担任がやたらくっついてくるんだが……   作:ローリング・ビートル

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殺意の波動に目覚めそう!?

 

 蛍さん、やるわね。あんなハートだらけのお弁当を……。

 そうね。じゃあ、私は……

 

 *******

 

 放課後、西陽の射す校内のあちこちで文化祭の準備が行われている。小道具を制作する人、協力して重い荷物を運ぶ人。見回りをする先生。とにかく文化祭が終わるまで、こんな慌ただしい日々が続く。

 普段はすぐに帰宅する僕も、そんな輪の中に加わっていた。

 

「浅野君、ごめんね。クラスの作業もあるのに手伝ってもらっちゃって」

「ああ、全然。奥野さんにはいつもお世話になってるから、これくらいはしないと」

「そんな、照れるじゃんか♪もうっ!」

 

 背中をバシンッと叩かれる。

 思わずつんのめりそうになったけど、何とか持ちこたえた。ど、どうしてこんなにテンション高いんだろう……これも文化祭効果か。

 僕は今、文化祭実行委員になった奥野さんの手伝いをしている。僕自身は実行委員でも何でもないんだけど、奥野さんの友達から、こっちはいいから愛美を手伝って!と言われたのだ。

 …………あれ?もしかして、クラスの中でいらない子になってる!?

 

「ど、どうしたの、浅野君、いきなり?この世の終わりみたいな顔してるけど」

「奥野さん……僕、いらない子なのかな?」

「何か唐突に重い人生相談きた!?ど、どうしたの!?」

「いや、ごめん。ちょっと自分の存在について考えてただけだよ。気にしないで、大丈夫」

「大丈夫じゃない!なんか病んでる!どうしたの、一体!?」

「ふっふっふ~、悩んでますね~若人よ」

 

 背後から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り向くと、そこには新井先生がいた。ややドヤ顔気味なのが、何ともいえない。

 

「新井先生、どうしたんですか?ていうか、さっきまで校門の飾りつけしてたんじゃ……」

「あっ、奥野さん!こ、これはですね~休憩ですよ、休憩~」

「「…………」」

 

 限りなくウソくさいけど、あえてつっこまないでおこう。

 新井先生は気まずそうに笑いながら、僕と奥野さんの手を引いた。

 

「と、とにかく!君達も根詰めすぎちゃダメですよ~、というわけで、先生と休憩しましょ~」

「え?え?」

「あっ、ちょっと!もうっ、せっかく二人きりだったのに~!」

 

 *******

 

 僕と奥野さんは、新井先生に連れてこられたのは、なんと司書室だった。室内には、コーヒーの香りが充満し、隅っこの机には小説やら図鑑やらが雑に積まれている。

 荷物を床に下ろした奥野さんは、心配そうに呟いた。

 

「あの、ここ勝手に入っていいんですか?」

「ええ。もちろんですよ~。私はよくここでサボ……くつろいでますから~きっと竹内先生も許してくれます~」

「許すか、このバカ教師」

 

 いつの間にか戻ってきていた竹内先生に、頭をスパーン!とはたかれ、新井先生が「あうぅ……」と呻く。

 

「何ですか~せっかく悩める子羊達の相談に乗ろうと思ったのに~」

「ほう……アンタが他人の人生相談?じゃあ見ててやるからやってみなさいな」

「ええ、お任せください~。さっ、浅野君♪」

 

 新井先生が僕の頭に手を置く。あれ?今から人生相談が始まるのでは?

 

「あ、あの…先生?」

「何やってるんですか?」

「いや~浅野君って、実家で飼ってる柴犬に似ているから、つい甘やかしたくなるのよね~。思春期の悩みはお姉さんが癒してあげますよ♪」

 

 そう言いながら、新井先生はわしゃわしゃと僕の頭を撫でる。色々と恥ずかしい上に、先生の服の上からもわかる豊満な胸が、すぐ目の前に来て、視線の逸らしようがない。

 一番困るのは、本人がそれを何とも思っていない事だ。

 

「ふふふ~これは気持ちいい……何なら明日は手作り弁当でも作って餌付けしたひっ!!?」

 

 いきなり新井先生がビクッと跳ね上がる。

 

「ど、どうしたんですかっ!?」

「びっくりしたぁ……」

 

 僕と奥野さんが驚きに後ずさると、新井先生は両腕を胸の前で合わせ、小刻みに震えていた。

 

「い、今……ありとあらゆる負の感情に体中を突き刺されたような寒気が……!」

「「…………」」

 

 えっ、何それ。怖い。

 すると、司書の先生が。

 

「はいはい。下らん事やってないで作業に戻った戻った。ほら、アンタも仕事に戻りなさい。てか、あれのどこが人生相談だ、色仕掛けじゃないか」

「違いますよぉ……あれ?もう何ともない……」

 

 新井先生が何事もなかった(?)ようなので、僕達はほっとして、司書室をあとにした。

 

 *******

 

「もう出てきていいわよ」

「はい」

「ていうか、アンタ隠れる必要あったの?」

「いえ、自分でもよくわかりません」

「何それ。あと、あんなに恐いオーラ出さなくても。殺意の波動にでも目覚めたのかと思ったわ」

「殺意の波動って……あれはただの……」

「ただの?」

「……嫉妬、です。言わせないでください」

「嫉妬かぁ、可愛いね~。でも、人前で見せちゃダメよ。アンタ教師なんだから」

「ええ。公私混同はしません」

「……そ、そう。ならいいわ……手遅れな気はするけど。まあ、アンタなら大丈夫か」

「では戻ります」

「はいはい。せいぜいアプローチ頑張んなさい」

「……はい」


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