四国艦娘達の猛特訓の裏で、土佐鎮守府は忙しいスケジュールに翻弄されていた。
花梨と剛の、結婚式の準備である。
プランナーの方が毎日訪れては、これはどうする、予算はどのくらいか、料理の質は、招待するお客さんの数は。様々な打ち合わせに忙殺されている。
結婚式当日までが普段より短い為に、プランナーも大変である。
その間の育児は、リーヴェが一手に面倒を見てくれることになり、小さい体で五人の育児に掛かりっきりになっていた。
その中で推定六歳の真愛も、一緒に赤ちゃんの面倒を見てくれている。
剛が、汗を拭きながらぼやいた。
「結婚式が、こんなに大変だと思わなかった」
「そうですね」
花梨も、副管業務を燿子に丸投げしての打ち合わせの日々で、苦笑いである。
「ところで、新婦側の招待客はどうする?岩沼鎮守府の面々と高菜先輩は呼ぶとして、その嫁艦の四人も呼ばねばならんだろう?紗花さんの妹の優花ちゃんも呼ぶとして……」
「いっそ、圭一さん達も全員呼びましょう」
その一声で、新婦側の出席者が大幅に膨れ上がった。
新郎側の出席者は、田舎の両親や同期の大村奈々海夫妻や友人等を呼んで、丁度良くバランスを取った。
最終的に、宮戸島の愉快な仲間達を、共通の出席枠で真ん中に配置したのだ。
招待状を送った相手は、急な結婚式ながら出席をしてくれることになった。
そして愛は、まさかの重責を担うことになった。
そう、
「えー、この度は……」
作った原稿を、一生懸命読んで練習している愛。
もう一人、大変な役目を仰せ付かった奴がいる。
大垣 翼である。司会を頼まれたのだ。
最初は断ろうとしたが、親友の真摯な眼差しに折れて、司会を引き受けたのである。
そんな中、花梨と剛は京都で暮らしている両親の元を訪れていた。
「親父、お袋。報告が遅くなって申し訳ないが結婚した。霊子加速でもう子供もいる」
「申し訳ありません。戦役とその後の混乱で遅くなってしまいまして。花梨と言います」
剛の両親の
「何と。この猛獣のような男が結婚するとは、めでたいめでたい。それに赤ちゃんも生まれたとか。霊子何とかとか軍のことはよく判らんが、孫ができて安心しておるよ」
「そうですね。結婚式は一家総出で顔を出しますからね。花梨さん、世間じゃ嫁姑がどうのと言いますが、私はそういうのは好きではありませんので、実の母と思ってくださいね」
小夜子が、にこやかに言うと花梨が、
「有難うございます。母は早くに亡くなりまして、今は父と19の継母しか親族はおりませんので、ありがたくお言葉に甘えさせていただきます」
「まぁ。10代で、義理とは言え祖母になられたのですね。あらあら」
小夜子が笑いながら言うと、花梨は剛の両親に子供を見せる。
「剛の亡くなった上官と僚友から、一字づつ頂いて、竜馬と向日葵と言います」
「いい名前を付けてもらったな。ほれ、じいじだぞ」
「ばあばもいますよ」
『だぁ』
双子の赤ちゃん達は、祖父母に手を伸ばす。
何とか挨拶回りを済ませた二人は、再び結婚式の準備に取り掛かる。
土佐の、一番大きな結婚式場を借り切っての、結婚式と披露宴である。
結婚式は、人前式でやることにした。
会場も押さえ、招待客のリストも出揃った。引き出物や料理も試食したりサンプルを確認したり、艦娘達や愛達のアイデアも取り入れながら、オリジナリティ溢れる結婚式を創り上げて行く。
丁度、参謀長の大塚三佐も出向が終わり戻って来たので、大塚三佐にはハメを外し過ぎないようにチェックも入れてもらった。
こうして、皆で準備して創り上げた結婚式当日。12月24日・クリスマスイヴである。
愛は、仲人控室で右往左往していた。
もう一つ重責を担っていたのだ。
上官と言うことで、仲人を健太と二人で引き受けたのだ。
と言う訳で上司の祝辞は、部署違いだが、提督を統括する足立秋也一佐が、快く引き受けてくれた。
もちろん、大本営の七原夫妻や足立夫妻も出席してくれる事になっている。
秋奈は、まさかの紗花と同様で、妊娠九ヶ月目の一月予定日、と言う予定日間近での出席である。
そんな訳で、宮戸島からの招待客は念の為に、産科医の倉田めぐみを加えた。
急遽のオファーに、めぐみは快く引き受けてくれたのである。
余談だが、直哉の姉の優衣は10月に早々と出産を済ませ、政務に復帰している。
お手伝いさんに子育てを手伝ってもらいながらであり、
名前は
――――――――
列席者は、受付を済ませてから会場入りする。
人前式だが、チャペルでの挙式である。
会場にはクリスマスツリーが並べられており、緑と赤でコーディネートされている。
更に陸自出身者の多い、土佐鎮守府陸戦隊員の緑の制服も、クリスマス色のように際立っている。
龍子も、小さな竜兵と葵の遺影を持って列席してくれた。
陸自の制服姿の翼が司会席に立つと、軽く息を吸ってから少し吐いて、マイクの電源を入れた。
「本日はお忙しい中、また遠方よりクリスマスイヴに、郷里 剛さんと羽佐間花梨さんの結婚式にご列席いただきまして、誠にありがとうございます。只今より新郎が入場します。正面入り口にご注目ください。どうぞ、盛大な拍手でお迎えください」
翼の言葉で、結婚行進曲がオルガンの演奏で流れる中、入り口が開くと、儀礼服を身に纏った剛が、一人歩いて来る。
盛大な拍手に包まれて真ん中まで歩き、後ろを振り向くと演奏が止まる。
「只今より、父親と共に新婦が入場します」
再び演奏が再開されると、純白のウェディングドレスに身を包んだ花梨が、将官儀礼服を身に纏った眞一郎と共に入場して来る。
一歩一歩、ゆっくりゆっくりと歩いて行き、眞一郎は剛の前までやって来ると、
「娘を頼んだぞ」
そう声を掛けて、自身は新婦側の列席者に加わる。
二人は前を向くと、ゆっくり手を携えて壇上まで歩いて行き、参列客の方を向いて一礼する。
「それではこれより、郷里 剛さんと羽佐間花梨さんの結婚式を始めさせていただきます。この結婚式は人前式となっておりまして、日頃お世話になっている皆様の前で結婚を誓うスタイルとなっています。本日お集まりいただきました皆様全員が、結婚の証人となります」
そう言って、ニカッと笑うと翼は、
「まあ、二人の赤ちゃんも生まれちゃったし、後には退けないもんね!」
と、アドリブを入れる。
皆どっと笑うと、剛と花梨も顔を見合わせて笑い出す。
「さてさて、ご静粛にお願いします」
自分から笑わせておいて、皆を静まらせると、
「申し遅れましたが、私は本日の司会を仰せ付かりました大垣 翼と申します。新郎とは職場の部署違いの部下、新婦とは親友で部署違いの上官となります。不慣れな為、行き届かない点もあるかと思いますが、精一杯務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。原稿にないこと喋りますんで」
そう言って一礼すると、一同もどっと笑う。
苦笑いしているのは、常識番長の大塚三佐とビスマルク、それに足立総監だけである。
「えー、お二人のプロフィールから。新郎郷里 剛二等陸佐。京都市に生まれ、陸上自衛隊に入隊。その後は各地で勇名を馳せ、イラクにも派遣経験のある勇者。土佐鎮守府で陸戦隊長も歴任して、何と深海棲艦撃破スコア・
最早、完全にアドリブである。
皆がどっと笑う中、剛は妻の心配をするが、花梨も爆笑している為ほっと胸を撫で下ろす。
「新婦の羽佐間花梨一等陸尉。仙台市に生まれ、母の亡き後父親のいる羽佐間家にて、艦娘と共に過ごす。防衛大学校卒業後三尉として任官。父の補佐をして、現在の上官である笹野 愛一佐の副官として室戸、土佐と歴任した事務処理の達人です。えー、ただいま原稿にないことを言うな、との視線が送られましたので、出会いの馴れ初めについてお話しします」
皆は大爆笑である。やはり翼は、場を盛り上げる達人である。
人前式ならではの自由さで、花梨からはアドリブもどんどん入れてくれていい、との許可済みである。
「出会ったのは今年、ジレーネなんぞが現れる少し前の話。その頃は父親とは不仲な花梨さんは、強くてカッコイイ野獣の、父性溢れる剛さんに一目惚れ。お酒の席で叱られたことから二人は急接近、結婚に至った、と言う訳であります。まー、一発命中したわけですが」
急に砕けた物言いになる翼に、どっと笑いが巻き起こる。
流石に花梨は、顔を赤らめて俯く。
「ご覧の通り、私は真面目が大嫌いな訳で、新婦から司会を引き受けるなら好き勝手やってよし、とご許可を頂いておりますので、楽しい結婚式にしたいと考えております。どうぞ皆さん、にこやかにお願いします」
翼がニコニコ顔でいうと、皆ニコニコしている。
常識大王の足立陸将も、その言葉に甘えて楽しそうに笑っている。
「では次に、新郎新婦より結婚の誓いの言葉を述べさせていただきます。剛さん、花梨さん、お願いします」
陸戦隊員が抱っこしていた子供をそれぞれ受け取ると、子供を抱き抱えたままで、
『私達は、本日ここにご列席いただきました皆様の見守る中、家族となりました。これからの人生、いかなる時も生涯変わらぬ愛を約束し、生涯家族として生きて行くことを誓います。そして、子ども達に精一杯の愛情を注いで育てて行きます』
「新郎 郷里 剛」
「新婦 羽佐間花梨」
『だぁ~』
赤ちゃん達の声に、会場は笑いに包まれる。
再び陸戦隊員が預かると、翼がコップの水を飲んでから、再び『ご静粛に』と言ってから、
「それでは、指輪の交換に入りたいと思います。指輪はご両人の希望により、ケッコンカッコカリリングをご用意しました。これは『霊子の結晶』によって精製されます。霊子とは人間の生きる意志や力、生命力そのものであり、艦娘にとっての力の根源であります。今は海の怪獣DSビーストから得られ、とても貴重なものとなっております。リングガールは、司令官の笹野 愛一佐にお願いしました」
愛が立ち上がると、リングピローを持って二人の前までやって来る。
剛の前でリングピローを開けると、銀色のペアのリングが入っている。
「まずは、新郎から新婦へとリングを贈ります」
その言葉で、剛は指輪を花梨の左薬指に填めて行く。
「次に、新婦から新郎へとリングを贈ります」
その言葉で、花梨は剛の左薬指に指輪を填めて行く。
「さて、皆様ご注目ください。今、私カッコカリと言いました。とある魔法のことばで
その翼の言葉に、二人は同時に唱える。
『Diese wahre Liebe, hier!』
その瞬間、銀色のケッコンカッコカリリングが輝くと、
そして指輪は、キラキラと綺麗に輝いている。
「二人の愛情ある限り、この結婚指輪はこのように美しく輝くことでしょう。だから皆さん、今後二人に会う時には、指輪に注目。キラキラ輝いてることを確認してくださいね?愛情センサーだからね!」
その言葉に、会場はどっと笑い声が上がる。
「本日のリングガール、笹野 愛司令官でした。ありがとうございました」
二人も楽しそうに笑っているのを見ると、愛は列席者に一礼して新婦側の列に戻って行く。
「皆様、二人の結婚を承認いただけますでしょうか?承認いただけるようであれば、盛大な拍手をお願いいたします」
全員が立ち上がり、盛大な拍手で迎えた。
「おーい!キスはないのか―!?キス―!?」
「アホか!?」
レ級が野次り始めると、暁が頭を引っ叩く。
その言葉に反応したのが、翼である。
「おっと、忘れておりました。原稿には書いてなかったんですが、誓いのキスをしてもらいましょうか?」
その翼の言葉に、剛は花梨を抱き上げる。お姫様抱っこで見せ付けるようにして、口づけを交わす。
『んっ……』
「それでは、ご参列の皆様の承認と誓いのキスを得て、ここにめでたくこの家族の
一同が、再び拍手の嵐で迎えた。
「えー、これより披露宴会場にご案内となります。その前に新郎新婦は、一度お色直しをさせていただきますので、先に退場いたします」
再び結婚行進曲が流れる中、お姫様抱っこのまま二人が退場する。
それを拍手の嵐で送ると、扉が閉められる。
「ああ、緊張した」
翼は、マイクを切るとぼそっと呟いた。
――――――――
そして、全員が披露宴の席にやって来て、披露宴が始まる。
「さて、披露宴でも引き続き司会を務めさせていただきます。新郎新婦入場いたします」
披露宴は、仲人である健太と愛、それに招待客が見守る中、二人がタキシードと真っ赤なウェディングドレスで入場して来て始まる。
披露宴会場もクリスマス色一色で、トナカイの絵等が飾られている。
各テーブルにも、小さなツリーが飾られている。
「それでは、乾杯の音頭を、土佐鎮守府司令官で仲人でもある笹野 愛一佐にお願いいたします」
翼の紹介に、愛はグラスを持って立ち上がるとマイクまで向かう。ガッチガチに緊張している。
「ただ今ご紹介にあずかりました、新郎の剛さん、新婦の花梨さんと同じ職場の土佐鎮守府司令官の笹野 愛でございます」
深々と頭を下げると、
「このような若輩者が
『乾杯!』
一同、コップのお酒やジュースを空けると、拍手が巻き起こる。
愛は、一礼して仲人席に戻って行くと、大きな息をついた。
健太が耳元で、
「大役お疲れ様」
と言ってくれた。
「それでは、艦娘と提督を統括いたします、四国地区警務隊長の足立秋也一佐より、祝辞を述べさせていただきます」
そう言うと秋也が立ち上がり、原稿を取り出して、マイクの所に向かう。
新郎新婦と両家の家族が立ち上がる。
「えー、只今ご紹介いただきました、お二人の勤務先の上司の上司に当たります、足立でございます」
そう言うと、一礼する。
足立総監にとっては、ヒヤヒヤものの時間が始まるだろう。
秋也は二人に向くと、
「諸先輩方を前に、誠に僭越ではございますが、ご指名を賜りましたので、一言お祝い申し上げます。剛君、花梨さん、ご結婚おめでとうございます。そしてご両家ご親族の皆様、心よりお祝い申し上げます。本日は、この素晴らしい披露宴にお招きいただき、誠に光栄に存じます」
そして、両家に向き直り一礼しながら祝辞を述べる。
「皆様、どうぞご着席ください」
秋也の言葉で、一同着席する。
そして、原稿をポケットにしまい込む。
「えー。私も、司会同様堅苦しいのが嫌いなので、以後砕けます。郷里のオッサンはこう見えますが、私の防衛大学校の
その言葉に、全員がどっと笑う。足立総監はしぶーい顔をしているが秋奈の、
「お父さん、スマイルスマイル」
との言葉に、苦笑いになる。
「花梨さんは、女好きの父親をよく制御して岩沼鎮守府の規律を守り、四国に転属してからも若い司令官をよく補佐して、ジレーネ事変では大事なキーパーソンの一人でした。その事務処理能力と冷静な判断力と誠実さは、監査する私にとっても信頼できる存在です。これからの活躍も大いに期待しています。早速二児の母としての自覚も芽生えて来て、艦隊の、鎮守府の母としても、大いに活躍すると思われます。そんな二人が結婚するきっかけは、司会が先程述べました通り、父性に飢えていた花梨さんががっしり捕まえた結果だろうな、と思っています。猛獣を捕まえたのは、実は花梨さんの方だったと言う訳で、美女と猛獣ではなく、猛獣使いと猛獣と言う訳ですね」
再び会場からは、どっと笑いが溢れる。
「まぁ……私は警務隊長という役目上、規律を正す役回りではありますが、この二人については、安心して司令官の補佐を任せられる、と思っております。えー……私自身は独身ですが、姉夫婦や親父やおふくろを見ていると、あたたかい家庭には会話がつきものだ、と考えさせられます。意思疎通と言う意味では、ケッコンリングは生命力と意思の源でありますから、共に命と心を共有し、末永くあたたかい家庭を築いて行って欲しい、と願っています。少々長くなりましたが、これを以ちましてお祝いの言葉と代えさせていただきます。本日は誠におめでとうございます」
深々と頭を下げると、会場からは拍手が沸き起こる。
足立総監も、苦笑いの度合いが減って拍手になる。
「秋也君も良い祝辞をした……秋奈、どうした?」
「ごめん、控室に連れてって……陣痛来ちゃった」
秋奈が苦笑いすると、春人が肩を貸して一旦退場する。
それとほぼ同時に、紗花も痛みを訴える。
「眞一郎……拙いです……」
「那智、ここは任せる」
眞一郎が、紗花の肩を貸してそっと退場する。
それぞれが向かったのは、新婦控室である。
それを見ためぐみも、そっと抜け出す。
「今から病院に行っても間に合いません!ここで出産させます!」
めぐみにとって、初の同時複数出産である。
救急車を二台呼んで待機させ、ここで分娩させてすぐに救急搬送の判断をした。
足柄と妙高もそっと抜け出して、出産の手伝いをする。
「秋奈、頑張れ!」
「紗花、しっかりするんだ」
「これはおそらく、霊子の余波で出産時期が早まったんでしょう……」
めぐみはそう結論付けて、二人の体調管理を行う。妙高と足柄に、赤ちゃんを取り上げる際の注意をしながら、助産をやってもらうことにした。
会場では余興が続いており、楽しく賑やかな披露宴になっている。
そんな中、ついに赤ちゃんが生まれた。
秋奈は男の子、紗花は女の子が生まれた。
めぐみはへその緒を切ると、待機させていた救急車に乗せて、病院に向かわせた。
「母子共に健康だと思いますが、病院に行かせました。向かった先は、あの大出産をした病院ですから、お任せしましょう、私も同行しますから。眞一郎さん達は会場に戻ってください。春人さん、同行をお願いできますか?」
「うむ、分かった」
春人が頷くと、めぐみと春人は救急車に乗り込んだ。
――――――――
余興が終わったところで、妙高が翼にそっと耳打ちする。
「えー、皆様。只今喜ばしいニュースが入りました。新婦の妹に、赤ちゃん達の
『えっ?』
皆が唖然とする。そりゃあそうだろう、突然の大ニュースである。
「霊子は生命の源です。ここに集まった祝福の霊子で、妊婦が二名産気付きまして、無事この会場上の控室で出産いたしました。二人の妊婦は、大事を取って病院に向かいましたが、母子共に健康だそうですので皆さん、温かい祝福と共に、万歳三唱をしましょう。ご起立ください」
全員が起立する。
「ばんざーい!」
『ばんざーい!』
「ばんざーい!」
『ばんざーい!』
「ばんざーい!」
『ばんざーい!』
全員拍手しながら着席する。
「いやあ、クリスマスでウエディングでバースデー、めでたいことづくめですね。今日はとってもいい日になりそうです。ではケーキ入刀とさせていただきます。ケーキは遠く南三陸の武藤氏に作っていただきました」
翼の言葉を合図に、ケーキが中に運ばれて来る。
大きなケーキで、三段重ねになっている。
「それではケーキ入刀ですが、ただの入刀では面白くないので、郷里 剛さん秘蔵の三池典太で入刀させていただきます。もちろん、洗って消毒をしておりますので、衛生面も大丈夫です。まあこれも、鎮守府の自由裁量と言うことで」
秋也をチラッと見ると、秋也は笑いながら頷いた。
二人は、用意してあった三池典太を手に取って鞘から抜くと、ケーキに刃を入れる。
そして、添えてあったおしぼりでクリームを丁寧に拭うと、待機していた刀工に鞘ごと渡す。
きちんとメンテナンスしてくれるのだ。
「それではファーストバイトです。新郎から新婦へのファーストバイトは『一生食べ物には困らせないよ』、と言う意味だそうです。新婦には、スプーンを用意しました」
そう言うと、係員がスプーンを手渡し、剛がスプーンで掬ってケーキを花梨に食べさせる。
「それでは新婦から新郎へのファーストバイトです。これは『一生美味しいものを作ります』、と言う意味だそうです。新郎には、軍用スコップを用意しました。きちんと新品を消毒しましたので、ご安心ください」
今度は、花梨にスコップを手渡す。スコップ一杯に掬うと剛に食べさせる。
剛が、口の周りをクリームだらけにしながら食べ切ると、どっと笑いが溢れる。
「それでは次にブーケトスですが、新婦から一言あります。どうぞ」
マイクを渡すと、花梨が立ち上がる。
「愛ちゃん、健太くん。健太くんの深海棲艦化で、一応は成人認定されたので、三年後、二人が結婚できるように愛ちゃんにブーケを渡します。皆、良いですか?」
独身女子の陸戦隊員が『オッケー!』と叫ぶと、愛に手渡す。
「愛ちゃんの結婚式も期待してますね?」
「はいっ、有難うございます!」
その手渡しに、万雷の拍手が沸き起こる。
その後お色直しがあり、キャンドルサービスがあって、ツリーの上のロウソクに火が灯される。
剛は再び儀礼服に戻り、花梨は赤と緑のクリスマスカラーのウェディングドレスに身を包んでいる。
再入場の時には、ジングルベルがBGMとなっている。
そして、余興等が行われ再び翼がマイクを握る。
「それでは、両親へ新郎新婦からの挨拶があります。異例ではございますが、新婦より先に挨拶させていただきます」
そう言うと、自らマイクを花梨に手渡す。
「私は婚外子で、認知していただいて命を頂いた恩はあれど、育てて頂いた恩はありません」
その言葉に、会場がざわつく。
「ですが、貴方の背中を、過去を見てこんなに深い愛を求めている人を、私は知りません。お父さん、貴方のお側でお仕えして数年、いろんなことを学びました。本当にありがとうございました。妙高さん、那智さん、足柄さん、羽黒さん、扶桑さん、山城さん。そして、いま病院にいる紗花さん。父はご覧の通り深い愛情を持って、欲しがる方です。父のことをよろしくお願いします」
その言葉と共に、深々と頭を下げる。この様子は、那智のスマホのテレビ電話で、病院にも中継されている。
「私は郷里家に嫁ぎますが、貴方の娘で良かった。今はそう思っています。鐵太郎お義父さん、小夜子お義母さん、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
その後に、剛の挨拶が続く。
そして、翼が再びマイクを握る。
「それでは両家を代表しまして、異例ではございますが新婦の父親である、羽佐間眞一郎さんより皆様へご挨拶があります」
眞一郎がマイクを手に取ると、原稿を取り出す。
「只今ご紹介にあずかりました、新婦の父羽佐間眞一郎でございます。本日、無事にこの日を迎えることができ、感無量の思いでいっぱいです」
そう言うと、原稿を折り畳んでポケットに入れる。
「私は、花梨に何もしてやれませんでした。養育費が掛からなかったいい娘だ、と嘯いてはおりましたが、娘の言うとおり育てた恩を感じさせない父親でございました。そんな父親が、敢えて僭越ながら、お礼のご挨拶を申し上げます。皆さま方にはお忙しい中、二人の為にお集まりいただきまして、改めてお礼を申し上げます。また、媒酌の労をお取りいただいた笹野 愛、大石健太両氏にも厚く御礼申し上げます」
一同に深々と頭を下げてから、愛と健太にも深々と頭を下げる。
「まだまだ至らぬところばかりの二人でございます。勝手なお願いではございますが、どうかこれからも温かく見守り、叱咤激励いただけると幸いです。ご臨席の皆様のご健勝とご多幸をお祈り申し上げまして、簡単ではございますが、お礼の言葉とさせていただきます。本日はお忙しい中、誠にありがとうございました」
再び眞一郎が頭を下げる。
一同が再び席に着いたところで、翼がマイクを握る。
「それでは、新郎より皆様へご挨拶があります」
その言葉に新郎新婦の二人が立ち上がり、剛がマイクを握る。
「本日は、ご予定の多いクリスマス・イヴの貴重なお時間を、私達の為にご都合付けていただき、ありがとうございました」
二人が一礼する。
「職場で知り合った私達ですが、仕事を通じて築いてきた信頼を、今後は新生活の中で育てて行きたいと思っています。まだまだ未熟な私達ですが、どうか皆様には末長く見守っていただきたく、よろしくお願い申し上げます。拙い挨拶ではございましたが、もう一度皆様に心より感謝申し上げます」
深々と頭を二人が下げると、万雷の拍手が響く。
レ級が、
「オッサン、一生花梨を守ってやれよ―!」
と声を飛ばして、暁に頭を引っ叩かれている。
二人が再び席に着いたところで、翼がマイクを握る。
「これを持ちまして、郷里家・羽佐間家の結婚披露宴を、めでたくお開きとさせていただきます。本日はご結婚誠におめでとう御座います」
翼が一礼すると、
「本日誕生しましたご夫婦に、盛大な拍手をお送りください」
皆の拍手の中、剛と花梨が立ち上がると手を取り合って、入り口に向かって行く。
「お二人から映像が届いておりますので、スクリーンにご注目ください」
翼の言葉で、スクリーンに映像が映し出される。
映像は、それぞれ赤ちゃんを抱っこした、剛と花梨の姿である。
『皆様、本日は私共の同僚大垣 翼の司会にご協力いただきまして、ありがとうございました。無事に、お開きを迎えることが出来ました』
エンドロールのように、室戸・土佐鎮守府での写真が流れて、出席者の名前とメッセージが流されて行く。
最後に、皆様ありがとうございました。という文字と共に明るくなる。
「それではこれより、新郎新婦が皆様をお見送りさせていただきます。お持物等、お忘れ物がございませんようお確かめいただき、ご準備が整われた方からお開き口にお進みください。本日はありがとうございました」
――――――――
「いやぁー、緊張して疲れたよ」
翼の第一声が、これである。
二次会は、土佐鎮守府の大会議室にてクリスマスパーティ形式で行われた。
参加者も、土佐鎮守府の仲間達のみで、身内で行った。
宮戸島の愉快な仲間達は、それぞれのカップルで過ごしたい、と言うことで遠慮した。
眞一郎等岩沼の面々と足立総監達は、結婚式場から病院へ向かった。
紗花と眞一郎の間にできた女の子は、両親と姉から一字ずつ取って
「お疲れ様です、翼さん」
翼のグラスに、ビールを注ぐ愛。
「いやあ、司会ってすごい緊張すんのね。まあ異例づくめだったけど、楽しい結婚式でよかったよ」
「そうですね」
ちらりと見遣ると、主役席では陸戦隊の面々が次々にお酌にやって来るのを、剛が笑いながら飲んでいる。
「そろそろ、アレを渡しても良いんじゃない?」
「そうだね」
燿子の耳打ちに頷くと、愛は声を上げる。
「全員注目!」
その言葉に、全員席に戻って司令官の方を見る。
「明日発令する辞令を発表します。私は、鎮守府基地司令兼駐留艦隊司令官となります。ビスマルクは駐留艦隊副司令官、郷里二佐には鎮守府基地副司令を任命します。よって、官舎への駐留義務が消滅します。鎮守府基地防御指揮官に、小杉三佐を任命します。陸戦隊は基地防御隊に改め、第1第2艦隊は駐留第1・第2艦隊に改めます。それと、クリスマスプレゼントです。郷里家に、官舎一式を支給します」
二人で、いつかの為に家探しをしているのを知っていて、この家いいな、と言っていた一軒家を、先に買い上げたのだ。
スクリーンに映し出される、物件情報のPC画面を見ると、花梨と剛が、
「あっ、この家……この間二人で良いねって言った……」
「そうだな…………」
と声を上げる。
「はい、自衛隊で買い上げて官舎として支給します。鍵をどうぞ」
愛は、二人にそれぞれ家の鍵を渡す。
「尚、引っ越しは年内に完了すること。引越し費用は、全て自衛隊が持ちます。基地防御隊が引っ越し任務を引き受けます。以上!」
『ええっ!?』
その無茶振りに、全員が驚愕の声を上げた。
2019年終了まで、後七日……
――――――――
早速、翌日から引っ越しが始まった。防御隊員のおかげで、一日で済んだ。
家具と家電は、最初から一通り揃っており、後から秋也より、全部愛が大本営と予算折衝をしてくれて買い揃えた新品だ、と聞かされることになる。
気の利いた司令官に、感謝の念を抱きながら二人……四人の新生活がスタートした。
■今回のお題
・剛と花梨の披露宴騒動(中学生) toshi-tomiyamaさん提供
→ジレーネ戦争の混乱に紛れてしまっていた、郷里二佐と花梨三尉の結婚……
戦後、忘れていた披露宴を同時に決行……しかし……
こぼれ話
優衣の出産スケジュールだけこぼれ落ちてたんですよぅ。
そのお話は宮戸島で回想でフォローしまする。