根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?   作:みずがめ

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第24話 優しい先輩と怖い同級生

 訓練場に到着した。

 

 魔法の実技でよく使っている見慣れた場所だ。前世での学校のグラウンドみたいな感じ。

 違う部分を上げるとするなら訓練場全体を魔法結界で覆っているというところか。周りに被害を出すわけにはいかないからね。当然の防備手段だろう。

 見慣れないのは人の数だろうか。

 クラスで行われる授業とは違う。おそらく全校生徒が集まっているのだろう。訓練場をぐるりと取り囲んでいる。見慣れない人は上級生なんだろうな。

 

 うぅ~。緊張してきたなぁ。

 こんなところで緊張なんてしてたら本番はもっとやばいことになるだろう。心臓が持つかどうか。やっぱりわたしに学校の代表だなんて無理なのかも。小市民の心がひょっこりと出てきそうだ。

 

「エルさん。がんばってくださいましね」

「ありがとうコーデリアさん。がんばってくるよ」

 

 同じクラスとはいえわたしを応援してくれる人がいるとは。やっぱりコーデリアさんは良い子だなぁ。貧乏貴族にも優しい。今は別にそこまで貧乏じゃないけど。

 

「エルの実力なら絶対に大丈夫だ。あんまり気張りすぎないようにやってこい」

「うん。ありがとうホリンくん」

 

 ホリンくんも応援してくれる。友達想いのええ子ゃ。

 こんな良い人たちがわたしを応援してくれているのだ。無理なんて言ってる場合じゃない。

 緊張するのは意思が弱いからだ。強い気持ちを持って、絶対に代表になって期待に応えるのだ!

 

 とはいえ、どうやったらわたしの代表入りは決まるんだろ? 代表者八人抜きでもすればいいのかな。

 とか考えながら訓練場に突っ立っていると一人の男子生徒がわたしに近づいてきた。

 

「やあ、キミがエル・シエルで合っているかな?」

「は、はい。あなたは?」

 

 気さくに話しかけられたけど、よく見るまでもなく知らない人だった。

 水色の長髪で左目を隠している。背丈はホリンくんよりも高いだろうか。人の好さそうな笑みを浮かべており、柔らかい雰囲気をかもし出していた。

 

「私はシグルド・マーレ。三年だからキミの先輩だよ」

「す、すみません。先輩のこと知らなくて……」

「ははっ、気にしていないさ。こうやって顔を合わせるのは初めてなのだからね」

 

 外見の印象通り優しそうな人だ。ちょっと安心する。

 

「えっと……シグルド先輩。わたしに何か?」

「ふむ、シグルド先輩か。後輩も悪くないものだね」

「は、はあ」

「おっと、すまないねエルくん。私は今回対校戦の代表者に選ばれたんだ。同じ代表者となるかもしれないからね。仲間として今のうちにあいさつでもと思ったのさ」

「え? でもシグルド先輩が代表者でしたらこれからわたしと戦うことになるんじゃないですか?」

「ははっ。今回私の出番はないよ。キミが相手にするのは一人だけだよ」

「あ、そうなんですか」

 

 てっきり代表者八人全員と戦わなきゃいけないと思ってたよ。まあそうだとしたら代表者に選ばれてるホリンくんがわたしを応援するわけないか。

 

「聞くところによれば、エルくんは魔法の才に溢れる優秀な生徒だと聞いたのだが」

「あ、あはは……」

 

 先輩の前で調子乗った発言なんてできないっすよ。ごまかし笑いでかわす。

 

「……今回キミが代表者に漏れてしまったのはアルバートの悪しき固定観念によるところが大きいだろう。だが、全校生徒の前でその力を見せつければ、学校側としても認めざるを得ないだろう。がんばってくれたまえよ」

 

 ぽんと肩を叩かれる。わたしは頭を下げて「ありがとうございます」と言った。

 ふぅ。先輩相手ってのは緊張するな。精神年齢でいえば前世がある分わたしの方が年上のはずなんだけど。

 まあ激励もしてもらえたし。がんばらないとね。

 

「おい」

 

 冷たい声に、体がびくりと跳ねた。

 

「何やってんだ」

 

 見ればホリンくんだった。いつも以上に目が怖い。今日先生に怒っていた時よりも怖い。

 わ、わたし何か怒られることしたかな?

 いくら考えてもわからなかった。なんでホリンくん怒ってるの? 怒ってるんだよね? これで怒ってないとか言われても信じないよ。

 それぐらいホリンくんは怒りの感情をにじみ出していた。これはわたしじゃなくてもわかるレベル。

 ずんずんと近づいてくるホリンくん。今日の先生の恐怖がわかります。本当に怖いです!

 ビクビクしているわたしに向かってホリンくんが手を伸ばしてくる。反射的に目をつむって体を硬直させてしまった。

 

「……ん?」

 

 いつまで経っても叩かれたりする感覚がない。気になって目を開いた。

 

「ホリン。痛いじゃないか」

 

 目を開いた先には、シグルド先輩の手首を掴んでいるホリンくんの姿があった。

 ど、どゆこと? これは一体どういう状況なんでしょうか?

 わたしは目を白黒させることしかできない。いやだって、この状況をどうやって理解しろと?

 ホリンくんは怒りの表情のままシグルド先輩を睨んでいる。睨まれた先輩はといえば、涼やかな表情で後輩男子を見つめていた。

 シグルド先輩。ホリンくんに手首を掴まれているというのになんて余裕の態度なんだ。ホリンくんなんかあれ思いっきり力入れてるよね。実際どのくらいの握力かは知らないけれど、貴族にしてはたくましい男子に力いっぱい握られているのだ。本当は痛いんじゃないだろうか。

 止めた方がいいのかな? でもホリンくんが怖いし。ああもうっ。これ本日二度目の葛藤だよ!

 

「私はエルくんを激励していただけだよ。ホリンが腹を立てるようなことをした覚えはないのだが」

「それは俺の役目だ。お前には手も口も出す資格なんかねえんだよ」

「ほう?」

 

 シグルド先輩の片眉が上がった。髪で左側が見えないので片方しかわかんなかっただけだけど。

 

「エルくんはホリンの配下にでもなったのかな?」

「え、え?」

 

 いやいや配下ってなんだよ。意味がわからないよ。

 首をかしげるしかない。ないのだが、シグルド先輩の瞳は答えを出せと訴えてきている気がした。優しい目差しは変わらないのに、なんだかすごい圧迫感を感じてしまう。

 その圧迫感に負けてしまったかのように、自然と口を動かしていた。

 

「いえ、その……わたしはホリンくんの、友達です」

「ふむ。だ、そうだが?」

 

 シグルド先輩はホリンくんに向き直った。ホリンくんは険しい表情のままだ。

 

「まっ、いいだろう」

 

 どうやったのか、シグルド先輩はするりとホリンくんの手を振り払った。力いっぱい手首を握っていたと思ったのに、軽い動作でホリンくんの手から逃れていた。

 

「今回はあいさつだけだよ。ただ、キミのものでもないのに独占欲を出すなんて、男としては醜い」

「ッ!!」

「ま、待った!」

 

 ホリンくんがシグルド先輩に殴りかかるのでは。瞬時にそう思ってホリンくんを抱きしめて止める。

 それを見たシグルド先輩は怖がるでもなく、笑って見せた。

 

「ふふっ。良い友達だなホリン。それではエルくん。健闘を祈る」

「あ、はい」

 

 シグルド先輩が観客に紛れるまで、ホリンくんは睨み続けていた。わたしはそれまでずっと、彼をがっちり捕まえていたのだった。

 そうでもしなきゃ追いかけて殴りに行ってしまうかもと思ったのだ。なんでこんなにピリピリしてるのさ!?

 

「もういいから……離してくれ」

「あ、うん」

 

 ようやく力を抜くことができる。やれやれだ。

 誰がどう見たってホリンくんとシグルド先輩は何かただならない関係があるのだろう。

 とはいえ、それを聞けるかは別問題だ。ちょっと地雷に思えてならない。

 ただでさえブチ切れたと言っても過言じゃないってくらい怒っていたのだ。もし話を掘り返そうとするのなら、覚悟が必要なのかもしれない。

 

「えっと……」

 

 なんて声をかければいいのだろうか? まったく思いつかない。気の利いた言葉なんて出てこない。

 目の前であんなやり取りをされたのだ。正直気になる。どんな関係なのか聞いてみたい。

 でも、気軽に聞けるような様子じゃないだろう。それに野次馬みたいでなんか抵抗がある。

 いろいろ考えた結果、わたしからは聞かないことにした。

 もしかしたらホリンくんから言ってくれるのかもしれない。それを期待することにした。

 

「エル」

「は、はいっ」

 

 さ、さっそくか!? とっさに身構える。

 

「あいつ……シグルドには近づくな」

「は、はい?」

 

 どういうことだろうか?

 聞き返そうとした時には、ホリンくんは背を向けて歩いていた。

 その背中に疑問をぶつけたかったけれど、大きい背中から何も語らないという意思が見て取れた。

 ホリンくんが観客席に行くまで、わたしの口は開いてくれなかった。

 

 

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