中学生提督日記   作:村上浩助

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■警告■

今回轟沈艦表現あり。


第1次デスペラン攻防戦

デスペランの暴走はとどまることを知らない。

 

まずはクラーリン級の大群は徳島県の美波鎮守府を急襲。

出撃した艦娘を全員容赦なく轟沈させ、

鎮守府を完膚なきまでに破壊した。

陸戦隊のない鎮守府のため司令官以下全員が戦死する最悪の事態となった。

 

それどころかそのまま陸上を北上し阿南市に雪崩込んだ。

阿南市の逃げ惑う市民を虐殺しつつ向かう先は陸上自衛隊徳島駐屯地、

徳島駐屯地には実戦部隊が駐留していない。

徳島駐屯地にいる自衛官は為す術もなく全員がクラーリンに虐殺されていった。

 

リーヴェサーカス団も何もしないわけではなかったが、

徳島に急行したときにはすべてが遅かった。

阿南市の中心部。特に阿南市役所が破壊されて都市機能は麻痺していた。

そして、徳島駐屯地は既に焼け野原となっていた。

 

愛は、陸上の後始末を完全壊滅を免れた警察と消防に任せると、すぐにビスマルク達に撤退命令を出した。

 

そして、帰りは牟岐鎮守府を陸上から急襲し、司令官以下全員を虐殺した上で、

港湾内での戦闘で所属艦娘を完膚なきまでに轟沈させ、海へと出ていった。

 

ビスマルク率いるサーカス団艦隊は阿南市の惨状を放置して急行したため、クラーリンが海に戻る前に牟岐町沖に部隊を展開し迎撃体制をとっていたが。

クラーリンの軍団は、ビスマルクたちサーカス団を無視した。

一方的にサーカス団の攻撃を受けながら撤退していった……。

やはり、サーカス団には用はない。と言わんばかりのように……。

 

ここで失敗だったのは迎撃体制をとったことである。

最初から追尾体制を取っていればデスペランの位置を把握できたかもしれなかった。

とにかく、ビスマルクたちの追尾は振り切られてしまい、

ジレーネ深海棲艦との交戦で見失う羽目になっていた。

 

この攻撃の結果四国に置かれている陸上自衛隊の駐屯地は

松山駐屯地、善通寺駐屯地だけを残すことになった。

 

この攻撃で官民併せて1万人弱の犠牲者を出してしまった。

 

 

――――――――

「由々しき事態ですね。早く準備を進めませんと」

副官の笠原三尉が報告を受けて額にシワを寄せている愛に声を掛ける。

そもそも、準備を中断して陸戦隊『薔薇の騎士団』と、艦娘達を差し向けたのである。

こちらの準備も大幅に遅れる結果となった。

 

愛はそれだけではなく、健太の怒りに思いを馳せていた。

民間人も無差別に殺して自衛隊施設を破壊する。

最悪、健太が破壊の権化になってしまったならば

『健太を倒すことも視野に入れないといけない』

そう悲痛な決意を込めていた。

 

その間にも坂本准将補による安芸への司令部移転作業は着々と進んでいる。

安芸は小規模鎮守府のため、改築増築が必要だが、

高知の施設科が全滅してしまった以上、民間に委託する他無かった。

ただ、彼らにとって救いだったのは、

クラーリン級は海上でも無差別な破壊を繰り返しており、

ジレーネ派深海棲艦を駆除も同時に行っており、

施設移動と、艦娘達の迎撃準備に専念できる。

 

「しっかし、善通寺駐屯地を狙われたら民間人の死者は今回の比ではないぜよ」

「ぬうう、『海援隊』を配置しようにもどこからくるか判らぬ以上、手の打ちようがありませんな」

 

民間工事業者が安芸鎮守府の拡張工事をしているのを眺めながら、

坂本准将補と昇進して2佐になり、正式に土佐鎮守府陸戦隊『海援隊』を一個連隊に増強し、連隊長となった郷里二佐が厳しい顔をしている。

そして、警務隊も1個連隊にしてこれを『陸援隊』と名付け、坂本准将補が直接指揮を取った。

海援隊と陸援隊の一個連隊化は許可を取るのに苦労の連続だった。

だが、徳島駐屯地の破壊で、危機感を持った第14旅団が第15即応機動連隊の精鋭を差し向けてくれたのだ。

これで、海援隊・陸援隊の戦力は4個連隊に匹敵する戦力に増強していた。

対クラーリンの対策は万全になってきている。

 

艦娘達も、防衛に特化した陣形の練習を日夜行っている。

今回自分たちは『エサ』である。

それも、食べつくされてはいけないエサ。

 

海・陸援隊もなるだけの犠牲を出さないよう、郷里二佐のもとで、訓練が続けられる。

訓練のために、東富士の魔王と呼ばれている教導隊長七原准将が招聘され

徹底的なシゴキが行われた。

その訓練は尋常ではなく、あの郷里ですら音を上げかけるハードモードである。

 

「貴様らはその程度か!それではクラーリンの餌食で終わるぞ!声出せ!」

『サーイエッサー!』

「自衛隊の責務はなんだ!」

『守れ!守れ!守れ!』

「貴様らは国民を愛しているか!」

『ガンホー!! ガンホー!! ガンホー!!』

 

彼らの叫びは土佐鎮守府に響き渡っていた。

 

――――――――

その頃、室戸鎮守府でも連日早朝会議が行われていた

0400からの会議であり、愛はその後登校なのだ。

 

「由々しき事態ですな………」

 

サーカス団総参謀長の大塚一尉が徳島駐屯地の被害状況をプロジェクタに写しながら深刻な顔をしている。

 

「申し訳ありません。せっかく機械化機動中隊にしていただいたのにもかかわらず、間に合わずに」

 

愛たちは、徳島駐屯地跡地にあった、無事だった戦車や装甲車・弾薬などをすべて引き上げ……と言えば聞こえはいいが、

自由裁量の名のもとに強奪して連装砲ちゃんと併せて薔薇の騎士団に配備、薔薇の騎士団を機械化機動部隊にしていた。

薔薇の騎士団隊長の小杉一尉は申し訳無さそうな顔をする。

 

「いえ、まさか直接の恨みの高知駐屯地だけではなく、徳島駐屯地……実戦部隊のいない駐屯地まで標的にされるとは考えていませんでした。これで、通善寺も狙われるとするならば、どこから上陸するかにもよりますが、想定される死者は今回の比ではないでしょう。」

 

愛は胃をさすりながら応える。

 

「愛、大丈夫?」

 

次席副官の燿子が青い顔の愛を見咎めて心配そうに声を掛けると悲しそうに首を振る

 

「健太が、本当に破壊の権化と化してしまったなら、私達は健太を殺すことも視野に入れなくてはなりません」

 

その愛の一言が、幕僚会議に参加している幕僚や過娘たちを沈黙させた。

この年齢で愛する人を殺すことを覚悟しなければならない状況に追い込まれた愛の心を慮ったのだ。

だが、ビスマルクはクラーリンの行動に不自然さを感じていたのも事実だった。

 

「まだ、破壊の権化と化しているとは考えにくいわね。もし完全に破壊の権化になっているのだったら、サーカス団麾下の艦娘達を放置……或いは無視することは考えにくいもの」

 

「そうよ!まだ健太がDestroyerになったとは限らないわ」

 

「クラーリンへの攻撃は回避も反撃もしない印象です。罪もない他の鎮守府の艦娘はひとり残さずに沈めているのに」

 

艦隊のトップスリーが共通の見解を出している。

 

「まだ、健太が心を完全に失ったというのは早計ですな。ともあれ、我々は後手後手に回った以上、例の作戦の決行をに専念しませんといけませんな」

 

岩崎二尉が大きな体でみんなを安堵させるように語ると全員は頷いた。

 

――――――――

「作戦決行までは学校に行ってください」

 

そんな幕僚たちの配慮に甘えて、学校へ登校する。

学校へは恵奈カルテットと燿子の護衛で、特に燿子はH&K USP45 コンパクト(小型拳銃)の携帯を制服の裏隠しホルスターでしている。担任の先生の黙認である。

担任の先生は責任はすべて取ると教師生命を賭けてくれているのだ。

 

「おっす!団長」

「おはよう、大野くん」

途中大野くんら男子と合流して、次々と1組の連中が集まり、集団登校の様相を呈していた。

靴箱に封筒は入っていて、中を開けるとカミソリだった。

 

「またカミソリレターか」

 

大野くんが取り上げると、手紙を取り出す。中に入っている手紙には真っ赤な字で

 

―――この人殺し

 

と書かれている。

 

「まったく、陰険なやつだな」

 

正義感の塊大野くんは大きなため息を吐いた。

手紙の乗っていた下の靴はズタズタに切り裂かれている。

 

「まあ、そんなような気がしたから、ダミーなんだけどねそれ」

 

燿子が腰に手を当てながら、スポーツバッグから愛の上履きを置いて履き替えると下駄箱に入れずにバッグにしまう。

 

「さて、GoRroバレてないかな」

 

燿子がズタズタになった靴の奥に仕込んでおいたカメラを弄ると、カメラは無事に動いていた。

 

「あとで動画解析して先生に提出しようか」

「そうだね」

 

愛と1組軍団――サーカス団学校支部は愛を輪形陣で囲みながら教室に向かう。

教室の前の壁には『人殺し笹野愛』とスプレーで塗りたくられていた。

それを担任の先生が一人でせっせと消していた。

 

「ああ、おはよう皆さん」

 

『手伝います!』

 

授業開始までみんなでせっせと消していく。

 

担任の先生の授業はまだマシだったが、体育は大変だった。

体育教師通称「ゴリ」は反1組筆頭派で、雨の日も、炎天下の日も、ひたすら校庭を走らせ続けた。

休むやつは罵声を浴びせて水分補給も許さなかった。

 

着替えも男女更衣室をロックアウトしてしまうため、教室で男女合同で着替える羽目になった。

雨の日は燿子と

 

「ブラ透けるよね」

「うん」

「ゴリのやつガン見してたよ」

「水泳とかヤバイかな」

「ねー」

 

という会話をしながら女子たちと着替えをする。

男子たちはそれを取り囲んで外から見られないように配慮する。

男子たちにとってはご褒美だが本人たちはそれよりも女子たちや何より愛が大事だった。

愛たちの笑顔が下着姿より男子たちにはご褒美なのである。

とはいえ、思春期の男子たちには目に毒なのも間違いない。

 

それでも体育はまだ授業をするだけましだが、授業をしない移動教室の授業はこちらから拒否をした

家庭科・技術・音楽といった類だ。

 

自主自習で教室に籠もって勉強をする。

岩崎二尉の手ほどきを受けて一番勉強の進んでいる燿子が教壇に立ってテスト対策を行う。

その結果6月の中間テストは学年上位者を1組全員が占める事態にまでなっていた。

アンチ1組派の教師が記述問題で難癖をつけて△を付ける中でも……である。

愛は学年上位者の真中から上で燿子は500点満点である。

燿子は「ケチのつけようもない完璧な」回答を行い、△もつけさせる余地も与えなかった。

 

崩壊寸前の学校の授業を終えると、カルテットを従えて燿子と愛は鎮守府に向かう。

途中までは大野くん率いる1組男子―ズが務めるが、途中で笠原三尉率いる陸戦小隊が引き継ぐ。

 

「笠原三尉、司令官の護衛を引き継ぎます!」

「ご苦労さま、それではみんな気をつけて帰りなさい」

『了解!』

 

司令官引き渡しの儀式が行われると、カルテットと燿子と愛は陸戦隊の護衛の元鎮守府に帰り着くのだ。

反艦娘派は、今度は公安警察を使って監視に乗り出した。

周囲には公安の拠点が出来るようになり、愛たちは息苦しさを感じ始めていた。

 

「自衛隊への掣肘に公安さんとはねえ」

 

笠原三尉が皮肉めいて口にする。

 

「これではっきりしました、私達はジレーネしか倒せません」

「そうね……」

 

こうして、各々が準備を進めて、ようやくデスペランおびき出し作戦の準備が整った。

 

四国警務隊は坂本准将補の名前で『笹野愛特任三佐』の逮捕を公表した。

容疑は『外患誘致の罪』であり、死刑しかない罪状である。

自由裁量の名のもとの逮捕であるが、当の本人はカルテットしかいない室戸鎮守府に居る。

 

ビスマルクら艦娘と、薔薇の騎士団は土佐に移動させて、司令部幕僚はでスペラン補足作戦司令中枢の安芸鎮守府跡地に集結させている。

基地航空隊もいつでも出撃スタンバイ可能であり、デスペラン………クラーリンの来襲を待つだけである。

カルテットが無理やり乗り込んだ理由は簡単である、命がけで健太の目を覚ませたい、それだけである。

愛は何度も止めたが、それでも乗りたいという熱意に負けて仕方なしに許可をしたのだ。

その代り、燿子は安芸司令部に残留させた。

合図を愛に送るためであるが、燿子も狙われているうちの一人なのだ。

 

 

漆黒の化物、クラーリン艦隊が押し寄せてきた。

すぐさま、基地航空隊がスクランブルを掛けて先制攻撃を叩き込む。

今度のクラーリンは今までと違い、室戸鎮守府所属の航空隊にも対空攻撃を叩き込む。

それを見て翼は確信した。健太は愛以外を全て敵と認識したと。

 

『こちらフォーゲル、リーヴェ、作戦成功だよ。奴さん、囚われてる『笹野容疑者』以外、敵だと思ってる』

「こちらリーヴェ、了解!」

 

通信には変わりに恵奈が出る。妖精化しての通信ができるように明石に密かに頼んでおいたのだ。

愛は影武者役で、変装までしている。今作戦の意図を健太に気づかれるわけにはいかないのだ。

 

土佐鎮守府港湾内ではワラワラと押し寄せるクラーリン型深海棲艦をクロスファイアで仕留めながら航空攻撃で数を減らしている。

突破されたクラーリンは坂本命名の『大海援隊』の連合部隊で食い止める。

連装砲ちゃんが初めて実戦に投入された戦いである。

 

クラーリンと伴って飛んできたデスペラン基地航空隊は

艦娘の対空砲や、艦載機、基地航空隊、連装砲ちゃんの30ミリ連装ガトリング砲で航空部隊を叩き落とし、

郷里二佐は羽佐間准将補より届けられた海上スーツアーマーで艦娘のように海に出てバッサバッサとクラーリンを超大型トマホークでなぎ倒していく。

 

艦娘達は一隻づつ仮眠と補給を行いながら無限に迫ってくる”無敵艦隊”クラーリンの数を減らすのに専念している。

深い深い縦深陣を取ってクロスファイアポイントに誘い込んで袋たたきにする。

基本的なリーヴェサーカスを連合艦隊で行っている。

 

戦闘開始か10時間ほど経過していた。

日が暮れだした頃、坂本は『笹野愛はここにはいない!』と全周波通信で呼びかけた。

 

クラーリンやデスペラン基地航空隊は攻撃を中止する動きを見せたためそのスキを見逃さなかったビスマルクは一気に包囲状態においた。

クラーリン自体は目的以外の行動はできないため、命令が一時止まっている今。包囲されたら最後、海の藻屑となる外無かった。

 

この戦いにおいて、艦娘の轟沈はなく、陸上での死者も十数人である。

 

後退して行ったクラーリンを追撃しながら愛は艦娘と合流する。

基地航空隊第二中隊が残りのクラーリンや基地航空隊の始末をする中、航続距離の長い第1中隊は艦娘達のエスコートに入る。

そして、愛も、指揮艦を笠原三尉の操縦で動かして、艦娘に合流した。

 

『デスペラン自体日本近海に来てるかもね』

 

という、翼の予想通り、デスペランは日本近海にまでやってきていた。

基地航空隊は航続距離が長くない、翼は航空隊としてのカンで確信していたのだ。

 

 

 

――――――――

「愛ちゃん、燿子……敵を討ったらすぐ助けに行くよ、裏切り者のみんなを皆殺しにしてね」

 

デスペランの司令官席に座っている深海棲艦化した健太は暗い笑みを浮かべていた。

その傍らでは深海棲艦化した駆逐艦娘が悲しそうな顔をしていた。

 

「さあ、デスペランをお休みさせようか……」

「ケンタ、テキ、キタ……」

 

深海棲艦駆逐艦娘が指をさすと艦娘部隊が撤退するクラーリンを艦娘部隊が追いかけてきた。ビスマルクを旗艦としたリーヴェサーカスの一団である。

土佐の艦娘達は念のために残していったのだ。

 

「くそっ、裏切り者め!全員海の底に沈めてやる!砲撃用意!艦載機発進準備!リーヴェサーカス開始!」

ぎりぎりと顔を怒りに歪ませると立ち上がりモニタに浮かび上がるビスマルクらの顔を睨んでいた

 

――――――――

「まずいわね、これは………」

 

ビスマルクは相手がピンポイントによるクロスファイアを狙ってることに気づいた。

こちらも、リーヴェサーカスの陣形のままにらみ合いが続く。

 

航空戦は関係なしに続くため、空では機関砲の撃ち合いが繰り広げられている。

 

愛は指揮艦で指揮命令プロトコルを使って戦術を組み立てていた。

非・強制のプロトコルは艦娘達に、こういう動きをしなさい、と指示をするだけが可能なのだ

それの応用で、文字を艦娘に送ることが出来る。

これで愛は喋らずに指揮命令を行える。

 

相手がコの字型で要塞を背に展開している。

デスペラン捕捉作戦は成功したものの、ここから撤退するのは容易なことではない。

クラーリン艦隊の追撃を振り切るためには一戦して相手の出方を挫くよりほかないのだ。

それに、デスペラン要塞は戦力未知数である。

 

そして、仕掛けてきたのは敵の方からだった。

陣形を密集陣形にして突っ込んでんできたのだ。

 

「一点突破ね!どうするの!?」

『トッパサレタラハサマレル』

 

「了解、こちらも密集隊形に……」

 

包囲をやめて密集隊形にした瞬間、クラーリンの動きが変わった。

再び鶴翼体型を取ったのだ。

 

「しまっ!!!」

 

ビスマルクはそれこそ敵の仕掛けた作戦だった。

フェイントを掛ける健太発案の『リーヴェサーカス・フィーア』

 

「しまった!」

 

愛はつい口にしてしまった。

リングが鈍く光る……。すると健太の声が聞こえてくる。

みんなに聞こえてくるが他の人間の声は届きそうもないと不思議とみんな確信していた。

 

『君も裏切ったんだね、愛ちゃん……』

「違うよ!帰ってきて!!」

『駄目だね……それより、愛ちゃん、こっちにおいでよ、こっちは……寂しいよ』

「っっっ!!!!」

『待っててね、愛ちゃんに綺麗なサーカスを見せてあげるから」

 

ビスマルクの艦隊運用を上を行った展開でビスマルクたちはクロスファイアポイントに押し込まれていた。

無慈悲にクラーリンや要塞が砲撃を開始する。

砲撃の雨霰が艦娘達に襲いかかる。

 

 

『ぐうっ!!!』

「ビスマルク!損傷具合は!?」

「私・アイオワはまだ大丈夫よ、鳳翔・伊勢が小破、大井・北上が大破 暁が兵装破壊……ヤバイわ」

 

兵装破壊とは轟沈寸前のことである。

 

「撤退しましょう!」

『無理よ!ここは私が残るからアイオワを連れて逃げて!』

「何をバカなことを言ってるの!」

『殿で敵を引きつける役目は必要よ……提督だってわかってるはずよ』

「………」

『そのお役目、私が行いましょう』

 

通信が入ってくると、ル級FSの大軍と戦艦水鬼を従えた深海提督ハーフェンが海を滑って救援に駆けつけてきたのだ。

 

『ちっ、深海棲艦が!何で人間なんかに味方するんだ!』

苛立ちを隠せない健太の声が聞こえる。

 

ル級艦隊が一気に艦娘達の前に割り込むと集中砲火をまともに喰らいはじめ、次々と沈んでいく。

その間に戦艦水鬼が指揮艦に横付けする。

「テイトクヲタノム ワタシモシンガリスル」

「死なないで、水鬼」

指揮艦に降ろされたハーフェンは心配そうな顔をして戦艦水鬼を見上げると水鬼は笑顔を浮かべて頭を撫でる。

「ハーフェン、指揮はこちらで行います。いいですね」

愛の言葉にコクリと頷くと、戦艦水鬼も戦場へ急行する。

 

「ビスマルク、そっちに戦艦水鬼が向かいました。敵は極端な鶴翼陣形を取っているので、ただ後ろに下がれば敵の的です。ですので、大破艦を内側にした密集輪形陣を取って敵の最も薄い部分に集中砲火、一点突破を図ります。急いで!」

 

愛がビスマルクに指示を下すとコクリとハーフェンも頷いた。

恵奈カルテットはそんな様子を心配そうに見つめている。

 

『了解よ!』

 

――――――――

「シンガリハ ワタシ スル オマエ トッパ イケ ルキュウ ツレテイケ」

「了解したわ。申し訳ないけどル級も外側に配置させてもらうわ」

『ワカッタ』

 

ル級たちが密集輪形陣の外側に配置し始めると、ビスマルクは手を上げて敵右翼の最も薄いクラーリンに一点突破を図る。

攻撃力と防御力の厚いル級FSが外にいるお陰で、暁などは艦砲から守られる。どんどん砲火・魚雷を敵全面に打ち込んでいく。

 

先頭のビスマルクが至近距離での魚雷を撃ち込んだ瞬間、一瞬だけ敵の陣形に穴を開けることが出来た。

 

「突破!!戦艦水鬼もついてきて!」

ビスマルクの叫びに、戦艦水鬼は悲しそうな笑みを浮かべた。

「イマワタシウゴクト オマエタチ クロスファイア ウゴケナイ」

「私が戻るわ!一緒に!」

「ソンナコト ムリ オマエガ イチバンワカッテル」

「っ……突破継続、そのまま……撤退よ……」

 

唇から血が出るくらいに噛み締めながら涙をこぼし命令を伝える。

戦艦水鬼がじわじわと嬲り殺しに遭うように沈んでいくのを尻目にビスマルクたちは敵陣を突破し、要塞からの砲撃に晒されながらもル級を数隻犠牲の元要塞からの離脱に成功していた。

「タノシカッタ アリガトウ ソシテサヨナラ ミナ……」

最後の言葉を口にする前に、要塞砲で爆発しながら海へと沈んでいった。

 

 

それと同時に後退を始めた指揮艦ではハーフェンが必死に叫んでいた。

「待って!水鬼!!!逃げて!!!死なないで!!!ずっと一緒だったじゃない!!」

「ハーフェン!どこに行こうとしてるんですか!」

海を降りようとするハーフェンを羽交い締めにする愛。

「リーヴェ!水鬼を助けてください!」

「もうムリです!水鬼は……自分から殿になったんです……」

「うう……うわあああああ!!!!」

 

ハーフェンの慟哭が夜の海に響き渡った………。

 

 

ビスマルクがル級の残り8隻と共に指揮艦に合流した時には、ハーフェンはぺたんと座り込んで泣き続けていた。

それを愛が優しく抱き寄せて頭を撫でていた。

「提督……艦娘轟沈なし、ル級轟沈16……戦艦水鬼……未帰還」

ビスマルクも涙を流しながら水上から敬礼してデッキに居る二人に報告する。

敢えて、『轟沈』という言葉を避けたビスマルクだったが、再びハーフェンの嘆きに近い慟哭が上がると

艦娘達も涙を零し始める。

 

深海棲艦だからとか、艦娘だからとか関係なかった。

大事な人が死んだのだ……。

 

「う……う……うわあああああ!!!!」

愛もハーフェンを抱き寄せて慟哭の声を上げ始めた。

笠原三尉もカルテットも涙が止まらなかった。

それでも、今この場に留まったら戦艦水鬼の犠牲が無駄になる。

ビスマルクは涙を零しながら

「撤収しましょう、笠原三尉」

「……はい」

 

葬列と言ってもいい艦娘と深海棲艦の列は室戸鎮守府に向かって行った……。

 

 

泣き疲れて眠ってしまったハーフェンを自分の官舎の執務室に寝かせると

ル級3隻を彼女のお守りとして側にいさせた。

それ以外の深海棲艦と艦娘達は執務室にいた。

 

「私のせいよ。私がもう少し艦隊運用が上手ければ……」

 

自らを責めるビスマルクをル級の一人が優しく抱きしめる

 

「ソレチガウ ダレデモ ムリダッタ スイキイガイ スグニシズンデタ」

 

「深海棲艦と手をとりあえた、嬉しいことなのにこんなにsorrowfulなことはないわ」

「ワタシモ カナシイ」

 

アイオワは沈痛な面持ちで壁にもたれかかる。

 

「私のために……ごめんなさい」

「オマエ モロイ ワタシ カタイ テキザイテキショ」

 

鳳翔がかばって大破したル級に高速修復材を染み込ませたガーゼを傷口に当てて包帯を巻いている。

 

「こんな不景気な顔をするために出撃したんじゃないのよ……」

「そうです、健太は何を考えてるの!」

「大井っち、司令官のことも考えてあげなよ」

「オオイ リーヴェテイトクモ カナシイ ワカッテアゲル」

 

 

伊勢が怒りを噛み殺し、健太への怒りが収まらない大井、そして北上とル級がそれを諌めると申し訳なさそうに大井は頭を下げる。

 

「申し訳ありません」

「いいえ、健太は何があってあのように歪んでしまったか判りませんが、デスペランを止めねばなりませんね。まずはそれが第一です。ただ、デスペランの位置は軍事衛星で補足しました。 今は沖に出てこっちへは来ない状況です。しかし痛いのは、未完成のフィーアが完成されたことですね」

 

指揮艦席の背もたれに身体をもたれさせながらビスマルクを見ると悔しそうに頷く。

 

「正直、健太を舐めてかかっていました。 健太は私より先に高菜二佐の弟子で、私の一番側でサーカスを見ていたことを忘れていました。正直今の私では勝てる見込みは万に一つもありません」

 

そんな暗い雰囲気を漂わせた司令室にサーカス団の幕僚たちが帰ってきた。

大塚一尉、小杉一尉、岩崎二尉である。

深海棲艦達がいるのに驚きを隠せないでいたが、愛の幕僚である。順応力は高い。

 

「艦娘と深海棲艦の共闘とは歴史的ですな……良い歴史になればよろしかったが」

戦艦水鬼轟沈の一報を聞いている大塚一尉も戦艦水鬼への哀悼を込めて言葉にする。

「ですな」

「海援隊で戦死者も出た。我々は重傷者だけだったが、犠牲も大きい戦いだった」

 

岩崎二尉と小杉一尉もそれに続く。

 

「そうですね……。方向転換です。難攻不落の要塞はまともな方法では落とせません、クラーリンに関しては衛星監視で先に対策を打てるようになりました。デスペランは様子見です。今は、健太を説得することも、倒すことも出来ません。差し当たりル級の皆さん含めて順次入渠してください。当面の指揮は私が取ります」

「ワタシタチハ ジカンガタテバナオル アトマワシデイイ。サシアタリ リーヴェテイトクニ シタガウ」

 

ル級のリーダー役である改FSが入渠をやんわりと謝絶しながら指揮下に入ることを了承する。

 

「今日のところはお疲れ様でした。皆さんゆっくり休んでください。私も……疲れました」

 

そう言うと、自身は司令室の扉をあけて中に引っ込んでいく。

 

艦娘達はドッグにル級と向かう。

幕僚たちはそれを見送ってから官舎へと戻っていく。

 

 

――――――――

「リーヴェテイトク テイトクメヲサマシタ」

 

官舎に入るとお付きのル級が敬礼して出迎える。

それに答礼すると、共にベッドルームに入る。

ベッドルームにはル級二隻が壁際に立っていてハーフェンがベッドに腰掛けている。

「お目覚めになりましたか?」

愛が声を掛けると、青い瞳を真っ赤に腫らしたハーフェンが頷く。

「とっても大事な……方だったんですね」

そう言うと、隣に腰掛ける。

「はい……私がこの世界にやってきた時、初めてであったのが彼女でした」

 

深海棲艦としてこの世界にやってきたハーフェンは戦艦水鬼と出会い、行動を常にともにしていた。

そして、北日本でずっとジレーネ化した深海棲艦と戦い続けていたのだ。

 

「ジレーネとは一体何者なんですか?」

「……判りません。量産型の桂馬 香車 歩兵 飛車 角行 銀将 金将…… それを指揮するそして玉将そこまでしか解っていません、彼らは突然現れました。アイアンボトムサウンドから」

 

アイアンボトムサウンドと云うキーワードから愛は考える仕草をして……

 

「……では、やはりアイアンボトムサウンドの第二次世界大戦の日米艦艇の負の意思……」

「と云う仮説も成り立つでしょう。姿形は艦娘と同じ人間型。制服は旧日本軍の制服を身に着け、歩兵は駆逐艦タイプ。 香車は高速駆逐艦 桂馬は重巡 飛車・角は空母 銀将は戦艦 金将は雷装戦艦の艤装を身に着けていました。将棋の形に例えたのも、桂馬 香車 歩兵 銀将は成れば雷装戦艦に。 飛車角は成れば雷装航空戦艦に化ける特性から、『彼』が名付けました」

 

その仮説にハーフェンはうつむいたまま明言を避けた。それは判りません、と言えない彼女なりの言葉だった。

 

「彼、とは大貫悟ですね」

「……はい」

 

「彼と私達は壮大なマッチポンプを仕掛けました。 この世界で艦娘と深海棲艦が戦争を行わせている中で、ジレーネをあぶり出し、一緒にこの世界にやってきた リーヴェ フォーゲル そして電 薄雲を探しながら……ジレーネの玉を潰せるのは『別の理の世界から来た(チート・エラー艦の)二人(電・薄雲)にしか不可能ですが、用心深いジレーネは二人がジレーネの存在に気づいたら姿を見せないでしょう。それまでは宮戸島で遊んでいてもらいたいのです」

 

静かに語るハーフェンにようやく自分が提督に要請されたのか、そして高菜二佐が宮戸島の英雄になったのかがわかった。

 

「宮戸島もマッチポンプだったんですね」

「はい、高菜二佐は聞いたら呆れるか怒るかでしょうけどね」

「師匠ならこう言うでしょう。『余計なことをしないでもらいたいものだ』とね」

「はい………」

 

肩をすくめる愛にようやく悲しみの顔が薄れたハーフェン。

「水鬼さんの代わりではありませんが、今日は一緒に寝ますよ」

「………ありがとう。リーヴェ、この寂しさを埋めてください……」

「はい……」

 

お付きのル級が気を利かせて退出する中、二人の影が一つになった。

 

――――――――

「結局、翼さんの予想は大体あたってましたよ。」

「だろうねぇ」

「フォーゲルがここまで読んでいたとは……」

 

翌朝学校を休むと、司令官私室で翼を交えて密談をしていた。

 

「ジレーネを引きずり出すにはどうすればいいんでしょうね」

「そこを色々調べていたんですが……」

「やっぱり、デスペランが必要かぁ……」

 

ジレーネをどう引きずり出すか考えている二人の提督に、翼は頭をかきながら答える。

 

「ところで、ハーフェン派は大丈夫なの?」

「はい、今は北方棲姫(ほっぽ)ちゃんが全体の指揮を取ってミッドウェー当たりジレーネ派とで睨み合ってますよ。ジレーネ派深海棲艦は、事実上ほっぽ軍、デスペラン、日本反艦娘派、それに日本艦娘共存派と四正面作戦を展開しているわけです。ほっぽ軍はゆるゆると東北以北・関東でゆるっと戦争をしていますが、いくらでも補充できる量産型しか出してません。一度謎の砲撃で姫をやられましたが……」

「…………」

ああ、あの事件だなと推測しているが口にしない愛。

 

「デスペランを後回しにして、ジレーネを引きずり出すか、デスペランを占領してジレーネに攻撃を加えるか……。悩ましいですね」

 

愛は紅茶を飲みながらため息を付く。ブランデーはもちろん入っていない。

「とりあえずデスペランは先読みできるから航空隊がなんとかする。問題はジレーネよ。どうやって引きずり出せば………」

 

翼の口にしたことは二人も十分わかっていた。

 

「仕方ありませんね。神谷のようなことを私自ら演じましょう。南方へとアリューシャンへの総攻撃案を政治ルートで提出します」

「政治ルート………?」

「第13艦隊に居る大淀の夫は防衛大臣です、鳳翔を通じて大淀さんに防衛大臣に作戦案を見てもらいましょう。これで様子を見ます。通れば私達は楽ができます。総攻撃は大規模な陽動ですから。私達は参加しません、命令を無視します、もうタッチダウンするためならサーカス団そのものが日本の敵でも構いません。ジレーネ派深海棲艦と戦ってもらって、目をひきつけているスキにタッチダウンして引きずり出します。肝心の東北・北海道艦隊はアリューシャンでほっぽ軍と茶番をしてもらいましょう。」

 

 

「あたしはいいと思う」

「……それが一番早道だと思います。ただ通るかどうかは……」

「大貫悟次第ですね」

 

三人は顔を見合わせてニヤリと笑った。

 

 


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