文の長さ:ショート(約4000文字)
出産を控えた愛達は産休体制に入り、鎮守府司令官代行に大塚三佐を任命して、司令部が運営されていた。
艦隊司令官代行は、ビスマルク。
妊娠中は、大石家から泰子さんがやって来て、三人の妊婦の世話をしている。
妊娠後期は体を動かしてください、と言われていたので、愛がふと思い立ったように、
「坂本将補のお墓参りに行きませんか?」
「そうね。葵さんも一緒に葬られてる、と聞いてるし」
「うん……そうしよう」
三人の意見が一致すると泰子は、
「それじゃあ、車の準備をして来るわね」
そう言って、司令官私室を出て行く。
それを見送ると、燿子がポツリと思い出すように呟く。
「あれから、もう一ヶ月以上、経ってしまったのね……」
「そうだね……」
「うん……」
愛とリーヴェも、それに続く。
――――――――
『艦娘大戦』そう呼ばれた大規模戦闘では、実に多くの戦死者を出していた。
サーカス団でも、岩崎三佐・笠原一尉――それぞれ二階級特進――を始め、何人も戦死者を出した。
葬儀の相談をしようとしていた所に現れたのが、大崎勇次郎だった。
「あの、笠原聡美の恋人の大崎と言います。聡美が亡くなった、と連絡を受けまして」
歩哨に立っていた小杉三佐が、司令官執務室に通した。
コンコン
「どうぞ」
愛の声が聞こえると、扉を開ける。
執務室のソファには、赤子を抱き抱えた小さな女性が、スンスン泣いて座っている。
岩崎三佐の妻で、悠里さんと言う。
「取り敢えず、お掛けください」
そう言うと、愛もソファの対面に腰掛ける。
「この度は、誠に申し訳ございませんでした。偏に私の力不足……でした」
手を突いて、頭を下げた。
「……笹野さんの責任じゃありません……うっ………」
「そうですよ。聡美は、司令官をお守りして死んだ、と聞いています。名誉の……戦死だったと思います。だから、面を上げてください」
悠里夫人と勇次郎の言葉に、沈痛な面持ちのまま顔を上げると、
「……御遺体は先日、現地ダイバーによって回収、こちらに安置させていただいていますが、ご覧になりますか?」
「………はい」
「………お願いします」
その言葉に愛は立ち上がると、遺体のボディバッグが安置されている、工廠に案内する。
現在、新基地航空隊長として待命中の翼等、遺体回収班が敬礼して出迎える。
「まずは、岩崎三佐の御遺体です」
翼がそう言うと、ボディバッグのジッパーを下ろす。
ところどころ焼けているが、損傷は比較的少ないものだった。
数日間水の中に浸かり、少し膨張して更に大きくなっている遺体は、悠里夫人にとってはショックだっただろう。
「浩三さん………痛かったでしょう………辛かったでしょう……ご苦労さまでした」
悠里夫人は傍らに座り込み、涙をボロボロ流しながら、冷たくなっている岩崎三佐の遺体を撫で続けている。
それを見ながら、翼は勇次郎に向き直る。
「………笠原一尉の御遺体ですが、損傷が激しくご覧にならないほうが良いと思います。どうなさいますか?」
翼が問い掛けると、勇次郎は、
「大丈夫です。お願いします」
勇次郎の答えに、翼がボディバッグのジッパーを下ろす。
戦死直後でもズタズタに切り裂かれた聡美の身体は、更に原型を留めていないものになっていた。
愛ですら息を飲み、口に手を当てていた。
「聡美………聡美ぃぃぃぃ!!!!」
がくんと膝を突いて、変わり果てた恋人の姿を見た勇次郎は慟哭した。
案内した愛や翼も、涙していた。
「………もう大丈夫です」
悠里夫人が静かにボディバッグを閉めると、慟哭している勇次郎の側に行って、
「勇次郎さんでしたっけ……?葬儀の相談をしに戻りましょう……」
そう言って、ボディバッグを閉めると慟哭している勇次郎を立たせてから、愛の方を見て頷く。
「はい。戻りましょう……」
司令官執務室のソファで、漸く泣き止んだ勇次郎が、
「聡美ですが、施設の出身で天涯孤独なんです。ですから、ここ土佐に葬ってあげたいと思います」
そう意向を伝えた。
続いて悠里夫人も、
「私の両親は、自衛官との結婚に反対でした。それで家を出て来たので、実家には頼れません。それに浩三さんの遺言に、任地で埋葬されたい、と言うものがありました。叶えてあげたい、と思います」
小さいながらも芯の強い悠里夫人の言葉に、愛は頷いた。
「それでは、室戸鎮守府の合同葬と言う形でもよろしいですか?ご異存がお有りでしたら、日をずらして行いたいと思いますが……?」
二人は、首を横に振った。
二人や亡くなった薔薇の騎士団隊員の葬儀は、鎮守府合同葬となった。
中心に二人の遺影が飾られ、その周囲には戦死した陸戦隊員の遺影が飾られる。
各地から友人知人が詰め掛け、ホールを埋め尽くしていた。
健太は、デスペランを操っていた記憶がないながらも、出席を辞退した。
愛と燿子とリーヴェは、葬儀委員長という形で葬儀を取り仕切った。
――――――――
「車の準備できたわよ」
泰子の言葉に、三人の妊婦は立ち上がり車に向かう。
執務中の大塚三佐の「お気をつけて」と言う言葉を背に受けながら。
同行した、副官の花梨と三人はまず、岩崎三佐のお墓に立ち寄った。
そこには、悠里と勇次郎の姿があった。
「お久しぶりです。愛さん、皆さん」
「どうも、ご無沙汰しています」
埋葬地の問題で、岩崎の両親と大いに揉めて断絶状態になっていた悠里と、聡美と同じ施設を出て天涯孤独の勇次郎は、お互いを支え合ううちに、交際が始まっていた。
まだ交際半月と少しだが、まだお互いの傷を舐め合い、支え合う仲である。
ここ土佐の地に、アパートを借りて同居している。
岩崎三佐の遺児
「どうも、ご無沙汰してます」
「こんにちは」
「……」
愛と燿子は挨拶を返し、リーヴェは頭を下げた。
「しかし、話には聞いてましたけど、愛ちゃんも燿子ちゃんもリーヴェちゃんももう、ママの顔ですね?」
悠里が、愛達のお腹を撫でながらニコニコしている。
お腹に生命を宿した者は、霊子が強まる傾向にある。奪われない、と言うことはそう言うことなのだろうが、ここに居る人間で気づいている者は、誰もいない。
「そうですか?まだこの年の出産で、しかも深海棲艦とのハーフですから……」
「そうよね………」
「………私も初めてだから、心配」
「妊娠期間が1/5でしたっけ?そりゃあ、心配になりますとも。でも大丈夫、お医者様も初めてのケースだから、いつでも来てくださるんでしょう?
悠里の言葉に愛が頷く。
「わざわざそんな時に、聡美と浩三さんのお墓参りに、有難うございます」
勇次郎が、深々と頭を下げる。
「お二人共、この先どう生きて行くかは判りませんが、ご無理をしないでくださいね?」
「はい」
三人共、それぞれのお墓に線香をあげて、お酒の大好きだった笠原一尉にお酒を、甘い物の大好きだった岩崎三佐にお供え物用菓子をお供えすると、立ち上がる。
「確かこの霊園に、坂本将補のお墓もある、って聞いたんですけど?」
愛の質問に悠里が、
「はい、知ってますよ。案内しましょうか?」
そう言って、案内してくれる。
泰子は三人を気遣いながら歩き、勇次郎は浩乃を抱っこして一番後を従いて行く。
坂本将補の墓の前で、一人の女性と子供に出会った。
「笹野 愛さんですね?」
はっきりした言葉で、まっすぐ愛を見ていた。
「はい、笹野 愛特任二佐です」
深々と頭を下げると、その女性は頭を上げたところで、
「私は坂本竜兵の妻、
「もしかして、龍子さんの龍は……?」
「龍宮城の、龍です」
坂本将補は、本当に『坂本龍馬の生まれ変わり』だったのかもしれない。愛は、そう考えながら頷いた。
「ぼくは、坂本龍之介。小学四年生です」
「初めまして。笹野 愛って言います、《一応》中学一年生です」
「ええっ!?中一でもうママなの!?」
目をまん丸くする龍之介に、龍子はくすっと笑って、
「だから、パンチは駄目よ?」
そう言ってから、
「この子、いっつもあの人や郷里さんにパンチするものですから」
「女の子にはしないよ!」
「ふふ、ありがとうね」
そう説明する龍子に、龍之介は頬を膨らませる。そんな龍之介の頭を撫でる愛。
「隣には葵ちゃんも眠ってます。どうかお線香を上げてあげてください」
その為に、副官の花梨を連れて来たのだ。
花梨が持っていたお花を捧げると、お線香を灯す。
その様子を見ながら、龍子はポツリと語り出した。
「あの人は、大貫前総監からジレーネの存在を告げられていました。そして、反艦娘派の存在も。四国の大戦の指揮に出掛ける時、あの人は言っていました『坂本龍馬の跡を準ることになるかもしれない』……結果、暗殺されました」
「…………申し訳ありません……私の………」
「いいえ、愛ちゃん。貴女の責任じゃありません。こんな小さい子に、《そんなことを言わせるほどの責任》を負わせた連中と、前の選挙で落ちて行った人達のせいです。どうか、そこを誤らないでください」
「………はい」
「しかし、深海棲艦のハーフって、こんなにすぐに育つんですね?」
龍子がお腹をナデナデしながら笑みを向けると、自然と愛も笑みが浮かぶ。
そして同行していた泰子を見ると、若そうに見えるので、龍子は愛に訊いてみた。
「お母さんですか?」
「ええと、この子の父親のお母さんです。まだ20代で《祖母》になる予定です」
「あらあら、それは大変ですね?」
「そうなんですよ、それも三人」
苦笑いを浮かべる泰子に、龍子は一瞬目を丸くするも、笑みに戻る。
「この子達のダンナさんは、随分とモテるんですね。かくいうあの人も、艦娘にはモテていましたから……あの子達の事も、お願いしますね?」
「はいっ!」
元気良く答える愛に、龍子は笑みを浮かべ、
「またいつでも、お参りに来てあげてくださいね?」
そう言うと、辞去していった。
「それでは私達も……」
そう言うと、悠里と勇次郎も去って行った。
「さて、私達も帰りましょうか……?」
「そうね」
「うん………」
そう言うと、愛達も霊園を去って行った。
それから一時間位して、一人の男と七人の女性がやって来た。
羽佐間眞一郎陸准将補と、艦娘達と紗花である。
眞一郎は持っていた酒瓶を供えると、手を合わせてから墓前にどっかりと座り込んだ。
「よぉ、坂本。久しぶりの再会が墓石とは、人生分からんもんだなぁ」
そう言うと、ポケットからウィスキーのポケットボトルを取り出して、一気に飲み干す。
「白兵戦と銃剣道の試合138勝139敗。何れ、暇になったら再戦をしよう、と言っていたが、勝ち逃げはずるいじゃないか?それに、戦死するとしたら私のほうが先だと思っていたんだがなぁ」
『眞一郎!』
咎める嫁達の声を手で制すると、眞一郎は続ける。
「お前さんを死なせた連中は、排除されたよ。お前の言う《二度目の日本の夜明け》は迎えた。お前さんが、それを生きて見届けられなかったのは残念でしょうがないが……こうなったら仕方がないな。お前さんの分まで、150まで生きて孫や曾孫達に迷惑がられながら死んで行くとするか」
そう言うと、立ち上がって敬礼した。
その手が震えていることに、嫁達は気づいていた……
お題
・戦死者の墓参
・羽佐間一佐と坂本一佐(当時)の絡み。
(提供:toshi-tomiyamaさん)