後ろに立っている見るからにおしとやかそうな巫女服を纏った茶髪の少女が、今回の護衛対象である万理谷裕理なのだろう。
「はじめまして、人材派遣会社〈リマイン〉代表取締役の蒼桐宗助です。よろしくおねがいします。あなたが草薙護堂さん?」
「あ、ああ。はじめまして、草薙護堂です、蒼桐、さん?」
宗助が代表取締役と聞いて驚いたのだろう、護堂は少し戸惑いながらも挨拶を返した。
「あはは、敬語じゃなくてもいいよ。年はたいして変わらないんだから」
「じゃあ、蒼桐、でいいのか?なら俺も敬語じゃなくてもいいよ。それより今はあまり時間が無いから手短にしたいんだが」
「その通りよ。だからここは、早く裕理を護る〈リマイン〉と侯爵を倒す私達とで別れた方がいいわ」
護堂の言葉をエリカがつなげる。宗助を見る目が険しいのは今この状況の他にも、〈リマイン〉がこの場において信頼できるのかを危惧しているからなのだろう。
「そうですね。ですが、最初から二手に別れてしまうとこちら側にヴォバン侯爵が来てしまう可能性があるので何処か別の場所に移動した後、ヴォバン侯爵が現れてから別行動を取る、それでいかがでしょう?」
「・・・確かに一理あるかもしれないけれどそれは侯爵が現れてからでもあなた達が逃げ切れるのが前提よ。はたしてそれは可能なのかしら?」
エリカの疑問ももっともだ。人間を眼中にいれないまつろわぬ神から逃亡することすらが奇跡だと言うのに、人間、魔術師を意識しているカンピオーネから逃亡するというのは初めから仕組まれたギャンブルをするようなものだろう。もちろん仕組んだのは向こう側で仕組まれたのはこちら側だ。
「はい。場所に指定はありますが、可能です」
しかし宗助はそれを何の気負いもなく可能だと言ってのけた。
「ここから車で約10分程進んだところに小学校があります。そこなら逃亡に必要な条件は揃っていいます。それにあそこの広さなら多少派手に暴れても大丈夫でしょう」
この時間なら人もあまりいないでしょうからね、と最後に宗助は付け足した。
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車を走らせること約5分、ヴォバン侯爵が提示したらしい30分がたっていた。
「なあ・・・」
「どうしたの?護堂君」
「これはちょっと窮屈すぎないか?」
「そう申されましてもこの車は元々4人乗り用ですからねぇ」
現在の位置順は、運転席に甘粕、助手席に宗助、後部座席に護堂、エリカ、裕理となっている。後ろの三人が窮屈なのも仕方ないだろう。
「悪いけどもう少し我慢していてくれるかな。あと5分もすれば・・・・・・」
「どうした?」
突然黙った宗助に護堂達が訝しむ。しかし宗助の目線はバックミラーに向けられたまま。
「んー、思ったよりも早かったですねー」
同じくバックミラーを覗いた甘粕はうっすらと冷や汗をかいていた。
「後ろよ護堂!」
二人が視たモノにいち早く気が付いたエリカが護堂の肩を引く。そして振り向いた護堂の視界には、
「あれは・・・狼、なのか?やけにデカいな」
大きな灰色の影が道路を疾走していた。見た目は狼だがサイズがどう見ても異常だった。馬と見まがうほどに巨躯なのだ。しかも徐々に車との差が縮まってきている。
「・・・甘粕さん、後ろの狼は僕が足止めしますから少し急いでください」
「おい!足止めって何をする気だよ!」
「決まってるじゃないか。ここから射ち落とすのさ!」
言うや否や、宗助は助手席のドアを開けて車体の枠を掴み、屋根に飛び乗る。
「さーて、魔王様も見ていることだし、しっかり仕事しないとね」
立ち上がった彼の手にはいつのまにか大きな弓が握られていた。そして腰にもこれまた何処からとりだしたのか矢筒が装備されている。
無言で矢をつがえ、見るからに強そうな弦をキリキリと引いてゆく。
バシュッ
と、子気味の良い音を立てて矢は一直線に狼の群れに向かい、ット、と小さい音を立て狼の額に命中する。しかしそれで終わりではない。なんと、命中した矢はまだまだ飛べるぞとばかりに狼の額を破って直進。そのまま後列に続いていた狼三匹の額を打ち破り、四匹目の狼の額でやっと活動を停止した。
「なんだ、今の。魔術を使ったのか?」
これには都合3柱の神々と戦ってきた護堂も驚いた。
「いいえ、魔術を使った形跡は無いわ。おそらくあの弓、もしくは矢の方に貫通の術式が込められているのよ。だからあれは使う時に呪力を流し込むだけで使えるのよ」
そう確かにエリカの言った通りこの矢には社員の一人に貫通の術式を組み込んでもらったものだ。しかしそれだけではない。この弓はカンピオーネである宗助が権能を用いて作り出した云わば即席の神具なのだ。
しかし、
「うーん。これじゃあ中々数が減らないなぁ」
そう、いくら一撃で四匹減らせたとしてもだ、相手は数十匹。しかも段々と増えている。これではジリ貧である。
「よし、ならこうしよう」
なので作戦を変えることにする。
新しい矢を構え、射る。今度は少し奥へ、前列の狼達を2列ほど飛び越えるように射る。落下地点にいた狼に命中する。
ボンッ
と、一昔前のゲームの爆弾のような音を発して矢が弾けた。最初に命中した一匹はもちろんのこと、その爆発にまきこまれて計十匹程の狼が吹き飛んだ。
「おお・・・、これは思ってた以上に強力だな」
それからはさながら爆撃のように矢が雨霰と降り注ぎ、狼達は遂に一匹も車に到達することはなく、一行は小学校に到着した。
・・・・・・なんか我ながら新しい展開の始め方なんじゃないかと思ってたり。
そういえばヴォバン侯爵の《ソドムの瞳》って結局何処の神様から簒奪した権能なんでしょうかね?割と気になる今日この頃。