根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか? 作:みずがめ
昔々の話。約五百年前に魔王という存在がいた。
ファンタジーではよくいる魔王。もちろんそれに相対したのは勇者であった。
魔王は魔物を操り、四人の魔女と多くの魔族を従わせていた。それを討伐しようと立ち上がったのは勇者を始めとした英雄達であった。
剣を極めたとされる「剣神」と魔法で勇者の道を示したとされる「賢者」。そして、もう一人の英雄は「聖女」と呼ばれ語り継がれていた。
四人の偉大なる英雄が邪悪な魔王を打ち滅ぼした。世界に光が戻り、平和が訪れたのである。めでたしめでたし。
……さて、いきなり昔話をつらつらと説明したのには理由がある。主にわたしの現状についてだ。
わけあって生まれ故郷であるマグニカ王国には帰れない身のわたし。のんびり冒険者なんぞやってはいるが、これでも一応追われている身分だったりする。
そのマグニカ王国には三大戦力と呼ばれる猛者がいる。先ほどの話に出た勇者の子孫に、剣神と賢者を受け継ぐやばい連中である。
昔に魔王を倒したとされる当人というわけではないから実力が同等とは断言できないけど、どっちにしても今を生きる英雄には変わりない。そんな連中に見つかりでもしたら簡単にお縄になるであろう。
さすがに昼夜問わず捜索されているわけでもないだろうし、逃亡してから二年以上経過していることもあって忘れられているとは言わないまでも、さほど重要視はされていないのかなと思わないでもない。
とはいえ、捕まる気は毛頭ない。というわけでわたしの活動している場所がポイントなのだ。
先ほど説明した英雄がマグニカ王国には三人いる。四人中の三人である。ちょっと比率を間違えているのではなかろうか。
この事実がマグニカ王国の発言力を大きくさせているのだ。探したい奴がいるから国に入らせろ、といった要求は大体の国で簡単に通ってしまうほどである。
だが、近隣の国の中では唯一マグニカの要求を突っぱねられる国がある。
それが現在わたしがいる国。スカアルス王国である。
「聖女様がこの町に来るって本当?」
いつものように冒険者ギルドで依頼を受ける時に耳にした情報は、聖女の子孫がこの町を訪れるというものだった。
「本当ですよ。ギルド長を始めとして、私達職員は聖女様の歓迎の準備で大忙しなんですから」
情報の発信源である受付嬢は忙しそうな素振りもなくそんなことを言った。
わたしはむぅと唸ることしかできない。
わたしが滞在している国であるスカアルス王国には聖女の子孫がいる。
英雄の一人の子孫というのもあり、マグニカ王国相手でも強気に出られるのはその人物の存在が大きいらしい。勇者と聖女だけは特異な能力が代々受け継がれているため、一つの国だけでなく他国でも優遇されているそうだ。
わたしがのうのうと冒険者をやれているのはこの聖女様に助けられていると言っても過言ではないのだ。おかげでスカアルス王国だけは大っぴらに捜索されることはない。聖女様様である。まあ出会ったこともありませんけどね。
しかし、実際に出会いたいわけでもない。マグニカ王国からわたしの情報が送られているのだとすれば……。少なくとも国の危険因子は排除したいと考えるだろう。
「その聖女様が訪問される日がいつとか、わかっていたりします?」
「やっぱりエルさんも興味がおありになるのですね」
人をミーハーみたいに見るのはやめていただきたい。こっちは人生かかってますからね。
「確か五日後になりますね。商人ギルドも気合が入ってますし、お祭りみたいに楽しくなりそうです」
お気楽だな。いや、後ろめたいことがなければこの反応で間違っていないのか。地方に有名人が来るとなればちょっとしたイベントだもんな。
五日後はひきこもろうか。わたしはわたしでひきこもるための準備をしなければね。家主のヨランダさんにはちゃんと許可をもらわねば。
「それにしてもよくこんなところまで聖女様が来ますね。王都からはけっこう離れているのに」
これでも拠点選びは慎重にしたつもりなのだ。追われている身として当たり前だが、王族や貴族なんかとは関わらないようにしている。
「聖女様は国民のため、実際の生活を見て触れて考えてくれるのだそうです。そのため定期的に各方面へと足を運んでいるのですよ」
「へぇ……」
庶民に寄り添うだなんてご立派なことで。別にわたしがとやかく言うことでもないし、関わりたくもないからどうでもいいけど。
聖人に興味を持てないわたしには何か裏があるのではと勘ぐってしまう。民衆の支持率アップとか? 選挙じゃあるまいし、英雄の肩書があるのならわざわざそんなことをする必要はないように思えるんだけども。
なんにしても出会わないようにだけは注意しておこう。そうと決まればやはりひきこもるしかないな。うん。
「あの、ですね……。エルさんにお願いしたいことがあるのですが」
気づけば、ニコニコしていた受付嬢の表情が曇り模様となっていた。
言いづらそうに口を開く。なんか聞きたくないなぁ。
「聖女様が滞在される間、『黒蠍(くろさそり)』の方達を見張っていてほしいんです」
受付嬢のお願いを聞いたわたしは、とっても嫌そうな顔をしていた自信があります。