はい、こちら人材派遣会社〈リマイン〉です   作:しゃろむん

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 なんとか間に合った!なんか場面切り替えが多いですが気にせず行きましょう。


第四話 『イエーイ!』

 事務所に戻る途中、宗助は一つの雑居ビルの屋上にエリカともうひとり、銀髪の少女の姿を捉えた。おそらく彼女は『剣の妖精』の異名を持つ〈青銅黒十字〉所属の大騎士リリアナ・クラニチャールだろう。クラニチャール家はヴォバン侯爵の信奉者ということなので間違いないだろう。それに今代の『紅き悪魔』であるエリカに同年代で対抗できるのは彼女ただ一人だとの噂だ。

 その二人が戦っていた。お互いの剣をぶつけ合って。

 

「ふむ。彼女はブランデッリさんに相手してもらうとして、僕は向こうの無粋な騎士の相手をするとしようかな」

 

 二人に迫る4人の騎士達の影があった。ビルからビルに伝って二人に迫る。

 弓矢を再び召喚。二人を囲うように散らばりはじめる騎士達に牽制のために一射撃ちこむ。と同時に振り向いた騎士に素早く連射、こちらに注意を引かせる。今ので二人の大騎士も宗助の存在には気付いたようだが、そのまま決闘を続行した。

 大きく跳んで宗助に迫る騎士達。その落下地点に立ち、左手にナイフ、右手に槍を持ち、投擲の体勢で構える。着地の直前、騎士達に向けてほぼ真上に槍を投げつける。しかしやはりと言うか、槍は剣で弾かれ、暗い空の中に消えていった。

 

「流石に無理だよねぇ。まあ今ので一騎でも減らせるなんて甘いことは考えてないけどさ」

 

 ナイフを逆手に持ち直し走る。今までの騎士よりもあきらかに軽装な騎士に迫る。他の三騎よりはいくらか身軽なようだが、判断力等が低下している死人の状態では体を覆う部分が少なくなり裏目に出てしまっている。

 袈裟掛けに振り下ろされた剣を回避。手首を切り落とし、心臓にナイフを突き立て、引き裂く。呪力となって消えた騎士の後ろから槍が突き出される。手段としては悪くないのだが、生憎と、来ると分かっている(・・・・・・・・・)攻撃に驚く宗助ではない。突き出された槍を掴みとり、斬り離す。斬り離した槍の先端で逆に相手の喉元に突き刺す。残り二騎。微妙にタイミングをズラして斬りかかってくる。一方の剣をナイフで弾きもう一方は回避する。回避した方の騎士の頭部を掴み膝をぶち込む。ゴッという鈍い音と共に兜ごと頭を粉砕した。ここで一旦大きく距離を取る。位置は先程とほとんど同じ位置。そしてあろうことか宗助はナイフをスーツに仕舞った。当然、騎士は恰好の獲物として宗助に襲い掛かる。だが宗助は動かない。剣が振り上げられ、

 

  ドンッ!

 

 騎士は活動を停止し、呪力の塊となった。残されたのは一本の槍。先程宗助が投げた槍だった。もうお分かりだろう、さっきの音は槍が地面に突き刺さった音。つまり、槍を投げたあの時、厳密には牽制のために矢を射ったあの段階から槍が降ってきたこの瞬間まで、すべて宗助の計算だったのだ。軽装の騎士の後ろから槍が突き出されたのも、三騎目を倒したところで距離を取ったのも、宗助が計算の下、誘導されたものだったのだ。

 

「うんうん。何事も思い通りにいくと気分がいいね。やったことでイーブンだけど」

 

 雨で濡れた髪をかき上げ屋上を見やる。二人は互いの得物を下ろしていた。どうやら決闘は次回に持ち越しになったようで、何やら話し込んでいた。というか、リリアナがエリカに弄ばれているように宗助には見えた。

 

「・・・一声かけていこうかな?」

 

 このまま事務所に戻るか二人の大騎士に声をかけてから事務所に戻るか。

 

「よし、いこう」

 

 屋上に向かって地を蹴る。

 片や『紅き悪魔』の名を継いだ大騎士エリカ・ブランデッリ。今回は協力関係にある。そして片やそのエリカに肩を並べる『剣の妖精』の異名を持つ大騎士リリアナ・クラニチャール。そして宗助は魔術結社の首領。互いに顔を合わせておいて損は無いだろう。これがきっかけで今後依頼があくるようになればいいなー、等と何気に色々打算を込めて、宗助は屋上に向かった。

 

 

 

 

 

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    屋上

 

 宗助が着いた頃には二人の話しは終わったようだ。

「お疲れ様ですブランデッリさん、はじめましてリリアナ・クラニチャールさん。此処、日本で魔術結社〈リマイン〉の首領を務めています、蒼桐宗助です。以後お見知りおきを」

 

「〈リマイン〉・・・?あまり聞かない名前だな」

 

「悲しいことに国外からはあまり依頼が来ないものでして。これ名刺です。ブランデッリさんにも、どうぞ」

 

「あら、どうもありがとう」

 

 サリーが裕理に渡したものと同じ名刺を二人に渡す。名刺には

 

【 人材派遣会社〈リマイン〉  代表取締役 蒼桐宗助 】

 

 とあった。そして下にはもちろん

 

【 迷える猫探しから荒ぶる神獣退治まで、相談事は〈リマイン〉まで 】

 

 という、魔術関係者からすれば信じがたいキャッチフレーズ。それをニコニコと営業スマイル全開で手渡す宗助。どう考えても詐欺にしか見えない。

 

「・・・これは本当なのかしら?私にはどうも誇張しているように見えるのだけれど」

 

「同感だ。神獣を相手取れる程の達人がそう居るわけがない」

 

「よく言われます。ですが嘘は言っていませんよ。ウチは僕を含めても社員たった六人の小規模結社ですが、内三人は神獣の相手が可能です」

 

 神獣相手の依頼なんて二件しか来たことありませんけどね、と最後に付け足した。

 

「とまあ、そんな感じです。ところで、お二人はこれから護堂君の処へ?」

 

「そうだけど・・・さっきの話し、聞いてたの?」

 

「さっきの話し?」

 

「ま、まままさか、聞いていたのか!?あのノートのことを!」

 

「ノート?何のことでしょう。僕はただ、クラニチャールさんが噂通りの方ならそうなるんじゃないかな、と思っただけなんですが」

 

「し、しまった!」

 

「リリィ、焦りは禁物よ。そんなんじゃ私以外でもあのこと、知っている人がいるかもしれないわよ?」

 

「んん?」

 

 頭上に無数のハテナを浮かべて首を傾げる宗助だったが、詮索はしないでおいた。幸か不幸か、もし詮索していれば『ノート』の露見をおそれたリリアナの名剣、イル・マエストロがその光る刀身を煌めかせていたことだろう。実際のところはエリカによってリリアナのちょっと恥ずかしい趣味が露見していたのだが。

 

 

 閑話休題

 

 

「それじゃあ僕は一旦事務所に戻ります。何かありましたら、名刺の裏に事務所の電話番号が書いてありますので、そちらにお願いします。携帯、持ってますよね?」

 

「ええ、持ってるわ」

 

「ならよかった。それでは」

 

 軽い問答。宗助はビルの縁を蹴り、夜に紛れていった。

 

 

 

 

 

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「ねえリリィ、彼のこと、どう思う?」

 

 宗助の姿が完全に見えなくなった頃、エリカは隣にいるリリアナに問うた。

 

「さっきの神獣云々のことか。・・・信じがたいことに変わりはない、が」

 

「ないけど、何?」

 

「一考の価値はあるかもしれない」

 

「私もそう思っていたところよ。さっきの騎士達を相手にした時の手際、それに此処に来る前から彼は相当数の追ってが掛かっていたはずよ。神獣の件はともかくとしてもかなりの手練れということには変わりないわね」

 

「仮にも、若くして魔術結社の首領を務めているだけあると言うべきか。それともただ腕に覚えがあるだけのホラ吹きか。調べてみないことには分からんな」

 

「そうね。でもそれはあとにしましょう。今は二人の王のゲームの方が優先よ」

 

「分かっている。余計な時間を喰ってしまったからな。急ぐとしよう」

 

 神妙な顔つきで頷くエリカだったが、すぐに気を取り直してリリアナと共に仕えるべき主の下へと急いだ。

 

 

 

 

 

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 二人の大騎士の疑問など露知らず、宗助はやっと事務所に戻ってきた。

 

「ただいまー」

 

 社員の誰かが用意していてくれたのだろう。事務所のドアノブにひっかけてあったタオルで頭を拭きながら宗助は事務所に入った。

 

「おかえりー、社長遅かったねぇ」

 

「思ったより追ってがひつこくてさー。でも収穫もあったから一応イーブンかな」

 

「すみません蒼桐さん。私だけ避難してしまって・・・」

 

 出迎えたのはサリーと裕理だった。裕理の場合は出迎えと少し違うが。

 

「いいっていいって、万理谷さん。これが今回の僕たちの仕事なんだから。それよりサリーさんに変なことされなかった?」

 

「?いえ、特には何も」

 

「そっか。なら良かった。サリーさんは時々めんどくさがって仕事を誰かに押し付けることがあるからね。客人にまでそんなことをしていたら目もあてられないよ。ね、サリーさん?」

 

「流石にあたしもそこまでひどくはないよ。で?収穫って何があったのさ」

 

 実際に被害にあったことがあるのか、少々厭味っぽく言う宗助だったが、サリーはどこ吹く風という風に受け流し、収穫の中身について催促した。

 

「なんと!〈赤銅黒十字〉と〈青銅黒十字〉の大騎士に名刺を渡せた上に顔を憶えられたんだ!」

 

「なんだって!?それじゃあ――」

 

 何やら二人のテンションが上がりだした。

 

「そう!この一件で活躍すればもしかしたら欧州の結社からも依頼が来るようになるかもしれない!」

 

「これで赤字経営から抜け出せる!!」

 

『イエーイ!』

 

 最後にはハイタッチまで決めてしまった。裕理は完全に空気である。

 

「なにをバカやってるのよ。ほら、裕理ちゃんが困ってるじゃないの」

 

 制服姿でマグカップを片手に現れたのはいまだ登場していなかった最後の社員、高杉弥生。裕理と違って少し濃く長い茶髪が特徴の錬金術師だ。

 

『NO赤字YES黒字!』

 

 しかし、弥生の言葉などなんのその。意味の分からないことを叫んではしゃぎ続ける社長と副社長。大丈夫だろうかこの会社。

 

「はあ・・・」

 

 ため息とともにマグカップを置き、そして

 

  ゴッ!!ゴッ!!

 

 無言で机の上にあったやたらブ厚い本を持ち上げ、その角で宗助の頭を打ち抜いた。二回も。

 

「いったあぁ!?てかなんで二回!?しかも僕だけ!」

 

 あまりの激痛に蹲る宗助だったが、流石はカンピオーネ、すぐに立ち上がって抗議した。

 

「というか今呪力で筋力強化しただろ!」

 

 筋力強化だけでカンピオーネが蹲るほどのダメージを負わせるとは、恐ろしい、なるべく逆らわないようにしよう、とサリーは裕理の後ろに退避しながら思っていた。

 

「ごめんなさいね、うるさい社長と副社長で」

 

 頭を押さえて叫ぶ宗助を無視して弥生はいたって笑顔で裕理に話しかけた。

 

「それほどでは。あの・・・貴女は?」

 

「私は高杉弥生。ここの社員で、錬金術が専門ね。でも他にも幾らかできるから幅は効くわよ」

 

 制服を着ていることから弥生が学生だということは疑いようもないが、裕理には弥生が成人した女性に見えた。

 

「無視?僕無視されてる?」

 

「もう、少し静かにして頂戴。あとサリーさん」

 

「ギクッ」

 

「今逃げてもあとで説教よ」

 

「勘弁「しない」・・・がっくし」

 

「サリーさんも年考えなさいよ。今年で幾つだっけ?」

 

「・・・エート、タシカ29「ダウト」そんな!社長まで!?」

 

「いや、だって・・・ねぇ?」

 

 サリー・ウィルソン。御年80を超える世界でも屈指の魔女である。一流の魔術師は呪力で自らの肉体年齢を若返らされる。それは女性の方が顕著だ。有名所ではイタリアはサルデーニャ島のルクレチア・ゾラあたりだろうか、それでも60歳だ。80歳など聞いたこともない。

 

「80歳!?」

 

「あぁー、バレた・・・」

 

 あまりの真実に今まで二、三言しかしゃべっていない空気だった裕理が声を上げた。

 

「・・・まぁ色々あってさ。此処にはなんだかんだで9年くらいいるんだよ」

 

「ウチの社員には以外とビックリな体験をしてる人がいるからね。僕は慣れたよ」

 

(あまり慣れたいとは思いませんが・・・)

 

 思ったが口には出さなかった。

 

「んじゃあ、僕は着替えてくるから何か聞きたいことがあったら弥生さんに聞いてみて」

 

 いまだにずぶ濡れ状態だった宗助はそう言い残して階段を登っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから5分もたたない内に

 

「社長!」

 

 三階の部屋の片隅で着替えていた宗助に階下から声ががかかった。弥生だ。

 

「どうしたの?」

 

「霊視よ。侯爵の権能について裕理ちゃんに霊視が降りたの」

 

「すぐ行く!」

 

 一旦部屋に戻り、ネクタイを締め、ナイフを装備してから、急いで宗助は下へ駆け降りた。

 




 実はテンション高いサリーさん。というかぜんぜん進んでない・・・



 ヒロインについて、活動報告の方でアンケートを取ることにしたのでよろしければそちらもよろしくお願いします。

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