担任がやたらくっついてくるんだが……   作:ローリング・ビートル

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第39話

 

「私も泊まります」

「「「…………」」」

 

 夕食を終えた後、奥野さんが真面目な表情で言い放った言葉に、我が家の居間は沈黙に包まれた。彼女は何を言ったのか、意味がわからなかった。

 右を見ると、森原先生は無表情のまま、奥野さんに視線を向けている。

 左を見ると、若葉が口をポカンと開けていた。

 やがて時間が経つにつれ、その言葉が頭に馴染んできて、どんな意味なのかを正しく理解する。

 奥野さんが……うちに泊まる……?

 

「……と、と、泊まるって、えええええ!?「ダメよ」

 

 僕の驚きと先生の言葉がほぼ重なった。

 そして、先生の言葉に奥野さんはすぐさま怒りを露わにした。

 

「何でダメなんですか!?先生だって泊まってるじゃないですか!」

 

 そんな抗議を、先生はいつものクールな雰囲気のまま受け流した。髪をかき分け、諭すような目つきになる姿に、何だか学校での先生が重なって見える。

 

「あなたみたいな年頃の女の子が、男の子とひとつ屋根の下で寝泊まりして間違いが起こったらどうするの?」

「さっきと言ってること違うじゃないですか!ずるいですよ!」

「私は望むとこ……私は、あなた達の担任だからよ」

「理由になってないです!しかも今、とんでもないこと言おうとしてた!」

「気のせいよ。それに、ご両親には何て説明するの?」

「うっ……そ、それは……友達の家に泊まるとか……色々と……」

「バレたらどうするの?」

「うっ……」

「……担任教師として、ここまでは言っておくわ。ただ私としても、フェアにいきたいから……」

「お兄ちゃん、今の内にお風呂入ろっか」

「「待ちなさい」」

「だって~、話終わんないんだもん!」

 

 この話、僕からはどうも口を出しにくい。

 若葉と遊びたいがために、わざわざ泊まりたがる奥野さんに対して、無下に断るのも気が引けるし、泊まりなよというのは何だかいやらしい。てか無理だ。

 僕は大人しく部屋で勉強でもして、この場は……

 

「と、とにかく!私は今日ここに泊まりたいんです!」

「…………」

「はっ……あ、浅野君、違うからね!別にそういう意味じゃ……」

「いや、でも……そこまで若葉と仲良くなってくれて嬉しいよ。ありがとう」

「爆発しろ!」

「何で!?」

 

 どうしたんだろう、一体……どこかで選択肢を間違ったのかな?いや、こんな思考になるなんて……今日どんだけゲームしてたんだよ、僕は……あまり上手くなってないけど。

 

「祐一君」

 

 先生はそんな僕の心情を見透かしたように、感情の読めない涼しげな瞳をじっと向けてきた。

 どことなく圧を感じるのは気のせいでしょうか?

 

「は、はい……何ですか?」

「君の意見も聞かずに話を進めてごめんなさい。ここは君の家だから、君の意見を優先すべきね」

「え?あー、そう、ですよね……」

 

 三人の視線がこちらに集中し、また体が強張る。やっぱりこういうのは苦手だ。とはいえ母親がいない今、1週間だけだが、家主みたいなものなので、逃げるわけにもいかない。

 僕にできることは……

 数分の沈思黙考の末、僕は多分一番安全だと思える案を口にした。

 

「あー、それじゃあ……先生達が1階の空き部屋寝るって事でどうでしょうか?ほら、それなら間違いは起きないし、二人共、若葉を好きなだけ可愛がれるし……」

「…………」

「ああもう、ありがとう!こうなったら若葉ちゃんを好きなだけ可愛がってやるわよ!」

「お、お兄ちゃん……」

 

 奥野さんは何故かヤケクソ気味に喜び、若葉は心配そうな表情を見せる。

 こうしてウチにお泊まりする女子が、また一人増えた。

 それと、ほんの一瞬だけ先生が頬を膨らませた気がした。

 

 *******

 

 ど、どうしようどうしようどうしよう!!

 勢いで泊まることになっちゃったよ!!!今、私浅野君の家でお風呂に入ってるよ!

 私、何やってんの!?バカじゃないの!?浅野君も図々しい女だって思ってるよ、きっと!

 いや、でも……このまま先生にリードされるわけにはいかないし……幸い浅野君だから、最小限の差で済んでるけど、これが普通の年頃の男子だったら……ていうか、浅野君も年頃の男子には変わりないし……。

 ああ、もう!こんがらがってきちゃった!

 ま、まあ、要するに!先生にこれ以上抜け駆けはさせないんだから!

 そういえば途中でフェアにって言ってたな……。

 

「愛美お姉ちゃん、どうしたの?」

「ん?あ、ごめんね。何でもないよ」

「ふぅ~ん。どうせお兄ちゃんの事考えてたんでしょ?」

「あはは……私ってそんなにわかりやすいかなぁ?」

「お兄ちゃん以外は気づいてるかも。チラチラ見すぎだし……」

「うわぁ……そんなに見てたんだ、私……」

「うん」

「気をつけなきゃ」

「あ、でも大丈夫大丈夫。お兄ちゃんはどうせ気づかないから」

「……だよね」

「うん。だって告白しても『え?今何か言った?』とか返してきそうだもん」

「さ、さすがにそれはないんじゃないかな?」

 

『あ、浅野君!私……あなたの事が好きなの!』

『え?今何か言った?』

 

 ……うわぁ。脳内再生余裕だわ、これ。

 

「ね?」

「うん……」

「お姉さんもよくめげずにあんなにアタックするよね~」

「先生かぁ……あれ?先生は?」

「あれ?確か洗い物は任せてって……あ」

 

 *******

 

「せ、先生……痛くないですか?大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。安心して。もっと……入れて」

「わ、わかりました……じゃあ、先生……体の力抜いてください」

「ええ……その、優しくしてね」

 

 

 


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