根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?   作:みずがめ

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第40話 決勝戦開始! 初っ端から作戦実行

 朝起きて、ご飯を食べて軽いストレッチをした。

 体調は万全だ。昨日のような醜態をさらすことはないだろう。

 さて、決勝戦だ。

 こんな大舞台、前世だって経験したことがない。なんだか胸のドキドキが止まらないよ。

 でもそれは緊張での硬さとは違うんだと思う。武者震いって言うのかな。そんな風に思えるなんて、わたしも成長したってことなのかな。

 準備を整えて闘技場へと向かう。すでに大勢の人が集まっていた。みんな決勝戦を見に来たのだろう。

 このお祭り騒ぎも今日で最後か。そう思うとちょっと寂しい気分。

 本日は決勝戦の一試合だけなので、試合開始は正午からとなる。

 わたしはそれまで控室で休むことにした。仮眠用のベッドで横になる。

 早めにきたからか誰もいない。わいわいとした声が遠くから聞こえるだけだ。

 無駄な緊張はしないように。落ち着いて作戦通りにやるのだ。

 目をつむってイメージトレーニングを繰り返す。勝利者インタビューなんかも考えちゃったりして。インタビューはないか。

 こういう勝つイメージをすることも大事だって、前世のどっかでそういう本を読んだ覚えがある。まあそんなことまったく活かせられなかったんだけどね。それを今さら思い出す。

 

「おっ、早いんだな」

「ん、ホリンくん?」

 

 控室のドアが開く音で目を開く。上体を起こすとホリンくんがいた。

 

「ホリンくんこそ早いんだね。どうしたの?」

「ん、まあな。とくに用事はねえんだけどよ……」

 

 ホリンくんは頭をかきながら視線を上に向けて、ゆっくりとわたしへと戻した。

 

「……がんばれよ。それを今日一番にお前に言いたかったんだ」

 

 だからさ、そういうこと言うの反則だと思うんだ。顔がにやけちゃいそうになるから。

 わたしはベッドの上で体育座りをして顔を膝に埋める。これでなんとか顔を見られずにすむ。

 

「うん。任せてよ」

 

 これだけのやり取りでホリンくんのいろいろな想いをもらった気がした。

 ホリンくんだって最初は代表者になりたくてすごく努力していた。もちろん出場するのもそうだけど、勝ち上がりたかったはずだ。自分のがんばりを認めてほしかったはずだ。

 そういった想いを、きっとわたしに託してくれたのだ。

 いやはや、昨日のルヴァイン先輩もそうだけど、わたしをにやにやさせてくれる男子ばかりですなー。

 ……本当にがんばらなきゃね。

 それからホリンくんと静かに時がくるのを待った。

 沈黙って苦になるものばかりだと思っていたけど、心地の良い沈黙ってのがあることを知った。

 しばらくして先生や他の代表者が控室に集まってきた。みんなわたしを激励してくれた。

 ちょっとシグルド先輩とだけは気まずいのでスルーさせてもらった。先輩も同じなのかわたしと距離を取っているようだった。

 対校戦が終わったらあのことを返事しなくちゃいけないのかなぁ……。いやいや! 今はそんなこと考えてる場合じゃない。試合に集中せねば。

 そんなこんなしているうちに、ついに時間がきた。

 

「エル・シエル様。時間がきましたのでこちらへどうぞ」

「はい」

 

 いつも通りの案内のおじさんだ。これで見納めだと思うと寂しくなっちゃう。なんちゃって。

 よしよし、リラックスできてるみたい。

 

「では、行ってきます」

 

 そう言って控室を後にする。背中にかかる応援の声が心地良かった。

 もう慣れてしまった廊下。そして、これまた慣れてしまった戦いのフィールドが眼前に広がる。

 歓声がわっと巻き起こる。今まで以上の熱量を感じる。決勝戦ってのは本当にものすごい舞台なんだと肌で実感する。

 みんなわたしを見ているのか……。一回戦の時とは違う視線だ。その違いってのは期待があるってことなんだろう。

 こんなわたしが期待されてるのか。前世じゃあ無縁のことだったな。

 でも、今のわたしは誰かに期待されるほどの力を持っているのだ。

 それはこの対校戦で勝ち残ったことで証明されている。いらない謙遜はよそう。わたしは強い!

 だからディジーにも勝ってみせる。それがわたしに期待されていることなのだから。

 

「やあエル。この前いっしょに食事した時以来だね」

 

 わたしに遅れてディジーが姿を現した。とんがり帽子に黒いマント。ズボンを履いているのが妙に似合っている。それは彼女が女らしくないという意味ではない。よく見るとけっこう胸があるしね。

 ディジーの登場もすごい歓声で迎えられた。それに対して彼女に臆した様子は微塵もなかった。

 この舞台においても彼女はひょうひょうとした態度であった。まあガチガチに緊張しているような性格だったらこんなところまで勝ち上がってはいなかっただろう。

 

「そうだね。……ディジー、今日はよろしく」

「こちらこそ。本気で頼むよ。ボクも全力でやりたいからさ」

 

 まるで今までの戦いで全力を出していなかったかのような口ぶりだ。でも実際そうなのかもしれない。ディスペルを使ってほとんどそのパターンで勝っているのだ。まだ見せていない手があってもおかしくない。

 う、うーむ。ほどほどでお願いしたいなぁ。

 審判がわたし達の間に入る。

 

「二人とも準備は整っているか?」

 

 最終チェックだ。この覚悟を決める間は毎回ありがたかったな。

 

「はい」

「いつでもどうぞ」

 

 審判の男は頷いた。わたしとディジーはお互いの距離を広げ開始位置へとついた。

 

「それでは皆様静粛に! これより決勝戦を始めたいと思います!」

 

 審判の声が会場中に響いた。

 ついに始まる。杖を持つ。その手に必要以上の力が入らないように気をつける。

 

「アルバート魔道学校のエル・シエルとカラスティア魔道学校のディジーとの魔法戦を始める!!」

 

 わたしとディジーは構えをとった。とんがり帽子の下の目は涼し気だ。

 まずはその余裕から崩してやる!

 頭に思い描くのは昨晩立てた作戦だ。これはスピードが命。ディジーに考える暇を与えちゃダメだ。

 心臓のドキドキを軽い息遣いで落ち着ける。こういうのもすっかり慣れたもんだ。今なら人前でのスピーチも怖くないね。

 審判の目がわたしとディジーを交互に見る。ピリピリとした空気の中、ついに審判の手が振り下ろされた。

 

「始め!!」

 

 審判の開始宣言。その開始早々、わたしは無詠唱で石の弾丸を打ち放った。

 その数は三十ほど。すべてに固定化と回転を加えている。魔力の消費は大きくなるものの、これくらいなら全然余裕だ。

 

「――ディスペル」

 

 当然と言うべきか、ディジーは高速詠唱でわたしの魔法を解除していく。固定化がかかっているというのに、次々と石の弾丸が消えていく。

 だけど、間に合う速さじゃない!

 ディスペルで消しそこなったのは十ほど。充分な数だ。

 

「くっ」

 

  ディジーは消しきれなかった石の弾丸を跳躍してかわした。

 なんかすごいジャンプ力だったぞ。あの弾丸を体一つでよけるなんて。もしかして身体能力向上の魔法でも使ったか?

 だけど攻撃はやめない。休む間もなく石の弾丸を追加していく。

 わたしの作戦。それはディジーのディスペルが間に合わないほどの物量で攻めまくるという作戦だった。

 ぶっちゃけゴリ押しだ。作戦と呼べるようなものではないのかもしれない。

 でも、これがディスペルに対抗するわたしなりの手段だ。

 うまくいってるのか、ディジーの表情から余裕が消えている。常に動き続けながら詠唱をしている姿は、わたしから見ても大変そうだった。

 

「いや、実におもしろいね」

 

 ディジーの動きが止まる。なんで? 止まったらただの的になってしまうのに。

 いや、疑問を挟んでる暇はない。ここがチャンスとばかりに魔力を集中させる。

 狙いを定めて石の弾丸を放つ。何十もの石の凶弾がディジーに襲い掛かる。

 だというのに、よけるどころかディスペルも発動しない。消えることなく石の弾丸がまっすぐディジーへと向かう。

 まさか魔力切れか? 固定化つきの石の弾丸を解除していくのは思った以上に魔力を使うのか。

 

「――エリアディスペル」

 

 ディジーに向かっていた石の弾丸が全部消えた。全部!?

 ディジーの口角が持ち上がる。余裕の表情に戻っていた。

 

「さて、今度はボクの番だ。反撃させてもらおうか」

 

 背中に冷汗が流れた。お手柔らかにと言ってもいいですか?

 

 

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