根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?   作:みずがめ

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第71話 魔道士として鍛えるために

「はーい、我慢だよ我慢」

「うぐぐ……」

 

 ハドリーを魔道士として鍛え始めて一週間が経過した。

 最初はこの目で魔法を使えたところを見たこともあって、さほど時間はかからないと思っていた。

 けれど、実際にやってみるとなかなか魔力の感覚を掴み切れていないようだ。つらい想いをさせて申し訳ないと思いながらも、彼に魔力を流す日々が続いている。

 

「……今日はここまでにしようか」

「ま、まだまだ……」

「無理は禁物だよ。これは無理してやっても早く魔法を使えるもんでもないから。明日のために今日は休みなさい」

 

 フラフラしてきたハドリーを置いて、わたしは冒険者ギルドへと向かう。

 最近は朝早くからハドリーに魔力を流し、それが終わってから依頼を受けるようにしている。ハドリーに構っている分、一日の時間が少なくなっているので冒険者活動も簡単な依頼ばかりにしている。

 わたしが戻るとハドリーはヨランダさんの手伝いをしていることが多い。とくに文句は出ていないのでちゃんとお手伝いはできているみたい。

 

「ハドリーは迷惑かけてないですか?」

「まあまあだね」

 

 ヨランダさん、それはどっちですか?

 まあそんなこんなで、ハドリーは一週間という短い期間ながらも、わたしの生活の一部になる程度には馴染んでいた。

 

「ベッドで寝なくても大丈夫?」

「うるさいっ。床でいい」

 

 就寝時は不機嫌になるのだけど。別にわたしが床で寝ても構わないんだけどな。

 彼のためにも早めに魔法を使えるようにしてあげたい。他に何か良い方法はないものか。そう考えながら本日も眠りに就いた。

 

 

  ※ ※ ※

 

 

「最近ハドリーくんに修業をつけているんですよね。私エルさんのこと見直しました」

 

 依頼を受けるために冒険者ギルドの受付嬢に話しかけると、開口一番そんなことを言われた。

 この受付嬢さんはそんなことどこで聞きつけたのやら。それに見直したって……。わたしは彼女からどんな風に見られていたのだろうか。

 

「彼が冒険者としてやっていけるだけの実力をつけるまでですよ。それに、稼ぐようになればそのお金でそれまでの授業料を返してもらうつもりですし」

「え? エルさんがいっしょにパーティーを組むんじゃないのですか?」

「組まないです。わたしは一人でやっているのが性に合ってるので」

 

 首をかしげるんじゃないよ受付嬢。年上だとは思うのにかわいい仕草だなオイ。

 

「ではなぜハドリーくんの面倒を見ているのですか?」

「だから、後でお金をもらうためですよ」

「はあ……。でもBランクのエルさんならその時間を依頼遂行に当てた方が稼げそうですよね?」

「わたしが働かなくてもいいようにですよ。毎日依頼をこなせるわけでもないので」

「はあ……」

 

 納得できないといった表情ですね。別にいいけどね。

 

「私はエルさんが誰かといっしょにいると思うと安心しますが。やっぱりずっと一人でいられるのは不安です」

 

 ……それは何の不安なのか。まあわたしにもしものことがあれば生存確認に時間がかかってしまうか。登録している冒険者の管理は受付嬢の仕事でもあるのだろう。

 依頼を受けて、目的地へと文字通り飛んで行く。日帰りするために移動も魔法を使いまくってできるだけ短縮した。

 

「喰らえ喰らえーーっ!!」

 

 魔物の討伐も容赦なく全力で魔法を使いまくった。今までならチート帽子の存在があるにしても魔法を節約するところではあるが、時は金なりとばかりに全力を出してやった。

 その辺の魔物ではわたしの全力を止められるわけもない。これでもBランク冒険者なのだ。Bランクは伊達じゃない!

 後片付けを終えて、行きと同じように飛んで町へと帰る。なんだか飛行魔法の速度も上がってきた気がする。

 

「エルさんお早いお帰りですね! 魔物の数が多いと聞いていたのにさすがです!」

「ええ、まあ……」

 

 いくら魔力を大幅に節約できるチートアイテムがあるとはいえ、移動から戦闘までずっと魔法を使いっ放しだったのだ。さすがに疲れる……。

 受付嬢から報奨金を受け取るために待っている。疲れが出てしまい、椅子に深く腰を下ろして背もたれに体重を預けていた。

 

「よう黒いの。ガキの面倒を見てるって聞いたぞ。本当か?」

「サイラス……。それみんな知ってるわけ?」

 

 鋼鉄の鎧を身につけたいかにもな戦士に声をかけられる。Aランク冒険者のサイラスである。

 

「ガキじゃなくてハドリーね。まあ、本当だけど」

「他人に興味を見せないお前がどういう風の吹き回しだ?」

「別に……。とくに意味なんてないよ」

 

 なんだそのニヤニヤ面は? サイラスのそんな顔初めて見たぞ。

 そんなサイラスに気づいたテュルティさんも話に加わってきた。

 

「いいじゃないの。黒い子ちゃんが誰かといっしょにいるのってなんだか安心するわ」

「安心って……」

 

 受付嬢も言っていたけど、安心ってなんだよ。ちょっと意味がわかんない。

 

「で? そのガキは使えそうなのか?」

「さあね。才能はあるはずなんだけど、まだ魔力の感覚さえ掴み切れてはないんだよね」

「ふうん……。ねえ黒い子ちゃん。あたしがその子を見てあげましょうか?」

「テュルティさんがですか?」

 

 ふーむ……。他の人に見てもらうのもありか? 彼女も魔道士だし。

 もしかしたらわたしのやり方ではダメなのかもしれない。ハドリーにとっての良いやり方。それを探るためにも彼女の提案は悪くないように思えた。

 

「……」

 

 そうだな。わたしのやり方なんて信用するもんじゃない。

 こだわり過ぎるのはよくない。疑える機会があるのなら疑っておいた方がいいからね。

 

「じゃあ、せっかくなのでお願いします」

 

 わたしは頭を下げてその申し出を受けたのだった。

 

 

  ※ ※ ※

 

 

「いい」

「え?」

「俺はエルに鍛えてもらってんだ。今は他の人にとやかく言われたくない」

 

 テュルティさんをハドリーに会わせると、彼は拒絶の意を示した。

 

「ハドリー、でも……」

「俺はエルの下で魔法を学ぶって決めたんだ! エルもなんだよ……。俺をその人に押し付ける気かよ」

「そういうわけじゃないけど……」

 

 唇を尖らせるハドリーを見て、失敗したのだろうかという気になってしまう。

 わたしとテュルティさんは顔を見合わせた。彼女は困り顔になる。困っている顔のはずなのになんか色気があるな。

 

「黒い子ちゃん、この子に信頼されているのね」

「いや、そういうわけでもないと思うんですけど……」

 

 たぶん頑固なだけなんだろうな。一度決めたらそのやり方を貫き通す。それがハドリーという少年なのだろう。

 

「うふふ、あたし余計なことをしようとしていたみたいね」

 

 なぜだかテュルティさんは楽しげに笑う。なんだかわたしの責任が増した気がするんですけど。

 

「よーしエル! 今日はまだ時間があるし、俺ももう元気になったから大丈夫だ! また魔力を流してくれよ!」

「え、わたし帰ってきたばかりなんだけど……」

「頼むぜ!」

「……はい」

 

 いつもよりやる気になってしまったハドリーに付き合うこととなってしまった。おかげで夜は二人揃って死んだように眠りについた。

 

 

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