担任がやたらくっついてくるんだが……   作:ローリング・ビートル

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第47話

 

 ……寒気がする。

 どうしたんだろうか?クーラー効き過ぎてるんじゃないかな?皆寒くないのかな?

 ……いや、現実を見よう。この寒気の原因は間違いなくあの人だ。

 

「…………」

 

 そう。言うまでもなく森原先生だ。

 現在、世界史の先生が病気でお休みして、自習になり、森原先生が監督してくれているんだけど、さっきから視線がこっちに固定されていて、かなり落ち着かない。ていか…………怖い。普段と明らかに視線に含まれる何かが違う気がする。その何かまではわからないけど。

 

「…………」

 

 くっ……考えるんだ、僕!一体何をやらかしたんだ!?

 この前週刊誌のグラビアに先生似の人がいたから、つい翌週まで毎日立ち読みしたのがバレたのか?いや、そんなはずは……じゃあ、何で……

 そこで、扉が開く音がした。

 目を向けると、副担任の新井先生がひょこっと顔を見せていた。

 

「失礼しま~す。あっ、浅野くぅん♪」

 

 新井先生が教科書を掲げ、こちらに近づいてくる。そこで僕は忘れ物に気がついた。

 

「さっき、化学の授業で忘れてたよ~」

「あっ、はい……すみません」

 

 何か忘れてると思ったら……気をつけないと……ん?

 

「…………」

 

 先生が眼鏡の位置をくいっと整え、ジロリと睨んでくる……まずい、これは後で怒られるやつだ……。

 そこで先生の唇が微かに動いたのを見た。あれ?今、もしかして……

 ば か

 先生がそう言った気がした。気のせいかもしれないけど。

 ……も、もしかして、この後めっちゃ怒られるんだろうか。教科書を置き忘れるとか、たるんどる!と言わんばかりに。

 

「次からは気をつけてね~……きゃっ!」

「え?」

 

 すぐそこまで来ていた新井先生が何かに躓いたのか、こちらに倒れてきた。

 僕が気づいた頃には、新井先生の、服の上からもわかる豊満な胸がすぐ目の前に迫っていた。

 

「あわわっ」

「うぷっ」

 

 目の前が真っ暗になり、息ができなくなる。顔の火照りやら何やらが、一気にやってくる。な、何だこれ……や、柔らか……い……。

 その柔らかな温もりはすぐに離れていったけど、僕の記憶に深く深く刻まれた。

 

「ごめんね~!大丈夫!?」

「あ、は、はい、全然……」

 

 何とか平静を装っているけど、絶対顔真っ赤になってる……さらに、数人のクラスメートがこっちを見ていた。

 

「あ、あいつ……羨ましい……」

「浅野の野郎……あとで下駄箱にアレを入れといてやる」

「つーか、浅野って誰だ?」

 

 うわぁ……鈍い僕でも殺気がビンビン伝わってくるよ……ていうか、倉橋君、アレって何かな?怖くて授業に集中できないよ……あと井口君……僕の名前知らないとか嘘だよね?もう二学期になるんだよ?

 

「「…………」」

 

 さっきよりもさらにひどい悪寒がして、つい周りを見ると、先生と奥野さんが、じぃーっとこっちを見ている。

 違うんです!わざとじゃないんです!

 念を込めた視線を送るも、どうやら届かなかったみたいだ。

 二人は示し合わせたように、同時に溜め息を吐く。

 ……やっぱり仲いいなぁ。

 

 *******

 

 はい。僕はまた補習室へと行く羽目になりました。多分、学年で一番の使用率だろう。某召喚獣学園ものなら、Fクラスになっているに違いない。

 くだらない事を考えていると、こんこんとドアがノックされる。

 返事すると、先生……が?

 

「浅野くぅん。おはよ♪」

 

 なんか無駄にやわらかい声音とわざとらしい笑顔で入ってきた……先生……だよな?着ているスーツは変わらないし、いつもの黒縁眼鏡だけど、テンションが違いすぎる。

 

「浅野くぅん。おはよ♪」

 

 もう一回!?

 

「…………」

「…………」

 

 気まずい沈黙。

 僕はどうリアクションすればいいかわからないし、先生は謎のキャラをごり押ししてくる。ん?いや、待てよ……。

 先生と一緒にいる機会が増えたせいか、少しは……ほんの少しは先生の感情が読み取れるようになった。今、先生の瞳が告げるのは……

 

 あれ、違った?これじゃない?

 

 確実ではないけど、多分……内心テンパってる?

 

「…………今日、君を呼んだ理由だけど……」

 

 何事もなかったようにしてる!

 さすがに無理があるので、おそるおそる聞いてみた。

 

「……あの、先生、どうしたんですか?」

「……………………君はああいうのが好きだと思ったの」

「え?」

 

 何やら口をもごもごさせているけど、さっぱり聞こえない。

 先生は向こうを向いて、こほんと咳払いし、本当にいつもの調子を取り戻して言った。

 

「たまには……いつもと違うのもいいと思ったの。やはり変化がなさすぎるのも……飽きるから」

 

 理由はさておき、もしかして……いや、間違いなく僕に気を遣っている。いや、気を遣わせてしまっている。

 いつもしてもらってばかりなのに、これ以上気を遣わせるわけにはいかない……内心の焦りに蹴飛ばされ、僕は口を開いた。 

 

「せ、先生はいつも通りでいいと思います!!」

「え?」

 

 自分でもよくわからないまま、思いついたことをひたすら並べていく。

 

「何というか、先生には先生の魅力があるというか……あの、いつものクールさというか……いえ、今のさっきのも素敵なんですが……!」

「……そう、かしら」

「は、はいっ!」

「…………そう。なら、いいわ」

 

 先生は眼鏡をかけ直し、髪をいじる。頬がほんのり赤いのがいつもより幼く見えた。

 ……この表情、この仕草は初めて見る気がする。

 つい見とれてしまっているのに気づき、目をそらすと、先生は僕の隣に椅子を運び、いつものようにやわらかな体をくっつけてくる。

 ふわりと包み込むような甘い香りがいつもと違うのも、気を遣ってくれていたのだろうか。

 そんなことを考えていると、先生から肩をつつかれた。

 

「ところで……新井先生の胸の感触はどうだったかしら?」

「へ?」

「ところで……新井先生の胸の感触はどうだったかしら?」

「あ、あの……」

「ところで……」

「いや、あれは事故で……!」

「質問に答えなさい」

 

 結局、補習室にいながら、補習は行われなかった。

 

 *******

 

「今の、ままが、いい……」

 

「告白……じゃないわよね?……何を考えているのかしら、私は……」

 

「夏休みの後は文化祭……チャンス……いえ、その前に夏休み中にもう少し素敵な思い出を……」


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