根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?   作:みずがめ

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第31話 一回戦開始! (相手が)ガンガンいこうぜ

 薄暗い廊下を歩く。かつーんかつーんと足音がよく響く。

 わたしは知らないおじさんの後ろをついて行く。なーんてお菓子をもらった子供ではないので怪しいおじさんってわけじゃない。うん、そんなのわかってる。

 歩を進める度に落ち着いていた心臓がまたせっせと働くのがわかる。そろそろどっどっどって感じになってきた。

 くだらないことでも考えてなきゃ頭が真っ白になりそうだった。おおおお落ち着けわたし! 明鏡止水だ! 明鏡止水……ってなんだっけ……? うわぁっ!?

 なんか格闘家の人に殴られる図をイメージしてしまった。わたしの想像力はどうなってんだ!?

 

「ではここからはお一人でどうぞ。ご武運を」

「は、はい」

 

 知らない……じゃなくて役員のおじさんは一礼して下がっていく。

 気づけば目の前には通路の出口。ここから先に戦いのフィールドがあるのだ。

 一つ深呼吸。落ち着け落ち着けと念じる。

 

『エルちゃんなら心配なんていらないだろ。まあほどほどにがんばれよ』

 

 ……なぜかアルベルトさんのことを思い出してしまった。実は観にきてたりしないよね? フラグじゃないよね?

 でも、あの人ならわたしの不安なんて簡単に取り除いてくれるように思えた。

 

 うん。行こうか。

 わたしは歩みを再開させる。徐々に外の光がわたしを包む。

 

「わっ!?」

 

 わたしが姿を見せた瞬間、ものすごい歓声が空気を、体を震わせた。

 三六〇度人だかり。みんなわたしに注目してるんだって考えると心臓の鼓動が収まるわけがない。プロのスポーツ選手ってこんなんなのか?

 ふぅ、と一度息を吐く。今更そんなので緊張が抑えられるとは思わないけれど、まあやらないよりはマシだ。

 戦いのフィールドは円形でなかなか広い。ぐるりと壁に囲まれており、そこから上に観客席が並んでいた。……あんまり上を見ないようにしとこう。

 中央には審判らしき男と、それから三人の少年少女の姿があった。

 彼らがわたしとこの一回戦を争う相手だ。

 わたしは前に出る。彼らと同じ距離感を保つようにする。

 いよいよ始まるのか。観客もそれがわかっているようで、さらにボルテージを上げる。

 

「では、これで全員揃ったな」

 

 審判はダンディーな声で確認するように言った。それからコホンと咳ばらいを一つしてから宣言する。

 

「皆様静粛に! これから一回戦、第一試合を始めたいと思います!」

 

 よく通る声だ。いや、今のは音響魔法だろうか。マイクを使ったみたいに会場中にダンディーな声が響き渡る。

 アルバートで勉強した限りじゃあ音響魔法は使い手が少ないもののようだったけれど。さすがは国中が注目する対校戦ってとこか。魔石といいレア魔法にお目にかかれちゃうね。

 

「アルバート魔道学校からエル・シエル!」

「は、はいっ」

 

 ビシィッ! って感じに勢いよく審判の男に紹介された。思わず返事しちゃったけど観客に向けたものだったから返事しなくてよかったみたい。恥ずい……。

 ま、まあ盛り上がってるし、音響魔法でもなきゃわたしの声が観客席にまで聞こえたりはしないだろう。対戦相手の連中がちょっと笑ってる風に見えるのはわたしの勘違いだと信じたい。

 

「続きまして、ビラノフ魔道学校からノーマン・ライオット!」

 

 紹介されたのはビラノフからの男子生徒だ。長身で自信に満ち溢れているといった態度だ。腕なんか組んじゃってまあ。余裕しゃくしゃくってか。

 なんかわたしを見てふんっと鼻を鳴らす。なんか見下した態度。背が高いからそう見えるだけなのか。それとも家柄的に見下してるのかもしれない。無駄に貴族の間じゃあ有名だからなぁ。最下級的な意味で。

 

「次にカラスティア魔道学校からリリネット!」

 

 紹介されたカラスティアの女子生徒はさっきのビラノフの男子とは対照的に礼儀正しくお辞儀をした。好感が持てるね。

 たぶん平民なんだろうけれど、さっきの貴族よりもよっぽど礼儀がなっている。やっぱり家柄よりも人間性だよね。

 女子はわたしとこのリリネットって子だけだ。彼女の格好は動きやすそうで下はズボンだ。他二人の男子もローブや軽装だったりして動きやすそうである。

 わたしは制服だよ。しかもスカート。なんかこれから魔法戦ってのに我ながら舐めてんじゃないのかな。でもこれアルバートの代表者はみんな制服だから仕方ないのよね。

 わたしが服装を気にしている間に、審判が最後の紹介に入った。

 

「最後にデルフ魔道学校からガナーシュ!」

「はいはーい。どもどもー」

 

 デルフの男子生徒ガナーシュは観客に向かって手を振って応える。投げキッスまでやっちゃってる。ちなみに彼の顔面偏差値はホリンくんやシグルド先輩に比べるとけっこう下だ。あくまでわたしの見立てだけども。

 

「みんなもよろしくね。とくにエルちゃんとリリネットちゃん」

 

 ここできましたか軽薄キャラ。まあこういう相手の方がぶっ飛ばしやすいかな。

 リリネットは困ったような顔をする。そうだよなぁ、これから戦おうって相手にあんな態度取られても困るだけだよね。逆にわたしは吹っ切れるけど。

 

「それでは各選手は指定の位置まで下がるように」

 

 審判に促されわたし達は四方に離れる。魔法使いは距離が命ってとこがあるから開始位置はそれなりに遠い。

 いきなり接近戦にはならない位置。それでいて魔法の威力が強くなる位置。

 ポジショニングを確認すると、さらに離れた場所へと立った審判が頷く。

 

「それでは、我等が国が誇る魔道学校による魔法戦を始める!」

 

 三人の対戦相手が杖を構える。わたしも慌てて杖を構えた。

 

「始め!!」

 

 審判の宣言とともに、戦いの火ぶたが切って落とされた。

 三方向から別々の敵がいるのだ。最初に動けば集中砲火される恐れがあった。

 そう、これはバトルロイヤル。全員がそれぞれにとっての敵なのだ。場合によっては手を組むことだってできる。

 多対一の経験はあるけれど、こういったバトルロイヤル方式は初めてだ。

 全員わたしに敵意があるのなら先制攻撃するのが定石だけれど。この状況でそれをやると本当に三対一になってしまう可能性があった。

 まだ相手の実力が計れていない段階でそういう展開になるのは危険に思える。まずは様子見をしよう。

 なんてことを考えていると、ビラノフの代表者、ノーマン・ライオットが動いていた。

 

「炎よ集え、猛る灼熱の炎となりて、すべてを焼き尽くし――」

 

 おいおいおいおいおいーーっ!?

 わたしは盛大に焦った。

 だってあの詠唱文は火属性の上位魔法だったからだ。まともに喰らえば一発で人間を灰にしてしまうほどの威力を秘めている。

 それを開幕早々ぶっ放そうとしているのか。止めなきゃまずい!

 そう考えたのはわたしだけじゃなかったようだ。他の二人はすでに動き出していた。というかすでに詠唱が終わっていた。

 

「ファイアボール!」

「エアカッター!」

 

 リリネットは火の玉を放ち、ガナーシュは風の刃を放った。同時に放たれた魔法がノーマンを襲う!

 

「喰らい尽く――うわあぁぁぁぁっ!?」

 

 あっ、直撃した。

 もうちょっとで魔法が完成するってところでノーマンに魔法が降り注ぐ。回避も防御もできない。突っ立ったままじゃあまともに喰らうのは必然だった。

 ノーマンは悲鳴を上げて消えてしまった。どうやら魔障壁が破壊されて転移が働いたようだ。

 ……うん、まあ、そりゃそうか。

 上位魔法なんてまともに詠唱したら時間かかっちゃうからね。開幕で棒立ちの状態だったら詠唱文の短い下位魔法で集中砲火って形になっちゃうか。

 

 さて、さっそく一人減った。

 けれど、いきなりの上位魔法の使い手が現れたのだ。もしかしてわたしが想定していた以上に対校戦のレベルって高いのでは?

 そんな上位魔法の使い手であるノーマンをノーダメージで倒した二人。

 これは引き締めていかないといけない。わたしは杖を握る手に力を込めるのだった。

 

 

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