中学生提督日記   作:SAMICO

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今回の主役は名もなき艦娘たちです。


艦娘たちの猛特訓

時は少し遡り、九月頭になる。

 

土佐鎮守府では、会議が開かれていた。

 

「如何にして、再編された鎮守府の練度を上げるか?本日の議題はこれです」

 

これはジレーネ戦争以降、暇を持て余したレ級達が、害獣達を始末してしまった為、

今度は、DSビーストの流出と残存深海棲艦の多い、東北北海道エリアの方が前線になってしまった為である。

ただ愛は、第二・第三のジレーネやその他脅威に対応する為に、練度を上げる必要があった。

そこで、七原将補の提案通りジェニファー達深海棲艦に任せて、各鎮守府を襲ってもらったのだが、そこに一つの誤算が生じていた。

 

「はいはいはい。今までどおり、アタシ等が抜き打ち試験するんじゃ駄目なの?」

 

レ級が手を上げると、愛は大きな溜め息を吐いた。

 

「七原式訓練法、つまりは海賊を装って各鎮守府を襲うまでは良かったんです。が、レーちゃん(レ級)がやり過ぎて、司令官の心までへし折って、その……既に三人ほど精神科に入院してまして……」

 

「何だ、ボコボコにして裸にひん剥いて、あんなことやこんなことやそんなことや色々しただけじゃん?」

「十分やり過ぎよ!」

 

暁が、模擬弾でボコボコにした新米艦娘達に説教をしている間に、そんなことを平然としているレ級に、暁がツッコミを入れて、愛は大きな溜め息を吐いた。

 

「と言う訳で、第二艦隊は以後、お使い任務に専念してもらいます」

「えーっ、やだよ。戦闘したい、虐殺したい!アイラブデストローイ!」

 

駄々っ子のように駄々をこねるレ級に、愛はニコニコと笑みを向ける。

 

「いやあ。()使()()と言っても、北極海と南極近海に出現しているビーストハンティングも、お仕事のうちですよ。ケッコンカッコカリリング待ちの提督もまだいますから」

「マジで!?やるやる!DSタイラントレギレクスも殺っちゃう!何なら、極最上位のDSウルトラトレイドンも頑張る!!」

「良いから座りなさい、OK?」

「マム、イエスマム」

「よろしい」

 

ガタッと立ち上がると、大燥ぎするレ級。

根っからの戦闘狂である。

それにツッコミを入れる暁。暁とレ級はボケとツッコミで仲良くなって、レ級も暁の言うことは聞いている。

レ級が、暁の寝床を襲って()()()()()()になった為、お互いにケッコンカッコカリリングを着けている。

その結果、暁の霊子は極限まで増大して、駆逐艦ならぬ()()()と化している。

 

「と言う訳で、ビスマルク達と翼さんの航空隊、郷里二佐の陸戦隊で海賊行為を働いてもらいますが、何か名称が必要でしょう?」

 

その愛の言葉に、真っ先に手を上げたのがレ級である。

 

「ビスマルクと愉快な海賊達」

「却下!私ってバレバレじゃない!嫌よ、そんなの!!」

 

その名称を、ビスマルクが却下する。

 

「それじゃあ、著作権侵害(海賊)王と仲間達」

「何ですか?その再翻訳したようなふざけた名前。もっと真面目に考えてください、却下」

 

レ級が第二案を提案するが、愛が却下する。

 

その次に手を上げたのが、翼である。

「はいはい、『パイレーツ・オブ・カリビアンコム』」

 

その言葉に、ブハッとコーヒーを噴き出したのは、郷里二佐・小杉三佐である。

副官の花梨は、その夫の反応を見て、バンっと机を叩く。

 

「剛さん、不潔です!私に何か不満でもあるんですか!?私じゃ色気がないんですか!?」

「い、いや…………その…………」

 

郷里二佐がしどろもどろになる。

その反応に、翼とレ級がニヤニヤする。

 

「あれぇ、花梨ちゃん?何で知ってるんだろぉ?」

「そうだそうだ、ムッツリスケベ」

「っ!!!!!」

 

その二人の煽りに、顔を真っ赤にして肩をワナワナと震わせる花梨。

 

「その、カリビアンコムとやらは何ですか?」

「ああ、こういうサイトだよ」

 

翼が愛の所に来てサイトを開くと、愛の顔も真っ赤になる。

 

「エロサイトじゃないですか!?て言うか、モザイク掛かってない!?」

「うん、掛かってないわよ。全部丸見えね」

「そうだね。でも、愛と燿子のアソコのほうが綺麗だ。何かグロくて汚いね」

 

愛のツッコミに、冷静なのが次席副官の燿子で、天然の健太がとんでもない発言をする。

 

「あのね健太、そういう事は言わなくていいから?」

「そうよ。喜んで良いのか恥ずかしがって良いのか、判らないじゃない?」

 

顔を赤らめた二人がツッコミを入れ終わると、翼は席に戻る。

 

「と言う訳で、その名称は品がなさすぎるので却下です。翼さんは、後で始末書を提出すること」

「ですよねぇ」

 

翼の苦笑いに、全員が頷く。

 

「そうね、鉄血海賊団はどうかしら?」

鉄血宰相ビスマルクから取った名前を、ビスマルクが披露する。

 

「いいですね」

「かっこいい感じだね」

 

愛とレ級が賛成すると、全員が頷いた。

こうして、鉄血海賊団が結成された。

 

そして、海賊らしく金品を強奪しては、後日愛が「鉄血海賊団」名義で宅配便で送り返すのだ。

悪乗りした、大井北上のカップルとアイオワが、司令官の私物まで奪うからである。

 

最初は、愛自らが届けに行っていたが、安芸鎮守府を急襲した際、司令官の私物を返却に行ったら泣かれてしまったからである。

そりゃあそうである。秘蔵のH本やビデオを、うら若き少女が返しに来たのだ。

いい年の男にとっては、最大の恥辱である。

それ以来、宅配便(着払い)で送り返すことにしたのだ。

 

――――――――

そして時は流れて、10月中旬になった。

 

郷里二佐は、海賊団から解任された。

郷里二佐に、暇を持て余したレ級達が、ビーストハンティングで獲得した(グリズリー)級霊子結晶を与え捲った上に、明石のアルティメットいなづまちゃん細胞を移植したのだ。

 

その結果、身長は2m20㎝、そしてその肉体は、5.56㎜弾なら、筋肉で止めて自己修復する、と言う人間から懸け離れた()()になってしまった。

最早人外、漫画やアニメの住人である。もしも、範馬勇次郎がこの世界にいたら、タメ張れるかもしれない。

そんな訳で、郷里二佐はもう一人一個連隊状態(こいつ一人で良いんじゃないか)になってしまったので、海賊団陸戦隊長の任務は小杉三佐が引き継いだ。

 

更に、それに一番迷惑しているのは花梨である。

元から激しかった夜の生活が一段と激しくなって、花梨が気を失うことも多々あった。

 

そしてレ級は、更に冗談でG級霊子結晶を花梨に与えた結果、いきなり臨月まで一気に赤ちゃんが成長してしまったのだ。

一気に赤ちゃんの成長が来た為、あまりの激痛と霊子不足に気を失ってしまい、大騒ぎになった。

慌てて、レ級が口移しで霊子を与えて事なきを得たが、レ級達はまず愛達から大説教を食らう羽目になった。

 

「何てことしてくれやがったんですか!?」

「い、いやあ。まさか、こんなことになるとは思わなかったんだよ」

 

愛の後に、燿子と健太と花梨からのお叱りである。

 

「馬鹿なのあんた!?」

「何かあったらどうするつもりだったんだ!?」

「本当に死ぬかと思いました!」

 

その後、郷里大魔王がやって来てガシッとワンハンドでレ級の頭を捕まえて、

 

「レ級、ゆっくり話をしようではないか?」

 

と連行され、そのアイアンクロー宙吊りの状態で、数時間の説教に及んだことは言うまでもない。

 

と言う訳で、それから数日で花梨はもう出産に漕ぎ着け、男女の双子の赤ちゃんを出産した。

入籍は、足立秋也が警務隊長就任前後に果たしていたものの、結婚式より()()出産をしてしまったのである。

 

出産の連絡に、父の眞一郎と継母の紗花は、急遽駆け付けてくれた。

そう、花梨は復讐を果たしたのだ。双子を見せ付けて……

 

「あんたの孫達ですよ、()()()()()()

 

勝ち誇ったようなその笑顔に、二人は笑みを浮かべて祝福した。

 

「ふふ、おめでとう」

「おめでとうございます、花梨さん」

「私はともかく、紗花は19でお祖母ちゃんか。しかも加速とは…………霊子と言うのは、不思議なものだな」

 

その指摘に、花梨はハッとして申し訳無さそうな顔をする。

眞一郎の()()()以外はとっても優しい紗花は、それにニコニコ笑顔を浮かべる。

 

「あっ……そうでした。すみませんでした、無神経なことを言って」

「うふふ、それもいいじゃないですか、眞一郎、花梨さん」

「いやはや申し訳ない……」

 

そんな二人に、恐縮しているのが郷里二佐である。

眞一郎は次は紗花の番だな、と紗花のお腹を擦りながら、笑っている。

「予定日は一月ですから、お正月に生まれたりするかもしれないですね、うふふ」

 

名前は、眞一郎と郷里二佐の提案で、亡くなった坂本竜兵将補と大葉 葵一尉から一字づつ取って「竜馬(りょうま)」と「向日葵(ひまり)」と名付けた。

 

もちろん、()()()新生児である。おそらく剛の遺伝子は多分に入っていそうだが。

そんな訳で、花梨は育児休暇に入り、現在副官の任務は燿子が代行している。

郷里二佐も育児休暇を取得して、二人で赤ちゃんのお世話に掛かりっきりである。

 

結婚披露宴も、挙行することに決まった。

当初は、一年は喪に服したい、と言う意向だったが、出産までしてしまって、相談した相手の坂本龍子の、

 

「夫に遠慮せず、早く式をなさいませ!竜兵も天国で焦れったくお思いでしょう」

 

と言う後押しもあり、皆の意見でクリスマスイヴに挙行することになった。

 

「クリスマスにWeddingは、USAではよくあることよ」

「それ、すごい素敵です」

「クリスマスウエディングで行きましょう」

 

と言うアイオワの意見に、愛と花梨がノリノリだったのが決定打である。

紗花にも電話で相談したが、お医者さんから許可を貰って是非行きます、とのことだった。

もちろん、岩沼と宮戸島の愉快な仲間達も、祝福に駆け付けてくれる、とのことだった。

 

――――――――

 

そんなある日、海賊団が横行している中。旧土佐鎮守府の艦娘達が久々に再集合した。

天城以下、葛城、サラトガ、川内、那珂、秋月が再結集したのだ。

全員、海上自衛隊の制服に身を包んだ司令官兼任艦娘で、全員三佐である。

 

「鉄血海賊団が各地で暴れ回っていますね」

 

天城が、大きな溜め息を吐いて話を切り出す。

 

「模擬弾で艦娘を陸地に送り返して、陸戦隊が強行突入して司令官の私物を強奪しては宅配便で送り返す、と言う手口……土佐鎮守府ね。愛ちゃんの『ごめんなさい、アレ見ちゃいました』って手紙付きで……」

 

先日被害に遭った、四万十鎮守府司令官サラトガが大きな溜め息を吐く。普通に海賊姿ではあるが、リーヴェ・サーカスを惜し気もなく披露しているのと、陸戦隊に小杉三佐が居る為、バレバレなのだ。

アレとは、もちろん女性向けのBL本(18禁)である。

 

「那珂ちゃんなんか、自作のミュージックDVDを強奪された挙げ句に、勝手にMeTubeにアップされたんだよ!もう「恋の2-4-11」のMVなんか、50万再生超えちゃったよ!嬉しい悲鳴だよ!晒されたツイッターやインスタもフォロワー爆増だよ!メジャーデビューのオファー来ちゃったよ!今冬のコミケでDVD委託販売決まっちゃったよ!嬉しい悲鳴過ぎるよ!何てことをしてくれたんだよ!?」

 

那珂ちゃんは、喜んでるのか憤慨してるのか判らない。

因みに、愛は収益化しないでアップロードしている。SNSアカウントも、押収したパソコンからアカウントを確認して、動画ページに張ったのである。

コミケは、愛の師匠の同期の元部下の旦那(要するに曙の旦那)のサークルから、手を回してもらった。

その後、那珂ちゃんは艦隊のアイドルから本当のアイドルになるのだが、まだまだもう少し先の話である。

 

「と言う訳で、新規艦娘の教導をどうするか、だね?」

「そうですね」

 

川内が切り出して、秋月が同意する。

 

「やはり、連合演習をするしかないわね」

 

葛城が最後に言うと、全員が同意した。

 

――――――――

 

「整列!!」

『はーい』

 

サラトガの友人の、在日米軍海兵隊教官のハートワン軍曹が、沖縄から招聘された。

ハートワン軍曹の号令に、新規艦娘達は緩やかに整列する。

その瞬間、ハートワン軍曹はブチ切れた。激怒した。

 

「何だこのザマは!?貴様等それでも艦娘か!?この腐れビッチが!」

 

ハートワン軍曹の怒声に、艦娘達は怯え竦む。

 

「良いか、ビッチ共!話し掛けられたとき以外は口を開くな。口でクソたれる前と後に、“サーあるいはマム”と言え。分かったか、ビッチ共!?」

『サーイエスサー』

 

怯えながら小さい声で返す様子に、ハートワン軍曹は更に激怒した。

 

「声が小さい!クソ***共!」

『サー!イエス!サー!』

 

埠頭を右往左往しながら、拡声器でハートワン軍曹の演説が始まる。

その度に、艦娘達も大きな声で返す。

 

「貴様等ビッチ共が俺の訓練に生き残れたら、各艦娘が兵器となる。戦争に祈りを捧げる死の司祭だ。その日までは貴様等は艦娘ですらない。地球上で最下等だ。イ級以下の物体だ!イ級の足元にも及ばないゴミだ!このクソ***共!」

『サー!イエス!サー!』

 

「陸に上がれ!今の貴様等に、海に出る資格はない!海賊ごときにやられおって!」

『サー!イエス!サー!』

 

艦娘達が、次々と陸に上がって整列する。

 

「いいか?俺は厳しいが公平だ。艦種差別は許さん。駆逐艦、巡洋艦、空母、戦艦いろいろいるが、おれは見下さん。全て平等に価値はない!」

『サー!イエス!サー!』

 

「では、早速ランニングだ、走れ!走って走り続けろ!脱落者は置いて行く。そしたら自分で帰るんだ、帰ってF**Kでもしてろビッチ共!」

『サー!イエス!サー!』

 

こうして、基礎練習が始まった。

 

ハートワン軍曹は、とにかく素体の練度向上の為に、ランニングばかりを課した。

もちろん、旧土佐の艦娘達も最後尾から脱落者が出ないように追い駆ける。

もちろんハートワン軍曹も、艦娘相手に横で並走している。

この訓練の為に、霊子結晶を沢山取り込んでいるのだ。

 

「遅いぞ!ビッチ共!手を抜くな!」

『サー!イエス!サー!』

 

艦娘達は、毎日ヘトヘトでぐったりしている。

練度の高い土佐鎮守府の面々は、郷里二佐の猛訓練で慣れっこである。

 

次に、埠頭に特設した訓練設備で体幹トレーニングが始まる。要するに、高難易度アスレチックである。

「進め進め進め!!」

『サー!イエス!サー!』

 

もちろん、ムチばかりではない。

訓練が終わると、ハートワン軍曹は途端に優しくなる。

 

「ビッチ共!間宮アイスだ!整列して受け取れ!」

『サー!イエス!サー!』

 

あまり器用な人間ではない為、口調は厳しいが顔はしかめっ面ではなく、ニカッと笑顔である。

那珂ちゃん曰く、そっちはそっちで怖い、とのことである。

 

そして教官に、暇を持て余したレ級と暁が加わった。

「アヒャヒャヒャ、この雑魚が!もっと走れ!!」

『マム!イエス!マム!』

「遅いわよ!この私の後ろの子はアイス抜きよ!」

『マム!イエス!マム!』

「クソッタレ深海棲艦とチビ艦娘に馬鹿にされて、悔しくないか!?もっと速度上げろ!声出せ!」

『サー!イエス!サー!』

「誰がチビよ!言ってみなさい!私のこと!?」

『マム!ノー!マム!』

 

チビ呼ばわりされてブチ切れた暁には、艦娘達も恐怖でノーと答えるしかなかった。

 

厳しい厳しい厳しい猛特訓は一ヶ月続き、11月半ばになった。

 

艦娘達は、漸く海に出ることを許された。

そして、旧土佐鎮守府艦娘達の出番である。

ハートワン軍曹は、埠頭から艦娘達の訓練を監督している。しかめっ面で腕を組んで。

 

逃げ回る、旧土佐鎮守府の艦娘達を追い回して、ペイント弾を当てる訓練である。

 

「あっ、身体が軽い……」

「艤装が重くない……」

 

この訓練の()()を、漸く実感した艦娘達だった。

この一ヶ月の厳しい猛特訓で、練度が向上していた艦娘達は揃って改装を受けていた。

 

それでも、ケッコンリングを付けた艦娘達にペイント弾を当てること無く、日々が過ぎて行く。

司令官が亡くなっても、そのリングは永遠なのである。

 

「もっとしっかりなさい!」

『マム!イエス!マム!』

痺れを切らした天城が、怒声を放つ。

 

「この那珂ちゃんに当てられないなんて、皆努力が足りないよ!」

『マム!イエス!マム!』

「足りぬ足りぬは工夫と努力が足りぬ!」

『マム!イエス!マム!』

 

那珂と川内も罵声を浴びせる。

猛特訓は続いていた。

 

「キャハハハ!遅い遅い!この雑魚め!」

『マム!イエス!マム!』

 

レ級も、挑発しながら追い回されている。

 

「遅い!全然レディじゃないわね!」

『マム!イエス!マム!』

 

いつものレディ理論だが、暁も叱咤激励する。

 

ハートワン軍曹は、ここからはただ見守るだけである。

いつものしかめっ面で、何も言わない。

逆にそれが怖いのだ。

 

艦娘達も、対抗心をメラメラと燃やして、必死で葛城達を追い回す。

自然と、クロスファイアを狙うようになっていた。

だが、リーヴェ・サーカスの完成度が低く、突破されてしまう。

 

「遅い!連携が甘い!低速空母に当てられないで、何が駆逐艦よ!?」

『マム!イエス!マム!』

 

いくら艦載機を全部おろしているとは言え、低速の空母である葛城に罵声を浴びせられると、対抗心がどんどん燃え上がって行く。

 

「くっ、今度こそ当ててやる!」

 

駆逐艦の一人が高速で追い縋って、那珂に着弾予測をして撃ち込んだ。

 

「ぎゃん!顔はやめて!」

 

那珂ちゃんの顔面に、ペイント弾が着弾したのだ。

 

「よし!そこのビッチ!お前は今日から艦娘だ、訓練を終了してよし!―――よくやった!」

「サー!イエス!サー!」

「とでも言うと思ったか!?お前も逃げる側に回れ!」

「サー!イエス!サー!」

 

一人、また一人と、逃げる側に回って行く。

 

 

そして、レ級は飽きたようで、何処かに行ってしまった。

最後の一人が、那珂ちゃんの顔面にペイントを撃ち込んだところで訓練が終了する……筈だった。

 

「皆、DSレギレクス連れて来ちゃった♪」

『マム!イエス!……え゛!?」

 

と、レ級が笑みを浮かべて戻って来なかったら……

 

レ級の後ろから、恐竜のような大きな怪獣が追い掛けて来ている。

DSタイラントレギレクス級よりは小柄だが、こいつもグリズリー級を超える化物である。

「じ、実弾装填!」

天城が、実弾装填を命令するとハートワン軍曹が、

「教導艦は手を出さず、大破艦回収に専念せよ!」

との指示で、艦娘達に任せることにした。

 

突進して来るDSレギレクスから、駆逐艦隊が必死で逃げ回り、それを巡洋艦や戦艦が追い縋って実弾を放つ。

駆逐艦は逃げるのが早くなっており、体が軽く怖いとは言え、DSレギレクスの突進を何とか追い着かれない距離で保っている。

巡洋艦娘や戦艦娘は、着弾予測で狙ったところに面白いほどに当たる。

 

「グオオオオオオ!!!」

DSレギレクスは、ドスドスドスと尻尾を振り回す。

 

その攻撃に逃げ遅れた駆逐艦を中心に、大破艦は出てしまう。

説教しながら、大破艦を陸に戻すのが、教導艦の役目である。

 

「キャハハ、雑魚め。ゆっくり治療してやるから覚悟しな」

 

レ級に回収される艦娘が、一番()()()()刺さる。

 

空母艦娘は、絨毯爆撃で後方から支援する。

たまに誤爆するが、それは仕方がない、と言うべきだろう。

まだ、宮城の精鋭には程遠いのだ。

とにかく、駆逐艦が惹き付けている間に砲撃・爆撃する、と言う方法でどんどんDSレギレクスを弱らせて行く。

そしてトドメは、全員でのリーヴェ・サーカスである。

クロスファイアポイントに追い込んで、駆逐艦娘を含めた集中砲火を浴びせる。

DSレギレクスは、

 

「グオオオオオオオ!!」

 

と断末魔の叫びを上げて、その巨体を横たわらせる。

 

「おお、マジで殺っちゃったよ」

 

レ級が感嘆の声を漏らすと、艦娘達は全員、

 

『やったぁぁぁぁ!!!』

 

と歓喜の声を上げる。

 

「全員、陸に上がって整列!」

 

ハートワン軍曹が拡声器で怒鳴ると、艦娘達は顔をキリッとさせて、陸に上がって整列する。

 

「本日を以て、貴様等はビッチを卒業する。本日から、貴様等は艦娘である。艦娘達は姉妹だ。貴様等は沈むその日まで姉妹だ。―――よくやった!貴様等は最高の艦娘(オンナ)だ!」

『サー!イエス!サー!』

 

「ハートワン軍曹殿に敬礼!」

 

最初にペイント弾を当てた艦娘が号令を掛けると、全員一斉に敬礼する。

 

『ありがとうございました!』

「うむ!私は満足だ、満足してアメリカに帰る。そしたら退役だ」

『退役なさるのですか!?』

「うむ、貴様等の訓練で体はボロボロ。霊子結晶で無理をしたが、もう限界だ」

 

ハートワン軍曹は艦娘の教導に、軍人生命を()()()()賭けていたのだ。

郷里二佐と違い、アルティメットいなづまちゃん細胞のないハートワン軍曹は、ランニングやその他の訓練の教導で、無理に無理を重ねていたのだ。

 

『そんな……!』

「悲しそうな顔をするな、海兵は死ぬ。死ぬ為に存在している。私も例外ではない。ただ喜ばしいのは、ベッドの上で死ねることだ」

 

そう言って、ハートワン軍曹は四国を去って行った。

その後、沖縄の病院で心不全で亡くなった、と知らされたのは、12月に入ってからのことになる。

最後の言葉は、

 

「私が愛した日本で死ねる。それはそれで幸せなことだろう」

 

だった。その翌日、彼は眠るように息を引き取ったそうだ。

訓練に貢献したということで、在日米軍司令部より二階級特進が決定された。

通夜・告別式は、大の親日家であったハートワンの希望により、ジャパニーズスタイル(仏式)で営まれた。

教え子だった艦娘全員で、ハートワン軍曹改め、ハートワン曹長の通夜・告別式に出席して、自分の父親が亡くなったかのように全員で号泣した。

きっとハートワン曹長は、天国で微笑んでいるだろう。

そう思いながら、旧土佐鎮守府の艦娘達は空を見上げた。

 

そしてそのまま、生前のハートワンの希望により、遺体は四国の海に水葬に付された。

その水葬には、四国の全ての艦娘と司令官が集まって、ハートワンが海に還って行くのを見送った。

壮絶な訓練の話を聞いた愛は、自分達の海賊行為のおかげで、艦娘達の目が覚めたことを実感していた。

 

「ハートワン曹長は、満足だったんでしょうかね?」

「いや、満足だったと思うよ?ほら、あのオッサン、訓練が生き甲斐で昇進を拒否してるほどの、()()()だったからね」

 

水葬されるハートワンを、敬礼で見送りながら呟いた愛に、隣で敬礼するレ級が答える。

鉄血海賊団達も、海賊衣装を脱ぎ捨て、普段どおりの制服で参列した。

アイオワと大和が、代表で弔砲を放った。

教え子達は涙を零しながら、キリッとした顔でハートワンを見送っていた。

 

――――――――

愛は訓練の総仕上げに、鉄血海賊団に各鎮守府に対して、海賊行為を命じた。

 

本気モードではないとは言え、悉く退けられて帰ってくる艦娘達を見て、愛は満足そうに、

 

「本日を以て、鉄血海賊団を解散。第1艦隊に戻ります!」

 

そう宣言した。

 

各地の艦娘達は、今日も訓練に明け暮れている。

再び、第二第三のジレーネがいつ現れても良いように。

 




■本日のお題

・四国地区鎮守府の教導 toshi-tomiyamaさん提供
→旧土佐鎮守府艦隊艦娘が四国各地に散って、新規配属艦娘の教導……

やっぱり新兵訓練と言ったらこの人しかいないでしょう!
と言って出てきたハートマン軍曹オマージュのハートワン。
ハートマンよりはちょっといい人です。
最期も艦娘のために逝った感じに改変しました。


猛特訓してたら追いついちゃったよ!
久しぶりにFMJ借りて鑑賞でもしようかな。

■次回のお題
・剛と花梨の披露宴騒動 toshi-tomiyamaさん提供

→ジレーネ戦争の混乱に紛れてしまっていた、郷里二佐と花梨三尉の結婚……
戦後、忘れていた披露宴を同時に決行……しかし……

14話で入籍はしていたっぽいので、披露宴騒動ということでお題を少しいじりました。
ちょうど臨月の紗花もいるし……。

タイトルは決めました「クリスマスウェディング&バースデー」
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