『ねえ、真愛ちゃんは遠くに行っちゃうの?』
いつもどおりにリヴァを背負い、
「えっ?何の話ですか?」
助けを求めるように麻由良のお母さんに視線を向けると、麻由良のお母さんはいつもの天然な笑顔でニコニコと答える。
「ほら、真愛ちゃんすくすくと大きくなってるでしょう?私が『真愛ちゃんは鎮守府の子だから、海に出るかもしれない』と言ったのが切っ掛けで、遠くに行っちゃうと思い込んで……」
その言葉に、リーヴェは頭痛がする思いがした。
何て余計なことを子供に言ってるんだ?と。
「い、いや、二人共いい?真愛は遠くに行ったりしないよ」
真愛も二人の頭を撫でるも、二人共首をブンブン振ってイヤイヤをする。
「ちんじゅふに行って、真愛ちゃんのママに遠くに行かないで!って言う!」
「うん!言わないと!」
「だから、真愛は遠くには……」
『嘘ついちゃ嫌だ!!』
二人共泣き出して、真愛も対応に困って三人共に泣き出してしまう。
『うわああああああん!!!』
三人共に抱き付いて、わんわん泣いているのを見ながら、リーヴェは頭を抱えた。
「どうするのこれ……」
――――――――
「……で、連れて来たのか?このチビ助達を?」
「そうなります」
丁度、監査と言う名の
「真愛ちゃんのママはどこ!?」
「すぐ出して!」
すごい剣幕で秋也に迫る、麻由良ととし子。
秋也は苦笑いしながら、
「ああ、真愛ちゃんのママは会議中……って分からねえか?今、お仕事のお話をしてんだ。ちびっこ達はそこで座って待ってな。おじちゃんがジュース持って来てやっから」
「だめっ!そうやって逃げるんでしょ!?」
「大人はそうやって逃げるんだい!」
「そーだそーだ!」
そう立ち上がるも、二人で通せんぼする。
正確には、真愛も通せんぼしている。
「お?」
秋也も困ってリーヴェを見るも、リーヴェの姿はない。
おそらく、こっちはこっちで秋也に押し付けて、二人の赤ん坊の世話モードに入ったようだ。
ガチャッと扉が開く。
そんな中入って来たのが、問題児レ級である。
「おっす、秋也。って何だ?このガキ共は?」
「おー、丁度いいところに来た。後任せるわ」
「は?」
キョトンとするレ級に秋也は、
「ばっか。俺も、警務隊の仕事で忙しいんだよ」
と言い、さっさと通せんぼをすり抜けて敵前逃亡してしまう。
「ちょ、何が何だか説明してから行けよ!?」
バタンと閉じられた扉に向かって叫ぶレ級に、二人のちびっこが迫る。
「山田麻由良です!」
「今田とし子です!」
「大石真愛です!」
三人共ペコリと挨拶する。
「おー、まゆちゃんにとしちゃんね。んで、真愛は知ってる」
「それな」
最近覚えた言葉を、よく使ってる真愛。
「それで、雁首揃えてどうしたん?」
しゃがんで笑顔を向けるレ級。大人の男には鬼畜だが、ちっちゃい子には優しいレ級である。
「真愛ちゃんが遠くに行っちゃうって」
「本当なの!?」
「それな!」
三人の言葉に、レ級はふむ……と首を捻る。
「真愛ちゃん、どんどん大きくなって行って……」
「このままじゃ、遠くの海に行っちゃうかも?って」
「それな」
レ級はそれぞれの顔を見回すと、真愛にチョップを入れる。
「あたっ」
真愛が頭を抑えると、二人のちびっこが真愛の前に立って、レ級に立ちはだかる。
「真愛ちゃんをいじめないで!」
「まゆちゃん、この人悪いお姉さんかも!」
身構える二人にレ級はあっはっはと笑うと、二人の勇敢なちびっこ達の頭を撫でる。
「まゆちゃんにとしちゃんは、小学校はいつ?」
『4月だよ!』
「うん。そのな、ちょっと大きいけど真愛も四月から小学生だ。成長も安定して来て、どんなに霊子を吸い取っても大きくならないみたいだよ?」
そう言うと、真愛がレ級にギューっと抱き付いて、全力で霊子を奪い取る。
「ちょ、やめ……ぎゃあああああ!!!」
数秒後、レ級は窶れた顔になっていた。
「だ、大丈夫?おねえちゃん?」
「目の周りが真っ黒だよ?」
対して真愛は、肌ツヤツヤでおめめキラキラしている。
成長していたのも打ち止めになって、これ以上急激な成長はしていない。
「ほらね!」
えっへんと胸を張る真愛に、レ級は明石印の
「真愛、霊子吸い取りはやり過ぎんな、って言ったよね?ママに報告するよ?」
「ふぇ、それだけはやめて!」
「それじゃ、ごめんなさいは?」
「ごめんなさい……」
シュンとなっている真愛に、二人のちびっこは頭をナデナデしている。
「元気だして、真愛ちゃん」
「そうだよ。きちんとごめんなさい出来たね?」
「うん……!」
二人に撫でられると、笑顔に戻る真愛。
「それで、同じ小学校に行くことになるんじゃないかな?」
『そうなの?』
「そうなの」
目をキラキラさせて見つめる二人に、レ級は優しい笑みを浮かべてふうっと吐息を吐いて、今度は二人の頭を両手でナデナデする。
「そう、おんなじ小学一年生。心配ならママの所に行こうか?」
「えっ?今、お仕事のお話してるんじゃないの?」
「いいの?」
「それな」
三人のちびっこの問い掛けに、レ級はニヤァと笑うと、
「良いわけ無いじゃん。でも行くぞー」
『おー!』
レ級と愉快なちびっこ達の四人は、司令官執務室を後にした。
――――――――
「最近は、流入して来るDSビースト以外は特に問題もなく……」
副官の花梨が、資料を説明している所に、バタァンと勢いよく扉が開いた。
「おっす!愛ちゃん。ちびっこ共が質問に来たぞー」
『きましたー!』
全員の視線が、入って来た四人に注がれる。
「真愛ちゃんのママ、真愛ちゃんも来年小学校って本当ですか!?」
「遠くに行っちゃうって嘘だよね!?」
「それな」
三人の真剣な顔――と言っても真愛は半分巫山戯ているが――に、愛は優しい笑みを浮かべる。
「うん。真愛は、今度小学校に上がることになったんだよ?遠くには行ったりしないよ」
愛は、心の中で(私が解任されない限り)と、付け加えた。
「ほんと!?」
「やったぁ!」
ぎゅっと真愛に抱き付く二人のちびっこを見ながら、皆の顔がホンワカ顔になる。
いつもは渋い顔をしている筈の大塚二佐も、笑顔になっている。
「まあ、今日の議題はこの辺ですから、会議は解散しましょうか?」
副官の花梨がコホンと咳払いをすると、皆ぞろぞろと持ち場に戻って行く。
「あの、ごめんなさい、お仕事中に」
「ごめんなさい」
申し訳なさそうにする二人のちびっこに、愛はしゃがんで目線を合わせると、頭を撫でる。
「初めまして、私が真愛のママ。真愛とこれからも仲良くしてあげてね?」
『はいっ!』
この友情が、ここからずーっと続いて行くことを、三人は
――――――――
意気揚々と、三人で児童公園に戻って来る。
そんな三人に、男の子が立ちはだかった。
「やいやい、待て」
その男の子は小学校中学年くらいで、野球のバットを持っている。
「あっ」
「帰ろ?」
その男の子は暴れん坊で有名で、小さい子をいじめている拓君と言う子だった。
「何なの、あの子?」
くいっと二人に引っ張られるのを振り払って、じいっと拓を見つめている。
「おい、チビ?何か俺様に用か?」
「用なんて無いよ。ここで遊びたいから退いて!」
「うるせえ!ここはオレが占領したんだよ!」
木製のバットを振り上げて威嚇する。
後ろの二人の女の子は、怯えて涙を浮かべる。
「怖い……」
「ううう……」
「あっ!!男の子が女の子を泣かせるなんていけないんだ!」
真愛は、二人を庇うように両手を広げて、拓を睨み付ける。
「うるせえ!!オレの言うことを聞かないやつはこうだ!」
そのままバットを振り下ろす。
「……っ!」
真愛は、ギラッとバットを睨み付けると、虚空からたこ焼き型艦戦が現れて、バット目掛けて機銃を乱射する。
ズダダダダダダ!!
バットは根元から圧し折れると、カランと音を立てて転がった。
放ったのは
人間に当たれば、殺してしまえるほどの殺傷力を持った武器を、真愛はバットに向けた。
「な……!?」
何が起こったかわからない拓に、真愛は上空を周回しているたこ焼き型艦載機に向けて命令する。
「ペイント弾装填、ファイアー!」
ズダダダダダダ!!!
「うわあああああああ!!!!」
パシャパシャパシャ!!
拓の体は、色とりどりの水性絵の具で染め上げられて行く。
真愛の真っ白なワンピースも、近くにいた為に跳ねた絵の具で汚れて行く。
後ろの二人にかからないように、真愛は両手を広げて守っている。
「うわああ!!!助けてくれぇ!!!」
「第二弾装填……ファイ」
逃げ出す拓に向かって追撃をしようと、指を上げて振り下ろそうとすると、二人がガシッと押さえる。
「もうだめ!」
「これ以上やっちゃうと、真愛ちゃんがいじめっ子だよ!」
「あっ……」
真愛は気づいてしまった……拓が泣きながら逃げて行ったのを……
――――――――
「うちの娘が申し訳ありませんでした」
「申し訳ありません」
ペイント塗れで帰って来た真愛と麻由良ととし子を見て、経緯を聞いた愛はすぐに真愛をゲンコツの刑に処し、麻由良の母経由で住所を聞き出して、健太と共に拓の家にお詫びの茶菓子を持って来ていた。
もちろん制服での謝罪である。
「はっはっは、うちのバカ息子がまた悪さをしたんだろう?いい薬さね」
そんな母の隣で、拓は神妙にしている。この恰幅のいい拓のお母さんにこってり叱られていたのだろう。
「いや、いくらなんでもやり過ぎで……本当に申し訳ありません」
隣で、同じく神妙にしている真愛の頭をぐいっと下げて謝る。
「……ごめんなさい」
不満そうに謝る真愛に、拓のお母さんは豪快に笑ってから、
「うちの人は死んじゃってねえ、何年も前に深海棲艦にやられて。それで女手一つで育ててたんだけど、まだまだ教育が足りなかったみたいだね?申し訳ないよ」
同じく、ぐいっと拓の頭を下げる。
「ごめんな」
拓も不満そうに謝る。
『…………』
それから、じーっと拓の顔を上目遣いで見上げる真愛。
拓は、そんな真愛を可愛いと思ったのか、
「……そ、そんなに謝るなら、家来にしてやってもいいぞ?」
「としちゃんやまゆちゃんにも意地悪しない?」
「お、おう」
「わぁい!やったぁ!ありがとう!」
真愛は喜ぶと、拓に抱き付いてほっぺにキスをする。
拓は、顔を真っ赤にして振り解こうとするが、姫クラスの深海棲艦を振り解くなんて出来ない。
「わっ、ばか!よせよ!?」
そんな様子を、三人は楽しそうに眺めていた。
因みに帰った後は、秋也を含めた大人一同による説教と、実弾使用禁止命令が下されたのは言うまでもない。
――――――――
遠い未来。
「なんてことがあったね?」
海沿いの道路を、並んで帰る中学生の二人。
「そうだな」
男の子の方が思い出して、少し顔を背ける。
「ちゅーしれ」
女の子の方が男の子の前に立ちはだかると、顔を突き出すと目を閉じる。
「はいはい」
男の子の方は大きな溜め息を吐くと、女の子を抱き寄せて軽く唇にキスをする。
『んっ……』
ぱっと目を開けると、するりと抱き寄せた男の子から抜け出して、
「それじゃあ、また明日ね?」
そう言って、走って行ってしまう。
「おうっ!!またな」
そんな彼女を見送る男の子……
これは、一つの未来のカタチである。
■本日のお題(toshi-tomiyamaさん提供)
・まゆちゃんととしちゃん(中学生)
→真愛ちゃんが「迷子」になった時に知り合った、麻由良ちゃんととし子ちゃん……
遊んでいるうちに、自分達より大きくなった真愛ちゃんが、遠くに行ってしまうんじゃないかと大騒ぎ……