担任がやたらくっついてくるんだが……   作:ローリング・ビートル

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第33話

「すいません。よく聞こえなかったみたいで。今……何て?」

「水着が流されてしまったの」

「う、上だけですよね?」

「……下も流されていたほうが良かった?」

「そんなこと考えてないですよ!?」

 

 水着が……流された?

 やばいやばい。先生の言葉と感触で頭の中がパンクしそうだ。

 一旦現状を整理してみよう。

 

 先生がいきなり抱きついてきた。

     ↓

 どうやら水着が脱げたらしい。

     ↓

 今は上半身裸。

     ↓

 先生は僕に抱きついている。

     ↓

 今、僕の胸に当たっている大っきくて柔らかいものは、先生の生の……!!!

 

「どうかしたの?」

「せせせ、先生……あの、あの……!」

「先生じゃないわ」

「ごめんなさい、唯さん……その、あ、当たってます!当たってますよ!」

「宝くじが?」

「違いますよ!絶対にそんなタイミングじゃないでしょ!しかも買ってませんし!」

 

 先生に対して本気のツッコミをいれる日が来るとは思わなかった。これも冗談で言ってるんだよね?

 一方、先生は特に気にした風もなく、さらに抱きつく力を強めてくる。

 

「っ!……だ、だから、唯さん……当たってます……」

「さっきの冗談、結構上手いこと言えてた気がするのだけど……」

「いや、今はそれどころじゃなくて……」

「そうだよ!若葉を置いてけぼりにしないで!ていっ!」

 

 何を思ったのか、若葉が背中にがしっと抱きついてきた。

 その勢いで前のめりになり、先生にさらに密着してしまう。

 

「若葉!?」

「なぁに?お姉さんはよくて、若葉はダメなの?そんなに大っきな胸が好きなの?」

「いや、違くて!」

「……違うの?」

「ゆ、唯さん!今はそんなこと言ってる場合じゃなくて!」

「どうしたの、お兄ちゃん?さっきから……あ、もしかして、若葉とお姉さんの胸が当たって、実は興奮してるの?」

「してないよ!」

「……興奮してるの?」

「先生まで!?実は2人で協力して僕をからかってるの!?」

「「いいえ」」

「あ、怪しすぎる……って、それどころじゃなくて、唯さんの水着を早く探さないと!僕、探してきます!」

「動かないで」

 

 先生がまた抱きつく力を強め、もう胸の感触がやばい。自分が理性を保てているのが不思議なくらいの甘い誘惑に、手足が微かに震えていた。油断したら、手を先生に向けて動かしてしまいそうだ。

 『平常心』と頭の中で何度も唱えながら(意味ないけど)、先生に話しかける。

 

「どうしたんですか?」

「君が動いたら……その……見られてしまうわ」

「た、確かに……」

「君は……私の裸が誰かに見られても、いい?」

「嫌です」

 

 頭で考えるよりはやく、口が勝手に動いていた。

 今頭の中で何かがメラッと沸いた気がした。

 

「じゃあ、このままでいてくれないかしら」

「わ、わかりました……じゃあ、若葉。その辺に水着流れてない?」

「う、うん!探してみるよ!……なんか色々と怪しいけど」

「いやいやいや!僕何もしてないよ!?」

「ああもう、そういう意味じゃないの!!お兄ちゃんの鈍感!!」

 

 若葉は吐き捨てるように言って、ザブンと水中に体を沈めた。

 その姿を見ながら、僕は1秒でも早く、先生の水着が見つかるようにと祈った。このままでは思春期男子の脆い精神がもたない。

 しかも、一度自覚してしまうと、先生の胸が他の男に見られると考えた時の、何ともいえない不快感が胸の奥で蟠っているのがわかる。無論、そんな権利なんて僕にはないんだけど。

 

「祐一君?」

 

 先生が心配そうに見上げるのに気づいて、散らかった思考を頭の隅に押しやる。

 

「大丈夫?」

「あ、は、はい、何とか……」

「……ごめんなさい。また迷惑をかけたわね」

「そんな……いつも迷惑かけてるの僕じゃないですか」

 

 僕の言葉に、先生は切なそうに目を細め、かぶりを振った。

 

「君は生徒。私は教師よ。私が迷惑かけるなんて、あってはいけないことだわ」

「唯さん」

「何?」

「今は違いますよ。その……今は……」

「…………」

 

 僕は先生の、真珠のように綺麗な黒い瞳を真っ直ぐに見て、噛まないように気をつけながら、はっきりと告げた。

 

「仲の良いご近所同士じゃないですか」

「…………」

「だから助け合うのは至って普通……あれ、先生?」

 

 先生は俯いたまま動かなくなった。

 正直自分としても、結構照れくさい事を言った自覚がある。かと言って、そこまで……

 そこで、先生が顔を上げた。

 涼しげで、鋭い双眸にじっと見据えられ、周りの視線や音が遠ざかった気がした。

 

「祐一君」

「はい」

「ナイフのように鋭い言葉ってあるけど、君のは鈍すぎて鈍器になってるわね」

「え?」

 

 あれ?先生の背後にオーラみたいなものがユラユラと……

 

「…………ちょっとだけお返し」

 

 何やらブツブツと、こちらには聞こえない音量で呟いた後、急に先生が勢いよく転んだ。それは、僕を押し倒そうとするかのような勢いだった。ど、どうしたんだ一体……。

 その勢いのまま、僕は先生を抱きかかえたまま仰向けに倒れ、視界があっという間に水に覆われる。

 突然のことに何がなんだかわからず、体を起こそうとすると、右の頬に、何かが当たった。

 それは……花火大会の時に左の頬に触れたものとよく似ていた。

 

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