根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?   作:みずがめ

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第102話 護衛はメイドの仕事に含まれます

「いやはや、これほど泥まみれにされるなどとは思っていませんでしたな」

「す、すみません……」

 

 執事服を泥まみれにされたってのに、快活に笑ってくれるおじいちゃん執事。さっきまで戦ってたのが嘘みたいだ。

 いや、戦ってはいたけれど相手は執事である。いくら名高い冒険者だったとしても、今は聖女ルーナ様の専属執事である。

 殺気があったとはいえ、やりようはあったのではと後悔する。魔力の流れを見せたくなかったのがほとんどではあるけれど、もっと綺麗に決着つけられたんじゃないかって思う。

 

「ふふ、クラウドも身を清めたいでしょう。今日はもうお休みということにしましょう。たまにはゆっくりしてください」

 

 ルーナ様のご厚意にクラウドさんが慌てた。わたしも慌てた。わたしがクラウドさんを汚してしまったせいだ。

 

「いえいえ、ルーナ様から離れるわけには……」

「今日の護衛はエルさんにお願いします。クラウドも彼女の実力がわかったでしょう?」

 

 唐突なフリに目を丸くしてしまう。

 しかし戦い方を選ばなかったせいでクラウドさんに迷惑をかけてしまった。断れるわけがない。

 

「わたしは大丈夫、です」

 

 胸を叩いて「任せろ!」と言えるほど自信はないけれど、迷惑をかけたクラウドさんのためにもやらなければと思って返事した。

 

「決まりですね。ではエルさん。今日一日私の護衛をよろしくお願いします」

「あ、はい」

 

 流されるまま聖女様の護衛をすることが決まってしまった。わたしでいいのだろうか……。

 

 

  ※ ※ ※

 

 

 ルーナ様について行くまま王都へとやってきた。

 

「あの、護衛ってわたし一人ですか?」

「そうですよ。エルさん一人いれば充分でしょう?」

「買いかぶらないでください」

 

 不安しかない……。わたしは自分が一番信用できないですよ。

 いやいや、そんなこと言って聖女様は国の最重要人物だ。きっとわたしの知らない陰の者とかがいるに違いない。わたしの索敵魔法に引っ掛からないところを考えれば、やはり実力者なんだろうね。

 一応、わたしも気合を入れて護衛をがんばろう。クラウドさんの代わりとしても、下手な仕事はできない。

 銀髪美少女と黒髪メイドという組み合わせは王都でも目立っていた。そもそも聖女様が目立たないわけないんだよなぁ。

 

「皆さんこんにちはー!」

 

 聖女スマイルでのあいさつ。民は笑顔で手を振り返す。

 もっと隠れながらの行動になると思っていたのに。ここまで堂々としていていいのかと心配になる。どこぞの将軍様ではないけど似たような立場じゃないのか。

 しかし、特段驚いている人はいないように見える。王都で顔見せする頻度は案外多いのかもしれない。

 

「目的地はどちらですか?」

 

 失礼な話だけど、ただブラブラ散歩しているようにしか見えない。もしくはあいさつ巡り。不安が先立って口から零れる。

 

「心配なさらずとも大丈夫。ちゃんと目的地はあります」

 

 ルーナ様はほんのちょっぴりのどや顔をお見せくださった。

 おかわいらしい態度。わたしは安心した。

 王都は白い建物ばかりだ。綺麗といえばそうなんだけど、どの建物も特徴がない。下手に動けば迷ってしまいそうだ。

 そんな中を迷いなく進むルーナ様。彼女を見失えばわたしが迷ってしまうかもしれない。自然と小走りになる。

 

「ごめんくださーい」

 

 ルーナ様は躊躇なく一つの建物に入っていく。相変わらず真っ白な建物ではあるが、入り口の上には看板があった。

 

「ま、待ってくださいっ」

 

 慌てて中へと入る。見失うはずもなく、すぐにルーナ様に追いついた。

 中には大勢の人。もっといえば荒くれ者の集団のたまり場だった。

 

「これはルーナ様……と、黒いのか?」

 

 中心でふんぞり返っているのはサイラスだった。いつもの黒い鎧だからよく目立っている。

 ルーナ様が訪れたのは冒険者ギルドだった。真っ白な建物の中に冒険者がいるのってなんだかシュールだ。

 

「サイラスさん、お待たせしました」

「いえ……。それより聖女様が冒険者ギルドなんかにいていいんですか? 俺達なら城にうかがってもよかったんですがね」

 

 どうやらルーナ様はサイラスに用事があるようだ。

 サイラスだけじゃなく、テュルティさんやブリキッドなど『漆黒の翼』のメンバーが勢ぞろいだ。聖女様との約束があったのなら、ハドリーを早く町まで送り届けて、なんて言えないか。

 

「それと……これは?」

 

 戸惑うサイラスから目を向けられる。ブリキッドは口を押さえて震えていた。顔が熱くなる。

 くっ、ハドリーの件はギルドを通じて依頼していたから、わたしがメイドになったことを彼らは知らない。

 言う必要もないと思ってたのに、こんな形で知られるのは恥ずかしい……。

 

「私の専属メイドです。いいでしょう」

 

 ルーナ様がかわいらしく胸を張る。暴露されたわたしは縮こまるしかない。

「そうですか」と言ったきり追及はされなかった。武士の情けか。この時ばかりは素直にサイラスに感謝した。

 

「それで、用件はなんですか?」

「あなた方のような凄腕冒険者に依頼するのは心苦しいのですが」

 

 ちっとも心苦しそうではない微笑みで本題を口にした。

 

「『漆黒の翼』の皆様方に、ある村の復興を手助けしてほしいのです」

 

 

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