根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?   作:みずがめ

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第76話 いつだって曇り模様

 昔、勇者一行によって魔王は討伐された。

 勇者の仲間だった聖女は言った。「魔王のお墓を作ってあげましょう」と。

 それは慈悲だったのだろう。悪行の限りを尽くした魔王の墓を作るだなんて反対する人もいたはずだ。しかしそれ以上に聖女様の慈悲に感銘を受けた人の方が多かった。

 そうして魔王の墓場が出来上がった。けれど、強大な力を持った魔王の瘴気は死してなお濃いものであり、一般人が耐えられるものではなかった。

 だからこそ聖女様は魔王の墓場に結界を張り、立ち入りを禁止したのだ。

 

「――てのが、わたしの知っている魔王の墓場だよ」

「ケケケ。エルさんの言う通りだぜ。少なくともこの町にいる奴らならそこまでは知っている」

 

 わたしの知る魔王の墓場ってやつを語り終えると、マーセルは笑って肯定した。

 この話から厄介になるのはまず聖女様とやらが張ったと言われる結界だろう。当たり前だがそんじょそこらの奴に破られるものではないはずだ。わたしの魔法がどこまで通用するのか、マーセルはわたしなら結界を解くことができると信じているようだけど果たしてどうか。

 次に死してなお漏れ出している魔王の瘴気。何百年も前の話ではあるし、今でもその瘴気とやらが漏れているのかはわからない。もしもひどいようならわたしが結界を張ってなんとかするつもりだ。数日がんばれば当代の聖女様がなんとかしてくれるだろう。

 

 聖女様が町に訪れる日まであと二日となった。予定では明後日の正午に来訪されるとのことだ。

 マーセル達「黒蠍」のアジトで段取りを確認する。予定では今夜、魔王の墓場へと侵入し、ことを済ませてトンズラだ。聖女様が来る頃には追いつかれない程度には遠くに逃げられるだろう。

 一番油断しているところでの犯行。一番迷惑がかかる時こそが決行日となってしまった。

 

「それで、あの魔王の墓場には一体何があるんだ? ただ墓参りしようってわけでもないんだろ」

「ケケケ。そうだねぇ……」

 

 もったいぶるマーセル。わたしがこいつの目的を横取りするとでも思っているのだろうか。

 

「……あそこには魔王の遺産があると言われているんだ」

「魔王の、遺産?」

 

 またどう反応していいかわからなくなるような単語が飛び出してきた。遺産と聞けば想像するのは金や土地などだが、きっとそういうものではないのだろう。

 マーセルはそこで口を閉じる。おい、わたしは全然わかっちゃいないぞ。

 

「その魔王の遺産ってやつは、具体的にはなんなんだよ?」

「さあねぇ」

 

 マーセルはニヤニヤと殴りたくなるような笑みを作る。その笑みは、自分は知っているのだという優越感からくるものだろうか。

 少なくとも一般人が入れる領域ではない。わざわざ聖女様が来るくらいだし、そんじょそこらの魔道士が敗れるような結界でもないのだろう。なのになぜマーセルが魔王の遺産を知っているのか……。

 マーセル以外の連中は黙りこくったままだ。リーダーの話には口を挟めないのか、余計なことを口にしないためなのか。何にしろわたしに情報を漏らすつもりはないようだ。

 なら、これ以上ここにいる理由はない。

 

「今夜、段取り通りにしてやる。目的を果たしたらハドリーを解放しろ。もし約束を破るのなら、聖女様の代わりにわたしがお前らの息の根を止めてやるよ」

 

 周囲の連中に魔力を漂わせて本気なのだと威圧する。それが効いたのかどうか、誰からも返事はなかった。

 

 

  ※ ※ ※

 

 

 もうすぐ聖女様が来訪することもあり、ほとんどの冒険者は町に滞在していた。依頼を受けて不在の冒険者達も明日までには戻ってくるだろう。

 普段は自由だなんだと言っている冒険者連中でも、聖女様が来るとなれば一丸となってお出迎えメンバーとなるらしい。

 

「マーセル達に不穏な動きはないですよ」

「そうですか。報告ありがとうございますエルさん」

 

 営業スマイルが眩しい受付嬢にしれっと嘘の報告を済ませる。わたしに騙されているとも知らずにね。わたしは席を立った。

 

「あれ、もういっちゃうんですか?」

「ええ、マーセル達を見張らなきゃいけないんで」

 

 嘘はスラスラと出るものだ。自分で自分に感心させられる。

 

「その……エルさん」

「はい?」

 

 言い淀んだ調子の受付嬢に身構える。何か勘づかれてしまっただろうか。

 警戒心から足先が外へと向きそうになる。そんなわたしの目の前で、受付嬢はぺこりと頭を下げた。

 

「ハドリーくんのことだけでも忙しいのに、こんなお願いまで聞いてくれて本当にありがとうございます」

 

 綺麗なお辞儀だ。わたしの視線は彼女の頭頂部にくぎ付けとなる。

 わかりやすいほどに伝わる感謝。裏切ったわたしにするにはあまりにも滑稽で、眩しすぎて直視できなかった。

 

「……そんなこと、ないですよ」

 

 声が震えているのか、自分ではわからない。心が潰されてしまいそうな感覚だけは確かだった。

 それからどんなやり取りをして冒険者ギルドから出たのか覚えていない。見上げれば青空が広がるばかり。心情とは関係なく呑気な空気だ。

 わたしが何をしたって、どんなことをしたって、叫んだってきっと世界は変わらない。変わらないでいてほしいと思う。

 別れの言葉なんて思いつかない。どんな顔をすればいいのかもわからない。だからいつも通りを装うだけしかできなかった。

 最後にちゃんと別れの言葉をかけ合ったのはいつだろう? 思い出すのは生まれ故郷。ウィリアムくんだろうか。

 ウィリアムくんとは友達になれたと思う。ちゃんと仲良くできたと思う。でも今はわたしのことなんて思い出したくもないだろうな。

 それは今回も変わらない。わたしなんかが来なければよかったと思われるのだろう。いつもと何も変わらない。

 

「行くか」

 

 神様の目は節穴だ。こんなわたしを異世界転生なんてさせてしまったのだから。

 顔を上げ前を向く。しっかりと大地を踏みしめて目的の方向へと進む。せめてそれくらいは、顔を俯かせ止まってしまうことだけは許されない、許されてはならないのだ。

 

 

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