この作品にお気に入りを付けてくださった方、ありごとうございます。これから毎週こんなかんじのペースで続けて行こうと思いますので、何卒よろしくお願いします。
狼達を蹴散らしながら一行は宗助が指定した小学校に到着した。しかしここで少し問題が起きた。
ここに来て裕理がやはり自分が投降すると言い出したのだ。顔つきを見るかぎりそれは責任感からか。元々生真面目で責任感が強いことは彼女の長所であるが、今回においてそれは短所となってしまう。舞台が整い今まさに役者が壇上に上がろうとしているところに監督が待ったをかけているのと同じだ。
しかし裕理の選択自体は間違ってはいない。むしろ最善の選択だ。もしこのまま護堂とヴォバン侯爵が激突すればいくら開けた場所といえど確実に被害が出るだろう。しかし裕理が投降すれば被害は裕理一人で済むのだ。
「それは言っちゃ駄目だよ万理谷さん」
しかしそれをだれよりも早く否定したのは護堂でもエリカでもなく、宗助だった。
「しかし蒼桐さん。このまま草薙さんとヴォバン侯爵が戦えば必ず周囲に大きな被害が出ます!でも私一人が「犠牲になればそれでいい?」・・・ッ、そうです。私がヴォバン侯爵の下へ行けばそれで済む話しの筈です!」
「うん、確かに君の言う通りだ。それがベストだ。それが多分一番美しい終わり方だ。はっきり言ってこの戦いに意味があるのかって言われたら微妙なところだよ。でもさ万理谷さん、君は聖人君子になりたいの?違うんじゃないかな。君はきっと自分の責任に耐え切れないんだ」
「・・・それは、私が逃げていると?」
「まさか、むしろ君は立ち向かっていると言ってもいいだろうさ。なにせあの泣く子も黙るカンピオーネ相手に自分の意見を通そうとしているんだから」
おどけた様に言う宗助に裕理は今そのことに気づいたかのように顔を背けた。
「まあ、とにかく君の言っていること自体は正しいんだ。でもそれはこの場においては適切ではないんだ」
「正しくも適切ではない・・・」
「そう。まず思い出してみなよ。なんで護堂君が戦うのかをさ」
「・・・・・・」
背けていた顔を上げて裕理は護堂の顔に視線を合わせた。二人の目線が合う。
「・・・俺はあまり頭とか良くないから理屈とかはよく分からない。けれど君は俺を助けてくれた友達で、これからひどい目にあうんだと思う。だったら、そんなの見捨てるわけにはいかないだろ?――これは俺の我儘なんだよ」
言いながら、護堂は手を差し伸べた。あとはこの手を裕理が取ればいい。
「これで分かったんじゃないかな。彼は君のために、誰でもない君だけのために戦うんだ。それなのに君はまだここで正しいだけの道を進む気かな?」
「俺はあのじいさんから君を守れればそれで満足なんだ。それだけでいいんだ。なあ、頼むよ、万理谷」
どうかこの手を取ってくれ。
「さあ、ここまで言わせたんだ、あとは君がどうしたいかだ」
まだ少し迷いを見せる裕理に宗助がにこやかに後押しをかける。
「・・・・・・まったく、仕方のない方ですね。普段はまじめのことを言っているのにこういう時はいい加減なんですから。蒼桐さんもです。このようなことを言う人には見えないのに」
あきれたように言う裕理に性分だからねーと宗助は笑って返した。
「ですから、私ももうあなた達を説得しようなんてバカなのことはいたしません」
辛辣にも聞こえるが彼女の顔はとても穏やかだった。
その時だった。
ゴオオオォォと、風が唸りを上げた。降りしきる雨が顔に当たって鬱陶しい。彼が来たのだろう。サーシャ・デヤンスタール・ヴォバンが。
「待たせたな小僧。私に押しつぶされる覚悟はできているか」
風が吹き荒れ、雷鳴が轟く中でも、ヴォバン侯爵の知性を感じさせる声はここにいる全員に届いた。
「ほう、なにやら先程の会合の場にはいなかった輩が紛れているな。一応訊いておこう。貴様は何者だ?」
「お初にお目にかかります。この極東の地にて魔術結社〈リマイン〉の首領を務めております、蒼桐宗助と申します。今夜は噂に名高い魔王、ヴォバン侯爵と七人目の魔王、草薙護堂様が決闘をなさると聞いて一役買いに参上した所存にございます。ああ、もちろん決闘の邪魔をするつもりは特にありませんので、こちらはただのエキストラ、とでもお考えください」
「ふん、そうか。まあいい」
ヴォバン侯爵の問いに宗助は恭しく腰を折って答えた。いっそ慇懃無礼ともとれるがヴォバン侯爵は大して気に留めなかった。もう興味は無いとばかりに宗助から視線を外し、護堂に顔を向けなおす。それを見て宗助は人知れず笑みを浮かべた。そして社員の一人に念話を飛ばした。
「それでは私どもは一旦退場いたしましょう。後はお二人が心赴くままに決闘に興じられてください」
その言葉と共に呪力が迸り、裕理が
こうして、宗助と裕理はまんまと二人の魔王から逃走してみせたのだ。
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呪力を感じ取った瞬間、裕理は屋内に居た。見覚えの無い部屋だ。少し乱雑とした事務所のような部屋。そこの応接間のようなところに裕理はいた。
「此処は、いったい・・・」
「ん。あー、よかった。ちゃんと成功した。まったく、ウチの社長もいきなり無茶を言ってくれるよなー。はいアンタ、これで頭拭いときな」
「ぃっ!?」
真横からの突然の声に裕理は思わず声を上げてしまい、慌てて口をふさいだ。声をかけてきたのは長い金髪を後ろで一つに束ねた妙齢の女性だった。
「なぁんだよ。別に取って喰ったりはしないよ」
「あ、あの」
「ん?ああ、そうだ自己紹介がまだだった。悪い悪い。あたしはサリー。サリー・ウィルソン。よろしく」
サリーと名乗った女性は裕理に白いタオルを手渡した。
「ありがとうございます。万理谷裕理です」
裕理もタオルを受け取り自己紹介をする。
「聞いてるよ。あの侯爵様に目付けられるなんて、アンタも運が無いねぇ。あ、タバコ吸っても平気?」
「はい、構いませんが・・・」
どうも、と言って彼女はそのまま換気扇のしたでタバコを吸い始めてしまった。
「・・・・・・・・・」
沈黙が痛い。
「・・・あの」
沈黙に耐え切れず、裕理が口を開いた。
「ん?」
吸い終わったタバコを消しながらサリーが振り返る。というかもう吸い終わったのか。なんとなく彼女がヘビースモーカーだとうことがうかがえる。
「何故私は此処に?それと此処はいったい何処でしょうか?」
「此処は〈リマイン〉の事務所。そしてアンタがここにいるのは事前に社長があたしに合図をしたら此処に連れてくるように命令したから。Dou you understood?」
簡潔な説明の最後はとても流暢な英語で締めくくられた。そしてこれで言うことは終わりとばかりにサリーはまたタバコを吸い始めた。たった三文で会話が終わってしまった。別に裕理は話したがりというわけではないが、流石に今後このまま無言で過ごすというのは気まずい。というわけでまたもや裕理から話題を振ることにした。キャラではないがやはり気まずすぎる。
「こちらは人材派遣会社と聞きましたが具体的にはどのようなことをなさっているのでしょうか」
「んー、ウチはあまり裏も表もなくやってるから実際のところはほとんど何でも屋だよ。おーそうだ」
何か思い出したかのように吸い終わったタバコを消しながら懐を探り出すサリー。まったく一日にいったい何本吸っているのか問いただしたくなるほど早い吸い終わりだ。
「はいこれ。ウチの名刺」
差し出されたのはとくに呪力が籠もっているわけでもないただの名刺だった。名刺には
【 人材派遣会社〈リマイン〉 副社長 サリー・ウィルソン 】
とあった。サリーは副社長らしい。そして下には、
【 迷える猫探しから荒ぶる神獣退治まで、相談事は〈リマイン〉まで 】
幅が広いにも程がある。というより俄かに信じがたい。神獣とは文字通り神の獣。まつろわぬ神やカンピオーネの足元には及ばないにしても、人類にとっては十分すぎる脅威である。それを退治できると聞けば疑ってしまうのもしかたのないことだろう。確かに例外は存在する。例えば、エリカ・ブランデッリが所属する〈赤銅黒十字〉の現総帥パオロ・ブランデッリや〈百合の都〉最高の騎士聖ラファエロあたりか。それ程の者達でも必ずしも勝てるというわけではない、それが神獣である。
「あー、疑ってるね。まあそれが普通の反応だよ。流石にウチも全員が全員神獣の相手をできるわけじゃないよ。できるのはあたしと御手洗、そして社長の三人。あと三人社員はいるけどアイツらには流石に荷が重いかな」
腕は悪くないんだけどね、と3本目のタバコに火をつけるサリー。
「流石に吸い過ぎなのでは・・・?お身体にもあまりよろしくないかと・・・」
これには裕理も苦言を呈した。
「大丈夫大丈夫。これ、ニコチン入ってないから。これは体内の呪力の毒素を分解してくれる裏じゃ結構一般的なものだよ。ま、あたしは元々ヘビースモーカーだけどね、今は禁煙中。さっきかなりの呪力を使ったからいつもより多めに吸ってるってわけ。ただ煙たくなるからこうして換気扇の下で吸ってるんだよ」
言いつつ煙を吹かすサリー。どれくらいが適量なのか裕理にはわからないがもうかなりのハイペースで吸っているところから察するに言葉通りかなりの呪力を消費したのだろう。そういえば裕理はどうやって自分が此処に連れてこられたのかを聞いていなかった。
「あれだよ、アンタを連れてきた術式は俗に言う瞬間移動ってやつだ」
瞬間移動。
マンガやアニメ、フィクションでは時々出てくる能力だ。効果は知っての通り、人や物を一瞬で移動させる能力だ。だがそれを魔術で再現するとなるととてつもない時間、コスト、呪力が必要となってくる。時間と呪力は術師を増やせば減らすことも可能だがコストは減らせない。そして〈リマイン〉が今回の仕事を引き受けたのは精々一時間程前のこと。たったそれだけの時間で人一人を瞬間移動させられるだけの呪物の種類、人材が〈リマイン〉には揃っているということになる。あくまで聞いた限りではあるが、それをサリー一人で行ったということ。サリーの力量がとてつもないものだと嫌でもわかってしまう。これなら神獣を相手取れると言われてもうなずけるかもしれない。そしてその上に立つ宗助の実力がいったいどれほどのものなのか。
「瞬間移動と一口に言ってもあたしがやったのは霊脈から霊脈への転移なんだけどね。アンタらがいた小学校とこの事務所は霊脈の上に建っているんだよ。だから比較的短時間で術の用意ができたってわけ。社長の目的は第一にアンタをあそこまで安全に送ることだからね。第二の目的は追っての錯乱」
「それでは蒼桐さんが!」
裕理が悲鳴のような声を上げる。いくら神獣と渡り合えるとは言っても宗助を追っているであろう相手は死人と言えど元はそれぞれがそれぞれ一流の騎士や魔術師達、それにあの魔狼だ。いくらなんでも多勢に無勢。そう思うのは仕方ないだろう。
「いや、大丈夫でしょう。なんてたってあの社長、あたしら五人が束になっても太刀打ちできないような奴だし」
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「ックシュン!あー、これは誰かうわさしているな」
一方、宗助はサリーの言った通り今回登場していない(御手洗含む)社員三人が張り巡らした人払いの結界によって無人となった東京の一角を走り回っていた。後ろには貪る群狼によって呼び出された魔狼の他にもヴォバン侯爵のもう一つの権能である死せる従僕の檻によって召喚されたかつてヴォバン侯爵によって殺され、強制的に隷属させられた勇者達のなれの果てが追ってきている。これらに追い回されるのは想像するだけでも恐ろしいことだろう。なにせ片や今にもこちらを食い殺さんとする獰猛な狼、片や文字通り目の死んでいる歴戦の猛者達。片方だけでもそこいらの魔術師にとってはその場で命を投げ出すだろう。だが宗助はカンピオーネだ。そこいらの魔術師とは一線を画する存在だ。はっきり言って時折後ろから飛来してくる魔術や矢も振り返ることなく対処可能であるし、権能を使えば後ろの軍勢をただの烏合の衆として蹴散らすことだってわけないのである。しかしそうするわけにもいかない。権能を使う、馬鹿げた呪力を使う等をしてしまえば自分がカンピオーネであることが世間にばれてしまう。面倒ではあるがそれは困る。もちろん、いずれはばれてしまうことだとは理解している。だが、やはりできる限りは正体がばれないようにするのが自分のためであり、社員達のためである。
「でもやっぱりこの力のセーブにもそろそろ限界かもしれないなぁ」
後ろの軍勢を『召喚』の魔術で取り出した投槍で牽制しながら宗助はひとりごちた。もうすでに4年だ。自分が神殺しになってからもう4年。今までよく隠してこれたと我ながら思う。それにそろそろ潮時だとも。まぁそれでもまだ宗助自身には正体を明かすつもりは毛頭ないのだが。
〈リマイン〉の社員達については全員の名前が作中に登場した後に活動報告等でプロフィールを載せたいと思います。
それではまた来週。誤字訂正、感想もお願いします。