「あー! やっと終わった!」
初日から書類仕事に忙殺された笹野 愛が大量の始末書に目を通し、全ての決裁書類を処理し終える頃には、1800を過ぎていた。
全部事務員妖精に放り投げているどこかの提督と違い、律儀に仕事をすると忙しい。
それが、初日に感じた彼女の感想だった。
「てーとく、おつかれさま」
事務員妖精さんが、決裁文書の束をファックスにセットして、大本営に送信する。
「お疲れ様です、提督」
「お疲れ様、愛ちゃん」
「あー、やっと終わったんだ」
三者三様の声を掛けるのは、花梨に健太に始末書の元凶である翼。
健太には、公式な場以外では「提督」や「司令官」と呼ぶのを禁じた。
何か他人行儀で嫌なのだ。
最後に、本日の業務報告を司令官コンピュータに入力し終える頃には、ビスマルクがノックもせずに入って来る。
「提督! 仕事は終わった?」
「はい、本日の業務は終了です」
「提督、私達艦娘に無理に敬語を使わなくてもいいわよ。貴女が上位者なんだから」
腰に手を当てて、ビシッと人差し指を立てるビスマルクに、愛は笑顔で返す。
「それじゃあ遠慮なく。ところで今日は食事会って聞いたけど?」
「そうよ! 提督の歓迎会よ!近くのレストランを借り切って、飲んで食べて騒ぐのよ!皆既にレストランに集合して、私がお迎えに来たのよ。何でも、今日の食事会は当番の守備隊以外全員参加で、スポンサーがいる、って事だから」
そのビスマルクの言葉に、翼が座っていた応接用ソファーからがたっと立ち上がった。
本当に、業務終了まで暇を持て余して終わったのだ。
「マジで!?いやあ、助かるなあ。食事券はビールやタバコに使い果たしちゃったし、減給処分の常連で今月もお財布ピンチなんだよね?」
食事券は、建前上ビールやお酒には使えない。だがコンビニではレジで通ってしまう為、そのまま食事券でのお買い物が罷り通る。社会の闇である。
そんな、ダメ人間翼をジト目で見る花梨。
「繰り返しますが、こんな大人になってはいけませんよ?」
「はーい、ところで……」
花梨に返事をしながら、愛はふと疑問に思ったことを口にした。
何ヶ月も、高菜二佐の許で名誉子供隊長をやっているだけあって、給料日も把握しているのだ。
「給料日は18日ですよね?」
「そうだよ?」
「今日は3月25日ですよね?」
「そうだよ?」
「もう給料ないんですか?」
「うん、ほら、デートってお金掛かるじゃない?明日からもやし焼きそば生活かな?近くのドラッグストアで二つで18円!それも無くなったら、陸戦隊員に奢ってもらうかな?お礼はするからー」
「えっ……?」
愛は絶句した。まだ給料日から七日しか経っていないのだ。
ビスマルクは、わざとらしく大きな溜め息を吐く。
「まあ、尉官官舎には狭いけどキッチンもあるし、自炊もできることはできるけど、何の為の食事券?って話よね。建前って言う便利な言葉がある、日本の悪い癖ね。食事券で酒や煙草は買えません、って明記されてるのにね。寮長としては、曹士のお手本にすらならないライフスタイルはどうか?と思うわ」
「そうだね」
ビスマルクの言葉に、愛は頷きながら同意した。
愛の母麻衣は、生活力も非常に高く、医師・主婦の二足の草鞋をきちんと履きこなしているのだ。
看護学校時代の父宗太郎を養って来ただけはある。
「給与の前借りは司令官の判断で、大本営に申請が可……」
「駄目です、前借りは借金です」
念の為に、前借りも『自由裁量』の一つだと、説明を始めた花梨を遮って却下する愛。
「……と言うことですので、諦めてください」
「そうね。提督が
「へいへい。ところで、スポンサーって誰なのさ?」
花梨とビスマルクの言葉を生返事で受け流した翼は、気持ちを切り替えながら人懐っこい笑みを向けると、
「高菜直哉二佐から、本日のお食事代をお預かりしております。余った分は提督のお小遣いとして渡してください、とのことです」
と花梨が答える。
愛は、遠く東北の地にいる師匠に、心の中でお礼をすると立ち上がり、制服の上着を羽織る。
「さあ、行きましょう」
業務用携帯のネックストラップを首から掛けて、ワイシャツの胸ポケットに仕舞い、引き出しから出したスマートフォンとゆるキャラの『ゆとりくま』のお財布を上着のポケットに押し込んで立ち上がると、皆で執務室を後にする。
鎮守府敷地の入り口詰め所で歩哨をしている、留守番部隊の陸戦隊員に敬礼しながら鎮守府の門を出ると、すぐそばにある近くのレストラン「洋食亭」に向かう。
カラン
扉を開けると、皆既に着席して待っている。
それぞれのテーブルには、料理が次々と従業員によって並べられており、入ると従業員の「いらっしゃいませ」という声が聞こえる。
「主役は一番上座にどうぞ」
ビスマルクが、空席になっている司令部幕僚達が座っているテーブルの、所謂お誕生日席に愛と健太を案内すると、自分は艦娘達のテーブルの席に腰掛ける。
花梨と翼も、司令部の面々が座っているテーブルに着席すると、従業員がドリンクの注文を取り始める。
皆の所にお酒や、ソフトドリンクが行き渡ったところで、先任順で次席幕僚の大塚一尉が乾杯の音頭を取る。
「それでは、司令官の着任を祝って」
『乾杯!!』
乾杯すると、一同飲み物を口にしてから、食事が始まる。
周囲を見ると、翼は早速男性陸戦隊員達と、酒盛りを始めている。
少数いる女性陸戦隊員は、女子会的な雰囲気で纏まっている。
「さて、と」
愛は、瓶ビールを片手に立ち上がる。
最初に大塚一尉のところに向かい、ビールを注ぐ。
「いや、提督……」
「はい、どうぞ。大塚一尉」
宗太郎の実家は、仙台の伊達一族系の家柄で、年末年始になると一族総出で集まるのだ。
そうなると、子供の役目は『大人達のお酌』なのだ。
所謂礼儀作法の一環で、年長者に気を使うよう躾けられている。
だが愛は、この場では『最高位者』であることを、すっかり忘れている。
大塚一尉は、ありがたく御酌されるとそれを飲んでから、ちらっと花梨を見る。
花梨は立ち上がると、愛の手からビール瓶をやんわりと取り上げる。
「提督、貴女はこの場では『最年少』ですが、『最高位』です。お酌は羽佐間三尉に任せて折角の着任祝い、主賓は楽しんでください」
「そうですよ、提督。貴方は主賓なのですから、お酌は小官にお任せください」
「はいっ」
愛は花梨に笑みを浮かべると、席に戻る。
「提督!」
「健太君、ここは無礼講ってやつだよ?」
「それじゃあ、愛ちゃん、これも、それも美味しそうだよ!!」
「あはは、そうだね」
料理の大皿に目を輝かせている健太に目を向ける愛に、早速どっさりと小皿に自分の分を取り分ける岩崎二尉が陽気に笑う。
「はっはっは、育ち盛りですから、しっかり食べるんですな。今日はおかわり自由の食べ放題らしいですからな」
「二尉は沢山食べられそうですね」
「いやあ、小官は自衛官か相撲取りかと小さい頃から言われていましたからな。小杉一尉もなかなかの大食漢と聞きましたな」
会話に上がっていた小杉一尉は、ローストビーフを山程取り分けながら答える。
「確かに。横須賀では夕食の後に、隊員クラブで飯を食うのがいつもの日課でしたね」
「えっ……そんなに大食いには見えないんですが……」
引き締まった体の小杉一尉と、岩崎二尉を見比べると首を傾げる。
「愛ちゃん、見比べたら岩崎二尉に失礼だよ」
「あっ、ごめんなさい」
愛にツッコミを入れる健太に、慌てて口に手を当てて謝る愛。
そんな二人に、幕僚達はどっと笑う。
「我々陸戦隊は、運動量が激しいから消費カロリーが多いんですよ。だから、食べないと体重が維持できないんですよ」
「小官も鍛えてますが、なかなか体重が落ちませんなぁ」
小杉一尉と岩崎二尉の言葉に、体重が気になるお年頃の愛は、
「陸戦隊の人達とトレーニングすれば、体重が減るのかなぁ?」
とぼそっと呟く。伸び盛りで、体重が少し増えているのが気になっているお年頃なのだ。
「いやいや、提督の年頃なら、まだしっかり食べたほうが良いですな。小官にも娘がおりますが、食が細くて好き嫌いが激しいせいか、体が弱くて家内も食べさせるのに手を焼いておりますからな」
そう、大塚一尉が遠い東京で実質母子家庭になっている娘のことを例に出しながら、「提督は好き嫌いはある方ですか?」等と付け加える。
「いえ、うちは母が医師、父が看護師なので、食育には厳しくて。栄養バランスの良い食事を摂るように躾けられていましたので」
「なるほど」
愛が答えると、岩崎二尉が相槌を打つ。
「うちの娘に、爪の垢を煎じて飲ませたいですな。それに聞く所によると、宮戸島では高菜二佐の下で空手と自衛隊格闘術を習っていたとか?」
「はい、今はもう四級になりました!」
「それは頼もしいですな。何なら、小杉一尉に空いてる時間に稽古を付けてもらうと良いですかな?」
「小官で良ければ、提督の指導を致しましょう」
「はい! よろしくお願いします!」
愛が幕僚達と会話を楽しんでいる間に、健太はちゃっかりと山盛りの料理を食べている。
「あら、健太君はまだ、色気より食い気なのですね?」
花梨が口元に手を当てて笑うと、それを見て愛もあははっと笑う。
それを見ながら、幕僚達も釣られて笑い声になる。
美味しい食事に夢中な健太は、まだそれに気づかず食事を堪能中である。
「もう、健太君ったら」
「ふぁい?」
口の中に物を詰め込んだまま、愛の顔を見る健太。
「取り敢えず、食べてから喋ろうね?」
「……うん」
もぐもぐと咀嚼して、飲み込んでから笑顔を向ける。
「育ち盛りの男の子はどんどんしっかり食べるんだね。どれ、おじさんがよそってあげよう」
岩崎二尉が、健太の手が届かない大皿の料理を小皿に沢山よそうと、健太の前に置く。
「わぁ、有り難うございます!」
「良かったね、健太君」
「うんっ!」
和やかな雰囲気の中、食事が進んで行く。
「提督! おじさん達のお相手もいいけど、指揮する私達とも親交を深めましょう!」
「はぁい」
ビスマルクがやって来て、愛の手を引いて誘うと、愛も笑顔で答えて従いて行く。
健太は女子の宴には加わらず、おじさん達と会話が盛り上がっている。半分食事に夢中だが。
花梨は、幕僚達のお酌をして回りながら、会話に加わっているようだ。
艦娘達の席にやって来ると、アイオワが、
「My Admiral、どうぞ」
空いている椅子を持って来て恭しく椅子を引くと、愛も腰掛ける。
「それじゃあ、改めて自己紹介するわね。私はビスマルク、この艦隊の旗艦で女子官舎寮長よ。実は、提督とは少しばかり縁があるのよ」
「どういうこと?」
「貴女のお師匠の高菜二佐……当時は三佐だったかしら?とは、連隊長公金横領事件の時に知り合ってね。私は、来日して日本に馴染むための研修、という形で仙台駐屯地に居たのよ。そこで発生した公金横領事件で、高菜二佐と共に事件解決に動いたって訳。まあ、その後高菜提督は妖精が見えることが判明して、奪還した宮戸島に行っちゃって、私も横須賀の第11艦隊に出向配属になってしまったから、それっきりだけど」
「そうなんだぁ、高菜二佐と知り合いだったんだね?」
「そうよ。まあ、軍人っぽくない変わり者の自衛官、って印象だったわね。まぁ、いろいろ大変だと思うけど、一緒に頑張りましょうね?」
「うん!」
ビスマルクの自己紹介が終わると、ビールの入ったグラスを片手に、アイオワが続いて自己紹介する。
「Meはアイオワ、沖縄の在日米軍からの出向よ! ”Miyatozima's Miracle” Admiral Takanaの一番弟子だと聞いているわ」
「戦術はまだ勉強中だけどね……」
「大丈夫よ!艦隊運用のExpertがいるから、Tacticsは追い追い勉強して行けばいいわ!」
「ビスマルクさんに頼りっきりにならないように、私も勉強しないと」
「それもImportanceだけど、Schoolのお勉強もしっかりしないとね! EnglishはMeがLectureするわね!」
「うんっ!」
その様子を微笑ましく見ていた鳳翔が、飲んでいた日本酒の徳利を置くと、
「私は軽空母鳳翔。横須賀の第13艦隊から、硫黄島駐留艦隊副旗艦を経て配属になりました。先任伍長……つまりは曹の艦娘の纏め役として、この艦隊の航空戦力をお預かりさせていただきます。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「うん、よろしく。何と言うか……鳳翔さんは物静かと言うか、お母さんみたいと言うか……」
「まぁ……」
そんな愛に、うふふっと笑う鳳翔。
続けて、伊勢が自己紹介を始める。
「改装航空母艦、伊勢です。東京のお台場鎮守府副旗艦でした」
「よろしくね!ところで、伊勢さんは戦艦だって聞いてたけど、今『改装』航空母艦と」
「あぁ。私は、艦戦・艦爆を搭載できる、航空戦艦なんです」
「なるほど。砲撃と艦載機運用同時に出来る、ってことでいいのかな?」
「えぇ」
「了解。頑張って、上手く使いこなせられるようにするね」
「頑張ってね」
ぐっと手を握って気合いを入れる愛に、頭を撫でる仕草をしながら微笑む伊勢。
「そんじゃ、テートク。私が北上。で、こっちが大井っち。よろー」
「提督も北上さんに手を出したら魚雷を……」
割と大雑把な自己紹介と、序に大井も紹介する北上に、やはり威嚇する大井。それに愛は反論する。
「しないよ!大事な仲間にそんな!!私が手を出したのは、健太君だけだよ!」
「わぉ、情熱的」
「そ、それならいいけど、ちょっと早過ぎないかしら?」
反論ついでに、つい手を出した宣言をしてしまい、愛は少し顔を赤らめ、北上は面白い子だと笑い、大井は苦笑いを浮かべる。
「だって、しょうがないじゃない!高菜二佐が私達の隣の部屋でおっ始めるんだから!聞こえて来ちゃったら眠れないじゃない!私だってそういうことに興味ある年頃だし、その……初めては健太君と!って思ってたから!」
「分かった、解ったからそう怒らないで。提督が健太君ラヴなのは、十~分に伝わったから」
顔を真っ赤にして、涙目で少し怒って力説する愛に、苦笑いのまま両手を上げて降参のポーズをする大井。
「大井っちと私はね、広島鎮守府に居たんだけど、そこの提督がセクハラが酷くってね。それで二人共転属願いを出したら、ここに来たんだよね」
「そうよ。私はともかく、北上さんのお尻を何度も触ったり、偶然を装って胸を揉んだり、お風呂を覗いたり、下着を盗んでクンカクンカしたり。私がしたいくらいなのに!」
「こらこら。大井っちは、愛情がたまに変な方向に向くんだよね。それに、セクハラされる度に、汚れた提督の触った部分を清めます、って大井っちが触って来るんだよね。大井っちなら別にいいんだけど」
「それもただのセクハラじゃん」
愛が呆れたようにツッコミを入れると、大井が反論する。
「いいえ、愛情表現です!それに北上さんもいい、って言ってます!」
「まあ、北上さんが良いって言ってるなら……それにしても、北上さんの事大好きなんだね?」
「もちろん!私、北上さんの為なら何だって出来ます!」
はあはあと、息を荒らげると力説すると、北上をぎゅっと抱き寄せる大井。
そんな二人を、艦娘達も愛も生暖か~く見守っている。
「いいなあ。私も、健太君にここまでしてもらいたいなぁ」
「ケンタはShy Boyなのかしら?」
そんな愛のボヤキに、アイオワも会話に乗っかって来る。
「シャイじゃないと思うんだけど……大井みたいに、人前でしたりすることはないかな?手を繋ぐのも、顔を赤くしちゃってるし」
ちらっと健太を見ると、健太は絶賛お食事中であり、やはりまだ色気より食い気らしい。
「ヘタレね」
「まあまあ、大井っちほどオープンなのは……ねぇ?」
「だね」
ジト目で、一生懸命お食事中の健太を見る大井に、苦笑いを浮かべる北上と愛。
「まあ、恋愛は大いに結構だけど、間違っても男子官舎への侵入だけはやめなさいよね。子羊が狼の群れに飛び込むようなものよ。……まぁ、司令官に手を出すアホはいないと思うけど?」
一応釘を刺すことは忘れない、寮長であるビスマルク。
伊勢と鳳翔は、そんな賑やかな皆を見守るポジションに就いている。
「そうよ!健太が司令官官舎に来ればいいのよ! 健太、司令官付ってことは従卒でしょ!? 提督が健太を部屋に招き入れればいいのよ。従卒が司令官の部屋に入ることは、別におかしくとも何ともないじゃない?」
「それは、大塚一尉からも言われたんだけど……羽目を外すな、って言われちゃって」
「ほら。たまにはイチャつかないと、翼二尉辺りに取られちゃうわよ?」
大井はガンガン愛を煽っている。愛も一瞬、翼の魅力にメロメロにされる健太を想像して……ブンブンと首を振って。
「そんなことはさせない!絶対に!翼さんなんかに、健太君は渡さない!」
テーブルをドンッと叩いて立ち上がると、全員の視線が集中する。
「愛ちゃん、どうしたの?」
「あはは、何でもないよ」
脳天気な健太が訊いて来るのを見て、愛は笑いながら誤魔化す。ビスマルクとアイオワと大井は、溜め息を吐く。
愛がすごすごと座ると、またそれぞれの祝宴が再開する。
「でも、健太さんは提督のことが好きでお付き合いしているんですから、そう心配はないのではないでしょうか?」
鳳翔が、ニコニコと口を挟む。
「でも、浜松での一件以来、神谷二佐の一件とかがあったり、湊子様と高菜二佐のお兄さんの結婚のあれこれで、マスコミが来たりしてドタバタだったりで、何もなくって……」
顔を赤らめながら指をツンツンさせる愛に、ビールを飲み干した伊勢も、恋愛話に参戦する。
「女の子の方が、先に思春期が来るから、健太君はまだ恋愛も勉強中、ってところじゃないか?と思うのよ」
「そっかぁ……そうだよね……」
はぁ、と大きな溜め息を吐いて、ちらっと健太を見る愛。
「まあ、アタックを続けていれば、私みたいに北上さんに振り向いてもらえるんですから、諦めちゃ駄目よ?」
「あー、うん。胸は触る、お尻は擦る、部屋には侵入する、お風呂は覗く、下着は盗む、その他諸々のストーキング行為の末に……だけどね?」
「北上さん!それじゃまるで、私が凶悪なストーカーみたいじゃないですか!」
「いや、酷いストーカーそのものだと思うな。私が大井っちのことが好きじゃなかったら、足立一佐に連れてってもらってもおかしくない案件だと思うよ?」
大井のストーキング行為を暴露しながらも、満更でもない顔をする北上に、愛も笑みが零れる。
「じゃあ、最初から両思いだってことなんだね? いいなぁ……」
「提督だって、健太と両思いなんでしょう?今どきは、女の子の方から『欲しい』って言ったって良いのよ?」
「こらこら。まだ女子中学生カッコカリの女の子を扇動しない」
ポツッと漏らす愛を、更にガンガン煽る大井。そして、それにツッコミを入れる北上。
その後も、艦娘達と恋愛話で盛り上がった。
「ところで、提督官舎ってもう既にご覧になったんですか?」
「うん、隣の部屋だから休憩がてら見に行ったけど、あんなに広くて良いのかな?って。寝室と書斎はあるし、ダイニングも付いてるし、お風呂もトイレも専用のが付いてて。ベッドも、多分ダブルくらい大きかった……」
愛は、鳳翔にコクリと頷きながら答える。
健太と二人で、休憩がてら中の様子を見て回ったのだ。
家具は既に配置がされており、愛が送った荷物入りのダンボールや衣服等が入っている収納も、部屋に届いている。
そして、副官である花梨が愛の許可を得て、荷解きをしてせっせと片付けてくれたのだ。
「それじゃあ、早速健太を連れ込んで……」
「こらこら。だから煽るんじゃないって」
「寮長としては、程々にしなさい、としか言えないわ」
「Oh! HotなNightになりそうね!」
「あらあら……」
「自分の身体を大事にすることを、しっかり考えればいいと思うわ。もう経験済みだったら」
やっぱり煽る大井を、諌める北上。そんな二人を見ながら、愛に諭すように言うビスマルク。
自分のことのように楽しそうなアイオワ、それを見て笑みを零す鳳翔、愛のことを気にかけ、年長者の意見を言う伊勢。
「電さんから色々教えてもらいましたし、大丈夫です」
今日は健太と一緒に寝ようかな?と考えながら、そろそろお開きにしよう、と考えていたところだった。
トゥルルルルル……
胸ポケットに入っている、業務用携帯が鳴り響く。
「はい、もしもし、こちら司令部」
『提督、お楽しみ中申し訳ありません。笠原です。哨戒中の艦娘より連絡、ル級を旗艦とした空母打撃艦隊がこちらへ向かっている模様です』
電話の相手は、今日の留守部隊責任者で、陸戦隊副隊長の笠原聡美三尉である。
「分かりました、すぐ戻ります!」
電話を切ると、愛は立ち上がった。
「提督、どうしたの?」
ビスマルクの問い掛けに、笑顔を消した愛が、
「敵襲です。ル級を旗艦とした艦隊がこちらに向かっています。敵は空母打撃艦隊です。すぐに戻りましょう。大塚一尉、室戸市役所に連絡してJアラートを」
「了解しました」
大塚一尉は立ち上がると敬礼し、携帯電話を取り出しながら店を出て行く。
「岩崎二尉、笠原三尉と協力して、周辺の民間人の避難準備をお願いします!」
「了解!」
岩崎二尉は立ち上がると、すぐに店を出て行く。
「小杉一尉、陸戦隊の臨戦体制での配備をお願いします!」
「了解です。お前達、すぐに臨戦体制だ!」
『了解!』
「おー!」
小杉一尉と陸戦隊と何故か翼も立ち上がり、レストランを出て行く。
「羽佐間三尉、指揮艦の操縦をお願いします」
「えっ、では……?」
「はい。陸上に被害を出さない為にも、こちらから洋上に打って出て、直接戦場を見ながら指揮を執り……先制攻撃を仕掛けます。私の初陣です!」
『はいっ!』
その言葉に、艦娘達と健太も立ち上がった。
こっちは月2~4前後の頻度で仕上げたいと思います。