担任がやたらくっついてくるんだが……   作:ローリング・ビートル

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開店

 文化祭当日。

 いやー、準備大変だったなー。色々すっ飛ばしたけど。

 ……はい。とにかく無事にメイド喫茶を開店することができました。おまけに大好評です。

 ただ、一つだけ問題が……

 

「お、おい、見ろよ。あれ……」

「うわ、すっごい美人!」

「お前、声かけてこいよ」

「いや、無理に決まってんだろ」

「いや、お前ならいけるって!」

「いやいや、お前のほうがいけるって!ほら、鼻高いし!」

「そ、そうか?」

「それに、鼻の形いいし!」

「おう……」

「あと……すらっとした鼻だし」

「てめえ、鼻しか褒めてねえじゃねえか!ケンカ売ってんのかぁ!」

 

 ……とまあ、こんな感じでメイド姿の先生が周りの視線を独り占めしまくっている。さっきの二人組の会話は徐々に脇道に逸れてたけど……。

 そして、本人はそれをまったく気にしていない。まあ、それはいつも通りか。

 しかし……本当に似合ってるなぁ。

 その姿に見とれていると、何かが近寄ってくる気配がした。

 

「おっ兄ちゃ~ん、久しぶり~!」

「えっ、ああ、なんだ。若葉か」

「なんだって何?可愛い彼女が来たんだから、もっと喜んだら?まったく、これだからお兄ちゃんは……」

 

 お団子ヘアにイメチェンした若葉は、ほんのちょっとだけ大人びた気がしたけど、その口調は相変わらずだった。

 というわけで、久々の若葉登場。皆さん、お待たせしました。それと、端っこのほうで「いい……あの子いいよ」とか言ってる人、通報しますよ?

 先生も若葉に会いたかったのか、いつの間にか若葉の頭を撫でていた。そして、その手をそっとどかされていた。

 

「若葉さん。久しぶりね。元気だった?」

「お、お姉さん……どうしてメイド服着てるの?」

「……実は、浅野君に頼まれたのよ」

「ええ!?お、お兄ちゃん!?」

「ち、違うよ!僕がそんなこと言うわけないだろ!」

「違うの?」

「……違うの?」

 

 若葉に続いて、しれっと先生まで首を傾げている。こんなジョークが飛び出すあたり、何だか今日はテンションがだいぶ高いようだ。

 

「ほらほら、二人ともさぼらないの。先生も、しっかりメイドしてください。あっ、若葉ちゃん来てくれたんだ!」

「愛美お姉さん、久しぶり~!」

「あははっ、今日は楽しんでいってね」

「うんっ」

「そういえば、一人で来たのか?」

「うん。……来ちゃった」

 

 若葉は大人ぶってしなを作っているが、もちろん色気などなく、ただただ微笑ましい。周りもほっこりした表情で見守っていた。さすが愛されキャラ。

 

「あ、あの!」

 

 すると、奥野さんが僕の肩を掴んだ。

 ちなみに、奥野さんも先生と同様に、可愛らしいメイド服に身を包み、忙しく働いていた。その爽やかな魅力は、メイド服と絶妙な化学反応を起こし、周りの目を惹きつけている。

 そんな視線に気づいたのか、奥野さんは頬を赤らめ、もじもじと両手を合わせた。

 

「あ、あの、今さらだけど、浅野君……どう、かな?」

「うん、楽しいよ」

「違うわ!まったく……私、メイド服似合ってるかな?」

「あ、う、うん。すごく似合ってるよ!」

「ふふっ、ならよかったわ。ありがと。浅野君も執事服似合ってるよ」

「あ、ありがとう……」

「さあ、奥野さん。仕事に戻りましょう」

「ああっ!ちょっ、先生……いきなり先生モードに戻らないでくださいよ~!」

「…………」

 

 とにかく仲が良いようで何より。さて僕も仕事に戻らなきゃ。まあ、客引きのほうはやらなくても大丈夫だろう。ていうか、これ以上客が来たらヤバい……。

 

「はあ、これだからお兄ちゃんは……」

「どうしたの、若葉?」

「何でもないよ。相変わらずお兄ちゃんはお兄ちゃんだなぁって思っただけ」

「そ、そうなんだ……」

 

 *******

 

 無難に客案内や掃除をこなしていると、高橋君からポンっと肩を叩かれた。

 

「浅野、休憩行ってきていいよ。ついでに奥野にも伝えてきて」

「ああ、うん。わかったよ」

 

 いつも通りの爽やかさに同性ながら、胸が洗われる気分になりながら、僕は奥野さんに声をかけた。

 

「奥野さん、休憩だって」

「え?あ、うん……」

 

 奥野さんは、何故かキョトンと目を丸くして僕を見た。

 

「ど、どうしたの?」

「いや、なんか浅野君が自然に声をかけてくれたのが、珍しいというか……」

「そう、かな?」

「そうだよ。中々浅野君からは声かけてくれないし」

「ああ、なんかごめん……」

「ふふっ、謝らなくてもいいよ。あとはその調子でガンガン話しかけてきてくれたら嬉しいな」

「そ、そう……それじゃあ奥野さん」

「なぁに?」

「い、今から、一緒に文化祭回らない?」

「えっ?…………い、いいよ」

 

 奥野さんは、頬に手を当てながら頷いてくれた。よかった。嫌がってはいないみたいだ。

 

「若葉も一緒でいい?」

「当たり前だよぉ!!あっはっは!!もちろんそのつもりだったよ!!!」

 

 な、なんかやたらテンションが高いんだけど……大丈夫かな?あと背中をバシバシ叩かれて、割と痛いです……。

 

「お待たせ、若葉。行こっか」

「うんっ、愛美お姉さんもよろしくね♪」

「ふふっ、こちらこそ……よしっ、切り替えよう!」

 

 じゃあ、行こうかな……っ!!?

 背中に寒気が走った気がするけど……あれ?先生?

 森原先生は、何故かこっそりと、物陰からこちらをじぃっと見つめていた。


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