担任がやたらくっついてくるんだが……   作:ローリング・ビートル

32 / 66
第32話

(どうしよう……本当は手を繋ぐはずだったのに……あんなところを触られちゃった……)

 

(あれ?でも、これってラッキーなんじゃ…………でも、やっぱり恥ずかしい……)

 

 *******

 

「あの、唯さん……」

「……どうかしたの?」

「えっと……」

 

 さて、どうしたものか。

 正直、聞くのがすごい恥ずかしい!!!

 実際のところ、僕の手が先生の体のどこかに触れたという確たる証拠はない。

 しかし、その可能性は非常に高い。この手に残る柔らかな感触がそう告げている……気がする。

 ただ、先生に「あの、僕の手どこかに触れましたか」と聞くのが恥ずかしい、というか気まずい。

 かと言って、触れた気がしたから、とりあえず謝っておくというのも、誠意がない気がする。

 

「祐一君?」

 

 先生が顔を近づけてくる。

 ああ、何やってるんだ僕は。とにかく聞いてみよう。

 

「あの、僕、もしかして……」

「どうしたの、二人共!はやく行くよ~!」

「祐一君、行くわよ」

「あ、は、はい!」

 

 若葉の声に中断され、聞き出すことはできなかったが、先生の様子がいつも通りだったので、僕の気のせいかも、なんて安堵を覚えた。

 

 *******

 

 若葉の提案で、しばらく流れるプールで休憩を挟むことになった。多分、自分が疲れただけだろうけど。

 僕と先生は、ベンチに腰かけ、大きな浮き輪に乗りながらプカプカ流れる若葉を見ているんだけど……

 

「……唯さん」

「何?」

「暑くはないんですか?」

「あまり気にならないわ」

「そうですか……」

「そうよ」

 

 そう……さっきから先生がやたらくっついてくる!

 今に始まったことではないけど、まさか水着姿でくっついてくるなんて……。

 僕は海パン1枚だし、先生も素肌を殆ど晒しているから、肌と肌がぴったり密着している。もちろん暑いので、汗をかくんだけど、その密着している部分で汗が混ざり合い、何だか変な気分だ。

 しかも、若葉が僕と先生の前をプカプカ流れていく時だけ、さり気なく立ち上がったりして、見つからないようにしている。

 ……こうやって、いつも通りに近づいて来るってことは、多分僕が触ったのは別の何かだったんじゃ。

 

「あの、唯さん……」

「何?」

「いや、僕の気のせいだと思うんですけど、さっきボートがひっくり返った時、手が先せ、唯さんに当たったみたいなんですけど……」

「…………ええ」

 

 嘘っ!?

 気のせいじゃなかった!?

 先生は視線をプールに向けたまま、頬を僅かに紅潮させ、躊躇うような口調で話し始めた。

 

「あの……君はね?……さっきプールで、私の……お尻を掴んだの」

「大変申し訳ございませんでした!!!」

 

 先生が言い終える前に、僕は一瞬の内に先生の前で土下座した。

 しかし、すぐに先生に肩を掴まれ、起こされる。

 

「大丈夫よ。事故だってわかってるから」

「いや、でも……!」

「実はわざとだったとか?」

「ち、違います!違います!そんなわけないじゃないですか!」

「……そう」

 

 先生は僕の右の頬を引っ張り出した。

 しかも、結構痛い。やっぱり気にしてる!当たり前だけど!

 

「ふぃふぁいっ!ふぃふぁいっ!」

「ごめんなさい。つい……」

「いたたた……あの、本当にすいませんでした」

「……じゃあ、君が罪悪感を感じないように、1つだけ私の言う事を聞く、というのはどうかしら?」

「言う事を聞く、ですか……」

「心配しないで。悪いようにはしないわ」

「それ、悪いようにする人の台詞ですけど……」

「大したことじゃないわ。一緒にプールに入りたいだけよ」

「え?そんなのでいいんですか?」

「ええ。私はそれだけで十分よ」

 

 *******

 

「むっ……女の直感だけど、今先生が何か企んでる……」

「ま、愛美?どうしたの?」

 

 *******

 

 実際、大したことではなかった。

 先生は、若葉の浮き輪の近くを、流れに乗ってついて行くだけだったし、僕もそれについて行くだけだった。

 しかし、To LOVEる……じゃなくて、トラブルは思いも寄らぬタイミングで発生した。

 なんと……………………先生がいきなり抱きついてきた。

 それも、真正面から結構な勢いで。

 僕が驚きのあまり反応できず、先に若葉が声を上げた。

 

「あっ!!お姉さん何やってるの!?」

「せ、先生!?」

 

 何事かと思い、先生の顔を見ようとすると、至近距離から見つめられ、こっちの思考回路がショートする。

 しかし、先生は平常運転で、クールな表情を崩さずに口を開いた。

 

「祐一君」

「は、はい……」

「水着が流されてしまったのだけれど」

「……………………え?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。