担任がやたらくっついてくるんだが…… 作:ローリング・ビートル
「おい、あれ見ろよ……」
「すっげえ美人……」
「お前、声かけてこいよ」
「いや、無理に決まってんだろ」
「俺はあのスクール水着の子のほうが……」
そんな声が時折聞こえてくるけど、先生に声をかけてくる者は一人もいない。多分だけど、僕がいるからじゃなくて、美人すぎる人は単純に声がかけづらいのかもしれない。僕も知り合いじゃなかったら、半径10メートル以内にすら近づけないと思うし。
まあ、最後のロリコンっぽい発言はスルーで……。
「じゃあ、まずはウォータースライダーから行こうよ!」
「……序盤から飛ばしすぎじゃないかな?」
「そんなことないよ~。ここウォータースライダー10種類あるし、結構並ぶから、早い内に行っとかないと、全部回れないよ?」
「え?」
10種類って……確かに広い所だなぁって思ったけど……。
先生は、現在地がわかる掲示板を見ながら、辺りをキョロキョロ見回し、こちらを手招きする。
「ここからなら、『Highway to hell』というウォータースライダーが一番近いわ」
「な、何ですか……その物騒な名前は……」
死にはしないまでも、トラウマを植えつけられそうな気がする。マップを見ても、詳しい事は記載されておらず、『乗ってからのお楽しみ』なんて、血が滴り落ちそうな文字で書いてあるだけだ。お化け屋敷か。
一方、若葉は僕とは真逆のリアクションをとっていた。
「あっ、それ学校で話題になってたやつだぁ♪さっそく行きましょう!」
「マジか……じゃ、じゃあ、僕は見てるので、二人で楽しんで……あれ?」
何故か左右から腕をロックされている。
しかも、右肘には……せ、先生の胸が……!
こっちは素肌で、あっちは水着1枚だから、いつもよりさらに柔らかく感じられ、あっという間に顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「せ、先生……!」
「はやく行きましょう。どんなものか、全部確かめなきゃ」
先生……まさか、絶叫系のアトラクション大好きなのか?
「むぅ……また……ああ、もう!今は置いときます!さっ、お兄ちゃん、行くよ?」
「え、ええ!?」
2人に有無を言わさず連れて行かれた僕は、そのアトラクションの名前通り、地獄へ直行する羽目になった。
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「あぁ~気持ち良かった♪」
「……意外と楽しめたわ」
「…………」
な、何なんだ、あれ……最近のウォータースライダーどうなってるの?やたらスピードがつくし、グルグル回ったり、上がったり下がったりを繰り返し、なんか途中で体が浮いた時は、本気で地獄へ行ったのかと思ったんだけど……。
別に絶叫系が特別苦手というわけじゃない僕でも、滅茶苦茶怖かったというのに、2人はケロッとしていた。強い三半規管をお持ちのようで……。
「次はどれに行こっかな~♪」
「さっきのマップを見た限りあるでは、『BACK IN BLACK』が1番近いわね」
「あっ、それも友達が話してました♪」
また危険そうな名前が……そろそろ僕は見守る側に回ろうかな。
「じゃあ、僕はここで見てるから2人は……あれ?」
再び両腕を拘束される。
あれ、2人共……力、強いなぁ。逃げられないなぁ。
*******
「な、何だ、これ……」
今回のウォータースライダーは、外は塀に囲まれ、どんなコースになっているのか、全然わからない。時折、塀に取り付けられた扉から、笑顔で出てくるので、楽しいアトラクションのようだけど……
「次のお客様、どうぞ~!!」
係員に呼ばれ、階段を昇り、扉を開け、中に入ると、さっそくコースの入り口となっていた。
入り口の向こうは薄暗く、どんな風になっているのかわからないが、そのことが却って想像力を刺激してくる。それでも僕は普通に滑りたい。
「……なるほど」
先生は口元に手を当て、1人で納得している。先生、何がなるほどなんでしょうか?
「ほら、お兄ちゃん。はやく行こ!」
若葉は係員に3人乗りのゴムボートを用意してもらい、はやく来いと手招きをしている。
どのみち、ここまで来たら逃げようがないので、僕は腹をくくり、真っ黒なボートに乗り、溜息を吐いた。
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「わぁ~、何これ!すご~い!」
「お、おぉ……」
「…………」
今回のウォータースライダーは、意外と楽しい。
どんなキワモノかと思いきや、真っ暗な空間に、星のような鮮やかな光がぽつぽつと輝き、まるで宇宙空間をボートで駆け抜けているかのようだ。
しかし、そんな夢体験も終わりがやってくる。
ラストの深いプールに到着すると、若葉は残念そうな声を上げた。
「あ~あ、もう着いちゃった」
そして、僕の傍で立ち上がる。
すると、こちらに重さが偏りすぎたのか、ボートがバランスを崩し、ひっくり返った。
「わわっ!」
「っ!」
「…………」
や、やばい!いきなり過ぎて、鼻に水が入りまくった!
少しでも早くプールから上がろうと、必死に手足を動かす。
すると、右手がぎゅむっと何かを掴んだ。
何やら布の感触と、すべすべした何かの感触が……
え?こ、これって……
慌てて手を離し、そのまま水面から顔を出し、2人を探そうとしたけど、若葉は既にプールの縁に捕まっていて、先生もすぐに顔を出した。
「…………」
何故か、半分しか顔を出さず、こちらをじっと見ている。ていうか、ジト目?…………っ!
すぐにその理由に思い至る。
あの時、僕が掴んだのは……!
先生に声をかけようとしたけど、係員から声をかけられ、僕達はプールから上がり、ひとまずアトラクションをあとにした。