風雨に打たれる中、宗助は思考に耽っていた。
今でも時々、思い出す。4年前のこと。
4年間。はたして長いのか短いのかわからないが、とにかく4年間。まあ色々あった。両親を早くに亡くした僕は母方の叔父さんに引き取られた。確かもう少しで14歳になるという頃、その叔父さんの仕事の関係で訪れたギリシャの地で降臨したまつろわぬへパイストスを殺して神殺しとなった。神殺しとなって1年くらいたった頃、叔父さんが亡くなった。病死だった。医者によればガンだったそうだ。そんな素振りは一切見せなかったけれど、叔父さんは死んでしまった。祖父母もおらず叔父さんも独身だったため、僕は15歳にして天涯孤独となってしまった。それが原因で学費が払えなくなって通っていた高校は自主退学。それから半年間、組織のしがらみが嫌だった僕は神殺しだとバレない様にバイトをしながら食い扶持を稼いだ。バイトをする魔王、なんか聞いたことのあるフレーズだ。それはいいとして。そんな時、借りていたアパートにサリーさんと御手洗さんが来た。叔父さんの血縁者として、書類上だけでも社長になってほしいとのことだった。もちろん魔術に係わって自分が神殺しだとバレたくなかった僕は最初断ろうとしたのだが、御手洗さんに言いくるめられてあれよあれよという間に社長の座に納まってしまった。今はそれで良かったと思っているがあの時は憤りさえ感じていた。でもそれから権能の掌握から始め、呪術を覚え、自分だけで依頼をこなしたり、新しい社員をスカウトしたり。時には社員総出でまつろわぬ神と戦うようなことだってあった。そうやってみんなと触れ合っていく中で段々と憤りも感じなくなって、信頼も得られるようになって、自分が社長なんだって自覚を持つようになると同時に、自分がみんなの前に立たなくてはならないという責任感も生まれた。だからこそ、できる限り自分がカンピオーネだとバレるわけにはいかない。確かに世間にカンピオーネだと知られれば僕自身はもちろん、〈リマイン〉も(裏の)社会的地位を得られるだろう。しかし、それは様々な組織の思惑があって得られる地位だ。仕事だって民間のものを除けば神獣やまつろわぬ神相手のものがほとんどになってしまうかもしれない。それではカンピオーネである僕はともかく、あくまで
駄目だ、それは駄目だ。そんなことは許さない。この僕が許さない。本当は今回の依頼だって受けたくはなかった。はっきり言って僕としては見ず知らずの媛巫女一人よりも断然、みんなの方が優先度は上なのだ。もちろん話しを聞けば気の毒だと思うし同情もするだろう。さっきあんな風に説得しておきながらこんなこと言うのはおかしいことだろうけど、さっきの言葉が嘘というわけではないけれど、本心はそうだ。だから断るつもりだった。しかし、カンピオーネ同士が戦うとならば話しは別だ。カンピオーネの権能は能力がどうであれ、必ず周囲に影響が出る。そんな存在が目と鼻の先で戦えばこちらに被害が及ぶには必然。ならばと、今回の依頼を引き受けた。だがこの戦い、別に護堂君が戦いで『勝つ』必要は無い。ゲームのルールは夜明けまで万理谷さんを守り抜くこと。だから勝つ必要は無い。せめて負けさえしなければ引き分けでも構わない。まぁそうは言ってもカンピオーネである以上、両者は全力で相手を潰しにかかるだろうし、個人的にも護堂君が侯爵の鼻っ柱を折ってくれたほうが気分がいいのだけれど。それはともかく、護堂君に負けてもらっては困る。護堂君が勝てば、話しのわかる彼なら万理谷さんが守れて万々歳だろうが、侯爵が勝ってしまった場合、テンション上がりまくって「興が乗った」とか言って東京を吹き飛ばすような暴挙をしでかすかもわからない。知的な印象を受ける彼の風貌だが中身はただの災厄の化身だ。そしてそれが許されてしまうのが神殺し、カンピオーネだ。日本では
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宗助が自らの決意を再確認していた頃、〈リマイン〉の事務所がある三階建てビルの屋上に赤い傘をさした黒い艶のある髪をショートカットにした少女が立っていた。少女はなにかに集中するようにジッと目を瞑っている。少女の名前は藤咲凛。道教の術を専門に使う呪術師である。
目を瞑っているだけだった彼女の口から言葉が発せられた。
「太上老君 普在萬芳 道夢普應 三界之内 六合之内 順之者吉 逆之者兇 勅命一到 雷霆行 弟子有難 幸願汝偕 逢凶化吉 化殃殆為祥 急速急来応願」
紡がれるのは老君神呪と呼ばれる大陸の最高神格である太上老君に祈願することであらゆる魔術を中和・霧散させる術式である。しかし、凛はこの老君神呪に独自のアレンジを加えることによって、魔術の中和・霧散から魔術の干渉能力低下に変化させた。それを可能とする彼女の才能とビルの建ち位置が霊脈の上、という特徴が重なることで、ヴォバン侯爵の魔狼や死せる従僕達の探索から裕理を守っているのだ。
「・・・まったくもう。宗助君も無茶を言うわ。カンピオーネの探索から身を隠せだなんて。私一人ならともかく、ビル丸ごとひとつ隠すのがどれだけ大変だと思ってるのかしら」
ぶつぶつと小言の多い彼女だが、神獣と渡り合える程ではないにしても防御力に関しては〈リマイン〉でも屈指の力をみせる実力者である。しかし会社の中ではアルバイト
扱いなので立ち位置は低い。
「終わったー?身体冷えるからそろそろ戻ろうよー」
術式のチェックをしていた凛の背後から声がかかった。だがここには人間は彼女一人しかいない。
「今術式に綻びがないか見てるんだからちょっと待ってなさい」
「綻びのないモノなんて存在しないんだからそんなことしてもあまり意味は無いと思うんだけどねぇ」
猫だ。黄色い首輪をつけた白猫がしゃべっていた。
「そんなこと言ったって葵さん、一応見直しておかないと不安になるじゃない」
葵と呼ばれた白猫は大きく伸びをして答えた。
「不安になるくらいなら最初からやらなきゃいいじゃない」
それは言っちゃだめだろう・・・。
「・・・元も子もないこと言うわね。・・・まぁいいわ。どうせいつも自分の身体をとっかえひっかえしているような葵さんにはわからないことよ」
チェックが終わったのか、踵を返した凛はフン、と鼻を鳴らして一人足早に中に戻ってしまった。
「まだまだ子供だね。いや、私も十分若いけどさ」
薄く笑いながら、凛を追って葵も屋上を後にした。
公塚葵。毎日出社する幽霊社員。趣味は動物の身体を借りて生活すること。
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もう一度視点は宗助に戻る。
いまだに宗助は追ってを撒けないでないでいた。彼が思っていた以上に魔狼も死人達も優秀だったようだ。しかしだいぶむこうの頭数も減ってきたように思える。
「・・・鬼ごっこもやっと終盤かな」
地を大きく蹴って跳躍。弓の弦を引き絞り、高度が最大まで上がったあたりで撃つ。死人相手では撃墜されるので目標は狼達。使った矢は初めに使った物よりも大きい爆発を起こして狼達をけしさった。
「さーて、もう一頑張り」
地に降り立ち、双剣を構える。眼前には数世紀前の甲冑を纏った騎士達、後ろにはすでに詠唱を始めている魔術師達。いずれも歴戦の猛者だ、負ける気はしないにしても手は抜けない。
先頭の騎士が大剣を振り下ろす。それを受け止めるようなことはせずに大剣の腹に左の剣を当てて軌道を逸らす。前傾姿勢になった敵の右側に回り込み、首を刎ねる。敵が呪力の塊となって消える前に奥に思い切り蹴り飛ばす。詠唱をしていた魔術師の一人に当たり転倒する。しかし他の魔術師の詠唱が終了し、宗助に6つの火球が殺到する。足元に呪力を込めて小規模の爆発と共に跳躍。魔術師達を飛び越え、着地と同時に飛びかかる。が、後方に待ち構えていた騎士達に阻まれた。仕方なく応戦するが、また詠唱を始めた魔術師達を見て宗助は小さく舌打ちした。死人である彼らだが、ある程度の連携ができる分、射撃だけで倒せる狼達よりも掃討にかかる時間も労力も多くなる。
「仕方ない。あまり使ったことはないんだけれど」
双剣を捨て、新たに両手に呼び出したのは二挺の銃。MP5と呼ばれるサブマシンガンだ。サブマシンガンの中ではそこそこスタンダードな銃なので大体の人は知っているだろう。それを両手で構えて再び跳躍。左手は着地点の騎士達、右手は真下の魔術師達に向け、フルオートで引き金を引いた。ガガガガッと連続して響く音。それに混じって金属と金属が当たって弾ける音、そしてなにか柔らかなものを貫く音がが聴こえてくる。騎士達は自らの得物で魔術師達は障壁を張って防御しようとする。盾で弾く、もしくは剣で弾く騎士達の幾人かは難を逃れたが、魔術師達は違った。銃弾が障壁を破ってしまうのだ。原因は矢と同じく銃弾で、この銃弾にも呪術的細工がしてある。騎士達には通用しなかったようにこれは魔術にしか効果を発揮できないが、効果は見ての通り典型的な魔術師に対してはかなり強力な武器になる。
「毎度毎度ウチの社員はいい仕事するよ。まぁ、性格は少しアレだけど」
細工をした社員を思い出して苦笑する宗助だったが、すぐに顔を引き締める。全弾撃ち尽くして魔術師達は呪力の塊となって消えたがまだ騎士達が残っている。弾切れになったMP5を放り棄て、着地する。そうなると騎士達のど真ん中に着地した宗助は必然的に包囲される形になる。普通なら危機を感じるところだが宗助は全くそうんなことは思わず、案外減らせてラッキーなどと考えていた。
「それじゃ、最終ラウンドってことで」
無手のまま構えない宗助に業を煮やしたのか、三人の騎士達が斬りかかる。前、左右から振り下ろされる刃。後ろにはおそらく回避した宗助を仕留めようと他の騎士が刃を向けて待機していることだろう。
「―――よっと」
右の刃は右手で、左の刃は左手で。左右の剣の腹を外側から叩き内側に押し込んでクロスさせ、前方から迫る刃に当てる。宗助から見てちょうど*のような形になる。
「フッ!」
一瞬の膠着。左腕に力を籠め、三つの刃を押しやる。引っ張られた騎士の脇腹を蹴って距離をとり、懐から取り出したナイフを逆手に握り後方から突き出された槍の起動を逸らす。振り返る遠心力で後方回し蹴り。甲冑を纏い見るからに重量のある騎士が身体を浮かせて吹き飛ぶ。
「次はこちらから行こうか!」
白兵戦では常に受け身からの反撃だった宗助もやっと攻めに転じた。
ナイフを握り直し、前方の騎士に高速で肉薄する。リーチの短さを生かして近距離から振られたナイフが騎士の肘裏をとらえ、そのまま切り落とした。身体の一部を無くしたことによってバランスを崩した騎士の首を刎ねる。身体がほつれた騎士を一瞥し、また違う騎士に狙いを定める。斧を携えた騎士を標的にした宗助は相手が斧を振り上げる前にナイフを投擲。フルフェイスの兜に開けられた敵を見るためのわずかな穴。つまり眼球にナイフを突き刺した。刃が見えなくなるまで深々と刺された騎士は為す術もなくその場で活動を停止した。
そこから事は一方的に進んだ。神速すら見極めることが可能な騎士達だったが、時間を操作する神速と違い、ただ素早いだけの宗助の動きは捉え難く、遂に手傷一つ負わすこと叶わずヴォバン侯爵の元へと還っていった。
「・・・つかれたー。肉体的にはともかく、精神的に疲れた」
ナイフを懐にしまい、戦闘の名残を眺める宗助の顔は少しだけ、忌々し気に歪んでいた。先程まで容赦なく魔術師達を射殺し、騎士達の首を刎ねていた宗助だが、殺しに慣れているわけでも、ましてや愉しんでいるわけでもないのだ。
「・・・はぁ。落ち込んでないでさっさと撤収だ撤収」
悲痛な感情を振り払うように踵を返し、宗助は事務所に向かった。
今回の話しを書いていて思ったこと、やっぱ私戦闘描写下手だ、あと宗助君独白ながっ!
次こそは一週間以内に投稿します。あ、あとヴォバン侯爵vs〈リマイン〉(裏方だけどね!)はもう少し続きます。それではまた。