根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?   作:みずがめ

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第32話 バトルロイヤルの行方

 ノーマンが死んだ!

 ……死んではないか。やられたのは本当だけど。

 まさか上位魔法使用者が真っ先にやられるとは。タイミングが悪かったといえばそれまでだけど、それでもこの対校戦でのレベルの高さを感じずにはいられない。

 残るは三名。

 わたしとカラスティア魔道学校のリリネット、それからデルフ魔道学校のガナーシュだ。

 二人はさっきやられたノーマンのように棒立ちでの魔法詠唱はしないようだ。リリネットとガナーシュの方が実践向きだったということだろう。

 この二人をいっぺんに敵に回すのは得策ではない。

 上位魔法は避ける。下位魔法で牽制しながら様子見か。様子見ばっかだなわたし。

 頭の中で動きを決める。よし、動こうかというところでリリネットが先に動いた。

 彼女はバックステップをしながら詠唱する。何がくるのか予測できたので防御することにした。

 

「ファイアボール」

 

 火球のつぶてが飛んでくる。同じファイアボールでもノーマンを倒したものとは別物だ。

 さっきは大きな火の玉だった。今回のは小さくして数が増えている。ぱっと見でも十個以上はあった。

 それらがわたしとガナーシュに向けて降り注ぐ。これくらいの魔法ならアルバートの実技で慣れている。

 

「アースウォール」

 

 土壁を作って火球をやりすごす。一つ当たる度にけっこうな衝撃がくる。見た目よりも威力がありそうだった。

 なるほど。下位魔法とはいえバカにならない。その魔法は洗練されていた。

 ルヴァイン先輩の不安がよくわかった。正直に他の学校はアルバートよりも強い魔法を扱える者が多い。それは同じ魔法でも質の違いを示していた。

 

「それにしてもいつやむのさ?」

 

 リリネットのファイアボールが収まる気配がない。このままだと土壁が突破されてしまいそうだ。

 ガナーシュの動きも気になる。彼もファイアボールをやりすごそうと防御しているのか。それとも、考えたくはないけれどリリネットと組んでわたしを先に脱落させようとしているのか。土壁が邪魔で状況が把握できない。

 とはいえそろそろ土壁も壊されそうだ。次の防御を詠唱する。

 この状況だ。無詠唱でも問題ないとは思うが、できればギリギリまで隠しておきたい。これがあるなしで相手の対応も変わってくるだろうからだ。優勝を目指すのならここですべての手の内を見せるべきではない。

 

「清らかなる水よ。我を守りたまへ――ウォーターカーテン」

 

 ちょうどアースウォールが破壊されたところで入れ替わりに防御魔法を作り出す。

 ウォーターカーテンはさっきの土壁に比べると物理的に弱い。けれど炎が相手なら水属性は相性が良い。

 ファイアボールがウォーターカーテンに触れるだけで次々と消えていく。ここまで水属性は火属性に強いのか。やっぱり実践で使わなきゃすごさってのはわかんないもんだね。

 

「二重属性か。やるねぇ」

「ッ!?」

 

 ガナーシュがわたしに接近していた。並の速さじゃない。補助魔法でも使ってんのか!?

 まさかの同時攻撃。想定していた中じゃあ最悪の展開だ。

 ガナーシュはすでに詠唱を完成させていた。杖を向けられた瞬間、サイドステップする。

 

「エアカッター」

 

 風の刃が水の壁を切り裂いた。土壁に比べたら薄っぺらいから仕方ない。すぐに切り替える。

 ガナーシュとの距離は十メートルほどもない。魔法使いにとってはゼロ距離に相当するような距離だ。

 確実に魔法を当てにかかっている。この距離では直撃したら即魔障壁が破壊されてしまうだろう。

 それは相手も同じだ。

 

「ハイドロプレッシャー!」

 

 水圧を凝縮した水砲弾を放った。

 ウォーターカーテンを発動した時にはこの魔法を使えるようにしていたのだ。同じ属性だと魔法の流れがスムーズで助かる。それがあまり他属性を使えない人が多い原因の一つなのだろう。

 水圧で押しつぶさんと水の塊がガナーシュを襲う。

 

「うおっと!?あっぶねえ!」

「んなっ!?」

 

 ガナーシュは信じられない動きでわたしの魔法をかわした。人間っていうより獣みたいな動きだった。

 補助魔法の恩恵なのか。たぶん体のスピードだけじゃなく思考スピードも上がってる。じゃなきゃこの距離で反応なんかできっこない。人間の反応速度を超えてるだろ!

 やばい! ここでガナーシュを討ち取れなかったのは痛恨だ。

 視界の端でリリネットがさらなる魔法を放とうとしているのが見えた。

 防御する? いや距離を取るべきか? 刹那の間思考が巡る。

 わたしがリリネットへの警戒を高めた瞬間を狙ってか、ガナーシュの魔法がきた。

 

「吹き抜けたる風よ、荒れ狂え――ヴォルフ」

「え?」

 

 自身を中心に強風を起こす魔法だ。中位レベルでありながらその殺傷能力はそう高くない。

 これに風の刃でも仕込んでいればけっこう凶悪なんだけど、そういうのはなかった。

 少し飛ばされたけれどなんなく着地する。おかげで距離を取れたし、強風を受けたリリネットへの牽制にもなってくれた。

 わたしには得しかないような魔法だった。ガナーシュのミスか?

 

「ちっ。惜しいっ」

 

 と思ったのにガナーシュは悔し気だった。今の惜しいところあったか? むしろわたしにとっては助け以外何もなかったんだけど。

 もしかしてわたしが気づいていないだけでかなりピンチだったのか? だとしたらやばい。気づいていないピンチは対処しようがないぞ。

 

「壁がない今がチャンス! エルちゃん覚悟!」

「くっ」

 

 やっぱりわたしは何か見落としているのか? ガナーシュの動きは相変わらず速い。考えている暇なんてないぞ!

 ガナーシュはなおもわたしとの距離を縮めてくる。生半可な魔法じゃあ牽制にもならない。

 彼の足を止める必要がある。

 

「ウォーターボール」

 

 複数の水玉を作り出す。できるだけ多い方がいい。

 行く手を阻む水玉に向かってガナーシュは杖を振った。

 

「ウィンド!」

 

 ウォーターボールをふっ飛ばそうとする風。下位魔法だけどよっぽど魔力を込めたらしい。わたしまで飛ばされてしまいそうな風力だった。

 だけど、踏ん張ってみせる。ウォーターボールは全部弾けて水たまりを作る。いい感じに弾けてガナーシュも濡らした。

 これでいい。次なる魔法を詠唱する。

 

「くっ! 惜しい!」

 

 またもやガナーシュの悔しそうな声。そんなに? わたしはピンチなのか? 心配になってしまうじゃないか。

 でも関係ない。これでガナーシュの動きを止める。

 彼の動きさえ止めてしまえばリリネットから攻撃されたって怖くなくなる。いざとなれば盾にできる。もちろんガナーシュをだ。

 牽制でエアカッターをリリネットに向かって飛ばしておく。ガナーシュの魔法と思ってくれればもうけものだ。

 そして詠唱。できるだけ早口でがんばる。ちなみに噛んだりしたら一からやり直しである。魔法はシビアだ。

 

「――凍てつく氷となりて、氷結させん――アイスバーン」

 

 わたしの魔法で水たまりが一瞬にして凍結した。そこにいたガナーシュの足元も凍る。彼の服も濡れていたので体もほとんど凍ってしまった。

 アイスバーンは地面を凍らせる魔法だ。ぶっちゃけ地面以外でもいいんだけど今は省くことにする。

 先に水を振りまいておくことで瞬間的に凍結させられたのだ。アイスバーン単体では凍結させる前によけられてしまっていただろう。

 わたしに風が通っていたように、ダメージとみなされないレベルの魔法では十全に魔障壁は発動しないようだ。これが人と魔石との違いというべきか。融通が利いているのかいないのか微妙なところだ。

 

「くっ! なんのこれしきっ」

 

 脱出を試みているようだが無駄だ。がっちりと固まってしまって動けないはずだ。魔法で脱出しようとしたとしてもそれでは遅い。その前にわたしの魔法が彼を打ち抜くだろう。

 

「な、ならばっ。風よ集え、吹き飛ばせ――ウインド!」

「おっと。ウインド」

 

 まさか脱出にではなくこっちに攻撃してくるとは。同じ風魔法をぶつけたから問題はない。

 それでもなんて強風だ。あんな状況になってありったけの魔力を注いだのかもしれない。相殺したとはいえ防ぎきれなかった風が下から吹き上がる。

 

「お、おおっ!!」

 

 なんだ? ガナーシュが興奮気味にこっちを見ている。というか凝視してる?

 まさかなんらかの好機を見つけ出したのか? まずい。早く仕留めないと。

 

「シ、シエルさんっ!」

 

 ここでリリネットの声が響く。しまった! 隙を見せてしまったか。

 しかし、彼女の言葉はわたしの想像していたものとはだいぶ違っていたのだった。

 

「スカートがっ!」

「え?」

 

 咄嗟に意識が下に向く。スカートがふわりとめくり上がろうとしていた。

 

「わっわわっ!?」

 

 ばんっ! と音がしそうなくらい勢いよくスカートを押さえる。み、見えてないよね?

 公衆の面前でパンツ丸見えは勘弁である。こんな大勢の前でパンツ見せるなんて軽く死ねる。羞恥心的な意味で。

 キッ、と正面にいるガナーシュを見る。彼は心底残念そうな顔をしていた。

 

「くっそ~! なんて惜しい! あとちょっとでエルちゃんのパンツが見えたのに!」

 

 ついに口にしやがったよこの野郎!

 やたらとわたしに向かって風魔法を使っては惜しいとか言ってたのはスカートめくりしたかっただけってか!? 男子小学生かよ!!

 スカートを押さえたままじーっと睨む。はっと気づいたガナーシュが頭をかいた。

 

「でへっ☆」

「かわいくないわぁぁぁぁぁぁーーっ!!」

 

 渾身のハイドロプレッシャー! ガナーシュは水圧に押しつぶされて消えた。

 なんて奴だ。まさかこんな大事な試合でスカートめくりだなんて……。やられてみて初めてわかる恥ずかしさだよ! 前世での調子乗った男子小学生はなんてことしてたんだ! もちろんわたしはやったことないよっ。

 瞬間的な怒りで息が荒くなっている。ふーふーと獣のような息遣いだ。

 

「あの……だいじょうぶ?」

「あ、うん……。さっきは教えてくれてありがとね」

「ううん。さすがにあれはあの人が悪いから」

 

 女同士で友情が目覚めそうだ。原因がスケベ男ってのが納得いかないけれども。

 

「じゃあ、再開してもいい?」

「あ、そうだね」

 

 とはいえ、現在は戦いの最中(さなか)である。

 ここで仲良くおしゃべり、なんてことにはならない。今のわたし達はお互い倒さなければならない敵同士なのだから。

 

 ガナーシュが敗退したのでリリネットとの一騎打ちとなった。

 今のところはであるのだが、彼女の魔法は火属性の中位レベルといったところだ。他の魔法を持っていたとしてもそれ以上はないとみている。

 たぶん一対一なら負けないだろう。しかし、三人の中では一番実践向きに思えた。

 ノーマンのように棒立ちで魔法を行使しようとはしないし、ガナーシュのように考えなしのバカではない。

 ノーマン相手に先手を取っていたし。さっきもガナーシュがわたしに接近していた時もうまく隙をつこうと機をうかがっていたようだった。

 ただ冷静沈着ってだけじゃなく優しさを持っている。さっき声をかけてくれなかったら危なかった。それこそパンツ見られたせいでリタイアなんてこともあったかもしれない。ほんと想像するだけで恥ずかしくてたまらない。

 先ほどの借りがある。彼女とは正々堂々と戦いたい。それが戦っている者としての礼儀だろう。

 

「……」

 

 しばし睨み合う。口火を切ったのは、やはりというべきかリリネットだった。

 彼女は駆け出した。走りながら詠唱をしている。

 

「集いし炎よ、我の手に、敵を射抜く矢とならん――フレイムアロー」

 

 炎の矢が出現する。数は三本。

 フレイムアローはわかりやすいだろうが炎でできた矢を生み出す魔法である。

 見た目は普通の矢くらいの大きさと形をしている。違うところはそれが燃えているといったところか。文字通りの炎の矢なのだ。

 この魔法、大きさは大したことがないから下位魔法に思われがちなのだが、実は中位レベルの魔法だったりする。

 その理由としては、目標とした相手をどこまでも追いかける、追尾機能がついているからなのだ。

 その三本の矢が一斉に放たれた。

 ファイアボールよりも凝縮された炎だ。威力だってある。直撃だけはしちゃいけない。

 追尾されるのなら回避行動に意味はない。だったら受け止めるだけだ。

 

「ウォーターカーテン」

 

 自分の周囲に水の膜ができる。ファイアボールを防ぐぐらいには丈夫だ。けれどそれ以上の威力を持っているであろうフレイムアローはどうか?

 

「アースウォール」

 

 それから矢の進行方向に土壁を作った。

 この二重の壁なら受け止められるだろう。受け止め切った後に反撃だ!

 土壁に衝撃がくるのを待つ。

 

「……ん?」

 

 なかなか衝撃がこない? わたしは頭を上げる。

 すると上から炎の矢が迫っていることに気づいた。

 

「げっ!? 壁をよけてきた!?」

 

 そんなのありか!? 追尾があるのは知ってたけどこんなのは考えもしなかった。

 せっかく作った土壁がなんの役にも立たない。ウォーターカーテンだけで防げるかどうか。一気に不安が押し寄せる。

 一発目が被弾する。水の膜が蒸発して消えた。

 一発でダメになっちゃったよ!? 驚いている暇なんてない。残りの矢が襲いかかる。

 残りの矢が二本同時に迫る。それに向かってわたしは杖を向けた。

 

「ハイドロプレッシャー!」

 

 反撃用に作っていた激流を叩き込む。ぶつかり合って爆発する。

 

「うわぁっ! あっつ~!」

 どれほどの熱量があったのか。熱湯となって弾けている。急いで避難する。

 

「これで終わりです! ファイアストーム!」

 

 右後方からリリネットの声。いつの間にそんなところまで移動したのか。

 死角となっているところからの炎の嵐。この範囲魔法はかわせるものじゃあない。

 これだけの炎ではアースウォールもウォーターカーテンも意味をなさないだろう。万事休す……なんてまだ口にできない!

  わたしは無詠唱で巨大ゴーレムを生み出した。

 大きさは二十メートルくらいだろうか。人型をしたそれは、まっすぐリリネットへと走り出す。

 

「きゃ、きゃあああああーーっ!?」

 

 巨大な人型物体が自分に向かって走ってきたら悲鳴も上げたくなるか。ごめんよ、と心の中で謝罪する。

 ゴーレムはその身一つで炎の嵐をかき消した。とんでもない突破力である。

 それもそのはずこのゴーレムは上位魔法クラスなのだ。固定化に加えてあらゆる魔法を打ち砕くマジックブレイクの魔法までかけられている。

 進撃する巨大無機物はリリネットの前まで辿り着く。形にこだわってつけていた無機物の目が彼女を見下ろす。

 

「ひっ!」

 

 ちょっとかわいそうになってきたのでゴーレムの動きをゆっくりにする。

 完全に戦意喪失しているリリネットに、ゴーレムはデコピンをした。

 この体格差でデコピンといって通じるのか。かなり微妙だが、指先一つでノックアウトしたことには変わらない。

 リリネットの魔障壁が乾いた音を立てて破壊された。それと同時に彼女の姿が消え失せる。無事転移されたようだった。

 これで三人。ふぅと息を吐いてゴーレムを消した。

 そんなわたしの元へ審判が近寄ってきていた。いつの間に!? って驚くくらいぱっと審判の人が現れた。それほどに戦いに集中してたってことか。

 

「勝者、エル・シエル!!」

 

 審判が宣言してからワンテンポ遅れて会場中から歓声が巻き起こった。

 勝った。まずは一つ勝った!

 でも、できるだけ隠そうと思っていた無詠唱での魔法を使ってしまった。それほどにギリギリだったのだ。最後のは無詠唱でゴーレムを出していなければ負けていた。

 これは大変な戦いになるかもしれない。わたしはこれから先のことを思って戦々恐々としてしまうのであった。

 

 

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